神の塔・鉄人レース(2)
〜[アナザーワールドの神の塔] Brandish4サイドストーリー〜



 −わああっ!−
広場を揺るがすかのような歓声が沸く。
巨大水晶球は、落とし穴ばかりのフロアに来た5人を映している。
1歩ずつ次の床を鉄球で確認しながら進むクレール。
鉄球は使わないにしても、じっと床を見て、判断してから進む堅実派キエン。
自分の感を頼りにさっさと進んでいくディーとメルメラーダ。
そして、一か八か当てずっぽうにジャンプしているガラハッド。
と選手の性格が出ているかのような進み方をしていた。
と、メルメラーダが後1歩で出口である扉にたどり着くところだった・・・
−メキメキメキッ!・・・・−
そのフロア全体が軋むような音がし、5人とも一瞬ぎょっとする。
そして、その音が何なのか確認しようとした矢先・・・
−ズ、ズゥゥゥゥーーーン!−
フロア全体が落とし穴の底まで落ちてしまった。


−ワア!−
観衆が一度に叫ぶ。
「ど、どうしたものでしょうか?・・・まさかガラハッドがその巨体で何度かジャンプしたのが原因とでもいうのでしょうか?床の強度は確認してあるはずですが・・・」
あまりにも意外な展開で、解説のズフォロアも驚きを隠せない。
埃が舞い上がり、選手の様子が分からない。
「だ、大丈夫だろうか?オレのクレールちゃんは?」
「大丈夫だって・・・多分・・何?いつクレールちゃんがお前のもんになったんだよ!」
興奮した観客の中には喧嘩を始めたのもちらほらみえた。
「あ!おい、あれをみろ!」
埃がおさまってきて、様子が分かるようになると、真っ先に目を止めた観客が叫んだ。
−おおー!−
「こ・・これは、意外です・・・・こ、こんなレースは、初めてです!なんという美しい光景でしょう。」
競争相手をけ落とすのも認められているレースであるにもかかわらず、瓦礫のフロアと化したそこでは、5人の助け合っている場面が写っていた。


−パチパチパチ!−
何処からともなく拍手が沸き上がり、それは、次第に広場全体に広がっていった。
最も選手には聞こえはしないが・・・。


そして5人はなんとかそのフロアの出口まで来る。
が、その扉は、彼らの頭上約3mほどのところにある。
とても届きそうにない。
しかも、すぐ手前まで行っていたメルメラーダの感によるとカギがかかっているはずだった。

暫く見上げていた5人だが、ガラハッドの提案で、肩車して開けることになった。
一番下は勿論ガラハッド、次にキエン、そして、ディー。
−カチャリ−
−スタッ!−

ディーがカギで開けると同時に、猫の姿に変身したメルメラーダが、とんとんと足取り軽く彼らの肩を蹴って部屋へ上がった。
「あ!ちくしょう!まだいいって誰も言ってねーだろ?」
「あら・・扉が開いたら入るものよ。違って?」
すっと変化を解くとディーに投げキッスを送り、メルメラーダはさっさと奥へ進んでいった。
「ありがと、坊や、ほほほほほ!」
「待ちやがれ、このーっ!」
慌てて部屋に飛び込むディー。が、メルメラーダを追いかけてさっさと進むと思いきや、その戸口から下へ自分の鞭を伸ばす。
「さっさとこれに伝って上がってこいって!ぐずぐずしてるんじゃねーぜ!」
キエンはガラハッドの肩をジャンプ台にして、早くも部屋に上がっている。
後はクレールとガラハッド。
「さあ、お嬢さん、私の肩に。」
鞭は到底そこまでは届かない。ガラハッドの肩の上に乗ってなんとかその先に届くくらいだ。
「で・・でも・・・」
男の人の上に乗る・・・クレールは、はっきり言って躊躇していた。
「大丈夫です。小生がしっかり支えてさしあげますから。」
「で、でも・・・」
「おい!いい加減にしろよ、尼さん!でないと行っちまうぜ!」
いらついてきたディーが叫ぶ。
「ほら、気の短いディー君が鞭を引っ込めないうちに!ご安心下さい、小生は紳士です!」
「は・・はい・・。」
ドン!と張った胸を叩いて、その大きな背中を丸めてクレールに向けるガラハッドにクレールは、恥ずかしさで真っ赤になりながらも足をかけた。
「し、失礼します。」
「どうぞ、どうぞ。軽いもんですよ。」
「は、はあ・・・」
「よろしいですかな?立ち上がりますよ。小生の頭をしっかり持っていて下さい。」
「は、はい。」
どぎまぎしながら、ガラハッド言うとおりにし、立ち上がったガラハッドの上に、壁にもたれるようにして恐るおそる立ち上がった。
なんとか鞭の先には届いていた。クレールはそれをぎゅっと握った。
「よーし、引き上げるぜ!」
「は、はい、お願いします。」
「どおーっ・・・こらーしょ・・・っと・・・」

