[パラレル番外編5]

☆★ 銀騎士参上(9)おまけ・2 ★☆
-- 神話の剣士 --


 

 船旅のハネムーンは十分満足いくものだった。なにしろ聖魔の塔での探索の後である。手元には金銀財宝がぎっしりつまった袋があった。普通でいいというミルフィーを無視し、スペシャルルーム。そして、賓客らしく鎧は脱いで、ミルフィーはドレス姿。全てカルロスの策略である。(笑
ただ一つカルロスの気に入らなかったことは、船上でのパーティーでミルフィーにダンスの申し込みが多かった事である。自慢と言えば自慢とも言えるし、ミルフィーもそれら申し込みを受けるわけではなかったので、他の男の腕の中で踊っているミルフィーを目にするような事もなかったのだが、夜の食事はたいていパーティー形式になっていたため、カルロスにとっては気が気ではなかった事も確かだった。その件に関してだけは普通の二等船室にしておけばよかったか?という後悔も感じたりもした。が、ともかくミルフィーはいつもカルロスの傍にいるし、カルロスも・・・女達からのハートマークにはこれっぽっちもなびく気配はなかった。彼の目に写るのはミルフィーのみ。(もっとも、そんなことがあったら誰かさんの怒りが怖い。)


そして、そんなゆったりとしたアツアツの船旅も終えた後の数日の馬車での旅の終着点、ミルフィーとカルロスはアシューバル公爵家に着いていた。
「カルロス・・・か・・・。」
カルロスの父であるアシューバル公爵は、カルロスとそして、その横に添うミルフィーに、冷たい視線を流す。
本当の自分を知ってもらいたいからと普段の冒険者の格好で行くといったミルフィーを説き伏せ、良家の子女(本当は王女なのだが)の格好をさせてはいたが、たとえどのような格好でも気に入ることはないだろう、とカルロスは思っていた。
「で・・・ここに住むつもりか?」
「いえ、近くまで来たものですから、父上に一度紹介しておくべきだと思って立ち寄ったまでです。私は、この家には戻るつもりも、長居するつもりもありません。」
「そうか。まー、勝手にするといいだろう。」
短い対面だった。それだけ言うと公爵はくるっとイスの向きを変え、二度と2人の方を向こうとはしなかった。


「カルロス・・・」
「いいさ・・今に始まったことじゃない。父にとって跡継ぎ以外は必要ないんだ。それより・・・・悪かったな。」
「ううん・・私は別に。」
ミルフィーのこともまるっきり無視したような態度を取ったことに対して申し訳なさそうに謝るカルロスに、ミルフィーは気にしてないと笑顔で応える。気弱なカルロスを見るのは初めてだった。
「しかし・・・家を出たときと違って、これでオレははっきり父の許可を取ったことになるからな、大手を振ってそしらぬ顔をできる。」
「勘当の許可?」
「はははっ・・・・そうだな。」
気持ちを切り替え、カルロスは明るく笑った。
「が、その前にもう一カ所同行してくれるか?あ、いや、お前が嫌いなその格好じゃなく、いつものお前で十分なところだ。」
「え?」
「せっかく来たんだ。母にも報告したい。」

そして、郊外にある公爵家の墓地にあるカルロスの母の墓前にミルフィーとのことを報告したその帰り道、馬を駆り勢い良く駆けてくる一人の男の姿があった。

「よー、カルロス!」
「アル!」
「水くさいぞ?オレには会わずに行くつもりだったのか?屋敷にいたくないのはわかるが・・オレのところくらい来てくれてもよかっただろ?」
「カルロス?」
「あ、ああ・・・幼なじみなんだが、一応この国の第二王子のアルブレヒト。王子とはいっても型破りな奴というか、自覚がないというか・・・ま、オレにとっては子供の時からの友人だ。オレはアルと呼んでる。」
「王子様?」
「ああ・・これは失礼。なるほど・・・あのカルロスを射止めただけはある。」
「『あの』は余計だ。」
「おおっと・・・・こいつは相当な熱だな?」
ミルフィーに手を差し伸べながら近づいたアルブレヒトを遮るように、肩を抱いて後ろへ下がらせたカルロスを、アルブレヒトは笑った。
「オレは足を洗ったが、お前は相変わらずなんだろ?」
つまりカルロスの幼なじみであるこの王子もカルロス同様、結構お盛んな遊び人ということらしい。
「足を洗ったか・・・・あのお前が・・・・」
アルブレヒトは呟きながらじっとミルフィーを見つめる。
剣士姿ではあるが、品も感じられた。柔らかそうな髪を風にそよがせ、爽やかで優しげな笑顔。その真っ青な瞳に思わず吸い込まれそうな気がした。
「なるほどな・・・分かる気がする。いや、オレもそうしたいくらいだ。」
「アル!」
「くっ・・・・はははははっ・・・・・大丈夫だ、そこまで想ってる女を取るようなことはいくらオレでもしないさ。後が怖いしな。」
焦ったようにミルフィーを完全に自分の背後に隠してしまったカルロスにアルブレヒトは大笑いする。


