星々の軌跡


その19・解けてきたパズル

COSMOSさんが描いてくださいました。ありがとうございます。


 「久しぶりだ、ヒアスラも、カロノスも。」
ニーナは、予定通り、カロノス星系にあるヒアスラ・スターベースに来ていた。
「親父さん、元気だった?」
早速彼女は、酒場の主人に会いに来た。
「やあ、ニーナ、生きてたようだね。」
主人はカウンターの中で微笑む。
「親父さんもね。」
笑顔を返し、ニーナはカウンターに座る。
「一杯くれない?親父さんお薦めのおいしいやつ。」
「俺のとこのは全部うまいんだぞ。」
少しおどけたように言うと、主人はジョッキにビールを注いだ。
「さあ、飲みねえ、飲みねぇ。」
「ありがと。」
「た・だ・し・・・飲みつぶれないように、なっ!」
主人はニーナにそう言って、ウインクした。
「やぁーだ、親父さん、もうそんなことしないよお!」
初対面の時の事を思い出して、彼女は赤面した。

久しぶりにニーナはおいしい酒を飲んだ気がした。父親のように思っている主人ととても気持ちよく話せ、本当に気持ちよく飲めた。
その日、ニーナは閉店後も主人の頼みで、そこで時間のたつのも忘れて話していた。
但し、今ニーナが直面している難題らしき事は、主人にまで迷惑がかかってもと思い、話すことはやめたが・・。

やはり、出入りの多いヒアスラだけはある。ニーナはいろいろな話を、主人から聞く事ができた。
ヒアスラ皇帝がどうやらもうすぐ退位するようなこと、マンチーの攻撃が以前にも増して、酷くなってきていること、議会もマンチーを撃退できる皇帝を望んでいること、そしてやはり、最有力候補は、コス提督だろうということだ。
勿論、バスルチの事件とか、ブラックハンドによるとみられる殺人事件とかも。


次の朝、ニーナはカウンターで主人と一緒に朝食を取っていた。
「あんなこと言ってまた酔いつぶれちゃった。あははは。」
ニーナは頭を掻きながら、照れ笑いをした。
「いいんだよ。昨日は俺が引き留めて飲ませたんだから。」
主人も笑った。
「失礼します、朝食お願いできますか?」
店の入り口には、帝国警備隊の略式制服を着た若い男が立っていた。
「もちろんですよ、どうぞおかけ下さい。」
主人は彼にニーナの横のイスを勧めた。
「はい。」
彼はそこに座り、ニーナに話しかける。
「おはようございます。」
「お、おはようございます。」
彼のあまりの礼儀良さに、ニーナは少し戸惑いを覚えた。
「自分の名前は、トゥームと言います。まだ単なる歩兵です。今休暇中なので、ファーアーム中を旅してるんです。」
「私、ニーナって言います。一応、貿易商ってとこです。」
「お一人で大変でしょう。でもいろんな所に行って、いろんな人に会うっていうのは、とても意義有ることだと思います。」

トゥームは、ニーナに聞かれるまま、彼の出会った人たちのことを事細かく話してくれた。
その他人を疑うことをしらない彼に、ニーナは昔の自分を見ているような気がしていた。プリンセス・ブルー号に乗って旅をしていた頃を思い出していた。周りの人は、みんないい人だと思っていたあの頃の自分を。
そして、今まで、ニーナが手に入れてなかった情報も。
それは、公妃がブラックハンドと何やら衝突していること。そして、タルゴン隊長が極秘の任務についていて、公妃の敵に捕まったらしく、行方が今もってわからないということなど。偶然にもトゥームは、タルゴン隊長の部下だった。

