青空に乾杯♪


☆★ 鏡面世界のカルロス(1) ★☆
*特別番外編 その4*
-- 時は、#74、ミルフィーをかけた剣術試合終了後(題名の通り本筋とは関係ありません) --


 「いや、まったくもって、貴殿の腕には感服致した。まさに剣士の中の剣士。」
「はっ・・もったいないお言葉。」
剣術試合も終わり、上機嫌のゴーガナス国、国王の前にカルロスは満足感と共に額づいていた。
「カルロス殿、王女を・・・、我が姪、ミルフィーを頼んだぞ。」
「はっ。命にかえましても。」

「王女?い、いかがなされた?」
頭を垂れていたカルロスは王の驚いたようなその声に、顔をあげる。
「ミ、ミルフィー・・・?」
確かに試合終了直後まで、王夫妻の横にドレス姿のミルフィーが座っていたとカルロスも記憶があった。
が、おそらく着替えに席を外していただろうと思われた彼女は・・・甲冑に身を固めて姿を現した。
「陛下、もう一試合許可を。」
「お、王女・・?」
「姫?!・・・」
王夫妻はそろって声を上げて勇ましい恰好のミルフィーを見つめていた。

ミルフィーの真剣なそして、断固退かぬと言っているかのような瞳に王はため息をつく。
「仕方がない・・・姫がそこまで決心しておるのなら、許可する事にしよう。」
そしてミルフィーからカルロスに視線を移す。
「姫のたっての希望。わしとしてはこのような事はさせたくないのだが、やむおえまい。貴殿には今一試合申し渡す。が・・・よいか、姫を傷つけるような事があってはならぬぞ。・・たとえほんのかすり傷であろうと、もしそのようか事があろうものなら・・・」
国王はそれまで見せなかった威圧感でぐっとカルロスを睨む。
「分かっておるであろうな?」
(『かすり傷であろうと』とは・・・思いっきり無茶な事を・・・手加減して勝てる相手じゃないぞ、ミルフィーは?)
と焦ったが、そんなことを表情に出すわけにもいかないカルロスはいかにも余裕綽々といった口調で答える。
「はっ。委細承知。」

−わいわい、ざわざわ・・・・−
無事花婿も決まり、次は祝いだと浮かれていた観衆は、もちろんのこと、レオンもレイミアスも驚いていた。まさか最後にミルフィーがそう出るとは。いや、2人にしてみれば全く予想出来なかったことでもない・・・。が、ミルフィーが剣士、しかもカルロスと十分競い合える腕があるなどと知らない観衆はただ驚くばかりであり、冒険家などという生業に身を落としていた(笑)ことを知っている国王夫妻や側近たちは、一応彼女が剣を扱えることは知っていたが・・・これには驚かざるをえなかった。誰しもカルロスの剣の腕には同じ武人として感服していた。そのカルロスに王女が試合を挑んだ?それは無謀きわまりない、そして、無鉄砲としかいいようのない事だった。そして、そう思うと同時に、カルロスがちょっと手加減して相手をし、その後、簡単に負かせてしまえば、万事うまくいくのだろうとも思っていた。

が・・・・・・試合が始まり、それがとんでもなかった事であり、許してはならなかった試合だと王もそして側近も焦りを感じる。

それは、まさに真剣勝負。それまでの試合に真剣みがないという事ではない。それまでも一試合毎に、それぞれ剣士が真剣に闘ってきた。
が、今回の試合は・・・気迫がそれまでのものとは全く比べようがないほど鬼気迫るものが漂っていた。

「こ、これは・・・・王女は・・ミルフィーは、これほどまでの腕だったのか?」
驚愕する国王。2人の放つ気で感じられるそれはまさに2頭の龍の決闘。剣士としての腕を、己の尊厳をかけての一騎打ち。
試合の余興くらいに考えていた国王もそして居並ぶ重臣らも愕然として2人を見つめていた。止めようにももはやそれはできない。
人々は息を飲み込んで2人を、試合を見つめていた。

