☆★ 龍人の地、リュシェロドラ冒険記(1) ★☆
* 青空に乾杯♪・もう一つの#51(これがホントの#50の続き?)f^_^;*
-- ミルフィー(兄)怒り爆発! --

 「分かった、分かったから、もう呑むのはやめろっ!」
「どう分かったってんだよ?え?オレがなー・・・オ、オレが・・オレとフィアが一つの魂になってって・・そこまでは、よくないけど、いいとして・・・・問題はそれからなんだよ!」
「分かった分かった!朝から何回聞かされてると思うんだ?」
「分かってねーよっ!いいか?女になっちまって、あ、あんな奴の・・・あんな女たらしのくそったれとラブラブで・・しかも子供まで・・・・あ〜っもうっ!思い出しただけでも身震いするっ!!しかも、生まれ変わったオレが奴の子供って?!」
聖魔の塔、一番近くの村トムート村。その酒場のカウンターで、呑んだくれているミルフィーをレオンがなだめていた。朝からとぐろを巻いて呑んでいるのだが、少しも酔えない。それほど自分が見た夢に対する怒りとショックは大きかった。
「しっかし、またスケールの大きい夢、見たんだな?」
ごくごくと黒ビールを喉に流し続けるミルフィーを横目で見つつ、レオンは苦笑いする。
「世界を支える巫女ってか?・・・・その話はオレもガキん時聞いたけど・・・お前が・・その巫女の一人に・・・お、お前が・・・」
うぷぷっ!とレオンはミルフィーの夢の話の内容を思い出して、思わず吹き出す。
「うっせーな!どうせオレのガラじゃねーよっ!」
「当たり前だろ?お前が巫女さんってんなら、だれもが聖人君子様だ。」
げらげらと笑いながら、レオンは答える。
「ったく・・・笑いすぎだって・・・」
そんなレオンを横目でちらっと見、ミルフィーは渋い顔でまた一口ゴクンとビールを飲む。
「フィアなら・・・似合うだろうな。」
小さく呟いたミルフィーの言葉に、レオンの笑いは止まる。
「・・・そうだな。」
一度は目覚めたミルフィア。が、ミルフィーの身体を取り戻そうと決心し、老婆の元で修行を始めてみたものの、戦闘という行為に耐えきれず、イリュージョンの魔物たちですら、彼らと対峙することと、そして、自らの手で斬り殺していくという行為におぞましさと恐怖を感じ、彼女はミルフィーに助けを求める叫びをあげながら、再び心の奥底に閉じこもってしまっていた。
どうあっても目覚めないミルフィアに老婆は困惑していた。そして、そんなところにタイミング良く、霊体となったミルフィーが村での騒動を治めたレイミアスを連れて来た。二人の術により、ミルフィーは再び身体に入ることができた。

そして、そんなところに、カルロスがやってきてミルフィーに迫りに迫ったという事実が、そんな突拍子もない夢をみさせたのだろう、と判断もできた。
老婆の誘魂の術の時以来ずっとミルフィーに会わせてもらえなかったカルロスとしては、押さえに押さえていたものが爆発しての行動だったのだが・・・面白くないのはミルフィーである。それも当然・・・ミルフィーは身体は妹のものであれ、正真正銘、男なのである。が、カルロスは頭からミルフィーが少女だと思いこんでいる。間違いはなかったものの、カルロスのあの迫力というか、迫ってくる勢いにはどうしても押され気味の状態になり、ミルフィーは、ほとほと困惑していた。

