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## その4・妖魔の街 ##

翌朝、私たちは食事を終えるとすぐ出発した。
次の町へ行けば何か分かるかもしれない。黒龍の話は、私たちがいた町では聞いたことがないと功史が言ったから。狼になったドワーフたちが見ているのか、何かの視線を感じながら、私と功史はひたすら次の町を目指して、森の中を足早に歩いていた。途中、蜘蛛や蛇にきゃあきゃあわめきながらだけど・・。勿論、功史はそんな私に呆れながらも追い払ってくれた。

「ね、功史、こういうのってどう?」
歩きながらいろいろ考えていた私は功史に突然話しかけた。
「何だ?」
私の方を向いた功史を見て、思いついた事を話し始める。
「あのね、その黄色の石には黒龍の首だけあったんでしょ?だから、他の部分、胴体とか足や手なんかもバラバラにされて他の場所に封印してある、とか・・もしかして、石の色も青とか赤とかいろいろだったりして・・どう?」
「さすが、操。伊達にRPGおたくやってるんじゃないんだな。」
「変な風に感心しないでよぉ・・」
「ははっ、そうふくれっ面すんなって。そうだな、あり得るな。昔、世界を支配しようとしたか、破壊しようとしたかで、何者かにバラバラにされて封印されたんだろうな。なんせ、石の入った箱が見つかったのが祠だろ?」
「そうそう・・私の想像でいくと、その黒龍は破壊神又は魔王的存在で、それを阻止する為に勇者が立ち上がったの。で、仲間と共に黒龍をやっつけた。でも完全に消滅させる事ができなかったから、止むなくバラバラに切り裂き、それぞれを別の石に封印して、離れた祠に収め、二重に封印した。と、こんな感じかな?」
「う〜ん、明確なる推測、恐れいります。」
功史はわざとらしく頷く。
「もう!馬鹿にしてんでしょ?」
「馬鹿になんかしてないぞ。感心してるんだ、さすがゲームばっかやってるだけあるなぁ、と。」
「それが馬鹿にしてなくて何だと言うのよ?」
「まぁまぁ、そう、怒んなって!ほら、もうじき町だぞ。」
前方を見ると町の建物の影が見えてきた。
「まず、食事!いいでしょ?」
「操、お前なぁ・・・・」
功史は呆れた顔をしてため息をついた。

この町も前の町と同じくらいの大きさ。ここから南へさらに3日の道のりで着くという港町はもっとずっと大きいらしかった。
とにかく私たちは、あたたかい食事を取る為ともう夕暮れ近かった為、『宿兼お食事』の看板を見つけるとそこに入った。

「こんにちは!」
「はーい、いらっしゃい!」
カウンターに可愛らしい女の子が座っていた。
くるくるウェーブのショートカットの金髪、真っ青の眼、形のいい唇、まるで人形のような女の子。
「ご一緒ですか?1部屋100ピルラです。」
功史はちらっと私の顔を見てから言った。
「い、いや、2部屋頼む。」
「はーい。200ピルラいただきます。」
功史がカウンターにお金を置くと、彼女は引換えに赤と黄色の鍵を出した。
「階段を上がって右の突き当たりから2部屋です。ドアノブが鍵と一緒の色になってますから。」
彼女はにこりと笑った。
「あ、どうも。」
功史は少し顔を赤らめながら鍵を手にした。
「功史!」
振り向いた功史を私は少し睨んでしまった。
「な、なんだよ?行くぞ。」
すっと私の横を通り過ぎ、功史は階段を上がって行った。
「ちょっ・・・」
私も慌てて階段を上がる。

ベッドと小さなサイドテーブルにイスだけの狭い部屋。でもバスルームはあった。私は早速シャワーを浴びた。勿論、部屋の鍵はしっかりかかっているのを確認してからね。
−コンコン・・コンコン・・−
「はーい、ちょっと待って!」
きっと功史だと思いながら私は慌てて身体を拭き、服を羽織るとドアを開けた。
「何だ、まだシャワー浴びてたのか?俺なんかとっくに済んだぞ。」
「功史と一緒にしないでよね!」
「どうでもいいけど、ボタン、段違いだぞ。」
「えっ?」
見ると、ちょうど一段飛ばしたところから胸が少し見えている。
「もう、エッチ!」
「どっちが?」
慌ててボタンをかけなおすと、私は先に階段を下りて行った功史の後を追った。

