☆★ 雨降って地固まる? ★☆

*** パラレル番外編8(1) ***
「私ってやっぱりからかわれてた?」

 「最近、カルロスって同行しませんね?」
「あ、ああ・・そうだな。」
「諦めたんでしょうか・・・?」
「何を?」
「だから、ミルフィーの事ですよ?」
宿の食堂の一角、レイミアスが小声でレオンに話しかけていた。
「・・・・・・」
レオンは、そのレイミアスの問いにどう答えようか迷いを感じて口ごもる。
「レオン?」
が、長いつきあいの彼らである。レイミアスは何かあるとレオンをのぞき込む。
「・・あ、いや・・なんでも・・」
「ないってことはないですよ!」
とぼけようとしたレオンに、レイミアスは鋭く突っ込んだ。
「・・・・・・」
真っ直ぐにレオンの目を見つめる真剣な表情のレイミアスがそこにいた。
そして、こうなったら洗いざらい話さなくては、何があっても引かないことをレオンは知っている。
しかも事がミルフィーに関することと来ればなおさらなのである。
いや、今話していることは確かにミルフィーのことではなく、カルロスの事なのだが・・・カルロスの話がミルフィーに無関係なわけないのである。

「実はな・・・・・」
レオンは、いかにも話しにくそうに口を開いた。


「ええ〜〜?!そ、そんな〜・・・ぼ、ぼく、信じられませんよ!」
話を聞いたレイミアスは、すっとんきょうな声をだした。
「あのカルロスが?」
レオンの話とは、あれだけ執着していたミルフィーのことなどまるで忘れてしまったかのように、カルロスが他の女性とつきあっていることだった。
確かにカルロスがいなければ好都合だと思ったことも時々あった。
僧侶らしからぬ考えだとレイミアスはそんな自分を叱りつけたこともあったが、それでも恋心は、ともするとそう感じさせた。
「オレも見た時ゃ、この目が信じられなかったさ。」
「そ、それで・・・ミルフィーは?」
「あ、ああ・・・・ミルフィーは・・・・・」
「な〜に、こんな隅にいたの?探しちゃったじゃない?」
「ミ・・・・」
不意にミルフィーに声をかけられ2人はぎょっとして声のする方を向く。
「仕事か?」
レオンは慌てて笑顔でその場を繕う。
「そう。今回はちょっと奥まで行くわよ。」
そのレオンの笑顔に、ミルフィーも又笑顔を返して明るく言う。
が、その笑顔がいつものものと少し違うと2人は感じていた。



「・・レオン・・つまり、ミルフィーはカルロスのことを・・・・」
「あ、ああ・・・・間が悪かったというか・・・・オレが見かけたとき、一緒だったんだ。」
「・・・・・・」
塔の中、いつものごとくミルフィーを先頭に進む彼らは、少し間をあけて小声で話しながら歩いていた。
2人の目の前、少し離れた先にミルフィーの背中がある。
いつもと変わらない背中だが、その行動は・・明らかにある種、いつもと違っていた。
それでも戦闘に支障があるわけでも、探索に支障があるわけでもなかった。
どちらかというと、ずんずんと勢い良く進んでいくおかげで、いつもより探索ははかどっている。
はかどっているが、その行動は、明らかにカルロスのことからの苛立ちによるものだと2人は悟っていた。
それは、本人は自覚していなかいじゃもしれなかったが、ミルフィーのカルロスに対する気持ちの現れだと思われた。
そして、レオンは、やはりカルロスを好きになっちまったかと思い、そして、レオンと同じようにそう思いながらも、レイミアスは一抹の寂しさを感じた。
が・・・さしあたっての問題は、それではない。問題は、カルロスの行動なのである。


「そりゃ、カルロスさえ離れてくれれば、ぼくにだってチャンスはあるんだとか・・いろいろ思いましたけど・・・・」
「レイム・・・」
目を伏せがちにして、一言一言確認するように言うレイミアスを、レオンはじっと見つめる。
「でも・・・ぼくは・・・ぼくは、カルロスは、例えミルフィーに振り向かれなくても・・簡単に心変わりするような人じゃないと・・ううん・・絶対心変わりなんかしないと思ってました!」
確かにミルフィーを奪われると思えば、いない方がいい人物でもあった。が、それでも、カルロスという人間に関しては、悪い人物だとは思っていなかったのである。それどころか、もし仮にミルフィーが好きになったとしても、納得できる男だと思っていたのである。
伏せていた視線をきっとあげて少し強めな口調で言ったレイミアスの瞳には、涙がにじんでいるようにも思えた。
「オレもな・・・・・昔は、まー、いろいろあったらしいが・・・ミルフィーの事に関しては真剣だと思ってたんだ。だからミルフィーが選ぶのなら・・・っとと・・・・」
レイミアスの気持ちを考え、レオンは思わず口ごもる。
「いいんです。たぶんそうじゃないかと思ってましたし・・。」

