栄光は去りぬ

〜[勇者の黄昏、寂しきガーナー] Brandish4サイドストーリー〜


no5

ため息のガーナー
[寄贈:異次元箱さん (ありがとうございました)]


「ああ・・・ヴィオラ〜・・早く帰ってきてくれ・・・」
神の塔、カルア自治区の路地で、建物の壁にもたれ掛かりため息をついているのは、レストラン『ハーベスト』店主、ガーナー。
彼と彼の娘であるヴィオラとやっている、街でただ一件のレストランである彼の店は繁盛していた。
娘のヴィオラは迷宮へ、ハーベストのメインディッシュである魔物を使った料理の材料を仕入れに出かけていた。
本来なら、バイトとして雇った巫女のクレールに頼むはずの仕事だったが、クレールではどうしても魔物狩りはできそうもなく、 仕方なく一緒に現場へ説明に行ったヴィオラが迷宮に残って狩りを続け、 クレールが店の手伝いをすることになったのだった。(参)
が・・その店の手伝いも、店内の掃除、食器洗いまではよかった。
重要なのはその後・・・・。
店が結構たて混んできて料理が間に合わない為、心配しながらも仕方なくクレールにその下準備を頼んだのが 間違いの元だった・・・。

レストランの地下食料庫には、気絶させた魔物が保存してある。(寝かせて?)
最近の一番の売れ筋であるペンネラの壺焼きの準備をすることになったクレールは、そこから そっと気絶しているペンネラを厨房に運ぶ。
簡単な料理は、カウンターのところでするのだが、こういった事はその 横にある広い厨房で調理する。
クレールはテーブルに置いたペンネラをじっと見つめていた。
いまにもその口が開き、触手を出して襲ってきそうな気がして、どきどきだった。
「えっと、口を針金で縛っておくんだったわよね。」
『しっかり縛っておかないと、グリルの網に乗せた途端大暴れするから頼むぞ!』と 言ったガーナーの言葉を思い出す。
「しっかりと、っと・・・。」
クレールは、太い針金で自分で出しうる限りの力でもって1つずつ口を縛っていった。
「そっちが終わったら、接客の方頼む!」
「あ、はーい!」
昼食の時間帯、ヴィオラはまだ帰ってくるはずもなく、しかも店はいつにも増して混んでいた。
クレールは慣れない手つきで、それでも一生懸命言いつけられた仕事をこなしていた。
そして、事件は起こった・・・。
−ゴトゴトゴト!−
火にかけられたペンネラがその熱さに目覚め、それと同時に暴れ始める。
−ゴトゴトゴト!ガッタン!ガタタッ!−
「あ・・あの・・ガーナーさん!?」
見ていたクレールは、はらはらどきどき。今にも触手が飛び出てきて、大暴れしそう。
「大丈夫だ!しっかり縛ってあれば解けることもないからな。」
「そ、そうなんですか・・。」
「ゴトゴトしなくなったら言ってくれ。味付けは微妙だから、オレがやる。」
「は、はい。」
その大きめなグリルには一度に6個ペンネラを焼くことができる。
クレールは、どきどきしながらそれをじっと見つめていた。
「静かになりました。」
動かなくなったペンネラの口の隙間からガーナーが調味料を流し込む。
そして、弱火にしてしばらくすると、辺りに醤油の焦げる香ばしい匂いが立ちこめる。
「よーし、横の温熱板の上に下ろして、次のペンネラをグリルに乗せてくれ。」
「は・・はい。」
温熱板の上で5、6分蒸らすと壺焼きは完成。
後は、口を開いて触手を適度な長さに切って、添え物をつけて壺焼きの出来上がりである。
そのあまりにも香ばしい匂いに、お腹がなりそうなのを必死に我慢し、鳴らないようにと祈りながら、 クレールは次のペンネラをグリルに乗せていた。
と・・・・
−ゴトゴト・・・ガタタッ!ピシッピシッ!キン!−
「ああっ!」
がんじがらめに縛ったつもりだったが、それでもクレールの縛り方が弱かったのか、火の熱さで 目覚めたペンネラの1匹が針金を切って暴れ始めた。
−ガッシャーーン!−
「きゃあっ!」
偶然にも自分の方に跳ねたペンネラを避けるため、クレールは思わず横転する。
ただ単に床に転んだのだったら、よかった。が、地下から持ってきたままのペンネラが置いてあるテーブル に身体ごとぶつかってしまった。
−ひょひょひょひょ・・・−
そのショックで、まだ縛ってなかったペンネラが一斉に目覚め、その触手を伸ばし動き始めた!
「き、きゃあっ!」
迷宮ででならすぐさま魔法で始末しただろう。が状況が状況だけに、クレールは焦ってしまった。
そして、その間にペンネラたちは、一斉に脱出を謀った。
−しゅしゅしゅしゅしゅ・・・−
「う、うわっ!」
「ぎゃあーー!」
「きゃあっ!」
「な、なんだ、なんだ・・」
予期し得なかった出来事に、店にいた客も気が動転して、いつもならペンネラごとき簡単に倒すことができる だろう人物もだた、唖然として見送ってしまった。

