☆★ その079 ちょっと寄り道? ★☆


 青空の下に広がる草原地帯。その何もない空間に突如小さな光が現れた。
−キラッ!−
それは、少しずつその輝きを大きく広げていく。
−ばああああ・・・−
人間2人分の大きさまでその輝きを増すと、ミルフィーとカルロスを残し、それはすっと消滅した。
「着いた・・のかな?」
高く掲げていた片手をゆっくり下ろし、その手に持っていた銀龍の爪を腰袋にしまいながら、ミルフィーは呟く。
「さて、どうなのか?」
そこが黄金龍の世界なのかどうか、その証拠があるわけでもない。
2人はしばらく広いその草原地帯を見渡していた。

「どうしたの、カルロス?」
横でカルロスが考え込むようにして遠くを見つめているのにふと気づいたミルフィーは不思議そうに聞く。
「あ、ああ・・・・・まさか・・・いや・・・そんなことが・・・・」
「え?」
ミルフィーの問いにも上の空。カルロスの表情には動揺が浮かんでいた。
「カルロス?」
ミルフィーにいいようにからかわれた時以外、カルロスが動揺をみせるような事はなく、ミルフィーは一体どうしたものかとカルロスをのぞき込む。
「あ・・いや、なんでもない。」
「でも・・」
「気にするな。」
カルロスはそんなミルフィーを無視し、ゆっくりと歩き始めた。
「人家か・・・旅人か・・ともかく誰かと会えばわかるだろう。」
「何が?」
呟くように言ったその言葉に、ミルフィーは聞いてみたのだが、カルロスは、それ以上何も話そうとせず、ただ黙って足を動かしていた。


そして、真っ先に目に入った農家で、カルロスの疑問は解決した。
「黄金龍の世界って、カルロスの世界だったの?」
家の近くの畑で農作業をしていた農夫にカルロスが聞いた事に対する答えにミルフィーは驚いてカルロスを見つめる。
「いや・・・一応飛龍と黄金の剣士が世界の窮地を救ったという伝承は残っているが、お前の言うような金龍、銀龍などの創世龍の話は聞いたことはない・・・。違うと判断した方がいいんじゃないか?」
「ふ〜〜ん。じゃー、もしかして黄金龍の世界へ行くつもりが、どういうわけかカルロスの故郷の世界へ来てしまったってこと?」
頷いたカルロスから、腰袋から再び取り出した銀龍の爪にミルフィーは視線を移す。
「そういえば、転移の時、強く思った場所へ行ってしまうことがあるから、気をつけろ、とか言ってたような。」
「そうなのか?」
「うん・・・確かそうだったと。」
転移のため力を使い果たしたその爪に、輝きはなく、もしここが黄金龍の世界でないのなら、再び夢を通じてリーパオ経由で銀龍とコンタクトを取る必要があった。
(眠りの中でリーパオと波長を合わせるのも困難なんだけどな。偶然向こうがこっちに気を集中していてくれれば楽なんだけど。)
ミルフィーはため息をつきながらカルロスに微笑みかける。
「何か気がかりでもあるの?」
「あ・・いや・・・・・」
あの場で帰りたいとは思わなかったし、それまでにもそう思った事などない、とカルロスは考えていた。が、心の奥底では気にかかっていたことは確かなのだろう、とふと思う。
「カルロスの家は?景色に見覚えがあるっていうことは近くなの?」
「そうだな。問題は時の流れだが・・・」
カルロスは農作業に戻っていた農夫に歩み寄り、年代を聞いてみた。
「どうだった?」
「向こうでは3年なんだが、ここではオレがここを離れてから5年経っている。」
「5年・・・じゃー、あまり変化はないはずね。」
「そうだな。」
小さく呟き、何か考え事をしているようなカルロスの横顔をミルフィーはじっと見つめていた。その表情から何か深刻な事情があるように思えた。


「ミルフィー・・」
しばらく押し黙っていたカルロスが、ミルフィーに視線を移すとようやく口を開く。
「来た限りには確認すべきなんだろう。」
「確認?なんの?」
「オレの・・・生家の状況だ。」
「カルロスの家の?」
「ミルフィーにはオレがなぜ家を出たか言ってなかったか?」
「ううん。聞いてないわよ。ただおばーさんから、普通じゃない理由があったんだろうって聞いたくらいしか。」
「そうか。そうだったよな。まー、人に話すべき事じゃないしな。」
「カルロス・・・・」
再び押し黙ったカルロスに心配そうな視線を投げかけるミルフィーに、カルロスは決心した笑顔を見せる。
「一緒に来てくれるか?」
「私は別に構わないけど。」
「そうか。」
「あ!でも断っておくけど・・・」
「ああ、それは承知してる。オレとしては非情に残念なんだが・・・。」
いかにも残念そうな笑顔をカルロスはミルフィーになげかける。
『一緒に行く』という事に了解した意味と、そして家で誤解を受けそうな紹介や態度をとらないことを、その短い言葉で2人は確認して歩き始めた。


「ここから家までどのくらいかかるの?」
「そうだな・・外れではあるが一応領地内だ。ここからだと馬か馬車で2週間くらいだろう。もう少し行くと村へ入るはずだから、そこで方法を決めるとするか。」
「領地内って・・・・」
呟きながらミルフィーは老婆の言葉を思い出していた。家柄経歴等どれをとっても申し分ない人物と言ったことを。(プレイボーイだという事以外は。)
「・・・お前ほどじゃないが、一応代々続いている公爵家だ。」
「公爵様だったの?」
意外そうな表情で自分を見上げたミルフィーにカルロスは軽く笑う。
「お前は王女様だろ?」
「そんなの関係ないわよ。」
ついっと前をむき直したミルフィーの横顔を見つめながらカルロスも呟く。
「オレだって家など関係ない。」
「そうなの?」
「兄もいれば弟もいる。お前の場合と違って跡継ぎがいないわけじゃない。オレ一人いようがいまいが、関係ないさ。」
「あ・・私だってねー、国王である叔父夫妻に子どもでもできれば関係ないのよ。できなくても身内から養子を迎えればいいんだし。それに第一、私は王家にとっては必要のない忘れられてた存在だったはずよ。」
再び自分の方を向いたミルフィーにカルロスは少し意地悪な笑顔を浮かべる。
「だが、忘れてなかっただろ?」
「そ、それはそうだけど・・・。」
その意地悪な笑顔を避け、前方を見ながらミルフィーは呟いた。
「私にはああいったところは場違いな場所でしかないのよ。あんなところでじっとなんかしていられないわ。」
「じゃじゃ馬だからな。」
「冒険家だから、と言ってほしいわ。」
「冒険に取り憑かれた女剣士か?・・・人が聞いたらもったいないというだろうな。」
「でも、そうなんだから、仕方ないでしょ?」
「そうだな。」

苦笑いを交わし、それからしばらく2人は無言で歩いていた。
村に近づくに連れ、人家が少しずつ増えて来ていた。
そして、その村の宿で一泊すると翌日馬車でカルロスの生家へと2人は向かった。

 


【前ページへ】 【青空に乾杯♪】Indexへ 【次ページへ】

**青空#138**