**Brandishサイドストーリー・番外編?**

泥酔美人とむっつり・・・(1) ドーラは酒乱?

***ある日ある時ある場所で・・・アレスとドーラのお話です***
   
  
         

 そこはあまり奥深い迷宮ではなかった。が、いつものごとくアレスを追いかけその迷宮へと足を踏み入れたドーラは、これまたいつものごとく落とし穴に落ちて、アレスを見失ってしまった。

「・・ったく・・・ホントにあいつを追いかけていると、ろくな事ないんだから・・・」
じゃー、やめよう・・などとは思うわけはなく、ぶつぶつと一人文句を言いながら歩いていたドーラは、ガコンと何かのスイッチを踏んでしまったことに気づいて真っ青になる。
「ま、まさか・・・・・」
そっと後ろを振り向くドーラ。
「きゃああああああああああああああああ!」
それもまたいつものごとく、洞窟いっぱいの大岩が、今にもドーラを潰さんと勢い良く転がってくる。
「なんでわたしばっかりいつもこうなのよぉ〜〜〜!!アレ〜〜ス!なんとかしなさいよ〜〜〜!!!・・・き、きゃああああああああ・・・」
−ガコン!・・ゴロロロロ・・・−
「え?」
−ガコン!−
まさにそこはドーラの為?の迷宮だった。あちこちにいや、至る所に大岩のトラップが仕掛けてあった。そして、ご丁寧に、大岩を避けようと走るドーラは、ことごとくそのスイッチを踏んで走ったのである。
「な、なによーーー・・なんだっていうのよ、まったくぅ〜〜!!!」
彼女と大岩の鬼ごっこはしばらくの間続いた。


「は〜は〜は〜・・・・も、もう、ここなら・・・だ、大丈夫よね・・・」
ようやく見つけたドアを慌てて開けると、ドーラは中へ飛び込みざま座り込んだ。
「き、今日はまたしつこかったというか・・・なんでこんなにトラップばかりなのよぉ?」
乱れきった息を整えながら、ドーラは暗闇に包まれたその部屋を見渡す。
「あら?」
その部屋の隅にはワインの樽が天井近くまで積んであった。
「ちょうどいいわ・・のど乾いちゃったから・・・」
きょろきょろと見回すと、木製のグラスが片隅に転がっている。
「大丈夫よね?アルコール消毒になるから。」
本気とも冗談ともとれる言葉を呟きながら、外側は多少砂がついているものの、内側は綺麗なのを確認するとドーラは、1つの樽のコルクを抜いてワインを注ぐ。一応一度少しだけ入れたワインでそれをすすぐと、次には並々と注いでぐいっと飲む。
「おいし〜い♪」
そして、酒樽の山の真ん中に宝箱を見つけたドーラは、その中からカギの束を見つけてにやっとする。
「この迷宮を出ようとすれば・・・きっとこれが必要よね?」
いずれはアレスがこれを求めて来るだろう、とほくそ笑んだのである。