カウンターのある宿の一階は、奥が食堂兼バーになっている。私たちはそこで夕食を取りながら、いろいろな人に黒龍や石が封印されているような祠の事を聞いて回った。でも、収穫ゼロ。宿の女の子も全然知らなかった。
翌日、通りすがりの人や店などに入って、いろいろ聞いた。と言っても道を歩いている人はほとんどなかったし、それにお店の人からもやはりそれらしき情報を聞き出すことはできなかった。夕方まで歩き回った私たちは、もう一晩その宿に泊まり、翌日、港町に向かう事にした。

−コトッ・・コトッ・・−
その晩、私は廊下を誰かが歩く足音で目が覚めた。
「こんな夜更けに旅人かしら?」
時計は2時を指していた。私は眠い目を擦りながらぼーっとしていた。
と、その足音が私の部屋の前で止まる。
−コンコン−
私はギクッとした。こんな夜更けに宿の人が起こしに来るわけはない。火事とかいうのならまだしも、そんな気配もない。旅人にしても他人の部屋にくる訳はない。
「こ、功史?」
ひょっとして、と思った私は小声で言ってみた。
−コンコン−
返事は何もなく、再びノックの音がした。
「功史なの?」
私はドアに近づくともう一度小声で言った。でも相変わらず返事はない。
−ガチャリ−
ドアの鍵が外れる音がした。功史が合鍵を持っているわけがない。私は寒けを覚えながらドアノブにじっと見入っていた。
−ガチャ・・ギギギギギ−
ドアが少しずつ開いてきた。私は後ずさりしながらそれを見ていた。
「な、なんだ、あなただったの?」
ランプを持ち、ドアを開けて入ってきたのはカウンターに座っていた宿の女の子。
「何か用ですか?それもこんな夜更けに?」
相手が女の子という事もあり、私はほっと胸を撫でおろした。女の子同志、何か話したい事でもあったんだろうか、と私は思った。
パタンとドアを閉めると、女の子はにこりと笑った。
「あ、あの・・・?」
その笑顔が昼間カウンターにいる時の素敵な笑顔とは異なっていた。何となくいやな雰囲気、妖しい雰囲気が感じられる。
「お願いがあるんです。」
彼女はいつもの鈴の音のような素敵な声で言った。
「その身体を私に下さい。」
不意に彼女はナイフをかざし、私に襲いかかって来た。
「キャアッ!」
咄嗟にそれを避けた私は、ベッドの上に倒れる。それを目掛けて再び彼女のナイフが私を襲ってくる。
「キャッ!」
何とかそれを避けて私はドアに駆け寄った。
−ガチャガチャ・・−
いつの間にかけたのか、ドアには鍵がしっかりと掛かっている。
「か、鍵は・・・・」
テーブルの上に置いた鍵は、と見ると彼女がそれを摘み上げるところだった。万事窮す、ここから出られない。私は大声で叫んだ。
「功史!・・功史、助けて!」
ガタっと隣の部屋で音がしたような気がした。
でも功史はこの部屋の鍵を持っていない。再び襲いかかってくる彼女を避けながら、私は何とかしようと必死だった。
「そ、そうだ、これ・・」
私はギャシーにもらった指輪を思い出した。
「つ、杖になれーっ!」
その指輪を彼女に向けながら叫んだ。でも指輪に変化はない。
−グサッ!−
彼女のナイフが壁に刺さる。ちょうど私の顔の横・・私は彼女の顔と向かい合っていた。
「フーッフーッ・・」
彼女の荒い息が私にかかってきている。その真っ青な目に愛らしさはなく、妖しい光を放っていた。
そこから逃げようとした私は、既に彼女の左手が私の肩を捕らえている事に気がついた。壁に押さえつけれらていて、身動きできない。少女とは思いない程の力。彼女はさっとそのナイフを壁から抜くと頭上高く上げ、私の心臓を目掛けて振り下ろした。
−ドンドンドン!−
「操!どうしたんだ、操!何かあったのか?」
ドアを叩く音と、功史の声でドアの方を見た彼女の腕が一瞬止まった。
「今だ!」
私は力を振り絞って彼女を押し退けようとした。でも、力が違いすぎる。彼女はびくともしない!再び私に目を移すとナイフを掲げた。
もう駄目っ!と思いつつ、目を瞑り私は思わず指輪を彼女の目の前に突き出した。
(止めてぇーっ!)
心の中のその叫びが聞こえたのか、その瞬間指輪が光り、もの凄い風圧がそこから発せられた。
−ビユウウウウウウウッ!−
−ガッシャーン!−
吹き飛ばされた彼女は、勢い余って窓ガラスを破り外へ落ちていった。
「はあ、はあ、はあ・・・」
私は息を切らしながら、彼女が落としていった鍵を拾うと、ドアを開けた。
「み、操?」
「こ、功史・・怖かったぁ・・・」
功史の顔を見て、気が緩んだのか、足が震えてきて動けなくなった私は、そのまま功史の胸に倒れ込んだ。
「大丈夫か、操?」
やさしく抱き止めてくれた功史は、私の顔を見て言った。
「う・・うん。大丈夫みたい。この指輪がやっつけてくれたの。」
「そうか、良かった。」
功史は私を抱えるようにして部屋に入ると、窓から外を見た。でも真っ暗な外はあまり遠くまで見えない、すぐ近くにも何もいないようだった。ただ窓の真下にガラスの破片が落ちていただけ。

