磨かれしそれぞれの技

〜[カルアは強者揃い] Brandish4サイドストーリー〜



 「いかさまなんじゃーねーのか?」
ここはカルア自治区中央にあるカジノ。その片隅のテーブルで1人の酔客ががなった。
−ヒュン・・・タンッ!−
その途端、一枚のカードが男めがけて飛んできた。
それは、男の頬にすぱっと軽い傷をつけ、背後の壁に突き刺さった。
「あ・・あんた!わ、悪いことぁ言わねぇ・・・は、早く今言った言葉を取り消すんだ!」
隣のイスに座っていた男が泡を食ったように多少震える声で話しかける。
「ん?」
その酔客は、頬の傷から滲み出た血を手で拭いながら怪訝な顔をする。
「いかさまをいかさまと言って何が悪い?負けっぱなしなんだぜ!オレはこんなに負け続けたこたぁねーんだよ!」
一段と声を大きくして断言するその男に、周りの客は青くなってその場を離れた。
「ん?何だってんだよ?・・・それに・・誰だ?カードを投げた奴は?」
不思議そうに見回すその男の耳に、りんとした女の声が響いた。
「私は『いかさま』がこの世の何よりも大嫌いなのよ。どこにそんな確証があるって言われるの?」
声の持ち主は、カードゲーム『ブレード』を担当しているエフィーナ。
その男がいかさまだと言い放ったその人である。
このカジノの女性では、ただ1人バニースタイルにもキャットスタイルにもなっていない女性である。その知的な瞳が鋭く男を睨んでいた。
「確証?そんなもん・・感に決まってるだろ?オレがそうそう負けこむわけないんだ!」
−シュ、シュッ・・タ、タ、タン!−
目にも留まらない早さで彼女の手から放たれるカードは飛び、男の顔をかすめて壁に突き刺さる。
「な・・・何、しやがんで〜?このいかさま野郎〜?!」
目を丸くしてぎょっとした男は、思わず叫ぶ。これ以上言ってはならなかった恐怖の言葉を!
−ぶちっ!−
−−わぁー!エ、エフィーナが切れた〜っ!−−
その場に居合わせた客は全員真っ青になり、慌ててカジノの奥へ待避する。
「な・・・なんだってんだ?」
不思議がる男めがけて、続けざまカードが飛ぶ。
しかも、そのカードは普通のではなく、ずっと大きく・・そして、・・・固い!
−ヒュ、ヒュン!・・スタタタタッ!−
「ひ、ひいっ!・・あ、危ねぇだろ?」
縦50cmはあろうかと思われるそのカード数枚に挟まれ、男は壁に張り付けられた状態になって青くなる。
まともにそのカードが身体に突き刺さっていれば、軽傷では済みそうもない。いや、下手をすると命も危ない。
「だ・・だから、早く前言撤回しろ!って言ったじゃね〜か?!」
遠くからびくつく声が聞こえた。
−コトン・・−
エフィーナが自分の後ろに飾ってある一段と大きいマスコットカードを手にする。
−−わ、わ〜・・・か、完全に切れてるぞ〜!−−
「え・・?え・・?」
壁に張り付いている男もただごとではないとようやく判断する。が、身動きはできない。
「ち・・ちょっと待ってくれ〜っ!」
蚊の鳴くような小さなうわずった声で呟く男。
が、頭に来ているエフィーナにそんな声では届かない。
すっとそのマスコットカードを構える。
超薄型チタン合金製であるそのカードは、そこらのソードよりよく切れる・・・・。
加えてエフィーナの投げるスピードがその鋭さに相乗効果して、岩をも砕くと言われていた。
カジノの常連ならば、誰しも知っていることだったのだが・・・・。
「お・・おい・・・!」
今や真っ青になった男に目標を定めると顔色1つ変えず、腕を動かすエフィーナ。
−シュッ!−
−−ああ〜〜〜っ!−−
あわや、男の命は・・・とそこにいた全員が目を瞑った。
と、その時、男の前に1人の少女が立ちはだかる。
それは、手に大きなハンマーを持った美少女ユンユン。
−ドスッ!−
真っ赤なスーツのバニースタイル姿のその少女は、スライム叩き『ハンマースライム』コーナーのユンユン。芯は同じくチタン合金製なのだが表面は分厚い樫の木でできているマスコットハンマーでエフィーナのカードを受け止めた。
と同時にユンユンの妹のヨンヨンとそのペットであるチュウチュウが慌てて男を挟んで壁に突き刺さっているカードを抜く。
「早くここから出なさい!」
「ひ・・・ひぃ〜・・・」
自由になった男は、お礼もそこそこにカジノから這々の体で逃げ出した。
「ちょっと待ちなさい!」
「エフィーナっ!」
追いかけようとするエフィーナをユンユンが止める。
「ヨンヨン!チャームの魔法よ!」
制止が効きそうもないと判断したユンユンがヨンヨンに叫ぶ。
「オッケー!チュウチュウお願い!」
「ちゅうっ!」
ピンク色のネズミタイプの謎の生物であるチュウチュウが分裂してエフィーナの周りを飛ぶ。
と同時にほわ〜っとした感じに包まれ、エフィーナの動きが止まる。
そして、その状態で暫く突っ立っていた後・・
「あ・・あら?私どうしてたの?カウンターから出ちゃって?」
くるっと周りを見回し、全てを悟るエフィーナ。
「あ・・あら・・・し、失礼。また病気が出ちゃったのね?」
−おほほほほ!−
高らかに照れ笑いをし、ユンユンの持つハンマーからカードを抜くと彼女はカウンター内に戻った。
「ったく・・・あんまり騒ぎを起こさないでちょうだい!」
「だってえ〜・・いかさま呼ばわりされちゃうと・・どうしても・・ね〜・・」
シュシュシュっとカードをシャッフルしながら微笑むエフィーナ。勿論、ごく普通のカード。(が、これでも彼女が投げると結構やばい武器になる。)
「その気持ちは分からないわけでもないけどさぁ・・。」
ほっとして構えたハンマーを下げるユンユン。
「あんまり爆発するとお客様が来なくなっちゃうでしょ?」
「はいはい・・気をつけます。」
にこっと営業用スマイルでカウンターに座る客を魅了する。
「申し訳ございません。お待たせいたしました。では、続きを始めましょうか?」
「は・・はあ・・・」
つい今し方の恐怖もかき消してしまうその微笑に、ブレードのゲストは、夢見心地で返事をした。
これがいかさまと言えるのなら、そうなのかも・・・しれない。


