隠れし最強のハンター
〜[街区レストラン『ハーベスト』看板娘,ヴィオラ] Brandish4サイドストーリー〜

 「おおーーい、ヴィオラ!」
ここは、街区の一角にある神の塔でただ一件のレストラン、ハーベスト。
その厨房の奥から店主でありヴィオラの父、ガーナーの声が飛ぶ。
「はーい、何?とうさん?」
接客しながら、ヴィオラは元気に答える。
その可愛さは街中の評判であり、ヴィオラ目当てで通う人も少なくなかった。
彼女は、カウンターの跳ね板を上げ、中に入って父親のいる奥へと向かう。
「どうしたの?」
「ああ・・また材料が尽きそうなんだ・・・そろそろ調査隊内で監査があるらしくてな。で、しばらくモンスター狩りの アルバイトはできないって言ってきたんだ・・。」
ハーベストの目玉商品である料理の食材は、調査隊の一部の隊員が密かに狩って来てくれていた魔物だった。だから、 立ち入り監査の間はそれが出来ないため、材料がしばらく入らない事を意味していた。
困り果てた顔をして、ガーナーはヴィオラを見つめる。
「・・・ううーーん・・それは困るわよねー。私が行けばいいんだけど・・お店が結構忙しいし・・。」
ヴィオラは父親の義足をちらっと見る。モンスターとの戦いで右足を無くしてしまったガーナーでは、狩りはできそうもない。
かといって、自分が行くには、店が忙しすぎる。
「そうだ!アルバイト募集すれば?結構腕の立つ冒険者いるんじゃない?」
「そ・・そうだな!そうしてみよう。」

翌日の早朝、通りに面した店の壁に求人広告が貼られてあった。

*アルバイト募集*

高給優遇(但し、ノルマ制)
年齢、性別、人種、種族不問
ベッド,食事付き
詳細はヴィオラまで

レストラン『ハーベスト』


そして、その求人広告をじっと見入るクレールの姿があった。
「高給優遇・・ノルマ制って何をするのかしら?でも、無一文になってしまったから、このベッド、食事付きが嬉しいわ。 私で務まるような仕事ならいいんだけど。」
G&Gショップでの留守番で無一文になってしまったクレールは、(参:[お話]クレールのお店番) 不安はあったが、さっそく飛びついた。

 「こんにちは。」
「はい、こんにちは!すみません、まだ準備中なんですけど。」
元気良くヴィオラが笑顔を向ける。
「あ・・あの、すみません。お客さんじゃないんです。私、クレールと言います。張り紙を見て・・」
「あ、求人の張り紙ね。えっとーー、じゃ、そのイスにでも座って!」
申し訳なさそうに言うクレールにイスをすすめると、ヴィオラはその真向かいに座り クレールをじっと観察した。
「あ・・あの、私なんかでできるんでしょうか?」
「うーーん、そうねぇ・・・」
見た目には、なんともか弱そうな少女にしか見えない、しかし、そこは自分自身が そうであるように、ヴィオラは外見では判断できないと思っていた。
何故って・・・こう見えてもヴィオラは、幼少の頃から父親について魔物狩りに出ており、 その腕は、すでに相当なものだった。(とてもそんな風には見えないのだが・・・・。)
「あなたが1人でここまで来たって言うなら、できると思うわ。」
「そうなんですか?一応、私1人で塔の探索をしているのですけど。」
「じゃー、当然魔物の相手もしてるわけね。じゃ、多分大丈夫だとは思うけど。実は、仕事っていうのは、 その魔物を捕獲してきてもらうことなの。」
「ま、魔物の捕獲?」
全く予想していなかったことを言われ、クレールは驚きで目を丸くする。
「そうよ。うちの特別メニュー知ってる?」
「え、ええ・・以前お邪魔したことがありますので、一応。」
ヴィオラは、クレールの表情で、食べてはいないことを悟り、くすっと笑う。
「まーね、私もどうしてああいうのが人気があるのか分からない口だから・・・。でも、 結構好評なのよ、あれで。」
「そうなんですか・・。」
魔物を食材のメインとした料理、それは、独特の味とそれぞれ異なった効能がある。
魔力は回復するが、瀕死状態になるとか・・その反対とか・・両方回復しても呪われて 一時的にスライムになってしまうとか・・・。
「で、その捕獲の時なんだけど、生け捕りしなくちゃいけないの。」
「い、生け捕りですか?」
思わずばたばた暴れる魔物を掴んでいる自分を想像して、ぞっとするクレール。
「そうよ。傷もつけてはいけないのよ。それと、魔法で倒すのもだめ!味が悪くなったり 効能がなくなってしまうのよ。」
「ま、魔法もダメなんですか?」
「ええ、そうよ。」
魔物が怖くて、遠くから魔法で倒していたクレールは不安になり、自然と顔色が失せていく。
「そうね・・開店までまだ時間があるし。じゃ、試しに行ってみましょうか。それで雇うか どうか判断するわ。」
そのクレールの顔色からダメかもしれない、と思ったが、とにかく試してみることにした ヴィオラは、すっと立ち上がり、奥にいる父親にその旨伝えると2階の自室へ着替え に駆け上った。
何事も実践あるのみ!やってみなければ分からない!それがここで得た教訓だった。

