精霊のささやき

そ の 3(完)


 

 「ええーーー?!ナメナメちゃんがダイ・アモン伯爵の所に?」
魔の支配から解き放たれたシルフィードから事の次第を聞いたシ ェラは青ざめた。
が、次の瞬間、ナメナメ救助に向かうことを決心する。伯爵の思 惑は手に取るように分かっていたが。


 「来たぞ、伯爵!ナメナメ、いや、バ・ソリーを放せ!」
ダイ・アモンの居城、その大扉を開けると同時にシェラは叫んだ。
「ナ、ナメナメーーー?!ナメーーー!(ど、どうして来たんだ、 シェラー?!来ちゃだめだろー!)」
窓辺の籠に入れられているバ・ソリーが叫ぶ。
「おやおや、お嬢さん、また勢いのよろしいことで。」
その横に立つ伯爵とシェラの間に火花が散る。
「ふ・・そんなものでこの私に立ち向かうつもりですか?そんな もの、このビューチホ−で、パワフリャーな私には通用しません よ。いかがです?今のうちに私の手を取れば、バ・ソリーは自由 に、そして、あなたには、永遠の命を差し上げれますよー。」
決死の覚悟の表情で魔爪を構えるシェラを、伯爵は、鼻で笑う。
「だ、黙れ!私の忠誠は、生涯、我が主、カル=ス様のもの。だ れがお前なんかの!」
「いいんですか?後悔しますよ。」
「後悔などはせぬ!だが、私が目的なら、バ・ソリーは関係ない。 放してやってくれ。」
「ふふふ・・いい覚悟ですね、シェラ。さすが魔戦将軍と誉めて あげたいところですが、愚かとしか言いようがありませんね。カ ル=スなんて、あなたに滅多に声もかけないじゃありませんか。 その点私なら、ほかってなどおきませんよ。常に傍らにおいてあ げますよ。」
そう言いながら、まるで不潔なものでも放るように、籠ごと窓か らバ・ソリーを投げ捨てるダイ・アモン。
が、とにかくナメナメは自由になった。(最も篭から出れればの 話だが。)それを確認すると、シェラは、きっとダイ・アモンを 睨み直す。
「・・単に血を吸う為だろ?」
「それこそが血の盟約、あなたの血は私の血と混ざり合い同じ血 潮となる。私の美しさは、魔力は、さらに磨きがかかり、そして、 あなたは、同胞として永遠の命を持ち、共に栄える。すばらしい 事ではないですか?」
「どうせ下僕としてこき使うんだろう?死ぬこともできず、永遠 にその屈辱に打ちのめされながら、気の遠くなるような時を過ご せ、と?」
「おやおや・・そんな風にとらなくとも・・大切にして差し上げ ますよ、シェラ?」
「いらぬ!死んだ方がましというもの!」
−タンッ!−
シェラの身体が空を跳び、魔爪が舞う。
−ザシュッ!−
が、相手は不死身のバンパイア。弄ぶが如く2、3度その攻撃を 軽く交わすと風圧でシェラを壁に叩きつける。
−ヒュオーー!・・ドシン!−
「う・・・」
「無駄な事を。以前、手も足も出なかった事を忘れたのですか?」
痛みで失神しそうなのを必死で堪え、立ち上がるシェラ。
「ほらほら、お嬢さん、無理は禁物ですよ。」
ようやくの思いで立ち上がったシェラの肩をがっしりと掴むダイ ・アモン。その顔は、すでに勝ち誇った顔。
身を固くし、なんとか逃げようとするシェラは、うっかり顔を上 げ視線を合わせてしまう。妖しく輝く血色の瞳と。
「い、いけない!」
心の叫びが満足げなダイ・アモンに聴こえる。
「ふふふふふ・・。わぁーっはっはっは!」
血色の視線に囚われ、気が遠くなっていく感覚の中、ダイ・アモ ンの勝ち誇った笑い声がシェラの意識下に、遠く聞こえていた。