ペンネラ


ペンネラたちはご丁寧に倉庫にいた仲間も起こした為、あとは・・・街中ペンネラの大運動会。
気が立っている為、いつのも増してペンネラは凶暴となっている。
ただ、幸運だったのは、彼らが出口を求めて彷徨っていたのみだったこと。
そのおかげで、戦うの力のない人達でも、怪我をしたのみに終わっており、死亡者は出なかった。
が、事件の発端であるガーナーはそうはいかない。
義足を引きずり、ようやく落ち着いたクレールと真っ青になりながら、事の収拾に街中を東奔西走した。
勿論、ペンネラを倒すだけの腕のある者は協力はしてくれたが、それでも騒ぎは夕方になってもまだ 収まらない。
「あ・・あと・・・何匹だ?」
どのくらい走り回っただろう、息が切れたガーナーは、壁にもたれて肩で息をしながら、 その日の売上への損害のみでなく、怪我人への治療費などを考え、頭を抱えた。
「こんなオレが、これでも昔は結構腕の立つ探検家だったなんて・・誰も信じやしないだろうなあ・・。」

そう、ガーナーは、その腕を買われ、第一次調査隊の選り抜きの隊員としてここへ派遣されてきた。
そして、そのメンバーの中にヴィオラの母親もいた。
ヴィオラの母親は、世界でも有名な料理人一家の出身で、自分にしかできない究極の料理探求の為、その 食材を求めて、世界を旅していた。
そして、ここでの魔物を食材として試すべく自ら調査隊隊員に応募してやってきた。勿論、腕のないものを合格と するはずもなく、世界各国の秘境地まで食材探しに行っているだけあり、鞭さばきが超一級品の彼女は、すんなり 合格となった。
「あいつに惚れたのが・・・そもそも人生の道を外した原因なんだが・・。」
ガーナーは、地崩れが起き、本隊とはぐれて道も分からなくなった時に思いを馳せる。そのころはまだ街区もできていない。
生きて再び本隊と合流できる保証はどこにもなかった。
「だが、あのときは、あいつがいたから、オレも十二分に力を出すことができた。生き延びることができたんだ。」
ふーーっとガーナーは再び大きくため息をつく。
「なのに・・オレとヴィオラを置いて逝ってしまいやがって・・」
−ひょひょひょひょひょ・・・−
「あ!」
1人想い出に浸っていたガーナーを、その目の前を横切った1匹のペンネラが現実に引き戻す。
「と、とにかく、今はペンネラだ!」
ガーナーは、夢に燃えた過去の幻影を振り払うと、再び走り出した。


E N D

(参)[お話]隠れし最強のハンター


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