「お待たせ〜」
下りてきたヴィオラは、豊かな金髪を一つに結い上げ、ミニスカートとフリルのついたエプロンの代わりに 焦げ茶の革製のスーツでその全身を包んでいた。
「素敵。」
思わずその凛々しさ(?)に感嘆の声を漏らすクレール。先ほどまでの少女とは打って変わった 雰囲気がある。
「そお?ありがとう。これ、ハンマーヘッズの皮を鞣して作ったのよ。じゃ、行きましょ!」
ハンマーヘッズとは、水精に属する金槌型の頭をした小型の恐竜タイプの魔獣で、その皮は結構丈夫なのである。
「は、はい。あ・・あの・・・」
−ぐきゅるるる〜〜・・−
立ち上がりかけたクレールのお腹が大きく鳴き、彼女は真っ赤になってうつむく。
「・・・あら・・」
「す、すみません・・。」
「まー、いいわよね・・腹が減っては戦ができぬっていうから。ちょっと待ってて。」
その身なりからは、食事に困ってるようには見えないが、アルバイト募集に飛びついて きたということは、やはりそれなりの理由があるんだと思い、ヴィオラは、 クルミパンを持ってくると食べるように促した。
「あ、ありがとうございます。」
いかにも上品そうに食べるクレールに、不安も感じながら、ヴィオラはクレールのことをあれこれ想像していた。

 そして、2人は迷宮へとやってきた。
ここには『ペンネラの壺焼き』の材料、ペンネラが生息している。
ペンネラは、水精の魔獣の1種で、ちょうど蕪のような形の非常に堅い殻を持ち、殻の上部にある口から数本の 触手を伸ばし、それを地面につけて足の代わりとして移動、または、手として使い、獲物に吸い付いて生気を奪ったりしている。
やっかいなことに、攻撃を受けると殻の中に触手をしまい込んで、その口を堅く閉ざして防御態勢を取る。そうなると、並の刃では 割ることはできない。
最もそれ故、壺焼きという料理ができるのだが。
それを食べると魔法力は全回復するという品。が、副作用(?)として、全身が動かなくなる ほどの疲労感を受けてしまう。
それでも好んで食してくれる客は結構いた。ヴィオラには理解できなかったが、結構 好評なのである。欠かすわけにはいかない料理だった。

