「地上へ戻るとき、お前さんを愛する心を落としてしまったのさ。郷愁とお前さんへの想いがぶつかり合い・・・その結果、あの男は、お前さんを思う心を海底へ残して故郷へ帰ったんじゃよ。」
「そんなこと・・・・。それじゃ、あの人は・・・」
海辺で悲しみにくれていた人魚に、奇蹟の秘宝のことを教えた老人魚がささやく。
「昔からそうさ。人魚と人間の恋はタブーなのさ。実ることは決してない。」
「そんなことはないわ。あの人は必ず私のことを思いだしてくれるわ。心を海底に残すほど私のことを思っていてくれたのですもの。」
悲しく首を振り、老人魚は付け加える。
「今ならまだ間に合う。海にお入り。人魚に戻れるはずじゃ。」
「私・・あの人の心を探すわ。きっと探し出してみせます!」
人魚の姿に戻った人魚姫は、広い海底を探す。
どこにあるかもわからない恋しい人の心を。
「本当にあるかどうかもわからないんじゃぞ?どんな形をしているかも・・」
「わかります。きっと触れればあの人の心だとわかるはずです。・・・きっと・・・」
沈んでいた人魚姫があまりにもかわいそうで、ふと口にしてしまった作り話を、老人魚は後悔した。
が、それを知ってか知らずか・・・・人魚姫は今日も海底の奥深く探し続ける。
愛しい人の心を。
今となってはそれだけが彼女の生き甲斐、心の支え・・・生きる全て・・・。
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