「何うしろでごちゃごちゃ言ってるの?もう目的地も近いんだから、気を抜かないでね!」
「お、おうっ!」
「は、はいっ!」
振り返ったミルフィーに焦って返事をする2人。


「でも・・今のカルロスは・・・・」
再び自分たちに背を向け、すたすたと歩いていくミルフィーの背中を見ながら2人は再び話し始めた。
「・・だよな・・・・」
「ぼく、村へ帰ったら意見してやる!」
「意見って・・・・」
「だって・・・これじゃあんまりですよ。ミルフィーが・・・」
「私がどうかして?」
「あ・・い、いえ・・・べ、別に・・・・。」
興奮のあまり、つい声が大きくなってしまったレイミアスにミルフィーが再び振り返る。
「2人とも何勘違いしてるのよ?」
「勘違い?」
レイミアスとレオン、2人は同時に聞き返していた。
「そう、勘違いよ。私はね・・あんな男、いなくなってせいせいしてるのよ。」
「せいせい・・・」
しまった、聞こえていたのか、と2人はばつの悪そうに苦笑いして顔を見合わせる。
「やっとのことで諦めたってとこでしょ?あれが本性なのよ。まったく・・・女なら誰でも自分になびくと思ってるんだから・・・」
「で、でも、昔はそうだったかもしれませんけど・・でも・・・」
「な〜に?レイムはカルロスの肩を持つっていうの?」
「い、いえ・・そ、そうじゃないですけど・・・でも・・・・」
「とにかく、今はそんな事に気を取られてる場合じゃないわよ?」
複数の魔物の気が彼らに迫ってきていた。それを感じ3人は気を引き締める。そこは聖魔の塔、中層部。目の前の敵に集中しなくては命の保証はない。



そして、その状態が続く中(勿論塔からは無事に帰還)、ミルフィーの元を彼女の故郷ゴーガナスからの使者が訪れた。

「ミルフィー・・いいのか?」
「何が?」
「何がって・・・・このまま帰っちまって?」
「そうですよ、ミルフィー・・・いいんですか?」
「いいも何も・・私が帰らなければこの場で自分の命を絶つって言われちゃ・・帰らないわけにはいかないじゃない?」
「で、でも・・・・」
「し、しかし・・・帰ったら・・・・」
故郷ゴーガナス。そこでは王女であるミルフィーを娶ろうと求婚者たちが待っていた。
「会ってみたらいい人かもしれないし?」
「ミルフィー!」
テーブルを囲み、イスに座って話していた3人。レイミアスがガタッ!と勢い良くそのイスを蹴って立ち上がる。
「いいんですか?それで?・・・・自由と冒険は?ミルフィーは・・ミルフィーにとって、それが生き甲斐なんでしょう?」
「んー・・でも、それもそろそろ卒業して、落ち着いてもいいかな?なんて・・」
「嘘だっ!」
わざと明るく茶目っ気に答えたミルフィーにレイミアスは怒鳴る。
他の女性と幸せそうにしているカルロスをこれ以上見たくない、だから、思ってもいない、願ってもいない事をしようとしている、それで逃げようとしている、と責めているようなレイミアスの瞳から、ミルフィーは視線を外す。
「ミルフィー、もっと自分を大事にしてください。そんな見ず知らずの人と一緒になるなんて・・・」
「じゃー、どうすればいいの?泣いてカルロスにすがれというの?・・・・私のことなどこれっぽっちも目に入っていないのよ?今までだってからかっていたに決まってるのよ。そんなことすれば、勝ち誇ったような顔をされるだけだわ。」
「そんな・・・・」
「それで・・それだけで終わりよ。今のカルロスの目に写っているのはあの人だけよ。やさしくて柔らかくて私なんかと違ってずっと女らしい・・・。」
「ミルフィー・・」
「だいたいおかしかったのよ?そうでしょ?男なら・・私みたいな男か女か分からないような娘じゃなくて、女らしい人の方が・・・」
立て続けに思いつく限りの言葉を口にしていたミルフィーは、まるで自分のことのように心を痛め心配そうに見つめているレイミアスの瞳に、ふっと言葉を切った。
そして、心の中のもう一つの思いを口にした。
「いいの、カルロスがあの人を望んだのなら・・・あの人が好きならそれで・・・。」
「でも・・」
「それにね、帰ったからといってすぐ嫁がなけりゃいけないってこともないと思うの。国王である叔父夫婦とは、ほんの子供の時顔を会わせただけだけど、やさしかったことは覚えてるわ。だから、大丈夫。気分転換のつもりで帰ってみるわ。これ以上心配かけてもいけないし・・ね?」
無理に作ったミルフィーの笑顔。その笑顔にレオンもレイミアスもそれ以上言うことはできなかった。
カルロスがミルフィーの事など、全く目に入れてないことは2人も心が痛むほど知っていたからである。
どういうわけだ、とレオンはレオンで、そして、レイミアスはレイミアスで、カルロスに詰め寄ったのである。その時のカルロスから返ってきた冷たい言葉は、口にはできなかった。
「冗談でも遊びでもなかったつもりだが・・・悪いな、今のオレには彼女しか考えられないんだ。それに、あんたたちがどうこう言ってくるのはお門違いだろ?オレなどいなくなった方が良かったんじゃないのか?」
それは、目の前にいるのは確かにカルロスだった。が、それまでに彼らが知っていた人物とは別人とでも思えるほど冷たかった。言葉だけでなく態度まで、まるで見ず知らぬ者に接しているような態度だった。
「あんな男じゃなかったはずだ。」
ミルフィーの事を一旦横に置いて考えても、自分たちの知っている仲間のカルロスではないように思えた。