「じゃーな、カルロス。その人を泣かすような事はするなよ。」
「当たり前だ・・・が、それはいいとして、どうしたんだ?」
アルブレヒトの性格はよく分かっていた。カルロスは正式に(笑)公爵家を出たことになった。無罪放免晴れて天下御免の風来坊・・・もとい!冒険者となり、その地に束縛される理由もなくなり、次はいつ会えるのか分からなかった。だからこそカルロス帰参の報を聞いてアルブレヒトは急いでかけつけてきたはずである。普通なら今少し別れを惜しみ、ゆっくり話さないかと誘ってもよさそうなものを、とカルロスは不思議に思う。
「いや・・・ちょっとな・・。」
「ちょっとな、とは?」
「ああ、大したことはないんだが・・そうだな、ここを離れるつもりなら早いほうがいい。」
「それは・・・・戦争でも始まるということなのか?」
少し考えてから答えたアルブレヒトに、カルロスは確信する。そうでもない限り、数年ぶりにあったというのにこうまでもあっさりと別れるわけはない。
「アル。」
アルブレヒトの乗った馬の手綱をつかんでカルロスは返事を待った。
しばらくカルロスと見つめ合っていたが、こうなったらカルロスが引かないことを知っていたアルブレヒトは、苦笑いをしてから口を開いた。
「公爵が冷たい態度を通したのも、黙ってお前が家を出ることを許したのも、おそらくそれが理由なのだろう。」
「アル?」
「お前が出て行ったあと、酔ったいきおいで一度だけもらしたことがあった。」
「親父が?」
「ああ。お前の剣士としての腕と才能には前々から期待していたようだったからな。あ、これはオレの父から聞いたのだが。」
「陛下から?」
「そうだ。ゆくゆくはお前に公爵家を継がせたかったらしい。」
「オレに?・・し、しかし兄が・・。」
「まーな。長兄が継ぐのが習わしだ。が、当主の希望と国王の許可があればそれ以外でも可能なことはお前も知っているだろ?それで、公爵のその希望を何かで知ったことから、あの騒動へと発展してしまったらしいんだ。お前が姿を消してから分かったことだが。」
「そうだったのか・・・。」
意外な事を聞き、カルロスはアルブレヒトを見つめたまま考え込む。
「いつだったか会食の後、公爵と庭で会ってな・・・オレを見るとお前を思い出すとかつぶやいて・・・ずいぶん酔っていたみたいだった。お前が家を捨てて出ていってしまったことも、そして、お袋さんを死に追いやったのも自分のせいだと言ってた。」
「親父が・・・そんなことを・・。」
「酔っていなければ誰にも話さないだろう。」
思っても見なかった事を言われ、カルロスは愕然としていた。血も涙もない冷徹な人間だ、それがカルロスの父親に対する感想だった。親子の情はとっくの昔に失くしていた。
「お前が想像してる通り、今、西のボッタレアとは一触即発の状態なんだ。」
「ボッタレアか・・・・だが、確か和平条約で友好関係を保っていたはずだが?」
「いや、去年前王が亡くなり、その弟が新たに王位についたわけだが・・・」
「好戦的だというわけか?」
「まー、そんなわけだ。・・、といっても即ここが戦場になるというものでもないが・・・どのみちお前は彼女の故郷へ帰るつもりなんだろ?それなら早く帰った方がいい。彼女のためにもな。」
「アル!」
「・・・気にするな。お前の気持ちは嬉しいが・・・・一緒になったばかりなんだろ?関係のない国のことで彼女に悲しい思いをさせることはない。」
アルブレヒトもまたカルロスの性格はよく知っている。その短い言葉だけで、何が言いたいのかよく分かっていた。
「じゃ、悲しい思いをしなければいいのよね?」
「は?」
静かに話を聞いていたミルフィーの突然の言葉にアルブレヒトは驚いたように見つめる。その笑顔はこんな話題だというのに爽やかである。
「要はそのボッタレア国王に、他国への侵略を諦めさせればいいのよね?」
「ミルフィー?」
「戦争なんて何一ついい事なんてありはしないわ。それとも、私がこの世界の人間じゃないからそうすることもいけない?」
「あ、いや・・・オレはもうどことも関係ないから何をしようと勝手だし・・・そういった断りがあるわけじゃない、戦争を止められるのならそうして悪いことはないと思うが・・・?」
またなにをするつもりなんだ、とカルロスはどきっとして答える。
「そう。じゃ、決まり!早いほうがいいわよね。」
「ミルフィー?」
カルロスににこっと笑うと、その笑みをアルブレヒトに向ける。
「王子、それで、そのボッタレアの軍はどこまで来ているのですか?」
「あ、ああ・・・」
どうするつもりなのだ?とアルブレヒトはミルフィーからカルロスへと視線を移して目で訊ねる。そして、ともかく話してやってくれという答えをカルロスの視線から読みとると、アルブレヒトは再びミルフィーを向く。
「敵は国境の川を挟んだ草原に陣営を張り、すでに小競り合いを数度繰り返している。数は1万騎ほど。それに対して我が軍は、2万ほどの兵を砦に配備しているが・・・できるのなら戦はさけたいというのが父王の意向だ。だが、5万とも10万とも言われるボッタレアの援軍が向かってきていると報告が入り、我が軍もそれに合わせ、私が王都軍を率い彼らと合流するつもりなのだ。」
「そうですか。」
アルブレヒトの説明ににこっと笑い、ミルフィーはカルロスを見る。
「こういうときにアレを使わなくっちゃ!」
「アレ?」
「そう、アレ。」
「あ・・・アレか・・・。」
「そう、うんと派手に。」
「そうだな・・・行くか?」
ミルフィーが何を言いたいのか察したカルロスは、苦笑いをする。が、その笑みの中に絶対の自信があった。
「アレってなんなのだ、カルロス?」
が、訳が分からないアルブレヒトは、不思議そうな顔で聞く。
「それはな・・・・・まー、見ていてくれ。」

