*オンラインサインアップ*


 「何か面白いことないかなぁ・・・」
パソコン通信をしている山岸那智は、全国的パソコンネットの『ラフ・サーブ』に繋ぎ何か面白いコーナーがないかな、とあちこち見ていた。(古い話でごめんなさい。インターネットが普及する前の話です。)
「何、これ?『堕天使の世界』って?」
面白そうと思った那智は、早速その会議室に入りタイトルを読んだ。そこには、堕天使についての情報が満載されてあった。なかなか面白いと思った彼女は、会員登録するといろいろと見て回った。
「ん?・・契約の間?」
面白そうだと思った那智は、その会議室に掲載されているメールを読み始めた。そこには、契約の間に登録した事を感謝するメールが山のように書き込まれていた。
「ふ〜ん・・・私も登録しようかな?」
那智は高校2年、陸上部員だった。が、最近スランプ気味で、思うようにタイムが出せず、ずっと落ち込んでいた。
月会費2千円は少し痛い気もしたが、バイトで何とか払えそうだし、2週間は無料体験できるということで、那智は気軽に登録した。が、その契約に際しての注意欄を最後まで読むのが面倒に思った那智は、その事だけ読むと後は止めてしまったのだった。
翌日から那智は超ラッキー状態が続いた。抜き打ちテストは、開始前にちらっと見た箇所ばかりだったし、放課後の部活も今までのスランプが嘘のようにいいタイムが出た。
いや、いいなんてもんじゃない、新記録の連続だった。那智があまり得意でない競技でさえも。
「おい、山岸、どうしたんだ?すごいじゃないか!」
陸上部の顧問ばかりでなく、教頭や校長まで出てきて那智を褒めたたえた。
「はい、何故だかとっても体が軽いんです。まるで翼でもついているみたいなんです。」
自分でも不思議なほどだった。体はまるで宙に浮いているように軽い、いくらでも動けるような気がした。
那智は、ものすごい差をつけて地区大会優勝、県大会優勝と、次々に大会を制覇していった。
ついにはオリンピック候補に上げられ、那智は、その快進撃にテレビや新聞、雑誌等の取材攻撃に会うようになっていた。

 契約の間に登録してから一ヵ月たったそんなある日。
「ただいま〜・・・」
「お帰りなさい。どう?調子は。」
家族まですっかり盛り上がっていた。
「うん・・バッチグーよ。」
が、実はその日は調子が全く出なかったのだ。
那智は重い足取りで二階の自室に入った。机の上には一通の手紙があった。それは、ラフ・サーブの契約の間からの物だった。
そこには、登録=契約されてから、二週間後に送った継続するかどうかの返事がまだ送られて来ないという事とその為、自動的に本契約に移ったという事が書かれてあった。
そういえば、忙しくてこの前来た封書は見ずに引き出しにしまった、と思い出した那智は慌ててそれを出して見ようとした。とその時、
「こんばんは。」
窓から声がし、その声の方を見た那智の目には、黒ずくめの背広姿の若い男の姿が写った。
「だ、誰?」
「私はルキフェル様の使いです。」
訳が分からず動揺している那智に近づくと、その男は彼女が身を交わすまもなく額に口づけをした。
「なっ・・・・」
言葉さえ出ず慌てて額を抑えながら後ずさりする那智に、その男はにこっと微笑んだ。
「これで、契約は完了です。あなたの人生に幸あらん事を。」
「な、なんなの?」
その男がふっと姿を消すと、那智は恐怖に震えながら、何気なく手に持っていた契約の間からの封書を開けた。
『仮契約(登録)より二週間が経過しました。ご契約を解除される場合は、同封の葉書又はラフ・サーブへメールにて十日以内にお知らせ下さい。通知無き場合、本契約を希望されるものと見なし、一週間以内に、社員が派遣されます。社員との契約手続きが完了するまで一時効果は薄れますが、ご心配はいりません。あなたの一生は悪魔により保証されます。尚、月会費2千円は、ラフ・サーブ運用費に充てさせていただきます。』
手紙の下の方の空白部分に字が浮き出る。
『諸注意:六ヵ月以上引き落とし不能の場合、又は中途解約希望される場合は、その魂を持ってお支払い頂きます。寿命が尽きる満期の場合は、勿論、本契約時の社員がお迎えに参ります。では、貴女様が良き人生を送られる事を願いつつ・・・社員一同、心よりご契約に感謝のお礼を申し上げます。』
読み終わると同時にその文は消え、すべてを悟った那智は恐怖におののきながら姿見を見た。
そこには震える手で手紙をわし掴みにし、真っ青な顔をした自分が写っている。そして、その額には、淡い光りを放つブルーの五芒星が・・・・・。



【お・わ・り】



お読み下さりありがとうございました!(^-^)

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