そして、ワインを飲みながらアレスを待つこと・・・・しばし?・・・・


「あっ!アレス発見っ!」
ドアを開けて入ってきた一人の剣士らしき男。ドーラはドアが開きかけると同時にアレスだと判断していた。
「何のそのそしてたのよ〜?まったくのろいんだから・・・アレスったら・・・・」
もたつく足取りでアレスに近づくドーラ。
「こ〜〜んどこそ逃がさないからねぇ〜・・・アレスちゃん!きゃはっ」
(な、なんだ・・・酔ってるのか?)
ドーラのその様子と彼女の後ろの山のような酒樽に、アレスはぎょっとする。
「宝箱の横で待ってたかいがあったってもんよぉ〜〜〜♪・・ね♪ア〜〜レスちゃん!」
宝箱のというより酒樽のと言った方があってたのだが。
(お、おい・・・)
いつもなら目があった瞬間、罵声のごとく怒鳴り始めるドーラ。今回も賑やかさは同じだったが、少し・・違った。
「ア〜レスちゃ〜〜ん・・・・ほんっとにいつも上手に逃げるんだから〜」
積んである酒樽のいくつかの注ぎ口からは、水滴が落ちている。明らかにドーラが飲み干したのだと判断できる。
(あれ全部一人で飲み干したのか?)
さすがのアレスもそのうわばみぶりとそして、いつもと違った態度に狼狽える。
「なあ〜に、ぶすっとしてんのよぉ〜〜〜、この・・むっつりすけべ!」
にやっと笑いながら、つん!とアレスの額をつつくドーラ。
「ああ、そうそう、そうよぉ〜・・言わなくッてもだ〜いじょうぶよ〜。このドーラ様にはあんたの言いたいことはずぇ〜〜んぶ分かってるから〜〜〜」
(おおっと)
足がもつれて倒れかかったドーラをアレスは反射的に抱える。
「うふん♪つっかまえたっ!アレスちゃん!」
が、ドーラはアレスをすっぽりと捕まえたつもりだった。頭からすっぽりと彼女の両腕で。
(相当酔ってるな・・・・魔物よりやっかいかもしれんな。)
が、酔いが回ってほんのり赤くそまっているドーラは、いつもより一段と艶っぽく見える。悪い気は・・・しないこともない・・こともない?ことも・・・?
「ねー、アレスぅ〜・・・あんたは一体どこへ行く気なのよ〜?何か目的があるの〜?」
(・・・・)
「どこへ行く気なのか、あたしに言ったんさい。悪いようにはしないから〜。」
ぺちぺちとアレスの頬を叩いて上機嫌のドーラ。
「なんでいつもそうぶすっとしてんのよぉ?嬉しいときは嬉しい、悲しいときは悲しい、苦しいときは苦しいって言わなきゃダメよ?」
さすがのアレスもため息をついて、ドーラの腕を掴んで自分から離れさせようとする。
「さわんないでよっ!」
それまで抱き止められていたのには全く気にした様子はなかったが、腕を捕まえられそうになったドーラはきつく叫んでアレスの腕から逃れる。(でも、よろめきながら)
「仇になんか手を貸してもらいたくないわよ。お師匠様の・・・命の恩人で・・親代わりで・・・やさしかったお師匠様の仇になんてっ!」
今一度手を貸そうとしたアレスと1歩分間を開け、ドーラは、ぐいっとその顔をアレスにくっつけるように突きだして、きっと睨む。が、泥酔状態のその顔では睨みは効きそうもない。
「それなのに・・それなのに・・・・なんであんたは悪党らしくないのよぉっ?!」
(・・・何を言ってもおそらく墓穴を掘ることになるだろうな?)
アレスは黙秘権を行使することにした。といっても、黙っているのはいつものことである。
「地下迷宮で頼み事は聞くわ、人は助けるわ・・・それで悪党って言えるの?!」
(おっと・・)
再び自分の方に転びそうになったドーラに、アレスは慌てて手を差し伸べる。
が、ドーラはアレスの手が彼女を掴むまえにくるっと向きを変え、アレスに背を向ける。
「あ、あたし、わかんなくなっちゃったじゃない・・・確かにこの目でお師匠様が倒れていたのを見たのに・・その横に剣を持ったあんたがいたのに・・・あんたが・・血の滴った剣を持って・・・・傍に・・・・」
くるっと再びアレスを睨む。
「ずぇ〜〜んぶ、あんたが悪いのよっ!あんたが・・・はっきりしないから・・何も言わないから!・・・冷血漢の殺人鬼じゃなかったから・・・・悪党じゃなかったから・・・あんたは、・・あんたはねー・・・極悪非道の・・・・・殺人鬼・・だった・・・・・はず・・な・・の・・・に・・・・。」
人差し指でアレスを指して怒鳴っていたドーラの口調が徐々に小さくなり、そして酔いでうつろになっていた瞳がゆっくりと閉じていく。それと同時にドーラの身体は完全にバランスを失う。

(ドーラ!)
慌てて駆け寄って抱き留めたアレスの腕の中で、気を失ったドーラの小さな呟きが聞こえていた。
「・・・あんたが悪いのよ、アレス・・・・これ以上あたしの心をかき回さないでよ・・・・悪党なら悪党らしくなさいよ・・・・アレスの・・・ばか・・・・」

(まったく・・・)
腕の中のドーラを見つめ、アレスはふと思う。閉じられている瞼の下には、激しさを秘めた瞳がある。そういえば、初めてあった時、きつい憎しみの輝きのみを放っていたドーラのその瞳からその激しさがいつの間にかなくなっている、と気づく。たとえ例のごとく烈火のごとき怒っていたとしても、そこにあの憎しみの輝きは見られなかった。
(どうしたものか・・・)
しばらくドーラを眺めていたアレスは、不意に気づく。今自分がこの迷宮を出ようとしていたことを。
(そうだったな・・・で・・・後は、この先にあるドアだけなんだが・・・)
本能でアレスはそれが出口に繋がっていると感じていた。が、ドアはカギがかかっている。

ふとアレスは、彼女の胸元にちらっと顔をだしているカギを見つける。
(この抜け目なさもドーラがドーラたる所以か?)
ふっとアレスは今一度軽く笑む。
(洞窟にひしめいていた魔物は倒したし・・・トラップはドーラが全部作動させてくれたみたいだしな・・・・)

彼女を抱いたまま、アレスは迷宮の外へと続く道を進んでいった。

※「むっつり・・・」の「・・・」には、剣士という言葉が入るんだぞ?





  

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