震えがまだ止まらない私は、功史に抱きしめられた格好のまま、簡単に何があったのか説明した。
「どうする?」
外を見ながら功史が聞いた。
「う・・うん・・・」
「多分今日はもう襲って来ないだろう。」
「うん、だと思うけど・・・」
「俺の部屋で寝るか?」
−ドキン!−
心臓が再び大きく打った。一人でこの部屋で寝るのは不安だし、でも、かと言ってまた功史と・・・最も、もう三晩も同じ部屋で寝ている。でも、いつも功史がさっさと先に眠ってしまっていた。もう少しロマンチックな展開も期待してた私なんだけど。だって折角功史と一緒の夢を見ているんだもん。なのに、肝心の功史に全然その気がない。私に女としての魅力がないのか(そんなにあるとも思わないけど全然だなんてショック)、よっぽど理性が強いのか(夢だと言うのに)・・それとも、『功史と呼べ』だなんて、意味深な事言ってもやっぱり妹としてしか、思ってなかったとか・・。う〜ん、なんなんだろう?・・・
「その方がいいな。」
いろいろ考えていて返事をしない私に、功史はそう決めると、そのまま抱き抱えるようにして私を自分の部屋に連れて行った。
そして、突っ立ったままの私を無視し、私の部屋から布団を持ってくると、床に敷いてゴロンと横になった。
「早く寝ろ。夜が明けたらすぐ出掛けるぞ。そんな奴がほかっておいてあるんだ、きっと町ぐるみに違いない!」
「で、でも・・・」
「昨日一日歩き回って疲れてるんだろ?俺でもくたくたなんだから、お前なんかもっと疲れてるはずだ。あんな事があった後だって言っても、少しでも寝ておかないと。」
「う、うん。」
私はベッドに横になった。でも、さっきの少女の妖しい瞳が瞼に浮かび、寝つけそうもない。
「操・・・。」
ふと顔を上げるとベッドの横に功史が立ってた。
「眠れないのか?」
「うん・・・。」
「そうか・・・」
そう言うと、功史はベッドの横に腰掛けた。慌てて起き上がった私もベッドに腰掛ける。
「こうしてようか。」
功史は私を自分の横に引き寄せると、毛布をかけた。
「すぐ夜明けだな・・・」
「ん・・・・・」
私の肩を抱く功史の腕とぴったり触れている胸が熱く感じた。私は真っ赤になったまま功史の顔も見れず、そのままの格好で俯いていた。服を通して功史の心臓の鼓動が伝わってくる。
(こらっ!静かにして!落ちつきなさいってば!)
私は、ドキン、ドキンと大きく打つ自分の心臓に必死で言い聞かせていた。
「操・・・」
不意に功史の腕に力が入り、私はベッドに押し倒される。
「こ、功史?」
目の前の功史の顔は真剣な眼差しをしている。
その視線は私の目を捕らえて離さない。
「操・・・俺、俺は・・・」
「・・・・功史・・・」
近づいてくる功史の顔・・私はそっと目を閉じた。

 

###to be continued###

 
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