「さて・・それでは、本日のメインディッシュを・・」
−バタン!−
「ちょっと待てーっ!」
いま少しで、シェラの首筋に牙を立てようとしていたダイ・アモ ンの耳に聞き覚えのある声が飛び込んだ。
勢いよく開けられた戸口に立つのはD.S。
「シェラは俺様が先に目をつけたんだぞ。」
「ダ、ダーク・シュナイダー様!」
「ったく!元に戻る為、アビ公を探してるうちに、俺様を差し置 いていい目をみようなんて、いいと思ってんのか?あん?」
「い、いえ、滅相もない・・。そのような事。」
ダイ・アモンの全身が緊張のため硬直する。
「じゃー、よこせよ。」
シェラをよこせ、と手を差し出すD.Sに、ダイ・アモンはしぶ しぶ従う。先に目をつけたのは、この私だ、と言いたかったが、 何と言っても呪いは恐い。蛙にはなりたくはない。
「でー、結局はこうなるんだよなー。なんと言っても俺様は、超 絶美形主人公様だもんなー。」
シッシッ!と手でダイ・アモンを追い払い、その腕に気を失った ままのシェラを抱え、狼のしっぽを振りふり上機嫌のD.S。
「ふっふっふ・・んじゃー、遠慮なく〜・・。」
−ドゲッシーーーーン!!−
その途端、D.Sの頭上に100tハンマーが炸裂する!
「っ痛ーーっ!」
「はーっ!はーっ!・・」
「ヨ、ヨーコさん?!」
D.Sが振り向くと、そこにはそのハンマーを抱えたヨーコが、 D.Sを睨み付け、荒い息をしながらて立っていた。
「ル、ルーシエーーーー!君って奴わー!」
「ナメナメーーー!(この野郎ー!)」
「こ、このナメクジ野郎!ヨーコさんにチクリやがったな?」
ヨーコの足下のナメナメを見つけたD.Sが叫ぶ。
「ナメ!(へん!)」
「何威張ってんのよ、ルーシェーっ!?」
そのD.Sの態度に、ますます怒り爆発のヨーコ。
習慣は恐ろしいもの、つい今し方までの態度はどこへやら、ヨー コの怒りに恐れをなし、D.Sは幼子のように頭をかかえて、そ の場に座り込んだ。
「だ、だけど、どうしてここにヨーコさんが?」
そして、恐るおそる口を開くD.S。
「どうしてって・・修学旅行だよ。」
その場に腰を下し、シェラを抱きかかえながら答えるヨーコの顔 からは、怒りがもう消えている。
「し、修学旅行?」
「うん、だってボク、17歳だもん。ハイスクールのね。古城の 旅、5日間。で、森の小道で偶然バ・ソリーさんと逢ったんだよ。」

 (・・・ハイスクール・・そう、平和なら・・)
意識の底で、シェラは、二人の会話を遠くに聞いていた。
(平和な世界なら、それもありえる。学校へ通い、友達とたわい もない話をして笑い合う、ちょうどそんな年頃。そして、私も、 穏やかな日々を・・。でも・・確か、今は・・・そんな場合じゃ ない・・はず・・・・。)
不思議な感覚に囚われながら、気を失ったままシェラは、ぼんや りした頭でそう考えていた。


「お眠り、私たちの友、大好きなシェラ。せめて良い夢を見て・・。」
惨劇が続く地獄で、全身をずたずたに引き裂かれたシェラの周り、 彼女の友である精霊たちが、その苦しみを見かね、夢を見せてい た。もはやそれしかできないことを悲しみながら。
ただ・・中には悪戯な精霊もいる。(こんな時でさえ)・・楽し いばかりの夢ではないようだが・・・・。

が、現実のこの悪夢に勝るものは、何もないだろう。
この悪夢が終わるのは・・・いつ?・・・・・。




*****THE END*****

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