神の塔・鉄人レース(1)
〜[アナザーワールドの神の塔] Brandish4サイドストーリー〜



 −パン、ポポーーン!パーーーン!−
ここは、スーラン帝国とギデア皇国の間に広がる、広大なカルア砂漠。
その中央にある神の塔と呼ばれている塔で、年に一度、両国の親睦を図って開催される一大行事があった。
今日は、その当日。塔内部にある街、カルアは、すでにお祭り騒ぎが始まっていた。
通路狭しと広げられた露天商。街のあちこちで打ち上げられる花火。
道は行き交う人々で、これ以上ないというほどの混雑さ。
そして、街の中央広場は、その大会の様子をそこにある中継用の巨大水晶球の大画面で見ようと人々で埋まっていた。
360度から見ることのできるその水晶球は、使い魔から送られてくる映像を映していた。

 「さて、スーラン、及び、ギデア両国の皆さん、今年も命をかけたビッグイベント、神の塔・鉄人レースの時がやってまいりました!
その昔、ここ、カルア砂漠の油田の権利を巡って両国は、悲惨な戦いを繰り返してまいりました。その悲劇を繰り返さないため、その年の所有権が決定されるこの神の塔・鉄人レース!
この大会が開催されるようになってから5年が経ちました。が、両国の参加者とも頂上まで行くことのできた者は、ただ1人のみです!それもここ3年間は誰も成し遂げていません!油田の件とは別に、今年こそは、1人でもいい、誰か頂上までたどり着いてほしいと切に願っております!」
その大画面中央にズームアップされたのは、競技解説者である男性アナウンサーのズフォロア。銀色の髪と丸メガネ、そして、冷たいとも思われる無表情さが結構女性の間で人気があった。そのズフォロアも、珍しく今日は多少興奮気味な声色で話し始める。
「今年は、なんとトゥルカイア小国からも参加者がありました!この中継は、トゥルカイアを含むスーラン及びギデアの各ご家庭へも水晶球中継されております。」
−わーーっ!−
人々から歓声があがる。
「それでは、今年の参加者をご紹介しましょう。」
興奮のるつぼと化した広場に、ズフォロアの声が響いた。
「ゼッケン#1、ギデア皇国南西、アスラット文化圏出身、ディー、盗賊。副賞として、無罪放免を賭けて挑戦のディーです!」
−うおーーっ!−
画面にディーの顔が大きく映し出されると、再び人々から歓声があがる。
「ゼッケン#2、スーラン帝国属国、トゥルカイア出身、クレール、巫女!なんと、こんな少女が無事塔の探索ができるのでしょうか?暁の巫女の座をかけて挑戦!」
−わーーっ!−
人々から歓声があがると同時に、クレールの姿を見て、心配する声もちらほら聞こえた。
「ゼッケン#3、記憶喪失のため本当の出身は不明だが、スーラン人として参加、キエン、剣士。勿論、己の記憶を求めて!」
−おおーー!−
どよどよと歓声があがる。
「そして、ゼッケン#4として、今年はスーラン帝国よりもさらに西にある国から来たという女性、メルメラーダ、魔術師。特別参加の彼女のその魔力は測り知ることができないと言われています!ギデア皇国側として参加!勿論、狙うは塔内に眠る宝物!」
−わおーー!−
メルメラーダのその姿に思わず見とれる男達。
「さー、各自、スタートエリアに立ちました・・・今、まさに始まろうとしてます、神の塔・鉄人レース!果たして何人頂上へたどり着くことができるのでしょう、そして、優勝者は?最終決着は?・・今年の権利を得るのは、スーランでしょうか?それともギデアでしょうか?!」
それまでの騒がしさは、その一瞬、しーんと静まり返る。
人々は、息を飲んで合図を待った。

−ズズズウーーーーン!−
各選手のいるエリアの壁が崩れ、彼らは一斉にスタートした。
と同時にどよめきが起こった。
それは、競技が始まった興奮を表すものではなく、水晶球に映った選手以外の人物に目を留めたからだった。
「な・・なんと、駆け込み参加者が現れました!現場に予備として待機していた使い魔からゼッケンプレートをひったくるようにして駆け出した人物が!・・す、少しお待ち下さい。詳細はのちほど・・・」
解説者であるズフォロアが、多少焦りを覚えた声色で言うと、水晶球は一旦神の塔の外観を映した。
−ブン!−
しばらくして、再び水晶球に映ったズフォロアが静かに話す。
「失礼致しました。大会本部からのお知らせです。駆け込みと言えどもゼッケンプレートを手にしたということで、その人物を、ここに正式に選手と認めることを宣言します。」
−おおーー!−
いいぞ、いいぞ!と割れるような拍手。
「コホン・・ゼッケン#5、聞く時間がないので、出身地は不明、ガラハッド、もぐりの考古学者。彼は、失格にならない限り、同点だった場合にどちらか決定する役を担ってもらいます。方法はその時にでもまたご説明致します。
・・・ということで、以上、5名にて今年の大会は競われることとなりました!」
−わーーーっ!−