そして、そんな2人も、それまで一緒に戦いを分かち合ってきたことはあったが、こうして真剣に向かい合うことは初めてだった。

自分を見つめる真剣なそして、恐ろしいほどの闘気を孕む視線に、カルロスは思わず怯む。
が、そこは女性に関してだけでなく、こういった事も百戦錬磨のカルロス。一瞬後にはそれに対抗しうる自分の想いを瞳に込める。カルロスのそれも、ミルフィーに一片たりとも引けはとっていない。彼女を思う真剣な心に剣士としての純粋な心を重ね、ぐっとミルフィーをその闘気の中に捕らえる。

「・・・カルロス・・」
そこにはミルフィーにからかわれてしぼんでいる(?)カルロスはいなかった。下心見え見え(?)の甘い言葉を囁く彼でもなかった。女と見れば騎士道精神を発揮して女心をくすぐる言葉とナイト気取りの態度で接するカルロスでもなかった。
(・・・でも、納得できない!)
ミルフィーは、人々が見守る静けさを破ってカルロスに剣を振りかざす。

−ガキン!・・・・グググッ・・−
素早いそして鋭くえぐるような太刀筋を見極め、瞬間的に剣を持つ手に力を込めミルフィーの刃をカルロスは受け止める。
剣を交え、2人の視線が交差する。その真剣な瞳を通して心の奥底まで読みとるかのように、鋭利なその視線はお互いの瞳を捕らえる。

『負けるわけにはいかない・・』
同じ事を考え、2人は持てる全てで競う。
−キン!ガキン!・・・ザッ・・キン!−
相手の攻撃を剣で止め、渾身の力でそれを振り払うと同時に体勢を整えて攻撃する。一瞬の気のゆるみが、ともすれば命に関わる大けがを誘う。
その繰り返しの中、いつしかそこには男も女も、そして試合だということも関係なく、純粋に腕を競う剣士となっていく。
−キン!−
そして、剣を交える事は、お互いの瞳を通しての心を交わりとなっていく。

「ミルフィー・・・」
「なに?」
何回目かのその時、肩で息をするミルフィーに、カルロスが声をかける。
「今のままだと負けるぞ?」
ミルフィーはその言葉に、無念さと悲しみを含んだ視線でカルロスを睨む。
「相手を殺すのが目的なら分からない。が、こうした試合の場合、ただ剣の腕だけではどうしようもないものがある。」
「仕方ないだろ?体力の差は・・・どうあがいても・・・・」
それはミルフィーも感じていた。自分がこうして息がきれてきても、カルロスはまだ平然としている。それは歴然とした体力の差。そして、男女の差。
「それでもオレは・・・オレは納得するまでやるんだっ!」
窮地に陥ったときにも男言葉になるらしい。
−・・・ザン!−
振り絞った力でカルロスの剣を振り払い、ミルフィーは全力で向かっていく。
−ガキン!−
「負ければ納得できるのか?」
「カルロス?!」
静かに言ったカルロスを、ミルフィーは驚きの目で見つめる。
「無理だろ?」
「カルロス・・」
「オレがこの試合に出たのは・・・他の男に取られたくなかったからだ。お前が欲しいのは本当だが、こんな事で本当にお前が手に入るとは思わない。」
−グググッ・・・−
会話の間も剣を交える2人は、その手に出しうる限りの力を込めている。
「まさか最後にお前と剣を交えることになるとは思わなかったが・・・さすがだな、ミルフィー。その腕は以前よりぐっとついてる。」
「以前より?」
「ああ。ますます惚れそうだ、剣士として、そして男として。」
「だ、だけど・・・」
ミルフィーの気が一瞬剣からそれると同時にカルロスは力を抜く。
そのままだとミルフィーを傷つけていた。

