オリジナル絵本 
  -CGとショートショート-
 
 人魚姫の恋 
  

 
 「私はお前など知らぬ。」
「そんな・・・嵐の夜のことは?」
「知らぬ。そのような事は覚えておらぬ。」

数ヶ月前、嵐にあい沈没した船からその男を助けた人魚姫。
海底にある人魚たちの宮殿でお互いの思いを確かめ合った2人。

だが、男は郷愁を抑えることができず、海上へ、地上へと戻った。
必ず帰ってくるという言葉を残し。

が、数ヶ月すぎても戻らない男に不安を感じ、人魚姫は、どんな望みも叶えてくれるという奇蹟の秘宝を探す。
苦労の末、その秘宝を手に入れた人魚姫は、地上へと出、普通の人間となって男の元に行った。

が、彼女への男の返答がこれだった。男はさる国の王子。その傍らには美しい妃がいた。
 


「地上へ戻るとき、お前さんを愛する心を落としてしまったのさ。郷愁とお前さんへの想いがぶつかり合い・・・その結果、あの男は、お前さんを思う心を海底へ残して故郷へ帰ったんじゃよ。」
「そんなこと・・・・。それじゃ、あの人は・・・」

海辺で悲しみにくれていた人魚に、奇蹟の秘宝のことを教えた老人魚がささやく。

「昔からそうさ。人魚と人間の恋はタブーなのさ。実ることは決してない。」
「そんなことはないわ。あの人は必ず私のことを思いだしてくれるわ。心を海底に残すほど私のことを思っていてくれたのですもの。」

悲しく首を振り、老人魚は付け加える。
「今ならまだ間に合う。海にお入り。人魚に戻れるはずじゃ。」

「私・・あの人の心を探すわ。きっと探し出してみせます!」
人魚の姿に戻った人魚姫は、広い海底を探す。
どこにあるかもわからない恋しい人の心を。

「本当にあるかどうかもわからないんじゃぞ?どんな形をしているかも・・」
「わかります。きっと触れればあの人の心だとわかるはずです。・・・きっと・・・」
沈んでいた人魚姫があまりにもかわいそうで、ふと口にしてしまった作り話を、老人魚は後悔した。

が、それを知ってか知らずか・・・・人魚姫は今日も海底の奥深く探し続ける。
愛しい人の心を。

今となってはそれだけが彼女の生き甲斐、心の支え・・・生きる全て・・・。  


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