Brandish4・外伝 
[ダーク・クレールのエンディング後のサフィーユ] 
〜UeSyuさん投稿のBrandish4サイドストーリー〜



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「アハハハハ・・・・!ハハハハハ・・・!」

正気を失ったサフィーユの殺戮はまだ続いた。もはやサフィーユの心には何のブレーキもなかった。持っている力を、何の遠慮もなくふるっていった。襲われた部隊は、無駄な抵抗をしながら、死を待つほかになかった・・・。

しかし、サフィーユは正気を失ってはいたが、なぜか軍隊や盗賊ばかりをねらい、相変わらず一般人を襲うことはなかった。

そんな中、時をほぼ同じくして、ヌビアール教とギデア聖教にある一派が誕生した。細かい部分は異なるが、どちらとも「『黒髪の悪魔』は、戦争という愚かな行為に対する、神の怒りの鉄槌である」という考えをしていた。これらの一派は、戦争と「黒髪の悪魔」の恐怖におびえ、戦争が早く終わることを願う民衆の間での支持を急速に集めていった。そして、しばらくすると、これらの一派は各教団内でかなりの権力を握ることになった。

この一派は、積極的にお互いに交渉を行うようになった。最初のうちは色々と意見が食い違い、なかなか話は進まなかった。しかし、どちらとも戦争を早く終わらせ「黒髪の悪魔」の問題を解決しようという共通の目的を持っていたため、次第に話はまとまっていった。お互いの宗教の考え方の違いを理解し合い、政府にも積極的に働きかけていったため、ついには何のわだかまりもなく両国の間で友好条約が結ばれるまでになった。

両国の国民は大いに喜んだ。大きな恐怖のうちの一つである、両国間の戦争がついになくなったからだ。それからしばらくすると、「黒髪の悪魔」も街を襲うことはなくなり、以前ほど猛威を振るうことはなくなった。相変わらず凶悪な盗賊などは襲われ続けていたが、人々にとってはそれは逆にありがたいことであった。

そんなとき、サフィーユの左手にはめていた指輪がこれ以上ないぐらいに輝き始めた。それと同時に、あの悪魔が姿を現した。その姿を見たとたん、サフィーユは正気を取り戻した。

「・・・とうとう、そこまで輝くようになったのね。ありがとう」
「・・・約束よ、早くクレールに会わせて・・・」
「大丈夫、私たち悪魔は約束は必ず守るわ」
「もし、うそをついたら・・・あなたを殺すわよ・・・」

その言葉を聞き、悪魔はビクッとした。以前なら全く歯が立たなかったサフィーユだが、今ならこの悪魔を軽く殺すことができるほどの魔力を身につけていたのだ。
そして二人は「神の塔」へと向かっていった・・・。


・・・・神の塔、最上階にて・・・・

「はあ・・・はあ・・・ギリアス・・・!」

そこには一人の少女と、自らを「神」と名乗るギリアスという男が対峙していた。その少女は、普段の彼女からは想像もできないほどの憎悪をみなぎらせていた。

「なぜだ・・・なぜ『神の血』の力を拒む!普通では絶対に手に入らない、すばらしい力なのだぞ!?」
「・・・こんな力・・・私は欲しくなかった・・・この力のおかげで・・・私は・・・私は・・・!」

日焼けしたような肌をし、銀色の髪をなびかせるその少女は、ただひたすらギリアスに対して憎悪の炎を燃やし続けていた。この男が、過去に「神の血」という物を作り出したおかげで、自分はこんなひどい目に・・・。その思いが、その少女、クレールを突き動かしていた。

「うわああああああぁぁぁぁ・・・・・・!」

クレールは「神の血」の出力を、怒りと憎しみに任せて上げ続けていった。体中が熱い・・・。体の中から溶岩がわき出てくるような感覚であった。もはや、クレールの肉体は限界を超えた力を出し続けていたために崩壊寸前であった。しかし、クレールは力を上げるのをやめようとはしなかった。

「ギリアスーーーーッ!」

絶叫とともに、クレールの鋭い爪はギリアスを貫いた。ギリアスの背中から突き出た彼女の腕は、大量の血を滴らせていた。

「馬鹿な・・・『神の血』の力ごときに・・・この私が・・・!?」
「あなたは神なんかじゃない・・・『力』に魅入られた、ただのクズ野郎よ!!・・・この世から、消え去れ!目障りなのよッ!」

そう言い放つとクレールは大量の魔力を腕から放出した。

「ギャアアアアアァァァァ・・・・・!」

ギリアスは断末魔とともにチリとなった。クレールの手に滴っていた彼の血も、あまりの魔力に一瞬で蒸発してしまった。ギリアスは文字通りこの世から消え去った。

「はあぁぁ・・・・」

その場にへたり込んだクレールは、普段の姿に戻っていた。

「・・・私・・・私・・・・」

信じるべき物を全て失い、この世の全てに絶望した様子でため息をついたクレールの目の前に、突然光の玉が現れた。人の頭よりも少し小さく、床から50センチほどの所をふわふわと漂っていた。小さいながらも、かなりの力を秘めていた。

「これは・・・何かしら?何かはわからないけど・・・これは私を救ってくれる・・・そんな気がする・・・」

そう言ってクレールはその光の玉に手をかざした。すると、その光の玉はまるでクレールに吸い寄せられるように動き出し、見る見るうちにクレールの手の中へと吸い込まれていった。その瞬間クレールは、4枚の輝玉板を台座にセットしたときと同じような感覚を味わった。体に何かが入り込んできて、力がみなