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【 指輪物語 その2 】
〜Diablo Story No2〜


 

 「さてと・・・そろそろ行くか。」
ラサスの返事を待つでもなく、男はゆっくりと立ち上がる。
「ホーダン・・行くのか?」
「ああ・・あいつが、待ってやがるからな。」
「本心か?」
イスから立ち上がり、ラサスの横をすり抜けようとしていた男は、ふと足を止め、目を合わせる。
「何が言いたいんだ、ラサス?」
軽く睨み付ける。
「い・・いや、お前がいいんならそれでいいんだ。」
「はっきり言ったらどうなんだ?」
ドカッと再びイスに座り、ラサスの方に身体を向ける。
「い、いや・・別に・・・ただ・・・」
「ただ?」
ラサスは困惑した面もちで、男と視線を合わせたまま口ごもった。
悪気はない、ただ男の行く末が心配だった。モンスターと人間、上手くいくはずはない。生活習慣の違いなんてものじゃすまされない。彼女は、世界を守る為に倒さなければならない悪魔の種族であるということは、紛れもない事実だった。
その事実をうやむやにし、このまま2人の関係が上手くいくとは、ラサスには、どうしても思えなかった。魅惑の術にでも落ちているのだろうか?とも思ってみたりしていた。しかし、男の目は、確かだった。術中に落ちているような濁りは少しも見えない。が、ラサスの知っている意志の強い屈強なあの男とは、どこか違う感はあった。

「・・・俺も、時々思うのさ。」
暫く沈黙が続いた後、口を開いたのはホーダンだった。男にはラサスの考えが手に取るように分かっていた。
「あいつがあれこれ俺の為にしてくれている時でもな・・ふっと、俺はこんな所で、こんな事してていいのか?・・なんてな・・・」
男の自嘲を含んだ笑い顔は、何故か沈痛めいており、ラサスは答えが見つからなかった。
「で、無性にお日様が恋しくなるんだ。・・それと、あったけえ人間のメシ。」
「ホーダン・・・」
「実はな、今日はあいつがいない間に来ちまったんだ・・今頃探してるかもしれねぇな・・・。」
男の視線はラサスから離れ、空を漂う。
「早く帰らなきゃーな、と思うんだが・・・いっそこのまま帰るのをやめようかとも思ってみたり・・・」
再びラサスを見たその瞳には、悲しげな翳りがあった。
「ははっ!俺自身でも分からねぇんだ・・・笑ってくれ・・。」
「・・・疲れてるのさ、ホーダン。たまには、ここでゆっくりしていったらどうだ?風呂でも入って・・。」
「風呂か・・・そうだな・・ゆっくりと風呂につかり、上等とは言えねぇが、綿の布団にくるまって寝るってのも・・いいかもなぁ・・。」
「そうさ。そうしろよ、ホーダン。一晩ゆっくり休めば、すっきりするさ。」
その気になったらしい男に、ラサスは、気が変わらないうちにと、急かす。
「ああそうだな。」
部屋番号のついたカギをオグデンから受け取ると、ラサスは、ホーダンの手のひらにそれを乗せる。
「いろいろありすぎたのさ!ゆっくり休むんだな!」
「ああ・・」
男はカギを持った手を上げてラサスに応え、階段をゆっくりと上がって行った。
男の姿が見えなくなると、彼は、考え込んだ面もちで、再び杯を重ね始めた。