そして、国からの迎えの馬車に乗り、トムート村を離れる日・・・カルロスの姿は勿論そこにはなかった。
「・・ぼく・・・・・」
ミルフィーを慰められない自分自身に憤りを感じ、ぎゅっと握られたレイミアスの拳は小刻みに震えていた。
「・・ぼく・・・」
「あ!おいっ!」
同行する予定で乗り込むつもりだったレオンとレイミアスの為に用意された馬車の前に立って他の馬車に乗り込もうとしているミルフィーを見つめていたレイミアスは、レオンの声を後ろに聞きながら隣町へと向かって走り始めていた。
カルロスのいるはずの町へ。


そして、それから1週間後、レオンの乗った馬車に勢い良く追いついてくる早馬があった。
「レオン!」
「なんだ、レイムじゃないか?」
馬車の窓から顔を出し、レオンは意外な人物に驚く。
「レオン、大変なんです!」
ガラガラガラ・・・・ガタン、と馬車が止まると同時にレオンが外に出てくるのが待ちきれないとばかりに、レイミアスが飛び込む。
「あ、危ねーな・・・な、なんだよ・・・一体?」
もう少しで顔をぶつけるところだったレオンは焦りながら聞き返した。
「カ、カルロスですよ・・・カルロスなんですけど・・・」
「なんだ?カルロスがどうしたんだ?」
せっかく考えないようにしてるのに、またぶり返すのか?とレオンは、息が切れてその先がなかなか続けられないレイミアスを呆れ返ったような顔で見つめていた。
「ほら・・水でも飲んで落ち着けって。」
馬車に置いてあった水筒を差し出され、レイミアスは一気に水を飲んだ。
−ゴクッゴクッゴク・・・グボッ・・・げほがほ・・・げぼっ・・・」
「ほらほら、急ぐなって!」
「は、はい・・すみません・・・・」
いつも冷静なレイミアスにしては珍しいと思いつつ、レオンは彼の背中をさすっていた。


「落ち着いたか?」
「はい・・もう大丈夫です、すみません。」
「で・・カルロスがどうしたって?」
「あ・・そ、そうなんですよ、大変なんですよ・・カルロスが・・・」
勢い良く水を飲みすぎた苦しさでほんの一時忘れていた事を思い出し、レイミアスは叫ぶ。
「カルロスが?」
「そ、そうなんですよ、ミルフィーは国へ帰る必要なんてないんですよ!」
「は?」
「だから・・カルロスは心変わりなんかしてないんです!」
「・・・ち、ちょっと待て・・・分かるように順序よく話してくれないか?」
「はい・・・だからですね・・・・」


「な、なに〜?魅惑の秘薬を飲まされた?」
「そうなんですよ。でも、それだけじゃほんの数時間しか効かなかったとかで、なんでもどこかの洞窟で呪術師がずっと祈祷し続けてるらしいですよ。」
「って事は?」
「そう、あれはカルロスの本心じゃないんですよ。呪術で操られてるんですよ!」
「しかし、そう言ってもミルフィーが素直に聞くとは思えないしな・・・。」
カルロスのあの別人とも思えた冷たい態度、全てのつじつまがあったが、レオンはどうしたものかと腕組みして考える。
「そうですねー。ここまで来て引き返すというわけにもいかないですよね?」
ゴーガナスは目と鼻の先なのである。
「で、その呪術師がいるところは?」
一番の解決策。それはとりもなおさずカルロス本人を正気に戻して連れてくることだろうと判断した2人はさっそくその場所へと馬を駆ろうとしてハッと思い出す。それは、火龍の少女ミリアの事。今は国へ帰って一緒にはいないが、育ての親であるレオンにはいつでも呼び出す事ができる。
「レオン!」
「そ、そうだな。少しでも早いほうがいいよな?」
2人はミリアの炎に抱かれてその場を後にした。


注:本すじとは一切関係ありません。(笑

【青空に乾杯♪】Indexへ 【次ページへ】