ポストフレンド 



●● 青ぷよくんのアルバイト ●●



 「ボクだってアルバイトしたいぷよぉ〜!」
そう叫んで斡旋所であるマドーワークに駆け込んだ青ぷよくん。
「それも、緑ぷよくんたちより、ずっと知的なアルバイトを!」
そう、赤ぷよくん、黄ぷよくん、そして緑ぷよくんは、信号機のアルバイトで 忙しい。(参)1人取り残された青ぷよくんは、緑ぷよくんたちを見返してやろうと張り切っていた。
「ふ・ふ・ふ・・・来たのね〜・・」
「な・・なに?」
建物の中に入った青ぷよくんは、一瞬ぎょっとした。
そこには、宝箱仕様のアタッシュケースの上に乗った真っ赤な出目金が不気味に笑っていた。
「な・・なんだ、ふふふじゃないか?職業替えしたぷよ?」
「ふ・ふ・ふ・・まーねー・・。」
その飛び出した大きな目は、焦点が定まっていないようで、きちんと青ぷよくんを見ている。
はたからでは、まるでどこを見つめているか分からない感じだが。
「でさー、ボクにもできそうなアルバイトあるぷよ?」
「ふ・ふ・ふ・・・探す、のね?」
「う・・うん・・・」
いちいち不気味に笑うふふふ。
「緑ぷよくんたちより知的ないいアルバイトがいいんだぷよ。」
「ふ・ふ・ふ・・・了解〜」
アタッシュケースから下りると、ふふふはその蓋を開ける。
「ええーーー?!」
青ぷよくんはびっくりした。
何故って中は、商品が入ってるんじゃなく、書類が入っているわけでもなく・・・ それは、最新のノート型・・もとい!アタッシュケース型PCだった。
−ピッピッピッ!−
慣れた手(ヒレ)つきで操作するふふふ。
「ふ・ふ・ふ・・・只今検索中よ。しばらくお待ちくださいねー。」
「は・・はい・・。」
(い、いつのまに・・ふふふったらこんなもの使いこなせるようになったぷよ?)
感心しながらじっと見ている青ぷよくん。
−ピポッ!−
「ふ・ふ・ふ・・・出たわよ、知的なアルバイト。」
「え?どんなの?」
ふふふの横からPCの画面を覗き込む青ぷよくん。
そこには・・・・・

*** 求む!ポストフレンド!! ***

電脳郵便配達のお仕事です。
誰でも簡単にできます。
マップ、メールバッグ支給。
バス付き豪華ワンルーム無償提供。
食事、おやつ、プレイタイム付き。
賃金はノルマ制。
但し、期間は1か月単位となります。
その間休日はありません。

