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## その1・夢の世界へ ##


「君に、コウ君と名付けてあげよう。」
私は、机の横にようやく座ったパソコンに話しかけていた。そのパソコンは私がお兄ちゃんと呼んでいる隣家の幼なじみ、功史君の形見。私、片瀬操、高2。そして、お兄ちゃん、柳功史君は大学2年。パソコンの事はいろいろお兄ちゃんから教えてもらった。いろいろと言っても簡単な事ね。私の頭じゃついていけない。そのお兄ちゃんが、約1ヵ月前交通事故で亡くなったの。それで、その形見としてこのパソコンが私の所へ来たってわけ。パパとママは応接間の片隅にでも置けばって言ったんだけど、私はどうしても自分の部屋に置きたくて昨日から大掃除。なんとか窓際の机の横に場所を確保して、パパに買ってもらったパソコンラックを置いたの。で、今ようやく配線し終わり、お兄ちゃんのパソコンがそこに落ちついたところ。
「コウ君・・・なんでお兄ちゃん死んじゃったんだろ?・・・・」
パソコンの前で1人で座っていたら落ち込んできてしまっていた。これじゃいけないと思った私は、スイッチを入れるとファイルマネジャーを起動させてハードディスクの中身を調べてみる事にした。
「う〜んと・・・何か面白そうな物ないかなあ・・ゲームとか・・・?」
難しそうなものばかりで、初心者の私にはちぷんかんぷん。
「あれ・・『ゲーム作成ツール』なんてのがある。」
私はさっそくそっちへ移った。それは市販の物ではなく、お兄ちゃんが作った物。
「そう言えば、一緒にゲーム作ろうか、なんて言ってた事あったっけ。」
私でも使えるように、結構簡単な作業で作れるようになっていた。
「それに、ヘルプ機能(分からない時に見る説明)も充実してる。これ私に合わせて作ったのかな?」
『馬鹿だなぁ、こんな事も分からないのか?この前説明しただろ?』
よく言っていたお兄ちゃんの事を思い出し、つい涙ぐんでしまっていた。
「いけない、いけない。じめじめは私には似合わないんだ。お兄ちゃんに怒られちゃう。」
『元気のいいとこだけがお前の取り柄だな。』
ほら〜・・・またお兄ちゃんの事思い出しちゃった。
これでは、ますます湿っぽくなるばかりだわ。私はそのゲーム作成ツールに没頭する事にした。
そのツール用のファイルの中にお兄ちゃんの作りかけのゲームを見つけ、それから夜更けまでそのゲームをいろいろ見たり、付け加えたりしていた。

