**Brandishサイドストーリー・番外編?**

泥酔美人とむっつり・・・(2) またしても迷宮へ?

***ある日ある時ある場所で・・・アレスとドーラのお話です***
  
   
         

 「アレス・・・・やってくれたじゃないの?あたしをゴミ扱いするとはいい度胸ね?」
パシパシと左手の手のひらを杖の頭の部分を軽き叩きながらドーラはアレスを睨み付ける。
そこは、酒蔵があった洞窟から2日ほどの道のりの先にあった小さな村。そこの片隅にある酒場から出てきたところをドーラが運良く見つけて仁王立ちしているのである。

「分かってんでしょうね?このあたしを甘くみると痛い目にあうってこと?」
魔物の住処と化していた洞窟の中を抱いて脱出してくれたのはいいが、その出口の横に、まるでゴミでも捨てるようにポイっと捨てられていたことにざっくりと乙女心が傷ついていた・・い、いや、仇であるアレスに手をかけられるよりはいいが、ともかく、頭に来ていたドーラは、アレスをそれまでなかったほどの険しさで睨み付ける。
「あたしを本気にさせたこと、後悔させてあげるわ。」
勿論アレスが返事をするわけはない。が、何やら後ろを警戒しているようである。
「でも、ここじゃ村人に迷惑がかかるから、村外れの荒野にでも・・・・って、な、何すんのよ?!」
ドーラが全部話さないうちに、アレスは目の前に立ちはだかって道をふさいでいるドーラを肩に担いで走り始めた。
「な、なによ?なにすんのよっ?!」
自分を抱えてもうダッシュしているアレスに怒鳴りながら、酒場の方を見たドーラは、アレスのその行動に納得する。
酒場からはわらわらと賞金稼ぎと思われる男達が(しかも人相が悪い)駆け出してきていた。
(だ、だからって・・・何もあたしを抱えて逃げなくてもいいでしょ?)
そうは思ったが、細い道はそうするしかなかった、とドーラは思い出す。

「ったく・・・・アレスはあたしの獲物なのよっ!あんたたちなんかに渡しはしないわよっ!」
その当の獲物である人物の肩の上で男達に向かっていきがるドーラ。
「仕方ないわね・・・アレス、これで洞窟で助けてもらったことはチャラよ!!」

疾走しているアレスの肩の上、バランスは取りにくかったが、そこはどんなにバランスを崩して落ちそうになろうとも、アレスならしっかり持っていてくれるという確証がドーラにはあった。(笑
ということで、ドーラは抱えられたまま、大きく杖を振り上げると、極大の火球を追いかけてくる男達にめがけて放つ。
−ゴアッ!−
「う、うあ〜っ!」
散り散りに逃げる男達。その男達にドーラは次々と火球を連発する。



−グラッ!−
(と・・・)
「え?」
その火球を放つ勢いで、ドーラを抱えていたアレスのバランスが大きく崩れた。
「ち、ちょっと!何よ、だらしないわねっ?!女一人もまともに抱えられないわけ?!」
文句を言うのはお門違いとも思えるが、とにかくドーラにとっては悪いのはアレスなのである。烈火のごとく怒鳴る。
が、怒鳴ったからといってアレスの体勢が正常に戻るというわけではなかった。
(しまったっ!やはりドーラを抱えるべきではなかったか・・・)
そうは思ったがあの時はそれが一番早かったのだ、とアレスは思い起こす。
が、そんなことを考えている間も体勢はますます崩れていく。アレスがなんとか整えようとしていようがいまいが。
「ち、ちょっと・・・・え?え?・・・き、きゃああああ・・・・・・」

そこは村外れにある廃墟。
入り組んだ廃墟で追っ手を巻こうと思ったアレスの判断が裏目に出てしまったらしい。
朽ちかけた廃墟、その廃墟を縫うようにして走っている石畳も例外ではなかった。
(一人ならなんとかなるんだが・・・・)
バランスを失いつつあったが、それでも一人なら勢い良く地面を蹴って、下へ落ちるのを避けるのは可能だった。が、ここでドーラを離すわけにはいかなかった。
(やはり、相性か?)
穴とこの上なく相性のいいドーラ。アレスはそのことを後悔しつつ、それでも下へ落ちたときのことを考え、ドーラを庇うよう体勢を整えることに注意を払いながら仲良く?下へ下へと落ちていった。


「ん?」
地下へと落ちるまでもなく、落ちるときのショックで気絶してしまっていたドーラは、はっとして身体を起こす。
そして、きょろきょろと見回してアレスを探す。
「アレス・・・また置いていったわねっ?!」
ざっと立ち上がってドーラは周囲を睨む。
「ったく・・・人を抱えて落ちるなんて・・・・・アレスも案外だらしないのね?女一人くらいきちんと抱えてなさいよ・・・・・・え?」
が、自分が倒れていた傍にまだ新しい血痕を見つけてドーラは思わず自分の全身を調べる。
(どういうこと?この血は明らかにまだ新しいわ。・・・・私はどこも怪我なんてないし・・・・)
はっとしてドーラは再び周囲を見渡す。それは勿論アレスの姿を探すため。
「アレス・・・・」
血痕は1つの通路の奥に向かって点々と続いていた。
「ばっかじゃないの、アレス?!怪我の手当もしないで行ったっていうの?」
(いくら本気になったあたしが恐いからって・・・)
アレスに限ってそんなことはありえないのだが、ドーラは勝手にそう決めて叫ぶ。
(それとも、もしかしたら魔物でもいて、それを引きつけるために?)
さ〜っとドーラの顔から血の気が引いた。
「そ、そんな・・・ここまで上から落ちたのよ?いくらアレスでも半端なダメージじゃないはずよ!そ、それを・・・・」
が、あれこれ考えているうちにアレスに対して怒りが沸き立つ。
「・・・・アレス・・・あたしが役たたずだとでも言うの?!・・・・気絶してたんなら起こせばいいでしょ?自分の身くらい自分で守れるわよっ!あ、あんたの世話になんかならなくってもっ!!」
上を見上げても何も見えない。深さは相当なのだろうと思えた。そこから落ちた自分がどこも怪我をしていないということは、とりもなおさずアレスが身を挺して庇ってくれたからだとも判断できた。
そして、もし魔物を自分一人の身に引きつけて通路を走っていったのだとしたら・・・・。

−ゴゴゴゴゴ・・・・−
そして、師匠の仇の身を心配している自分自身に気づいたドーラは、頭をぶんぶん振ってそれをうち消す。再び怒りを激しく燃やしながら。
「アレス!私に掴まるのがいやで、無理矢理恩を売ったわねっ?!」

ぐっと杖を握りしめ、ドーラは血痕の後を追いかけはじめた。
「いいこと?あたし以外に倒されてたら、承知しないからっ!わかってるんでしょうね?!アレス?!」

全速力で疾走するドーラの表情は、怒りより心配の表情にみえた。
が、ドーラにしてみればそんなことを認めるわけにはいかないのである。無意識にそれは否定する。
(あたしを無視する奴がどうなるか・・・思い知らせてやる!!・・だから・・だから、あたしが追いつくまでくたばるんじゃないわよっ!)


必死の形相で走るドーラは、果たして無事アレスに出会えるのだろうか?
そして、その時アレスは?
ドーラとアレスのフーガは続く。迷宮の果て、世界の果てまで、どこまでも。
    

※「むっつり・・・」の「・・・」には、剣士という言葉が入るんだぞ?






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