「だいたいだな・・なんでオレなんだよ?あいつに似合いそうな女なら街に行きゃ、向こうから寄ってくるだろ?」
「そうだな・・。奴には大人の色っぽい女の方が似合ってるとは思うが・・そこは、あれなんじゃないか?」
「なんだよ、あれって?」
「つまり、先行投資。」
「先行投資?」
「そ。奴の本能が成長した時を嗅ぎ当てて惹かれたとかなんじゃないのか?・・・確かにミルフィアなら、もう数年すればぐっと女っぽくなって男が放っておかないようないい女に・・・ととと・・・」
中身はこんな感じでも、外見は・・少女としては悪くはない・・・いや、どっちかというと顔もプロポーションもいい線いってる、とレオンも感じていた。そして、夢の中で出会ったミルフィアを思い出し、一人考え込むように話していたレオンは、ミルフィーの目つきがきつくなってきていることに気づいてあわてて口を閉じる。
「レオン・・・・お前・・・・・・」
ガタン!と勢い良く立ち上がってミルフィーはぐいっとレオンに怒りの顔を寄せる。
「お前もそんな目で見てたのか?」
「お、落ち着け、な、ミルフィー・・・オレがどうこうっていうわけじゃないのは分かってるだろ?オ、オレにはリーシャンがいるんだぞ?」
「ホントか?」
「あ、当たり前だろ?ミルフィアは・・・・ミルフィアに関しては、たぶんお前と一緒で妹感覚だと・・・」
「間違いないか?」
「あ、ああ・・・・ま、間違いない・・・・。」
相変わらずシスコンミルフィーの怒りはすごかった。はっきり断言するとようやく顔をレオンの鼻先から離したミルフィーに、レオンは、ほっと胸をなで下ろす。
「で、それはいいとしてだ・・・」
ふうっっと大きくため息をついて、ミルフィーが呟く。
「どうしたら、奴に男だって分からせられるんだ?」
「うーーん・・・そうだなー・・・普通に誤解してんなら、脱ぎゃ男だと納得させられるんだが・・・・」
ミルフィーの場合、そうはいかなかった。・・・身体は女。魂(心)は男。それはどうやって証明すればいいのだろうか?確かにレオンやレイミアス、そしてチキもシャイもその事は理解してくれている。だから、同じようにカルロスも理解してくれればいいのだが、完璧女だと信じ込み、しかも惚れこんでしまっている。何を言っても馬の耳に念仏。カルロスを遠ざける言い訳としか彼は取らない。もっとも、ミルフィアや自分の身体の事を言えば、それこそ危なくなるような気がして、そこまでは話してなかった。

『急がなくともいい。オレは固い実をもぎとろうなどとは思ってはいない。オレはお嬢ちゃんの心の開花を・・・女性として目覚めるその時を待っている。そして、いつかオレを見つめてくれるのを。』
「女ならあそこまで言われりゃ、惚れるっきゃないんだろうが・・・・」
全員で説明した時、少し悲しげな表情をした後、口にしたカルロスの言葉を思いだしていた。
『その時・・・オレでなかったのなら、それはそれで男らしくきっぱりと諦める。だから、それまで仲間として傍にいさせてもらえないか?決してお嬢ちゃんの気持ちを無視するような行動はとらない。だから・・・。』
その時のカルロスの瞳は熱く熱を帯び、少しせつなげで、断固として断るつもりだったミルフィーは、言葉を失ってしまっていた。ハンサムのドアップはまさに圧巻でもあった。

「オレって・・・男・・だよな?」
その時のカルロスを思い出して、ミルフィーは呟く。
「おいおい・・何言ってんだよ、ミルフィー?」
思いもかけなかったミルフィーの言葉に、レオンは驚いてミルフィーを見つめた。
「本当の身体にはついてるものはきちんとあったんだろ?」
「・・・そうなんだけどさ・・・・・・・」
ぼんやりと虚空を見つめているミルフィーに、レオンの脳裏にとんでもない考えが浮かぶ。
(まさか、ミルフィアの身体にいる期間が長いんで、心が女に傾斜してしまってきているとか・・じゃーないよな?・・・だ、だけど・・・ひょっとしてひょっとすると・・このままだと、男のはずだった心まで女に?)
ミルフィーが見たという夢の通りではないにしても、とレオンは思わず青くなる。
「ん?どうしたんだ?」
「あ、いや・・・べ、別に。」
ミルフィーと視線が合い、レオンはその考えを振り払う。

「ああ〜〜・・もう〜〜っ・・たくっ!」
急にミルフィーはぐしゃぐしゃと髪を乱暴にかき始めた。
「やってらんねーぜ。こんなぐじぐじ悩むのはオレじゃーない。」
「あ、ああ・・・。」
「村でちんたらしてるからいけないんだ。さっさと塔へ行こうぜ!」
「あ、ああ。」
「男に戻って・・そして、・・・・・オレはフィアを守るっ!」
「そ、そうだな。そうだ、そうだ!」
「っと、その前に・・・」
「なんだ?」
勢い良く立ち上がったミルフィーに呆気にとられていたレオンは、思い出したように呟いた彼に今度はなんだ?と、びくつく。
「夢が気になるんだ。塔へ行く前に行ってみないか?」
「夢って・・・・あ、ああ・・、ミルフィーの身体を取っていったという奴のいるとこか?」
「ああ、どうも気になるんだ。」
「わかった。オレはいいぜ。たぶん、レイムも賛成するだろ?闇雲に塔へ入ってもそれが最善策かどうかは分からないしな。まっ、たまには遠回りもいいかもしれんし、旅もいいぜ?・・といいつつ、オレたちって遠回りばかりしてるけどな。」
「はははっ!」
レオンの言葉を受けたミルフィーの笑いは、いつもの彼のものだった。
「よしっ!そうと決まったら・・・」
「決まったら?」
ぐいっと顔を近づけて小声で言ったミルフィーに、レオンも小声で聞く。
「このまま行っちまおうぜ?・・・・東の村外れで待ってるからレイムを呼んできてくれ。」
身軽な彼らはいつでも身の回りのちょっとしたものは所持していた。いつどこで何があってもいいように。
「了解♪」
ぽん!とレオンはミルフィーの肩を軽くたたいて引き受ける。
つまり・・・今老婆の家にいるはずのカルロスをおいていくということである。


