銀の守護聖・こぼれ話(1)
第3日の曜日の乙女たち
 

**オスカーと恋人同士になる前のお話**

 ある第3週目の日の曜日、セクァヌは女王アンジェリークの呼び出しを受け、宮殿内にあるアンジェリークの私室を訪れていた。

「お待たせしちゃってごめんなさい。」
「あ、いいえ、とんでもございません、陛下。」
ロザリアと共に部屋に入ってきたアンジェリークはにっこりと微笑むと続けた。
「日の曜日というのに、セクァヌに来ていただいたのには訳があるの。」
「はい、なんでしょう、陛下?」
「うふふ。」
アンジェリークは少し悪戯っぽく笑ってからロザリアに目配せする。
ふ〜〜・・・、とロザリアはため息をつくと横に置いてあった箱をテーブルの上に乗せて開けた。
「こ、これ?」
中に入っていたのはフリルのついたワンピース。
「そう。3人おそろいで作ったの。」
「は?」
アンジェリークはその中の1着を取り出すと、セクァヌにあててみる。
「いいわ。ぴったりよ。よく似合うわ。」
「で、でも、似合うといっても・・・。」
それは聖地でも普通にみかける型のワンピース。まさかこれを着て公務につけと言ってるようにも思えないセクァヌは戸惑っていた。
「うふふ。実はね、今から3人でおでかけしようと思ってるの。」
「え?」
「今日ね、主星でとってもかわいらしいファンシーショップと喫茶店がオープンするの。」
「は?」
そうは言われてもそれが何を意味するのかわからず、じっと自分を見ているセクァヌにアンジェリークは小声で言う。
「だから、お忍びで遊びに行きましょうって言ってるの。」
「ヘ・・陛下?」
「セクァヌがついていれば大丈夫よね?確か剣の他に武術もできたわよね?
太極拳によく似た。」
「あ、はい、そうですが・・でも陛下・・」
セクァヌは返事に困ってロザリアを見る。
ロザリアは半ば呆れた顔でセクァヌに微笑む。
「だめ、こうなったらいくら言い聞かせてもだめなのよ。今までは私と2人では、ということで一応諦めてくれてはいたんだけど・・・・」
私がいるから?と自分を指で指すセクァヌに、アンジェリークはにっこりした。
「そう。2人だけだとやっぱり不安かな〜って思ってたの。ジュリアスに言ったらそれこそ睨まれてしまうし・・他の人でも同じようなものでしょ。それに、やっぱり女の子同士でなきゃ!」
「は、はあ・・・・」
「じゃー、さっそく着替えましょ。早くしないと向こうは日が暮れてしまうわ。」
ワンピースを差し出すアンジェリークに、セクァヌは少し戸惑う。
「あ、でも私・・・」
「大丈夫、あなたのは襟を高くしておいたし、それにこれ!」
「これ?」
アンジェリークは小さな箱を差し出す。
「ファンデよ。あとストッキング履けば大丈夫。」
傷跡は見えないとアンジェリークは太鼓判を押す。
「ロザリア様・・」
助け舟を求められたロザリアは、苦笑い。
「一度行って気が治まる事を祈るしかないわ。」

かくして、3人のお忍び旅行(?)が始まった。
聖地を離れ、星に降り立つ。そこは賑やかな繁華街。
「チャーリーさんにもらった地図でいくと確か・・・あ!こっちだわ。」
セクァヌにとっては初めての景観だった。往来を自動車が行き来し、高層ビルが並んでいる。一応、聖地へ来てから学問上では勉強はしたが。
「ふふっ、セクァヌは初めてなのよね?」
「え、ええ。」
「私が女の子の楽しみ、たっくさん教えてあげるわね。」
「女の子の楽しみ?」
「そう!今でなくちゃ楽しめない事。思いっきり女子学生しちゃいましょ?!」
「陛下!」
「だめよ、ロザリア!今日の私はどこにでもいる女の子なんだから。ロザリアもセクァヌも!」
ご苦労お察しします、というセクァヌの視線を受け、ロザリアは苦笑いする。
「今日はアンジェって呼んでね。あ!そうそう!せっかくだから、あなたたちもロザリーとセーラということにして、ねっ!」
は〜〜〜・・・と地の底まで落ちそうなロザリアのため息が聞こえた。

が、なにはともあれ、例え貴族出身のロザリアでも17歳の女の子には違いない。そして、セクァヌも・・・育った環境が環境のため、なかなか慣れなかったが、それでも楽しいと感じることは、全国・・いや、全宇宙、このくらいの歳の女の子にとっては共通なのである。
3人すっかり女子高生していた。
「あ!このイヤリング、セーラ似合いそう。ねー、今度オスカー様にねだったら?あ・・・来たことがばれちゃうわね。じゃー・・そうね、カタログでもチャーリーさんからもらって・・・」
「もう!私とオスカー様はそんなんじゃないです。」
「じゃーどんななの?」
「どんなって・・・・私、べ、べつに・・・」
「ひょっとしてジュリアス様の方?」
「もう!ロザリーまでからかうんだから!」
「だってそうでしょ?なんといっても守護聖TOP2人に挟まれて・・いいわね〜?」
「わ、私・・そんなつもりじゃ・・・」
勿論、アンジェリークもロザリアもセクァヌにそんな気はないということは承知してからかっていた。
「でも、そうよね、確かにお2人とも素敵だけど、まだ私たち若いんだから・・」
「そうよね、ロザリー。今から一人に決めることないわよね?」
「あ・・・あの・・・・」
こういう会話になれていないセクァヌは戸惑っていた。

