☆★ 似たもの同士? ★☆

*** 特別番外編 カルロスとレイラ・鏡面世界の2人 ***
 

 「おばーちゃん、いる?」
ここは聖魔の塔に一番近い村の村はずれにある術師、老婆の家。バタン!と勢い良くドアを開け、女が一人入ってくる。
ちょうど居間に居合わせたカルロスと目が合い、彼女はすぐさま艶っぽい笑みを顔に浮かべる。
「あら、こんにちは。」
「やあ、おばばの・・・知り合いか?それとも仕事の依頼なのか?」
その微笑みにカルロスもまた負けず劣らずの女殺しの笑みを返しながら答える。
「うーーん・・・知り合いより濃いかもしれない。」
「というと・・身内か何かか?」
「あててみて♪」
すっとカルロスの座っているソファ、彼のすぐ横に身を寄せると、意味ありげにその女はカルロスを見つめる。
「そうだな・・・・今はあんなだが、昔は引く手あまたの美人だと聞いてるからな・・・ひょっとして孫・・いや、曾孫・・いや、その子供くらいか?」
「だ〜れが、『今はあんなだが』ぢゃっ?!」
怒りながら奥から出てきた老婆は、その視線をカルロスからその女に向ける。
「何しに来たんじゃ?」
「あらー・・何しに来たはないでしょ?かわいい孫がせっかく顔を見に来たっていうのに?」
「孫・・か。」
呟いたカルロスに女はふふっと艶っぽく笑う。
「何がかわいい孫ぢゃ。どうせカルロスの事でも聞きつけて様子を見に来たんぢゃろ?」
「ん?・・・オレのことをか?」
「うふっ♪もうばれちゃった♪」
「『もうばれちゃった♪』じゃないわいっ!こんなとこにいていいのか?神殿はどうしたんぢゃっ?!」
「あらー・・・おばーちゃんと違うのよ。あたしは遊んでるけど、男を追いかけて巫女の座をほっぽりだして神殿を飛び出したりはしてないわよ!きちんと許可を取ってるわ。」
「は?」
老婆が男を追いかけて神殿をとびだした・・・それは初めて耳にする言葉だった。
「ははは・・・とすると、おばばの血を引いてる証拠か?」
「そうね。そういうことよね?」
ちろっと上目遣いでカルロスを見て女は微笑む。
「話の内容からするとオレの事はもう知ってるみたいだが・・・名前はなんというんだ?」
「うふ♪・・・それはね・・・」
「レイラッ!」
「あん!おばーちゃん、先に言っちゃだめでしょ?」
「『言っちゃだめ』ぢゃないわいっ!許可ぢゃなく、強制的に了承させたんぢゃろが?!」
「あ・・・ばれてる?」
「当たり前ぢゃわいっ!」
「だ〜って〜・・・・こんないい男隠してるなんて、おばーちゃんも人が悪いわよ〜。」
「だ、誰が隠しておるというんぢゃっ?!ひ、人聞きの悪い事言うんぢゃーないっ!」
「あ!おばーちゃん、赤くなってる!」
「あ、赤・・赤く・・・・」
指さして面白そうに笑うレイラを老婆は睨み付けながら、慌てて自分を落ち着かせる。
「ふん!尻の青いヒヨッコが分かったこと言うんぢゃないよ、まったくっ!年寄りをからかって何がおかしいんぢゃっ?」
「だってさ、いいじゃない。おばーちゃんだって女は女なんでしょ?」
「レイラっ!」
「きゃっ!」
「おっと。」
勢い良く怒鳴った老婆に合わせ、レイラはちょうどいいとばかりにカルロスにしがみつく。
「い、いいか、カルロスは剣士としての腕を見込んでだな・・・」
「きゃはははは♪」
「な、なんぢゃ、急に?」
「だって、おばーちゃん、真剣になって言い訳するんだもん。」
「う・・・」
「誰もそんなこと思わないわよ〜。」
「いや、わからないぞ?」
「え?」
カルロスのその言葉に、レイラはぎょっとしてすぐ目の前にあるカルロスの顔を見つめる。
「今は老婆でも、得意のしかも特別な術で時折若返るのさ。それがまた信じられないくらいの美女でな・・・」
「ええ〜?!うっそぉ〜〜〜?!」
「嘘だ。」
カルロスの胸に身を寄せていたのを、そのあまりにもの驚きにがばっと身を起こして叫んだレイラは、カルロスの次の言葉でがくっと全身から力が抜ける。
「そ、そうよね・・いくらおばーちゃんでも若返りの術なんて・・・・」
「で、ホントに用事はそれだけか?」
「他に何の用事があるっていうの?」
「・・・・・」
聞いたのが間違いだった、と老婆は大きくため息をついた。いい男がいる、という話は、レイラにとって何よりも勝る理由だった。他に用事などあるはずはない。
「って、言いたいけどね、はい、おばーちゃん。」
「ほ?な、なんぢゃ?」
テーブルに置いた袋からレイラは小さな小包を取り出して老婆に渡した。
「万年雪の中に咲いてた雪ひまわりの冷凍よ。」
「ほ、ほんとか?」
「若返りとはいかないけど、これがあれば、老化をあるていど遅らす薬が作れるんでしょ?」
「そうぢゃ。」
老婆は嬉しそうに包みを開け、中を確認した。
ガラス瓶の中には確かに真っ白な雪ひまわりがあった。
「おばーちゃんにはいつまでも長生きしてもらいたいものね。」