> 「うーーん・・お休みがないのがちょっとってとこだけど・・・ 豪華ワンルーム、食事とおやつ、プレイタイム付き、というのが いいぷよ〜。」
「ふ・ふ・ふ・・行・く・の・ね?」
「う・・うん・・。」
ふふふのその不思議な視線に、まるで魔法にでもかかってしまったかのように、 青ぷよくんは、つい返事をしてしまっていた。
「ふ・ふ・ふ・・・じゃー、メールバッグとマニュアルをお渡ししますね。マニュアルはよく読んで下さいね。」
手渡されたそのマニュアルには、郵便配達に関する注意事項がびっしりと書いてあった。
「は、はい。」
カチン!とバッグのベルトを身体にはめる青ぷよくん。
「困った時はそのマニュアルに対処方法が書いてあるし、お部屋からポストフレンドセンターへ連絡できるように もなってるから、心配いらないわよ。」
ふ・ふ・ふ・・・と笑い、満足そうに目を細めるふふふ。
「はい、分かりました。」
始めての仕事、青ぷよくんは、緊張した心持ちでびしっと身体を強張らせた。
その大粒な瞳は爛々と輝いている。
(どうせ遊ぶ友達いないぷよ・・・だから泊まりがけのアルバイトでもOKだし、それに 緑ぷよくんたちに威張れるぷよ!」
そして、1ヶ月泊まり込みでということで契約した青ぷよくんは、さっそく出かけることになった。
「ふ・ふ・ふ・・・用意は、いいですか?」
「はい!」
「ふ・ふ・ふ・・・では、その転送装置の中に入って下さい。」
部屋の奥の縦型カプセルを指さして(ヒレで)ふふふが笑う。
「こ、この中に?」
少し不安げにカプセルとふふふと交互に見る青ぷよくん。
「ふ・ふ・ふ・・・それは、仕事先である電脳の世界にあなたを転送する装置です。痛みも何もありませんよ。 魔法陣と同じですから。」
「そ、そうぷよ?」
ふふふの言葉を信じて、青ぷよくんは、そっと中に入った。
−ブブブブブ!−
「ふ・ふ・ふ・・・行ってらっしゃい。」
装置が作動し、青ぷよくんの目の前の景色が歪み、しばらくすると可愛らしい部屋の中にいる自分に気がついた。
「ここが食事とおやつ、プレイタイム有りのアルバイト先のバス付きワンルームぷよ?」
ふかふかのベッドにふっくらソファと可愛いテーブル、PCの置いてあるデスクとアームチェア、そして、ポストがあった。
「わー、ボク、気に入ったぷよ!」
ベッドでぽよんぽよん跳ねながらはしゃぐ青ぷよくん。
「ハーイ!あなたが新しいポスフレくん?」
シャッ!と部屋の壁にかかっているカーテンが開いたと思ったら、そこに可愛らしい人間の女の子の 顔が写る。
「ポスフレ?」
「そう、ポストフレンドの略した言い方よ。」
「あ!なーる・・、そうぷよ。よろしくぷよ!」
ベッドから下りると、青ぷよくんは、壁の前まで進みきちんと挨拶した。
「よろしくね。ぷよぷよだから、ポスぷよくんでいい?」
マニュアルに、ご主人様には逆らうな、と書かれていた事を思い出し、 こくんとうなずく青ぷよくん。
「よろしくねー。じゃー、さっそくだけど、お手紙の配達よろしく。宛先はきちんと書いてあるから。」
「はい!任してぷよ。では、準備が出来次第出かけるぷよ。」
その女の子がバイバイ!と手を振ってカーテンを閉めると、青ぷよくんは早速専用メールカーに乗った。
いよいよ初めての仕事。頭の上に大切な手紙を乗せた青ぷよくんは、緊張で全身を震わせていた。
−ピッピッピ!−
部屋のデスクに置いてあるPCのインサーターに頼まれた手紙を入れる。
−ピロロロロ−
すると画面に相手先の家までの道筋が表示された。
「えっとー・・・受取人は、ぽこぽこシティーの15番地、かず様でー、ここへ行くには、ターミナルステー ション#261から回線26号へ出るんだな。よーーし!」
行き先とマップをしっかり頭に刻み、青ぷよくんは、メールバッグの中に手紙をしまうと そのベルトをしっかりと身体にくくりつけ、勢いよくドアを開けて部屋の外に出た。
−シューーーーーン−
外は、ちょうど川の流れように電波が流れている。
「よーーし・・Goーー!」
勢いをつけてその流れの中に入る青ぷよくん。
−シュオ〜〜ン!−
1000bps...5000...9000...20000.....50000....
流れの真ん中に寄っていくにつれスピードも上がる。青ぷよくんは、メールバッグのベルト部分に取り付けられている スピードメーターにじっと見入っていた。
この種の経験は何もかも初めての青ぷよくんは、興味深げにきょろきょろと周りを見渡していた。
青ぷよくんと同じように流れに乗って移動しているのは、みんなポストフレンドとばれる郵便配達人たちだ。
犬や猫、熊やドラゴン・・いろんな配達人がいた。

