**Brandish3リプレイ創作ストーリー**



その1 ドーラ、故郷へ・・・
  

 「ちょっと待って・・・この街道を北進って・・・フィベリアまでの一本道よ、これ?」
ブンデビアのあの事件から1年・・・馬でさっさと逃走してしまったアレスの行方を追っていたドーラは、ようやく手を伸ばせば、届きそうな場所まで追いついていた。
「フィベリア・・あたしの故郷・・・・・・お師匠様・・・・・」
空を仰ぎ、ドーラはアレスを追いかけて故郷を発った8年ほど前の事を思い出していた。
フィベリアは正確にはドーラの生まれ故郷ではなかった。幼くして孤児になったドーラは旅の商人に連れられ、あちこちを転々としていた。フィベリアに立ち寄ったとき、バルカンに出会ったことがきっかけで、当時7歳だったドーラはそこにとどまることを決意したのである。
育ての親であり魔導師としての師匠であるそのバルカン。同じく血のつながりこそないものの、本当の姉妹のように仲良く暮らしていた妹、ミレーユのこと・・・一気にフィベリアでの思い出がドーラの脳裏に浮かんでくる。

「アレス・・・あたしがフィベリアへ帰るときは、あんたの首と一緒のはずだったのよ!」
ドーラの中にメラメラと怒りがわき上がっていた。
「お師匠様の仇・・・・・・極悪非道の賞金首・・・・・アレス・トラーノス・・・・」

それはドーラ自信が自らの目で目撃した光景。・・・8年前、ドーラが17歳のときのこと。
傭兵口の口利きとして前日会ったばかりのアレスを伴って王宮へ向かったバルカン。そのことに不吉な予感を覚えたドーラは慌てて追いかけた。そして、衛兵の制止をふりきって駆けつけた謁見の間の扉を開けると同時に、彼女の目に飛び込んできた光景は・・・・倒れたバルカンと、その横で血の滴る剣をその手に握りしめて立っているアレス。彼は、その前日、ドーラたちの家に一晩泊めてくれないかと立ち寄った流浪の剣士である。会ったその瞬間、ドーラもミレイユも不吉な予感に囚われた。が、バルカンは何事もないようにアレスを家の中へ迎えいれ、そして翌日、アレスと王都へ向かったのである。ドーラとミレイユがまだ眠りの中にいる間に。そして、的中した不吉な予感・・その最悪の結末。
慌ててバルカンの傍に駆け寄ったドーラ・・そのちょっとしたすきにアレスはそこからいなくなっていた。

「アレス・・・・あんたはなんのためにまたフィベリアに戻るのよ?・・・あんたの目的は・・何?」

曲がりくねった山道。細い街道。アレスの姿はドーラの視野の中にこそないが、その先を歩いていることは間違いなかった。

「アレス!今度こそその首、このあたしがもらってあげるわっ!」
握りしめた拳に今一度ぐっと力を込め、ドーラは急ぎ足で進み始めた。


「およ?・・これはまたべっぴんさんやないか?」
「おお〜!!ねーちゃん・・一人なんか?連れはいねーのか?」
(また人相の悪い奴らが出てきたわね?)
  


フィベリアまでの山道の途中、咽の渇きを覚え、近くの滝壺へ立ち寄ったドーラの前に
身体のごつい、山賊か何かと思えるような風貌の悪い男たちが3人、茂みの中から出てきた。
「俺たちゃ暇をもてあましてんだ。」
「そんなところうろうろしてるってこたぁ、ねぇちゃんも暇なんだろぉ?俺たちと遊んでいかないか?」
にやけた顔をして、一人一人口々に囃し立てる。
「あんたたちなんかと遊んでる暇なんて持ち合わせてないわ!とっととお家に帰って、クマさんのぬいぐるみとでも仲良く遊ぶのね。」
「な、なんだとぉ?」
「ぬかしたなっ!」
「このアマぁ・・下手にでてりゃつけあがりやがって?」
小馬鹿にしたような表情とともに口から出たドーラの言葉に、いっきに頭に血が上った男達は、睨みを効かせてすごむ。
「女だと思ってなめないでもらいたいわね!」
が、ドーラがそんな睨みに怖じ気づくわけはない。が、相手が相手である。この山道に入る前に手に入れた小さめの鞭を構えて、男達を睨む。
「ねーちゃん、強がり言ってると怪我するぞ?」
「大人しく俺たちに付き合ってくれりゃ、悪いようにはしねーよ?」
「相手を見て言うのね。あたしとあんたたちで釣り合いがとれると思ってんの?」
「んにお?このアマ!」
「もう容赦しねー!こうなったら力づくだ!」
「そういうことするからモテないのよ、わかる?」
「うるせー!後悔しても遅いぜ?」
「それはこっちのセリフよ!」
−ヒュオッ!−
男たちがドーラに飛びかかろうとしたその時、ドーラの鞭が空を切る。
−ビシッ!−
「へっ!こ〜〜んな細い鞭どうってことないぜ?」
ドーラの放った鞭の先を腕に絡ませぐいっと引いて、勝利の笑みを浮かべる大男。
「あっそう。一応見かけ倒しじゃないわけね?」
「へ?いいのかい、ねぇちゃん、そんな・・・・へ?・・・・」
にへらにへらと、早くもドーラを捕まえた気になっていた男達は、ドーラの開いた手、その左手から躍り出た炎を見てぎょっとする。
「丸焦げになりたくなかったら、さっさとお家に帰るのね!」
−ゴゴ〜〜!!−
手の炎が一段と大きく踊った。
「へっ・・そ、そんな脅しに屈するとでも思ってんのかい、おねぇちゃん?」
少し震えながら、鞭を絡ませた男が叫ぶ。
「脅しかどうか・・・試してみる?」
−シュゴーーーー!−
「ひ、ひぇ〜〜〜・・・・・・」
3人の男たちは、襲いかかってきた炎に追いかけられ、あたふたと走り去っていった。
「ふん!相手は、もっと選ぶのね。」