ペンネラ


「じゃー、今からペンネラを捕まえるんだけど、お店でも言ったけど、傷をつけない 事。魔法攻撃しない事。」
「は、はい・・。」
魔法が使えないという不安から、クレールはどことなく落ち着かない。
「これで気絶させて生け捕りするのよ。」
「そ、それでですか?」
それは、一見ボクサーのグラブのようなもので、相当使いこなされているように見えた。
「そう、これは『タイソンパンチ・改+2』と言って、相手を気絶させるものなの。ダメージは まったく与えないのよ。」
「タイソンパンチ・改+2・・。」
まじまじと差し出されたグラブを見る。
「まず、傷つけないよう注意しながら鞭で獲物を追いつめるの。そして、すかさず、タイソンパンチ・改+2で 気絶させる。と、まー、こんな感じなんだけど。どお?できそう?」
「え?・・そ、そうですねー・・。」
鞭はいいとして、パンチをお見舞いするのは、至近距離からになる。クレールは恐れを感じていた。
「で、気絶したペンネラをこの袋に入れて、後は持ってくるだけね。記憶石にさっき店の裏の位置を記録して おいたでしょ?重い物をわざわざ運ぶんじゃないから、それは問題ないわよね?」
「え、ええ・・。」
確かにそれは問題ない。
「あの、途中で気がつくなんてこと・・」
心配そうに呟くクレールにヴィオラは笑って答えた。
「大丈夫よ。タイソンパンチで気絶させたのは、『ピコハンマー・改』で叩かない限り、目覚めることはないわ。」
「ピコハンマー・改・・ですか・・。」
「そうよ。両方ともハーベスト家門外不出の家宝なのよ。気づくと同時に、魔力、体力とも全回復するのを、魔力だけ 回復するように改良してもらったんだって、亡くなった母が言ってたわ。」
「そ、そうなんですか・・」
両方回復するアイテムとして持っていた方がいいような気がしたクレールだった。
もっとも、1人では持っていても使えはしない。仲間と探索するなら重宝しそうなのだが。
が、今はそんな事は問題ではない。問題なのは、捕獲の時。そう、鞭で威嚇して追いつめ、間合いを取ってパンチをお見舞いする事。
傷つけたら、せっかく追い込んだのに、また別の魔物にしなければならない。そして、もし、パンチが上手く命中しなかったら・・・。
ぶるるっ!思わずクレールは、身震いした。
「ふぅ・・・・」
そんなクレールにヴィオラは失望を覚えた。
「うーーん・・・それができないっていうんなら、私の代わりにお店の手伝いしててくれない? 高給優遇とはいかなくなっちゃうけど。一応食事とベッドはつけるわ。賃金は、お小遣い程度ね。 それでもよかったらだけど。でも、お店の手伝いも結構難しいのよ。掃除はいいとして、料理の下ごしらえとか お客のあしらいとか。巫女さんのようだけど、できるかしら?」
「は、はい、それで結構です。私、がんばります。」
クレールは助かったとほっとすると、ヴィオラに促されて街へと転移した。

「うーーん・・まー、仕方ないわね。それに・・」
クレールが街へと転移するのを見送ると、ヴィオラは、ふふふ、と軽く笑った。
「たまにはいいわよね。気晴らしになって。お店だと常に愛想良くしてないといけないし。鬱憤晴らし にはもってこいよね!調査隊の人に依頼するようになってからずっとしてなかったから・・うふふ、楽しめそうね。」
そう呟くが早いかヒュオン!と鞭をしならせる。
右手に鞭、左手にタイソンパンチ・改+2。身体にぴったりとフィットした戦闘用革製スーツ。
お店では想像できない姿だった。
「さて・・手っ取り早く片づけちゃおっと。あと、ステーキ用のハンマーヘッズと香菜煮込み用の干し魚にするグンタイウオも 捕まえなくちゃいけないし・・。あ、水域まで行くついでに、バラクーダも捕まえようかしら?新メニューに挑戦して、バラク ーダの活き造りなんてのもいいかも?この前東方の国から来た人に作り方教えてもらったんだし。試してみなきゃ。」
グンタイウオは、集団で泳ぎ回っている小型だが水精の魔獣に属する肉食魚である。そして、バラクーダは、大きい物は、体長 1m半にもなる槍型の魚である。獲物を見つけるとその長く槍のようにするどい口で串刺ししようと突進してくる獰猛な雷妖で、 内臓を突き破られた犠牲者も多く、冒険者たちから恐れられている。
が、ヴィオラ父娘にとっては、単なる食材。究極の食材の追求という欲求を満たしてくれる格好の実験材料にすぎない。

−ヒュオン!ビシッ!ヒュン!バシッ!・・・ボスッ!−
迷宮の一角で、しばし聞き慣れない、が、リズミカルな音が響いていた。




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