「い、いや〜・・やばかったのなんのって!」
そして、その男は慌ててカジノを出、アップルという可愛い少女の営む道具屋に駆け込んでいた。
「あははははっ!エフィーナのいかさま呼ばわり嫌いは有名だもん!」
まだ息を切らして店内のイスに座っている男に大笑いするアップル。
「酔いもなんもすっかり冷めちまった・・。」
男は頭を掻きながら照れ笑いする。
「もう何があっても言わね〜よ。」
「そうだね。その方がいいよ。」
「だけどよー・・エフィーナといい、ユンユンといい、あんなに可愛いのに、結構恐いんだな。」
「まーね、あんたのような酔っぱらいや物騒な奴らが結構いるからね。みんな華奢にみえてもそれぞれ得意な分野で技は磨いてるんだよ。」
「得意な分野?」
「そう!」
アップルはウィンクする。
「お客さんが見てきたように、エフィーナはカード投げ、ユンユンは、ハンマー落とし。で、ルーレットの美青年シャルルは、軟弱そうに見えても玉投げは百発百中だし。」
「玉って・・ルーレットを転がすあの玉か?」
「そうだよ。でもバカにしちゃだめだよ!あんな小さい玉でも一度に数十個、しかも連続して当てられちゃ何もできなくてダウンさ。」
「そ・・そうだな・・・。」
男はいろいろ想像して思わずぞっとする。
「ヨンヨンはああ見えても闘技場の常時参加者だしね。」
「ここにいる奴ら全員そうなのか?」
「まーね・・なんと言っても1歩街から出りゃ魔物の住処だからね。それなりに技も腕もあるさ。」
「そ・・そうかい・・・」
「だから、見かけで判断しない方がいいよ。レストランのヴィオラにしても、魔法屋のおじいちゃんにしても、武器屋のジェシカにしても、ね。」
ごくん!と唾を飲み込む男。
「あ・・あんたはどうなんだい?」
一見、ボーイッシュな可愛い女の子に見えるアップル。彼女も何かあるのだろうか?と思った男の口から、思わずそんな質問が飛び出ていた。
「あたい?あたいはさー・・」
にこっと笑いアップルはさいころを2つ指で摘んで男に見せる。
no8

アップル&逃げてきた男
[寄贈:異次元箱さん (ありがとうございました)]


「一丁賭けるかい?丁?半?・・お客さんが勝ったら教えてあげるよ。そのかわり負けたら、身ぐるみ脱いで置いてってもらうよ?ちょっと見たところ、大したモン持ってないみたいだからさ。」
「あ・・い、いや・・・分かったよ。」
彼女の技は、多分さいころ投げ、そして、めざとく見つけたアップルのすぐ横に置いてある使い込まれた感じのダガーから、それが何を意味しているのか悟った男は、慌てて両手を振って断る。
「ま、また今度な。」
「なんだよ、意気地なし!」
あたふたと店から出ていく男の背後でアップルの高らかな笑い声が聞こえた。
「あっはっはっ!そんなんじゃ、ここじゃー生き抜けりゃしないよ!」

 ここは、神の塔内、自治区カルアの街。街の住人こそ、ただ者ではない。




E N D

(参)[お話]隠れし最強のハンター


♪Thank you for reading!(^-^)♪

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