「レ、レイラ・・・お前って子は・・・・」
「で、老化を止める薬が完成したらまっ先にあたしにちょうだいね。それまで必要な材料は出来る限り入手してきてあげるから。」
「そうか。そうか。」
レイラのその気遣いに嬉しさひとしお。うっすらと涙を浮かべ、にこにこしながら答えた老婆は、不意にはっとする。
「ちょっとお待ち。それはもしかしたら、ばばに実験台になれってことなのか?」
「はっきりとは言わないけど、おばーちゃんが飲んで変わらずそうしているのなら大丈夫ってことでしょ?」
「言ってるぢゃないかっ!ま、まったく、レイラ・・・お前って子はーーっ!」
「あら、いらないなら返して!すっごく高値で売れるのよ、それ。」
「そ、それは・・ぢゃな・・・・」
幻と言われている雪ひまわり。たとえ悪口を言われようと、からかわれようと、いったん手に入れた限りは手放すつもりはない。
「ははは・・・さすがのおばばも孫娘には弱いんだな。」
「ま、まーの〜・・・口は悪いが、かわいい孫だし・・・これでも結構やさしいところがあるんぢゃ。ただちょっと天の邪鬼のところがあってぢゃな・・・。」
カルロスの言葉に、照れながらも老婆は小声で話す。
「おばーちゃん!」
「なんぢゃ?」
「天の邪鬼は余計でしょ?」
「なんぢゃ、悪い事は知られたくないとでも言うのか?」
「もう!おばーちゃんったら!」
つん!と老婆に背を向け、レイラは拗ねた顔をする。
「だって・・・・」
そしてちらっとカルロスに流し目を送る。
「まったく・・この前の武闘家はどうしたんぢゃ?」
「ダメ。男らしいところはいいんだけど、ムードがからっきしないの。」
「ムードがの・・・・。」
老婆は大きくため息をついた。
「それにね、次の巫女が見つかるまで待てないって言うんだもん。」
「まー、普通そうぢゃろ。」
「次の巫女?」
「そう。こう見えてもあたしは時の神殿の巫女長なの。巫女の座を下りるまでは男性禁止。」
「そうなのか?」
その全く意外な言葉にカルロスは驚く。男性禁止の割には、服装といいその艶っぽさといい、考えられないことである。
「うふっ♪これはね、つまり、息の詰まる神殿生活のはけ口っていうのかしら?ストレス緩和剤。」
「なるほど。しかし、男はそう取らないんじゃないか?」
レイラの瞳でじっと見つめられ、ふらっと来ない男はいないだろうとカルロスは感じていた。
「だから、困るのよ。いい男を見つけてもいつもそんな感じで、結局別れてしまうことになって。」
「巫女の座を下りてからにした方がいいんじゃないのか?」
「ダメよ。いい男がいたらツバ付けておかなくっちゃ。座を下りた時、ろくな男がいなかったら、がっかりでしょ?」
「そ、そういう考えも・・あるか。」
「ぢゃから、最初から事情を知ってる神殿の剣士にしておけと言うたぢゃろうが?」
「あら〜・・・男を追って全責任をほっぽりだしたおばーちゃんの言葉だとは思えないわ。」
「う・・・・」
それを言われると老婆は弱かった。若かった故なのだが、それは紛れもない事実。
「それに、神殿の守護騎士って・・・み〜んな堅物すぎて・・つまんないわよ。触れようともしないばかりか、1m以内に近づこうともしないのよ。そんなの恋人じゃないわ。」
「ははは。しかし、恋人らしくなったら返って危ないんじゃないか?」
「そこはね、きちんと約束して守ってもらうの。本当に私を愛してくれてるのなら、その日まで待ってちょうだいって。」
「しかしだな・・・あんたのような魅惑的な女性を前に、しかも恋人となると、男としては我慢できないんじゃないか?」
「大丈夫よ。あたしの術はおばーちゃん譲りよ。あたしさえ気持ちをしっかりもっていれば間違いはないわ。」
はっきりと断言するレイラをカルロスは笑いながら見つめていた。
外見は相当な遊び人に見えるが、中身は潔癖なほど巫女という自分に科せられた責任に忠実なのだと思った。
「で、オレは巫女様のお眼鏡にかなったのかな?」
ここで再びカルロスは女殺しの微笑みをレイラに向ける。
「そういうカルロスは・・・あたしの事をどう思って?」
「い、いい加減にせんかっ!」
カルロスの膝に乗り、息のかかる距離で話すレイラに、老婆の怒りは爆発した。
「いちゃつくのは勝手ぢゃが、よそでしてくれ!こ、ここは逢い引き宿じゃないんぢゃぞっ!」
「あら・・・おばーちゃんったら、やきもち妬いちゃって。」
「レイラッ!」
くすくすっと笑うと、レイラは意味ありげな目つきでカルロスを見つめる。
「そうだな。血圧があがりすぎておばばの血管が切れてもいかんしな。」
「カルロスっ!」
「じゃ、おばば、また来る。心配するな、おばばの孫でしかも三大神殿の巫女長様ときては、容易には手はだせん。」
茹で蛸のように真っ赤になって怒鳴る老婆を後に、2人はさっさと玄関から出た。

「さて・・で、どうしましょうか、巫女様?」
「ダメ、カルロス。レイラって呼んで。」
少し口を尖らせて注文をつけたレイラに、カルロスは微笑む。
「レイラ・・・今夜舞踏会があるんだが・・・。」
答える変わりにレイラはカルロスににっこりと艶やかな微笑みを返していた。


「良かったのか、悪かったのか・・・。」
カルロスの精神力は分かっていた。レイラを本当に気に入ってくれたのなら、巫女の座を下りるまで待っていてくれるかもしれない。・・・が、そうでなかったら、普通では落とせない巫女を落とすという男として自己満足極まりないおいしい話に飛びつかないわけはない。そして、その場合、カルロスなら己の誇りにかけて目標のために全力を尽くすはずである。そのカルロスの前には、いかに遊んでいようと、レイラも危ないのではないか(遊んでいるといってもある程度までだし)、とふと老婆の全身を引き合わせてしまった後悔の寒気が駆け抜けた。老婆が引き合わせたものではなかったにしても。
「なんで今巫女としての力を持つ娘が里にいないんぢゃ?」
あとは、カルロスの良心に賭けるしか老婆に残された道はなかった。


「カルロス、私以外と踊っちゃいやよ。」
「分かってる、レイラ。君もオレ以外の男の手に、この手を取らせるんじゃないぞ。」
「あなたよりいい男がどこにいるっていうの?」
老婆の心配をよそに、伯爵邸に着いた2人は熱い視線を交わしながら、ぴったりと寄り添って舞踏会が開かれている大広間へと向かっていた。


  
ハコさんからいただいたツーショットです。
ようやくショートを書きました。
いつも素敵なイラストをありがとうございます。m(_ _)m


注:本すじとは関係ありません。(笑
注2:Epilogue2の世界を支える巫女というわけではありません。

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