「意外と重たいんだな、尼さん。」
上に上がってからディーに嫌みを言われ、再び真っ赤になるクレール。
「す、すみません。・・お手数おかけしました。」
「できたら今回だけにしてもらいてぇな。」
「は、はい、ありがとうございました。」
そして、さっさと奥へディーは進んでいく。
「え?お、おーーい、小生はどうなるんでしょうか?」
下から心配げなガラハッドの大声が聞こえた。
「あ・・あの・・・」
1人焦るクレールに、キエンが身につけていた紐をほどいてみせる。
「大丈夫です。これがあります。」
「ほっ・・・」
それを聞き、クレールは安堵してにこっと笑う。


「おおーー!クレールちゃん、かわいい!!」
その途端、広場から歓声とため息があがった。

そして、無事ガラハッドもその部屋に着くと、再び歓声が上がった。
−わああっ!−


「さて、皆さん、そろそろ選手たちが、この街へと入ってきます。が、ご存じのようにここが終着ではありません。レースはここからです!皆さん、選手の邪魔にならないようお願い致します。」
「おおーー!」
ズフォロアの解説に、感嘆の声があがる。
「選手の通り道はロープで仕切ってあります。くれぐれも中へ入らないようお願い致します。入った方は厳罰に処せられます。」
ズフォロアがその銀縁メガネをくいっとあげ、静かに言った。
「・・・・・」
入って握手をしたいのはやまやまだが、破ると魔の炭坑送りになることは、そこにいる全員が知っていた。よほどのバカでなければ、そこまでして握手しようとは思わなかった。
が、少しでも間近に見ようと、ロープが切れそうなほど人の列はひしめき合っていた。


「わーーーっ!」
「やはり、トップはメルメラーダです!メルメラーダ、今街に入りました!」
解説より早く観衆の声が沸き上がる。
彼女は、そんな観衆など目にも入らないと言うように、風のようにすばやく通り抜けていった。
「ああ・・・・」
間近に見ることを密かに楽しみにしていた一部の男達は、がっくりと肩を落として残念がった。

「お次は・・やはり、ディーです!」
通りを埋めている人垣をじろっと睨み付けてから通っていくディー。

「そして、、次は・・・」
「うおーー!クレールちゃーーん!」
クレールの姿を認めるや否や、クレールコールの大合唱が始まった。
彼女は、自分の名前を口々に叫ぶその声にどぎまぎしながら、真っ赤になってお辞儀をしながら通り過ぎていった。

「そして・・キエンです・・・」
−し〜ん・・・・−
キエンの全身から醸しだされるその異様な緊張感に、観衆は言葉を失って見送った。


「最後は・・もう言わずと知れたガラハッド!」
「いやいやいや・・・ご苦労さまですなー。どうも、どうも。」
通りに溢れている観衆に、そのぼさぼさの頭をかき、照れ笑いをしながら、ガラハッドは通っていった。


「さて、街に入った彼らですが、しばし休養タイムを与えられます。寝るもよし、食事を取るもよし、武器などの補強をしてもかまいません。但し、一般の人からの差し入れなどは一切禁止となっております。みなさん、決してしないように。そして、別の出入口から再び遺跡へと戻り、レースを続行されます。」
再びズフォロアのアップが映し出される。

「それでは、レース再開されるまで、一旦神の塔から失礼致します。」
すっと、ズフォロアの姿が消え、水晶球は街のあちこちの様子を映し始めた。
広場の観衆は、移動するでもなく、それをじっと見入っている者、今のうちに、と食べ物を買いに行く者といろいろである。

まだまだ続く、エキサイティングゲーム、神の塔・鉄人レース・・・果たして勝利の女神の微笑みは誰に?




【神の塔・鉄人レース (1)


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