「う〜ん・・・今日はもう寝ようか・・」
すでに午前2時をまわっていた。一時中断してまたやろうと思ってベッドに入る。
その1、2時間後、ぐっすり眠っていた私は目の前が明るくなったような気がして目を開けた。
「う、ううん・・電源は切ったはずなんだけどぉ・・・」
ベッドの真向かいにパソコンと机がおいてあって、右を向くと、パソコンがちょうど目の前になる。その電源でも切り忘れて眩しいのかなとも、でもそんなはずはないのに、とも思いつつパソコンを見た。
「お兄ちゃん?!」
驚いた事に、パソコンの画面にお兄ちゃんの笑っている顔が写っている!
私はふらふらと起き上がると、パソコンの前のイスに座った。
「操、こいよ!」
画面の中のお兄ちゃんの声が聞こえたような気がした。
「えっ?!」
眩しい光が画面から出たと思った瞬間、私は部屋から消えていた。(と思う。)
次の瞬間私が座っていたのは、酔っぱらいばかりのあまり清潔ではないバーのカウンターの隅。カウンターの中、目の前の棚に置いてある鏡には私の部屋の様子が写っていた。
「えっ?えっ?」
きょろきょろしていた私の横からお兄ちゃんの声がした。
「何きょろきょろしてるんだ、操?」
カウボーイハットのような帽子を深々とかぶっていて顔が全く見えなかったから、まさかお兄ちゃんだとは思ってもみなかった。
「ま、まさか・・お兄ちゃん?」
「分からなかったか?」
こっちを向きながら、帽子を上げその顔を見せたその男は、確かにお兄ちゃん。
「お、お兄ちゃん!で、でも、どうして?あっ、もしかして、これ、夢?」
「そうだな、夢と言えば・・そうかも知れないな。」
「何それ?」
「いいんだよ、それで。」
「わけ分かんないよぉ・・・」
「はっはっ、そうふくれっ面すんなって。」
「だって・・・」
「とにかく、ここは俺が作りかけたゲームの世界なんだ。これからゲームの始まりってわけ。分かったか?」
「へ?」
「相変わらず呑み込みが遅いなぁ、操は。」
お兄ちゃんは、くっくっくっと笑った。
「お兄ちゃん!」
「いいから!とにかく、この夢は、ゲームの世界なんだってば!一緒に冒険しような!」
「ゲ、ゲームの世界?」
「そっ!魔法と冒険、ファンタジーの世界。操の大好きな世界だ。」
「で、どうするの?」
「そうだな、まずその服装を何とかしないといけないな。」
そのお兄ちゃんの言葉で私は、はっとした。私はパジャマのままだった!(当たり前だけど。でも夢ならそこん所も考えてくれたっていいじゃない、こっちに来た途端にぱっと服装が変わってるくらいのサービスがあったって・・・)
「この靴を履けよ。それと、操、その『お兄ちゃん』ってのはもう止めてくれって言っただろ?」
「う、うん。こ、功君。」
素足だった私は、足元に置いてくれた靴を早速履いた。
どうも長年言い慣れたお兄ちゃんの方が口から出てしまう。お兄ちゃん、じゃない功君が交通事故に会う3日前、私の17歳のバースデーの時、功君からバイトしてやっと買ったという時計をプレゼントして貰った。その時言われたの。本当は『功史』って呼び捨ての方がいいって言ったんだけど、私が言いにくそうにしてたんで、一歩譲って『功君』でいい事になった。
「功君か、やっぱり功史の方がいいな。でも、もう少し色気のあるもん着てるかな、と思ったんだけどな。それならTシャツとパンツで十分通じるな。」
「い、色気がなくて悪かったわね!」
「久しぶりに会ったのに、そうふくれっ面ばっかするなって!」
「だって、功君・・こ、功史が・・」
功史は私に自分の上着をかけながら笑った。
「まっ、いいや。とにかく、そろそろここを出よう。これ以上遅くなると酔っぱらいがうるさくなるからな。女連れじゃ絡まれるのが落ちだ。」
私に功史の帽子をかぶせ、顔が見えないようにすると、功史は私の背を押すようにして、バーを出た。
外は、まるで西部の町。
「わあ、星が綺麗!」
「だろ?向こうじゃ見えないもんな。」
功史も満天の夜空を見上げていた。
「そこの宿屋に部屋がとってある。」
功史はそう言うとすたすたと宿屋に向かって歩き始めた。
や、宿屋ぁ?・・当然の如く私は焦った。
「何してんだよ、来いよ。いつまでも通りでふらふらしてると変な奴にとっつかまるぞ。」
突っ立ったままの私を振り向き、功史が催促した。
「で、でも・・・」
「あっ、そっか。大丈夫だって。今は金があるからちゃんと2部屋とってある。ま、操が一緒の方がいいってんなら、それでもいいんだけどな。」
「べ、別の方がいいに決まってるでしょ?」
私は真っ赤になりながら、歩を進めた。
「一応、男って事にしてあるからな。声は出すなよ。」
「う、うん。」
私は今一度帽子を深くかぶると功史の後に着いた。宿屋に入るとでっぷりとした目のきついそこの女将がカウンターに座っていた。
「遅いじゃないか、もう閉めようと思ってたとこだよ。」
じろっと私たちを見ると彼女は言った。
「すまん。連れが来るのが遅くなっちまってな。じゃ、部屋の鍵を。」
功史が差し出した手に、女将は鍵を1つ乗せた。
「おい、部屋は2つって言っておいただろ?」
「満室なんだから仕方ないだろ?女だってんならまだしも、男同志なんだろ?いいじゃないか。最も自分の女なら一緒でもどうって事ないだろうがね。」
女将はじろっと私を見た。まるで女じゃないのかと言っているようで、私はドキっとした。
「そうだな。・・まっ、いいか。こいつは俺と違って育ちがいいんだ。だから別々にと思ったんだがな・・・まぁ、我慢しろ。」
功史は私を振り向いてそう言うと、さっさと階段を上がりだした。
私は女将のまとわりつくような視線を感じ、慌てて功史の後を追って階段を上った。

−バタン−
部屋に入ったまま私は一歩も動けなかった。その部屋はあまり広くない。ベッドと言ってもセミダブルくらいの粗末な物が1つ置いてあるだけ。後はソファと小さなテーブル。
「俺はこっちで寝るから。」
功史は私から自分の上着を取ると、さっさとソファに横くなった。もっともあまり大きくないので、足を縮めなければならなかったけど。
「早く寝ろ。明日は装備やいろいろな物を買ったり忙しいぞ。」
「う・・うん。」
全く私を意識していないような功史に、やはり兄と妹なのかな、と思いながら、私はベッドに入った。
少しでも功史がごそっとする度に私はびくっとしていた。胸がどきどきして、なかなか眠れない。功史に背を向けて寝ていても、神経はそっちにいっている。どうしよう、そう思った時、ふと思い出した。これが夢だって事を。
「夢なら・・どうって事ないのよね。」
一人納得した私は、いつしか眠りに入っていた。


### to be continued ###


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