 「あ・・あれ?・・回線26号への流れって・・?」
どこをどう間違えたのか、それとも気づかずに通り過ぎてしまったのか、青ぷよくんは ターミナル内でまよってしまった。
「も・・もしかして・・ぼく、迷子になっちゃったぷよ?!」
ついよそ見してしまっていたのが悪かった。青ぷよくんは、もう真っ青。(初めから青いけど・・)
「ど・・どうるすぷよ〜?・・・」
そこにいるポスフレたちは、誰もかれも忙しそうに歩いている。
どうしようか?センターに連絡して聞いてみようか、と考えていると、バロメッツの姿が目に入った。
「あ!バロメッツくぅ〜ん!」
「あ!青ぷよくん!」
メェ〜と嬉しそうに鳴いて近づいてくるバロメッツ。
「バロメッツくんもアルバイト?」
「メェ〜、そうだよ。」
早速青ぷよくんは、回線26号への道を聞いた。
「ああ・・それなら、気づかずに来ちゃったんだね。ちょっと戻ればいいんだメェ〜。」
「よかった・・ありがとうぷよ!」
「よかったメェ〜〜。」
よかったと言うバロメッツの様子が少しも良かった風ではない。青ぷよくんは何かあったんだと感じる。
「バロメッツくん・・何かあったの?」
、 「ん?」
なかなか言わなかったバロメッツだったが、本気で心配している青ぷよくんに押され、最後にぽつんと言った。
「ボ、ボク・・・配達途中にお腹がすいて・・つ、つい・・食べちゃったの・・」
「た、食べちゃったって・・・手紙を?」
「そんなつもりなかったんだメェ〜・・宛先を確認するつもりだったんだメェ〜・・」
「気が付いたら食べちゃってたぷよ?」
「メェ〜・・・・」
半泣きで話すバロメッツは、大きな真っ赤な果実の中から顔を出している羊タイプの魔物。
「ど、どうしよう?」
「どうしようって言っても・・・正直に話すしかないぷよ?」
誤って流れの中に落としてしまったのなら、センターに連絡して探してもらう方法もある、が、 食べてしまったのでは、どうしようもない。
「ボク、首になっちゃうかな〜・・・メェ〜・・・」
「だ、大丈夫だよ。正直に話せばもう一度書いてくれるかもしれないぷよ?」
「・・・ボクのご主人様って・・厳しそうなんだメェ〜・・・」
泣きながら立ち去るバロメッツにかける言葉はなかった。
「ボ、ボクも無くさないよう気をつけなくっちゃ!」

 そして、あちこち彷徨いもしたが、なんとか無事目的の家へ到着。
「・・15番地、かず・・あ!ここだここだ!ようやく探し当てたぷよ!よかったぷよ〜。」
−コンコン!−
もう一度バッグの中に手紙が確かに入っているのを確認して、礼儀正しくドアをノックする。
−カチャリ−
ドアを開け、出迎えてくれたのは、ドラゴンのポスフレだった。
「ごくろうさまー。どうぞ中へ。」
「お邪魔します!」
中に入り、青ぷよくんは、部屋の玄関にあるポストへご主人様からの手紙を入れた。
−ストン−
「じゃー、ぼくこれで。」
「あれ?遊んでいかないの?ねーねー、遊ぼうよ。ボク、今仕事ないんだ。」
「えっとー・・どうしよう?」
初めての仕事でもあり、すぐにでも帰ってご主人様にご報告を、と思っていた青ぷよくん。
でも、楽しそうだったのでつい遊び始めてしまった。

 「ああーっ!もう、こんな時間ぷよ?」
楽しくて時の経つのを忘れていた青ぷよくん。
出てきたのはお昼頃だったのに、早くも夜になってしまっていた。
「じゃーまたね。」
ドラゴンくんと別れを惜しみながら、青ぷよくんは、帰途についた。

 と・・・・・
「な、なに、この混雑さは?あ!そうだ!確かマニュアルの注意事項に書いてあった!夜の11時過ぎると ラッシュアワーだって・・でも、こんなすごいなんて・・・」
青ぷよくんは、ただでさえ青いのに、もうそれ以上青くならないほど青くなって焦った。
「仕事第1日目だというのに・・・カッコ悪いぷよ・・・怒られちゃうぷよ?」
混雑さはますます酷くなり、もう渋滞なんてもんじゃない・・・。
「どうしよ〜ぷよ?・・・」
それでも一応進んではいる。現在のスピードは、たったの20000bps。
そのスピードは、まだまだ下がっていく気配。

−シュウーーーン−
「あ!と、止まっちゃったぷよ・・・」
青ぷよくんの脳裏に、仕事完了の報告を待つご主人様の顔が浮かぶ。
「ど・・どうしよーーー?」
焦っていても仕方がない。それでもなんとかターミナルまで来た青ぷよくんは、展望台からその流れをみていた。
「わいわい、がやがや」
そこは同じように混雑が過ぎるのを待つポスフレが大勢いた。

そして、しばらくして・・
「おおーい!流れ出したぞ!」
その声でみんなは一斉に流れに乗ろうとそっちに向かった。
と・・・
「あ!ボクと同じぷよぷよだ!」
青ぷよくんは仲間の姿を発見して、嬉しさで一杯になった。・・・
・・・も、つかの間・・・
急いでいたのだろうか、流れに乗ろうと駆けていたそのぷよぷよに 別のぷよぷよがぶつかった・・そして、不幸にも、それが2度3度と続いた・・・
−ぽよよ〜〜〜ん!−
「ああー!れ、連鎖しちゃった!!」
こんな不幸な事があっていいのだろうか?偶然にも同じ赤ぷよが4つぶつかり、当然の如く 消滅した・・。
「・・・な、なんてこと・・・」
仲間の消滅を目の前にして、青ぷよくんは、自分も駆けだそうとしていたのを止め、流れに向かって 慎重に歩いた。
「・・・あのぷよぷよたちのご主人様・・・待っているだろうに・・・」
流れに乗って移動しながら、青ぷよくんは、そう考えていた。