「隊長は、すばらしい上官でした。自分を一人前に育ててくださったし。それにファーアームで一番勇敢な戦士なんです。小さな偵察艇でコルセアを倒したくらいなんですから。」
コルセアとは、大型の海賊船である。その装備は、帝国軍の大型軍艦、タイタンに匹敵する。
タルゴン隊長のこととなると、彼の舌はどんどん熱を帯びていった。
(よほど、尊敬し、慕っているのだろう。)とニーナは思った。
「ですから、公妃様と意見が合わず退官させられた、などというのは、あり得ないのです。隊長ほど忠実な部下はいません。きっと、何か、やむをえない、何かがそうさせたのだと思います。」
「そうね、私もそう思う。」
ニーナはなんとなくパズルの全体が分かってきたような気がした。はっきりしてきたのだ。
「いい話をいっぱいありがとう、トゥーム。じゃ、私行くから、またね。」
「いいえ、こちらこそ、お話ができて楽しかったです。良い旅を、ニーナさん。」
「親父さん、また来るね。トゥーム、タルゴン隊長のような、立派な兵隊さんになってね。またどこかで!」
ニーナは、まだ話し足りないようなトゥームとバーの主人に別れを言うと、急いでポートに向かった。
(こうしちゃいられない、とにかく、公妃様に会わなきゃ。なんとしてでも!)


「ニーナさん、ニーナさんではありませんか?」
前から来た、妙な付属品をいっぱい付けたロボットが、ポートに急ぐニーナを呼び止めた。
「そうだけど・・私、急いでるから・・・」
そう言って通り過ぎようとしたニーナの服の端を、そのロボットは、はっし!と掴んだ。
−ビリリッ!−
「ああっ!破れちゃった!」
「す、すみません。」
そのロボットはペコペコ謝る。
「もう!何か用ですか?」
少し強い口調で言うニーナ。
「私の名前は、HAL9Kです。プリンセス・ロナ号の修理ロボットです。」
ロボットは丁寧にお辞儀をしてから自己紹介をした。
「私のデータパケットには、あなたの記録があります。」
「ま、まさか・・・コスで盗んじゃったことが・・・」
ニーナの顔色は見る見る間に青くなっていった。
「LUX−23Aをご存じですね。」
「えっ?!じゃ、そっちの方で・・・?」
(どっちにしろやばい、逃げた方がいいぞ。)
と焦り始めたニーナにHAL9Kの言った言葉は、彼女が全く予期しなかったことだった。
「LUX−23Aは、私の親友なんです。あなたが彼を救って下さったそうですね。ポートにあなたの船を見つけて、急いで探しに来たんです。LUXに代わって私に恩返しをさせて下さい。」
彼は後ろに控えていたロボットをニーナに紹介した。

COSMOSさんからいただきました。
いつもありがとうございます。



「これは、最新式の小型モデルロボです。まだ、本当の初期設定だけですので、性格付けなどは、ご自身でお願い致します。が、修理ロボとしては、このサイズでは画期的な製品です。」
HAL9Kは、まるで自分が人間のブローカーの様な口の聞き方をしていた。
「修理に必要な計器、道具などは、全て備わっておりますし、また、その知識に関しては、このロボットの右に出るのもがありません。」
HAL9Kは、うほん!と咳払いしてから続けた。
「但し・・・私には負けますがね。」
「ぷっ・・・あはははは!・・・し、失礼。」
ニーナはつい出てしまった笑いを必死に押さえた。

そして、そのロボットを改めて見るニーナ。
(うぷぷp・・・こ、これって・・カラクリ人形か、それとも福助?・・・)
今少しで吹き出しそうになってしまったのを必死で抑え、ニーナは言う。

「いいんですか、こんな高そうな物・・・じゃない、ロボットを頂いてしまっても?」
「いいもなにも、LUXがあなたにはいくら感謝しても、しつくせないと言っていましたので。なかなか私たちロボットやアンドロイドに親切にして下さる人間はいませんから、本当にうれしいのです。これは、ほんの私たちからのお礼です。」
「ど、どうもありがとう!本当は修理ロボがいると、とても心強いのよ!」
ニーナは、素直に好意を受けることにした。本当に高性能なのかその外見からでは疑わしかったが、せっかくもらった修理ロボ。そんな失礼な事は言えない。そして、何事も外見で判断してはいけないのだ。
それに、どことなく親しみを感じた。その愛嬌のある顔に。

LUXによろしく伝えてね、とHAL9Kに別れを告げ、修理ロボットを連れてヒアスラを後にした。



<<TO BE CONTINUED>>


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