そして、荷袋の中から適当な紙を取り出すと、カチカチカチと火打ち石でそれに火を付ける。そして、それの中にミルフィーがミリアからもらった炎の指輪を投げ入れる。
−バボン!・・・・ガオーーーーーーーォォォ・・!−
「な・・・こ、これは・・・・?」
転移する瞬間にミルフィーの意識を読み、ミリアは最初から飛龍の姿で現れ、アルブレヒトはその場で腰を抜かす程驚く。
『久しぶり、ミルフィー・・それから、カルロス♪』
『久しぶり、ミリア。』
『んもー!ちっとも呼んでくれないんだもん・・・つまらなかったわ。」
『ごめん、ミリア。でも、今からが出番なのよ♪ミリアでしかできない、しかも最高の場面!』
『え?』
勿論ミリアの言葉はカルロスとミルフィーに聞こえるだけであり、ミルフィーも声をだして答えているわけではない。そう、俗に言うテレパシーというやつである。
『だからね・・・・』

「おい、カルロス?」
飛龍と見つめ合っているミルフィーを見、アルブレヒトはカルロスにその説明を要求する。
「まー、待てって。百聞は一件にしかずって言うだろ?」
そのアルブレヒトににっこりと意味深な笑いをみせ、カルロスもテレパシーでミリアと会話をする。


−キーーーーーン−
「な、何?」
太陽の光がミルフィーに集中し始め、周囲が陰り始めた。
「か、彼女は・・・?」
その光を一身に浴びミルフィーの鎧が黄金色に光り輝いていく。
「じゃ、ちょっと行って来る。」
「は?・・・カ、カルロス?」
ミルフィーのその様子に気を取られていて気づかなかったが、明るさも元に戻ったそこで、いつの間にかカルロスの鎧も銀色の光を放っていていることにアルブレヒトは気づく。

−バサッ−
「ま、まさか・・・彼女は・・・伝説の・・・・?」
驚いてアルブレヒトが見上げる中、飛龍の背に乗った黄金の剣士と銀の剣士は、国境の方角に消えていった。
「カ、カルロス・・・・お前・・・・・」


そして、伝説は今新たなページを開く。
救世の黄金の剣士に寄り添う銀の剣士と神龍。一振りで山をも消滅させる太陽の剣と全てを焼き尽くす神龍の炎。
その絶対なる神の力にあらがう者あろうはずなく、平和を望む銀の剣士の言葉により、戦は終焉を迎えた。


「では、父上、いつまでもお元気で。」
「そちも元気でな。」
「はい。」
心を割って話し、わだかまりも消えた父公爵に別れの挨拶をし、カルロスはミルフィーと共に、今一度飛龍の背に乗る。

−ぎゃおおーーーーん・・・・−
巨大な神龍は、金と銀の剣士をその背に乗せ、ゆっくりと太陽に向かって飛んでいった。



「でも・・結局、カルロスに掴まっちゃったの?」
3人は老婆の家へ帰ってきていた。
「おいおい、ミリア・・人聞きの悪いこというなよ?」
「『これはオレたち2人の運命なんだ』って言いたいんでしょ?」
そのセリフを言おうとしたカルロスより一言先にミリアが笑いながら口にした。
「ま、まいったな・・・・・」
頭をかきながらカルロスは照れ笑いをする。
「んー・・・・レオン・パパに報告・・・そうだ!せっかくミルフィーが帰ってきたんだから・・・お祝いしましょ♪この際だから、ここへ連れて来ればいいのよね?レオン・パパとリーシャン・ママを♪」
「リーシャン・ママ・・・?」
「そろそろ目覚めの時なのよ?」
「え?目覚めの時って・・・・・リーシャンってとっくに目覚めたんじゃなかったの?」
どきっとして聞いたミルフィーに、ミリアは笑って答える。
「違うのよ。そうじゃなくて、成長したシュロの木と同化したの。人間として目覚める時がそろそろなのよ。」
「わあ♪素敵!」


レオン、リーシャン、そしてチキとシャイ、レイミアスも迎え、老婆の家は、賑やかにそして楽しそうな笑い声で満ちあふれていた。



---------------------------
*この話は、『金の涙銀の雫』本編とも関係なく、パラレル金銀ワールドの続きです。(笑*


【前ページへ】 【青空に乾杯♪】Indexへ

青空#151