−ドーーーン!−
一際大きい花火が打ち上げられ、街はお祭り騒ぎも最高潮となっていった。
「さて、今私の隣には、ラスボスは倒せなかったものの、見事頂上まで辿り着いた第2回目の大会の優勝者であるザノンさんがおみえになっております。少しご意見を伺ってみましょう。どうですか、ザノンさん、今年の予想は?」
「そうですね、これほど力のある参加者が揃ったのも珍しいでしょう。できたら私もこういったメンバーと競いたかったですね。」
「と申されますと・・全員、それほど大きな力を持っていると?」
「そうです。一見か弱そうなクレールさんですが、暁の巫女の資格試験を兼ねてというだけあり、その潜在能力は計り知れないでしょう。」
「そうなんですか・・素人では分かりかねますが・・・。」
「でしょうね。」
「ということで、いよいよ始まりました神の塔・鉄人レースですが、ご存じない方のために、一応簡単にルールをご説明致します。
結果から申し上げれば、塔の頂上がゴールです。そして、更にそこにいる魔物を倒せば言うことなしなのですが、複数の参加者がゴールに達した場合、その魔物を倒した人物が優勝者となります。残念ながら、今まで1人もおりません。頂上まで行き着けた参加者も3年前のザノンさんのみです!頂上まで到達した者がいない場合、より高い層まで行った人が優勝者となります。しかし、今年は是非とも頑張って頂上まで行ってほしいものです!
途中4人の『守護鬼神』と戦うか、謎解きをして輝玉板を手に入れなければなりません。それが通行証となります。
また、武器屋、道具屋、魔法屋といった店も所々にあり、そこでのアイテム補充、武器強化、休憩などは許可されてます。が、寝過ごさないよう気を付けるべきだと思われます。勿論、途中は、競技種目とは別に、トラップや魔物のフルコースとなっています。どんなことをしても構いません。自分以外の参加者をけ落とすことも反則にはなりません。とにかく上を目指して突き進む!という簡単明瞭な競技であります!但し、様々な危険が満ちています。それ故に、見ている私達も興奮するのですが・・・。何人頂上へ着くかというより、何人生き残るか?と言った方が妥当かもしれません。だからこそ、毎年この競技は、このように賑わうのです!それに、見事優勝すれば英雄です!腕に自信さえあれば、命を張る価値は十分あります!」

−わーー!!−
競技に入り、ズフォロアは水晶球の下方に小さく映されている。その歓声は、大画面に映る選手に送られたものだった。
「おおっと、ご説明している間にも、早くも第一関門である『ペンネラ草原』に到着!
草原ではないのですが、そこはつっこまないように願います。そして、ここではその名の通り、ペンネラの集団のエリアでペンネラを倒して、道を切り開いていかなくてはなりません。さて、誰が一番早くクリアするでしょうか?」

−わああっ!−
「こ〜れは驚きました。その体格から単なる学者先生とは思えませんでしたが、自分自身を高速回転させ、まるで人間コマですが、ペンネラをなぎ倒しながら、あれよ、あれよと言う間に通って行きます!こ〜れは、すごい技です!」
−おおーーー!−
「他の選手もガラハッドに負けじとバシバシと倒しています!あ、いや・・どうやらクレール嬢のみ苦戦している模様。やはり深窓の巫女、殺戮はたとえモンスターでも気が引けるのでしょうか?」
水晶球はペンネラにじりじりと詰め寄られ、困惑しているクレールをどアップする。
「や、止めろ〜!!」
観客の中から声が飛ぶ。どうやら早くもクレールファンができたようだ。

−わあ!−
意を決したクレールが反撃する。杖を振りかざし魔法の連発!
−バシュッ、バシュッ!−
「や、やったーー!!」
1歩も2歩も出遅れたが、クレールもなんとかペンネラの群をかき分け進み始めた。

そして、次の関門、『ごろごろ岩』にまずガラハッドが先頭を切って、そして、その後次々と到着する。
「わー!あ、危ないぞっ!」
人々が口々に自分の応援している選手に声をかける。
「ああーー!ぶ、ぶつかる!」
「見てられねーよー・・。」
等々・・・はらはらどきどきで、観客はその様子を見つめている。

−キンコン♪−
「おおーー!な、なんと最初にスイッチを押したのは、メルメラーダ!岩が恐いのでしょうか、立ち止まってるガラハッドをあっさり追い越したようです!」
−どよどよ・・・−
岩の転がるエリアを抜け、壁にあるスイッチを押す。そして、開いた扉から次のフロアへ行くメルメラーダ。
と同時に扉は閉まり、次にこの扉を開けるためには、再びスイッチを入れなくてはならない。
続いてクリアしたのは、ディー、キエン、そしてクレール、最後にガラハッドの順となった。
「迷宮エリアから始まったこの競技は、次なる遺跡1階へと場所を移します。さて、そこでは何が待っているのでしょう?」
−ざわざわ・・がやがや・・−

エキサイティングゲーム、神の塔・鉄人レースは、始まったばかり・・・果たして栄光は誰の手に?




【神の塔・鉄人レース(2)】


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