−パチパチパチ!−
「え?」
どこからか拍手をする音がし、ドーラはそれが聞こえてくた藪を睨む。
「さすがドーラ様ですな。いやいや、お待ちしておりました、ドーラ様。」
藪をかき分けて出てきたのは、真っ白なローブをまとった小太りの男。司祭かなにかなのか、脂ぎった坊主頭が、光りを反射してまぶしく思えた。
およそ上品とは言い難い笑みをうかべている男に、ドーラはきつい視線を飛ばす。
「あんた・・だれ?」
にたっと愛想笑いを浮かべ、男は一応おじぎした。
「わたくしはシャグベルと申します。ゾール様より、あなた様に伝言をもってまいりました。」
「ゾール?あの腰抜けの事ね?一番弟子でありながら、師の事など何も考えてない恩知らず。いったい今頃何のようかしら?」
ふん!と軽く鼻で笑うドーラ。
それもそのはず、目の前の白豚(ドーラの第一印象)は全く知らないが、ゾールとは、バルカンの一番弟子。本来なら大魔導師バルカンの後を継ぐはずの人物なのだが、バルカンの死のときでも、何も行動をとならかったばかりか、当時、宮廷の占い師としてそれなりの権力があったにもかかわらず、みすみすアレスの国外逃亡を許してしまったという腰抜けなのである。
「腰抜けとは失礼ですな。あなた様はこの国を飛び出してしまわれたので、ご存じないとは思いますが・・・」
そこで言葉を切ってにやっと笑ったシャグベルのその笑みには、そういうドーラこそ、国を飛び出しただけで、今まで何をしていたんだ?仇を討ち取ったわけでもないではないか?という嘲笑がほのかに含まれている、とドーラは感じた。
「ゾール様はバルカン殿がお亡くなりになった原因をお調べになっていらっしゃったのです。」
「あのゾールが?・・・でも、あれはアレスの仕業のはずよ?それ以外に何か原因があったとでもいうの?」
「さて、どうですかな?」
にまりと笑ってシャグベルは続けた。
「わたくしは詳しい事を存じ上げておりませんので。」
「なによ、肝心なことは知らないのね?」
−ほっほっほ−
シャグベルは、ドーラが最も嫌いな種類の表現で笑った。
「実はですね、ドーラ様が帰国の途についておられると情報を得、ゾール様は、このわたくしをお迎えにさしむけられたのですよ。」
「迎えなんかいらないわ。あたしはあいつと兄弟弟子だったわけじゃないからね?」
そう、ドーラがバルカンの元へ弟子入りしたとき、ゾールはすでにバルカンと道を異にしていた。
「そうおっしゃらずに。共に修行はなさらずとも、仰いだ師は同じではありませんか。ゾール様とてバルカン殿の死には、どれほどお心を痛められたことか。そして、まだ17でしかなかった妹弟子であられるドーラ様がお尋ね者を追って国を出ていかれたことを・・引き留められなかった自分をどれ程責め、あなた様のことをどれほど心配していらしたか。」
信じられないわ、ドーラの目はそう言っていた。
「しかし、こうして無事にお戻りになられ、ゾール様もこれで安心なさるでしょう。そして、今こそ、同じ弟子として共にバルカン殿の死の本当の原因の追及を・・」
「え?・・・本当に何か別に原因があったの?アレスが殺したんじゃなく?」
話にのってきた、とシャグベルはにやっとする。
「ようやく得たゾール様の調査結果なのですよ。」
「ふ〜〜ん8年かかって得た調査結果ね?」
「さようでございます。物事は見た目では判断できないことが多ぅございます。バルカン殿の死も、まさにそうでございました。」
ドーラはその見た目にのみ気を取られて国を出て行ったが、という少し小馬鹿にしたような光りがシャグベルの目にはあった。
「で?共にって?」
喉元まででかかった反論を、事実と言えばそうなのかもしれないと思い直し、ドーラはぐっと飲み込んだ。
「はい、それなのでございますよ。」
手揉みをしながら、1歩ドーラに向かって足を進ませたシャグベルに、思わず後ずさりするドーラ。
「ボレアの洞窟にあるという砂岩板が手がかりになると、ゾール様が申しておられました。」
「砂岩板ね。それがあればはっきりするって言うのね?」
取ってこい、と言わんばかりのシャグベルに、ドーラも少しむっとする。
「左様でございます。もし、お手に入れられましたら、墓地の西にある館までお持ちいただけないでしょうか。」
「墓地の西・・・」
墓地という言葉に、ドーラはバルカンの墓を思い出していた。国を出るとき、必ずアレスの首を取ると誓ったバルカンの墓。その日がまるで昨日の様に思い出された。
「よろしくお願いいたしますよ。」
深々と、が、わざとらしくおじぎしたシャグベルの言葉にドーラはつい浸ってしまっていたバルカンとのなつかしい記憶から我に返る。
「おっほっほっほっほっ」
「何よ、迎えに来たんじゃなくて、仕事を命じに来ただけじゃないの?」
高らかな笑い声をあげ、後ろにそのまるい手を組んで山道をさっていくシャグベルの後ろ姿を見つつ、ドーラは、ゾールの不適な笑顔を思い出していた。何を考えているのかわからない油断のならない笑み。それは身震いしても、兄妹弟子としての情など露ほども感じたことはなかった。そして、それは、ゾールも同じはずなのである。ドーラに対し、妹弟子などという甘い感情など抱いているはずはなかった。幼いミレーユに至っては、その昔、バルカンが健在だったときでさえ、ゾールの訪問は恐怖だったらしく、いつもドーラの背後に隠れていた。
利用出来る者は利用する・・・それがゾールの常套手段。今回もそれに決まっていた。

「ゾール・・・・直接手を貸せと言うんじゃなく、手下に言ってこさせるのね?」
素直に言うことを聞くのも面白くないと思ったが、必要なことは確かだ、とドーラは思う。
あのゾールが欲してるなら、それを見事入手し、それを餌に、こっちが必要な事を聞き出せばいい。そう判断したドーラは、足を速めた。

その先はタントールの街。ボレアの洞窟はタントールの街の北に広がっている森の奥にある。
(確かお師匠様が亡くなられてから、魔物が出るようになったのよね。)
子供の頃は、遊び場として、修行の場として、慣れ親しんだ洞窟である。が、ドーラがここを発とうとしていたころから、魔物が犇めくようになっていた。
(このことも砂岩版が関係してるのかしら?・・・そして、アレスとお師匠様のことも?)


全ては謎に包まれていた。が、考えていても始まらない。ドーラはともかくボレアの洞窟へ行くことにした。

と・・その前に、やはりフィベリアを目指しているというアレスもタントールの街へは立ち寄るはずなのである。他に道はない。
アレスの情報を得るためと、そして、自分の空腹感を満足させる為、ドーラはタントールへと足を速めた。              


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