「それじゃ行くとすっか?!」
首尾良くカルロスに見つからずにすんだ彼らは、キートという名の少年のいる村を目指して旅立った。勿論夢の話はカルロスには話してない。老婆にさえもまだ話してなかった。元のミルフィーに戻った時点で、お礼は言ってあったし、なんだかんだと足はよく運んだが、老婆の家で世話になっているわけではなかった。一応、改めてその時の礼と村を出てしばらく旅をすると書いた手紙を村の雑貨屋には頼んできた。

少年がそこにいるかどうかは、わからない。だが、その村は実際にあった。ミルフィーがそれまで一度として聞き覚えがないのにもかかわらず。
「そこで見つかったら、ミルフィー、どうするんです?」
「そうだな・・・・・もし、夢の通りなら・・・。」
心配そうな表情のレイミアスに、ミルフィーはしばらく考えてから答えた。
「その妹もオレたちと同じくらいなんだろ?夢の中でフィアが会った時のように幼くはないんだ。確かにショックだろうけど、・・・そうだな、兄の死を受け入れられるようになるまでこのままでそこにいて、それからって手もあるな。・・・そのままにしておいても、結局キートは罪の意識から抜け出せないんだろうからな。」
「でも・・・」
「事実は事実なんだ。・・・大丈夫、オレが代わってティナの面倒はみる。フィアにはちょうどいい妹になるだろうし。」
「あ・・そうですよね、そう・・・・ですよ・・ね。」
ミルフィーの言葉を一言一言考えるようにしてレイミアスは賛同する。
「ああ、そうだな。それが一番なんだろうな。」
確かに夢が事実なら、一人残される妹のティナがかわいそうな気がした。が、
キートがすでに死んでいる事もれっきとした事実には違いなかった。

「だけどさ、ミルフィー?」
「ん?なんだ?」
にまっとした表情で、ミルフィーを肘でつついたレオンは意地悪く続けた。
「とかなんとかもっともらしいこと言って・・・・かわいかったんだろ?その妹?」
「な・・・・何、バカな事言ってんだよ、レオン?オ、オレが、いつそんな・・・・」
途端に真っ赤になってどもるミルフィー。
「ほらほら・・・図星だったんじゃないのか?」
「レオンっ!オ、オレはなー・・・・奴とは違うんだぞ?奴とは?」
勿論、『奴』とは、カルロスの事である。
「まーまー・・・気にするなって。お前も男だったってことが証明されたじゃないか?」
「な、なんだよ、それ?誰に証明してるってんだよ?」
カルロスがいるわけでもないのに、とミルフィーはひたすら焦る。
「だ、だいたい、『面倒をみる』とは言ったが、それはおかしな意味じゃなくてだな・・・」
赤くなったまま言い訳を続けるミルフィーの肩を、レオンは笑みを見せて軽く叩く。
「いいんだって。お互い年頃の男と女だ。そこはなるようになるさ。」
「レオンっ!」
「レオン、ちょっとからかいすぎですよ。」
「あ?」
顔をしかめて見つめたレイミアスに、レオンは照れ笑いをした。
「レオン・・・お前・・・・・」
「あ、悪かった、ミルフィー。だってだな・・・こういうことでお前をからかうと面白くてだな・・・」
「レオン!」
「でも、ようやく元のミルフィーに戻りましたよね。」
にこっと笑って言ったレイミアスに、ミルフィーははっとする。
確かに再びミルフィアが閉じこもってしまった事やカルロスとの事、そして夢の事で、苛立ち、そして落ち込み、いつもの笑顔を、陽気さを失っていた。
「・・ったく・・・他にも方法あるだろ?」
こんな慰め方をしなくても、とミルフィーはレオンをちらっと睨む。
「明らかにそうと分かるような慰め方じゃ、反感買うだけだろ?余計落ち込むかもしれんし。」
それももっともだと言えた。
「・・・・まー、いいや。」
そんなに気落ちし、荒れていたのか、とミルフィーは考えつつ、レオンから前方へと視線を向けた。
「んー・・・・久しぶりに青空を見た気がする。」
歩きながら気持ちよさそうに伸びをしたミルフィーの上空に、青空が広がっていた。

ミルフィー、レオン、レイミアスの3人は、夢の中の出来事でその存在性は実際には不確かではあったが、ともかく羊飼いのキートとティナの兄妹を求めて青空の下、聖魔の塔の膝元・トムート村を旅立った。

   

 


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