「ただいまー!」
怒られはしないか?と冷やひやだったが、青ぷよくんは、それでも元気一杯の声で部屋に入った。
その青ぷよくんを迎えたのは、心配そうなご主人様の顔だった。
「よかったー、心配してたのよ、迷子になってやしないかって。」
「ご、ごめんなさいぷよ。」
照れ笑いをすると、青ぷよくんは慌てて今日の報告書を書く。
「はい、お夕食よ。」
「わーい!」
夕食後、少し遊ぶ?と言ってくれたご主人様に、今日は初めてで疲れたからと丁寧に 遠慮すると、青ぷよくんは、お風呂に入りふかふかのベッドに潜り込む。
「こんなアルバイトなら1ヶ月と言わず、ずっとでもいいなぁ・・。」
そう呟きながらうとうとと眠りに入る青ぷよくんは、まだこの仕事がいかに大変なのか、非情なのか全く 分かっていなかった。

そして、次の日から目の回る日々が始まった。
どうやら前日向こうで遊んでいたのは正解だったらしい。
その日は、また同じ事をしてもいけないと思った青ぷよくんは、遊びもせず手紙を届けるとすぐ戻ってきた。
そして、その事は、青ぷよくんの仕事を増やす結果となった。

あっちへ行ってこっちへ行って・・・ポストはチェックしないといけないし、部屋にいるときは、 手紙を持って来てくれた同業者の相手もしないといけない。
もうハードワークなんてものじゃなかった。

そして、何度目かの配達の時、それまでの配達先と記憶がごちゃごちゃになって 困っている青ぷよくんは、偶然にも青ぷよくんが派遣される前、そこで働いていたポスフレにあった。
彼は、まだこの世界のことを良く知らない青ぷよくんをステーションの地下へ連れていった。
そこには、大量な手紙を出す人間のブラックリスト、気をつけるべき不良ポスペ。行方不明になってしまった尋ねレターや尋ね人 などのリストが所狭しと貼ってあった。
「いいか・・あんまりきまじめになるなよ!ここで仕事を続けたかったら、適度に遊ぶ事だ。たまには、わざと行方不明になるのもいい手だぞ。ただし、2、3日 までにしときな。相手にされすぎるってのも疲れるけど、飽かれないようにする事も大切だしな。まー、いろいろ駆け引きが難しいよ。」
そして、奥にあったひときわ大きい写真は、現在青ぷよくんが遣えているご主人様だった。
「・・・ワースト5位・・・」
呆然としてそれを見つめる青ぷよくん。
「まー、なんだな、オレ達ポスフレにとって、いかに、こういうわがままな人間を乗りこなすかといった事が重要だな。 この人も最初のうちは優しかったんだが・・2、3日すぎれば本性がでるし・・。」
腕組みしながら、渋い顔をして話す熊のポスフレ。
「最初の珍しいうちだけで、後はほかっておかれるよりいいけどさ。」
どきっとした青ぷよくんの気持ちを察したのか、彼は慌ててフォローした。
「ま、頑張れよ!身体壊さないようにな!」
「う・・うん・」
「あ、それから家出した不良ポスフレには気をつけな。嫌がらせする奴らもいるし。」
「・・・」
一度に裏の事をいろいろ聞かされて唖然とする青ぷよくん。
「ははは!脅かしちゃったかな?心配ないって。困ったことがあったらセンターに連絡すれば、解決策教えてくれるよ。」
「うん・・。」
そう思いながら、青ぷよくんの目には、壁にかけられた大きなリストに書いてある文字が写っていた。
『不明宛先及び紛失メールを発見された方には、金一封さしあげます。』
青ぷよくんのバッグには、その中に書いてあるメールの1つが入っていた。ついさっき拾ったばかり。
それを確認して、にまっと笑う青ぷよくんは、結構したたかなのかもしれなかった。

 



●●  お わ り  ●●

(参)顔文字4コマ、[アルバイトぷよ♪]

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