−ガキン!−
そして、再び交える。
「なんだよ、さっきのは?オレを馬鹿にしてるのか?」
怒って睨むミルフィーに、カルロスはふっと自嘲してから答える。
「いや。」
「どうせあんたはフィーの剣と比べてるんだろ?」
カルロスは、悲しげな光をミルフィーの瞳の中に見つけながらも断言する。
「そうだ。」
「『そうだ』って・・・・」
悲しみの影が増すミルフィーを見つめ、カルロスは温かい笑みで包む。
「お前はフィーでありフィアなんだ。両方ともミルフィー、お前だ。剣士としてのお前と、そして少女としてのお前。両方が合わさって初めてお前という人間になるんだ。どちらかが欠けてもお前じゃない。そして、片方だけでも成り立たない。今まで別々に歩いていただけだ。お前という心を眠らせて。だが、これからは、そうじゃない。お前はお前、その心で感じ歩いていけばいいんだ。今までの経験を生かし、一個の人間として。」
「カルロス・・」
「ミルフィー・・お前が悩んでいたことは知っている。が、そんなものは不必要な悩みだ。」
「不必要な?」
「そうだ。誰しも過去はある。幼いときの思い出はある。」
「フィーやフィアの記憶や体験がそれだと?」
「そうだ。誰しも成長過程でいろいろある。だから、幼児期と少女期だと思えばいいだろ?」
「よ、幼児期って・・・フィーの事がか?」
「ああ。」
「あれが幼児期に体験する事か?」
「それはそうだが。まー、細かいことは気にするな。」
「『気にするな』って・・・カルロス・・・」
「いたたまれなくなったらオレに吐き出せ。ちょうど今のように。」
「そ、そう言われても・・」
「力が抜けてきたぞ。」
ミルフィーはぎくっとすると同時にカルロスが同じように力を抜いていることに気づく。
「じゃー剣を飛ばせばいいじゃないか?さっきみたいな事するなよな?情けは受けたくない。」
「そうだな。同じ剣士としてならオレもそんな事はする気はない。」
「じゃー、手を抜くなよ!」
「いや、お前の息が上がってきた時点で、純粋な腕の競い合いは終わった。」
「じゃー、今してるこれはなんだ?」
「そうだな・・・なんなのだろうな?・・強いて言えば、心の触れあい・・か?お前と真剣に話した事がなかったからな。」
「わ、悪かったな。いつも茶化してばかりで。」
「オレはいつも真剣なんだがな。」
「ふん!じゃー、いい加減真剣に戻ってこれにも決着をつけたらいいだろ?そうすりゃハッピーエンドだぜ?」
「だから、それでは本当にお前が手に入る事じゃないって言っただろ?」
「当たり前だろ?こんなんで納得するわけないじゃないか?」
「だが、王命には従わなくてはならない。」
「なんだよ?」
にまりと笑みを見せたカルロスをミルフィーは睨む。
「結局、お前はオレのものになる。」
怒りでその手に一気に力が戻ったミルフィーは、カルロスの剣を払う。が、全力でもなかった。

−ザッ・・・キン!−
「どうした、ミルフィー?さっきの力ならオレの剣をとばせたはずだ。」
「情けで勝たせてもらっても面白くないんだよ!」
「ミルフィー・・・」
「なんだよ?」
怒りで真っ赤になってきていたミルフィーに、カルロスはやさしく微笑む。
「勝負は初めからついている。」
「は?」
「分からないか?」
「何が?」
ミルフィーは怒りも忘れ、きょとんとしてカルロスを見る。が、勿論剣を握った手から力は抜いていない。
「オレはお前に惚れている。」
「・・・・だから?」
この試合に勝つ必要があるのに、なぜわざと負けるような事をする?とミルフィーは不思議に思った。
「気づかないか?」
「何が?」
「分からないか?オレの心が。・・お前に額ずいているオレの心が。お前に囚われ、お前の前に跪いてるオレが。」
「カ、カルロス・・・?」
顔が勢い良く火照ってくるのをミルフィーは感じていた。今回は怒りで赤くなっているのではないことは確かだった。
「だから、この試合は初めから意味がなかったのさ。・・・オレがお前に勝てるはずはない。」
「・・・カルロス・・・」
「お前を傷つける刃はもたん。」
「でも・・・さっきの闘気は・・・・」
カルロスのその言葉に心を動かされ、そして、動揺を覚え、ミルフィーは慌ててふと頭に浮かんだことを口走る。
「あれも本気だ。お前のあの闘気に応えなかったら、オレは剣士でなくなる。」
それもそうだ、とミルフィーも感じる。
「・・・観客も今までの試合で満足したことだろう。だからもういいはずだ。・・・オレの剣を弾き飛ばせ!思いっきり!・・・それでお前は自由だ。」
「カル・・・ロス・・・・」
カルロスのやさしさと気遣いとそして温かい微笑みが、その眼差しが、ミルフィーの心にゆっくりと染み込んでいった。

「ミルフィー?」
徐々に手から力を抜いて剣を下げるミルフィーに、一気に決着をつけるだろうと構えていたカルロスは慌ててそれにあわせて力を抜く。


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