それでもしばらく時が過ぎれば、お互い意気投合し、少女3人は楽しく愉快に過ごしていた。

「やー、君たち、一緒にお茶でもしない?」
十分楽しんでそろそろ帰ろうと、転移地点に向かって、通りを歩いていると、同じような3人組の少年が声をかけてきた。
「ごめんなさい、私たちもう帰らなくちゃいけないから。」
にっこりと笑ってアンジェリークが答える。
「まだ早いぜ?いいだろ?そんな冷たいこといわないでさー。」
少年たちはぐっと近づいてきて、その中の1人がアンジェリークの肩に手をかけようとする。
−パン!−
その手はセクァヌによって勢いよくはねつけられる。
「な、なんだよ・・・もったいぶることないだろ?楽しくやろうぜ?」
いくら断ってもしつこく付きまとう。
「アンジェ?」
セクァヌとアンジェリークが目で合図をしあう。
「オッケーよ。」
そして、それでも手を伸ばしてくる少年たちへ、セクァヌの拳が炸裂した。でも手加減して。
−ズン!バキッ!ドガッ!グシャッ!−
「こ、この〜〜・・女だと思って下出にでてりゃーーー!」
頭に来たらしいその中の一人が、ピッとナイフを出して3人を睨む。
睨んだが・・・それに対抗すべく構えたセクァヌの気迫の方がすごかった。
「あ・・・・・あ、あの・・・・・・・」
オスカーでさえ呑まれたその気迫にその辺りの少年が対抗できるわけはない。
「し・・しっつれいしましたーーーーーーー・・・・・」
真っ青になったその少年たちはほうほうの体で逃げていった。

「ぷっ・・・・・あはははははは!」
3人は顔を見合わせて笑っていた。


そして聖地へ戻った3人を待っていたのは、鬼のごとき形相で睨んでいるジュリアス、首座の守護聖その人だった。研究員には口止めをしておいたのだが、ジュリアスの究明に口を割ったらしい。

「陛下!」
「ジ、ジュリアス、何か急用でもありましたの?」
さすがのアンジェリークも少し焦りながらそれでも微笑む。
「いえ・・別にそういうわけではございませんが。それはともかく、この事態は何事です!?もしも陛下の御身に何か起きたらどうされる・・」
「はい、申し訳ございません。」
アンジェリークはジュリアスが最後まで言わないうちに謝った。
「・・・わかってくださったのなら結構ですが・・・」
そして、今度はロザリアとセクァヌに目を向ける。
「あ!ロザリアとセクァヌは悪くないの。私が強引に連れていったのですから。」
慌ててアンジェリークは2人をかばう。
「ごほん!では、今日はそういうことにして私も目を瞑りましょう。ですが、陛下、今後このような事態は決して起こされませんように。よろしいですか?」
依然として眉間にシワをたて怒り顔のジュリアスに、アンジェリークは小声で言った。
「そんな顔ばかりしてるとセクァヌに嫌われてしまうわよ?」
「は?」
思わずジュリアスはセクァヌを見る。セクァヌもジュリアスの勢いに萎縮してしまっているかように思え、どきっとする。
「ふふっ!」
そのジュリアスの動揺を見抜いたかのようにアンジェリークは再びジュリアスだけに聞こえる声で言った。
「私に急用ではなくて、彼女に用があったのでしょう?」
「ヘ、陛下?・・そ、そのようなことは・・・・」
「ジュリアスもかわいいと思うでしょ?ワンピース姿の彼女も。」
「陛下・・・・」
確かにそうだった。実は3人が戻ってきた時、ジュリアスの目がまず行ったのはセクァヌだった。執務服か乗馬服の姿しか見たことのないセクァヌの膝から下が出ているワンピース姿は、ある種ジュリアスにとって衝撃的だった。
急にどもりがちに言うジュリアスに、ロザリアとセクァヌはどうしたのか、と不思議そうに彼を見る。しかも心なしか顔が赤い?それは確かに怒りのせいではないように思えた。
焦る自分を落ち着かせようと、ごほん!と大きく咳払いしてからジュリアスは言った。
「と、とにかく、今後はこのようなことの無きようご承知おき願いたい。よろしいですね、陛下、ロザリア、それからセクァヌ。」
「はい。」

が、一度覚えた麻薬は止められない。それは少女期の楽しみなのだから。サクリアをなくし、聖地を離れる時はいつなのかはわからない。今楽しんでおかなくては経験しないで終わってしまう。アンジェリークの言葉に、断固反対していたジュリアスもついに折れ、毎月定例事項となってしまった。

勿論、ジュリアスの説得にはセクァヌがかりだされたということと、はしゃぎながら歩く少女たちの後ろには、変装した誰かの影がぴったりとくっつくようになったということは、言うまでもない。


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