 男が目を覚ましたのは、その翌日の日が暮れかかった頃だった。
「よお!よく眠れたか?」
階段から下りてくる男をいち早く見にとめたラサスが、テーブル越しに声を掛ける。
「ああ、ぐっすりとな。やはりベッドはいい。久しぶりに人間に戻った気分だ。」
少し笑いながらラサスの真正面に腰掛ける。
「はは、それはよかった。」
「あんたがホーダン?」
男がテーブルに着くと同時に、隣のテーブルに座っていた女が、席を移しながら声を掛ける。
「ああ、そうだが?・・・」
女に見覚えのない男は、何用かと、女をいぶかしげに見る。
サッキュバスとまではいかないもでも、なかなかのプロポーションの女だった。
「あんたの腕の事はこのラサスや他の人からも聞いてるよ。」
「そうか・・・それで?」
「サッキュバスのこともね。」
何がいいたいのか、と男は少し気分を害した顔で女を見る。
女はそんな男にくすっと笑うと、話を続けた。
「そんな怖い顔をおしでないよ。せっかくの男前がだいなしだよ。」
「あんたに言われる筋はねぇな。」
「ははは!まぁそうかもしれないけどねー。」
女はラサスと一瞬目を合わせた。
「この人とは、さっき話がまとまったんだけどさ、どうだい、パーティー組んで下へ降りないかい?なかなか13階まで行った奴はいなくてね。ある程度道が分かってた方が有利だろうし、それに腕もいいっていう話じゃないか?」
「3人でか?13階はきついぜ。」
「だからあんたたちを誘ったんじゃないか?全く、ここにはわんさと戦士がいるっていうのに、腰抜けのぬけさくばかりだからね。」
周囲をぐるっと見渡しながら、吐く。
「未だに人肉鬼のブッチャーの居所も、狂った王さんの居所も分からないってんだからさ。」
「それを言うなら俺達だって同じだぜ。13階まで降りるにゃ降りたが、奴らの居所は分からずじまいさ。」
「まぁね・・奴らの潜んでいる空間は、常に移動してるって話じゃないか?なかなか見つからないのも仕方ないとは思うさ。だけど、次元移動してるってんなら、いつ、目の前にその入り口が現れてもいいってもんだろ?それで結構戻って来ない奴もいるんだからさ。」
「そうだな、やっかいな奴らだぜ。よりによって地下空間内で次元移動なんてな。一戦闘終わった後、出くわしたなんて日にゃ、やばいってもんじゃないぜ?」
「だから、パーティー組むなら腕のいい奴とじゃないとさ。」
女は男にウインクをする。
「腕を買ってくれるのは、嬉しいんだが、俺は・・」
「彼女の事だろ?まぁいいじゃないか?13階まで行くのに仲間は必要だろ?あたしは、お宝が目当てなんだしさ。」
「悪いが13階からは、タウンポータルの魔法で直接来たからな。わざわざ1階から行く必要ない。町外れに移動空間が現れてるはずだ。」
「あれ?だけど、何もなかったよ?」
「なかった?」
女の言葉に男は不思議そうに言う。
「ああ・・。」
「くそっ!おそらく誰かが使ったか、何らかの異常が起きて消滅しちまったか、だな・・」
「そんなとこだろうね。だからさぁ、行かないかい、一緒にさ?」
「そうだな・・・・」
男は目を閉じ、じっと考え込む。
「行こうぜ、ホーダン。こいつの腕も結構大したもんでな、この前、9階まで降りたんだ。」
サッキュバスとは、この際別れちまえばどうだ?という言葉を飲み込み、ラサスは少し早口で言った。そこまで干渉する権利はない。
「そうだな、ポータルがないとすりゃ、1人で13階まで降りるっていうのもきついからな。」
「じゃ、決まりだね?」
女はにこやかに笑い、握手を求め手を差し延べる。
「ああ、そうだな。ま、よろしく頼むぜ。」
その女の手を軽く握った男は、思ったより強い握力で握り返され、少なからず驚く。
「なかなか腕が立ちそうだな、あんた。」
男に自分の腕を認められ、女は嬉しそうに再び微笑む。
「あたしの名前は、ローダってんだ。よろしくね!出発は明日でいいかい?」
「ああ、そうだな。で、3人でか?」
「実はさ、もう1人いるんだ。あたしの仲間なんだけど。いいかい?」
「ああ、構わないさ。なぁラサス?」
「ああ、俺もいいぜ。」
「じゃ、決まりだね!ジリってんだけど、今彼女いないから、明日紹介するよ。
結構腕の立つ弓使いだよ。」
「じゃ戦士の俺とあんた、魔導士ラサス、そして、弓使いのジリの4人というわけだな?」
「ああ、そうだよ。じゃ明日の朝食後にね!」
「OK!」
ローダは2人の返事に満足し、そこを立ち去って行った。
ホーダンとラサスは、エネルギーを充填するかのごとく、その晩遅くまで酒を酌み交わしていた。



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【DIABLO】