夢つむぎ

その27・夢つむぎ


 

 苦しい戦いだった。何度、駄目かと思ったか・・・・魔法も攻撃もあまり効き目がない。そこで、あたしは、サンダーブレードによる雷攻撃。ヒースはフォルナの塔で手にいれたシルバーボウを使い、与えられるダメージが少ないながらも、とにかく必死で攻めた。だけど、相手が相手さ。メンタリングでその消耗を半分に押さえているとは言え、じきに精神力も使い果たした。軍神の四本の手による攻撃は、ものすごい破壊力だしね・・回復剤も切れ、あたしたちは、もう駄目かと思ったさ。何度となく死に、その度復活剤のお世話になった。もう口移しで飲ませるなんて暇あるわけない。倒れちまうと、なんとか隙を見つけ、仰向けにして、瓶を口にくわえさせておいたんだ。そんなんで、せっかくの薬を流しちまった事もあったけどね。そんな悠長なこと言ってられないからさ!だけど、なかなか埒があかない。あたしたちは、作戦を変える事にしたのさ。そう、ちんたら攻撃してても倒せない。あいつだって回復呪文を唱えるしさ。それからは、攻撃は、アッシュ一人に任せたんだ。復活剤で甦えると、精神力もまんたん!だから、ランディは、暗黒の剣の術で、そしてヒースはBRAVEの歌で、アッシュの攻撃力を上げる事に専念した。・・あたしは、薬が切れちまったんで、ユーリアスタッフで、あまり効果はないんだけど、みんなの癒し手の役に徹したのさ。ランディも時には、ダリウスの塔で手にいれたヒールリングで癒したしね。
・・・復活剤も切れ・・・それでもあいつは倒れる気配を見せなかった。・・・本当にもう、最後かと思ったんだ。せっかく、ここまで来たってのに・・フォルナやみんなの顔が、頭の中を過ぎった・・・・倒せれたのは、多分、みんなの必死の思いが通じたんだろうね・・・。

軍神は、この世のものとも思えない、おぞましい叫び声を上げて倒れた。
その断末魔の叫びが消えた時、足元がまるで砂がこぼれていくかのうように、崩れ始めた。
「!」
あたしたちも一緒に崩れ落ちると思ったその時、幾筋もの光の束があたしたちを包み、あたしたちの身体をゆっくりと持ち上げ、地上へと降ろしてくれた。
そして、一段と光輝くその光の中で、あたしはたくさんの人々が微笑む顔を見たような気がした。

 あたしたちを包み込んでいた光が消えると、そこは、それまでの塔でも城の中でもなかった。目の前には、廃墟となり、完全に風化されてしまった城跡が広がっていた。そこかしこに蔦に絡まれた白骨や土から少しだけ出ている骨・・・。
「ここは・・・?」
「これは・・・?」
アッシュも低く呟いた。
「どうやら、俺たちは、時のまどろむ夢につきあっていたようだな・・」
遠い目をしたランディが呟く。
「・・夢・・・?」
アッシュとあたしが同時に言う。
「そう、夢だったんですよ・・・それぞれの・・・」
ヒースが自分自身に言い聞かすかのように言った。
「そうか・・・そうだな・・・・」
アッシュがにこりと笑った。
「夢・・・か・・・」
あたしは、木々の間から差し込んでくる、眩い日差しを見上げてみる。なぜだか、とても温かく感じる。
ヒースが、持っていたオルゴールの蓋を開けた。辺りに優しい音が広がる。
・・・時の狭間に浮かぶザムハン・・・そこに捕らわれてた人たちは・・・・自由になったんだよね・・・あの人たちの魂は・・・・。
「あっ!白い蝶!」
廃墟と化した城の壁の周りを一匹の白い蝶が舞っている。
・・・フォルナ姫・・・
あたしたちは、しばらくその蝶を見つめていた。


 「じゃ、僕はこっちの道だから・・・」
城跡があった丘から少し下り、あたしたちは街道に出ていた。
吟遊詩人として、また旅に出るだろうけど、今は一旦、自分の村に戻ると言ったヒースは、あたしたちの方を何度も振り返り、大きくその両手を振って、別れを惜しみながら、道を下っていった。ヒースの旅の目的は、一つは、風の竪琴。そうして、もう一つは、自分だけの歌を得ること。すばらしい歌ができそうだって、ヒ−スは喜んでたさ。そう・・・ザムハンにまつわる悲しい姫さんの歌やあたしたちの冒険の歌。きっと、ヒースは、いい吟遊詩人になるだろうさ。きっと・・・。

「じゃな、アッシュ。縁があったらまた会おうぜ。」
次の分かれ道でランディがアッシュに言う。
「行くぜ、ヒルダ。」
「なんでそうなるのさ、ランディ?」
「・・なんでって・・・生きてたらって言っただろ?」
「誰もあんたについて行くって言ってやしないよ?」
「・・ああん?・・ヒルダぁ?・・・いい加減にしろよ!しまいにゃ、怒るぜ!」
ランディは少しすねたような怒った表情を見せた。
「ヒルダ・・お前も素直じゃないな。」
「へへ・・・」
アッシュにそう言われて、あたしは舌をぺろっと出した。
「じゃ、アッシュ。」
差し出したあたしの手をアッシュはぐっと握ってくれた。
「また・・いつかまた、きっと会おうね、アッシュ!」
「ああ・・いつかな。」
アッシュの大きくて温かい手を握っていたら、あたしは、ホントにこの人が好きだったんだなって、つい思っちまって・・・なかなかその手を離せなかった。
「ヒルダ!」
ランディはきつい口調であたしを呼ぶと、くるっと向きを変え、歩き始めた。
「あっ!待っておくれよ、ランディ!」
アッシュの手を離し、そして、今一度アッシュを見た。最初の頃とうって変わってアッシュの表情はやさしくなっている。
だけど、あたしを特別な目で見てくれてるわけじゃない。
「じゃ、あたし、行くよ。またね。」
「ああ・・元気でな。」
「うん!アッシュも!」
あたしは、勢いよくランディの後を追いかける。
「ランディったら!そんな早く歩かなくてもぉ・・・・!」
「はん!俺様の勝手だろ?」
「妬いてるのかい、ランディ?」
「うるせえっ!」
すねた顔をしてずんずん歩き続けるランディの横に並んで、あたしは今一度振り返るとヒースを真似て、大きく両手を振る。
「さようならあ!アッシュぅー!元気でねぇー!」
遠くで手を振ってくれるアッシュの姿が見えた。



** 完(?) **


Thank  you  for  your  reading!(^-^)

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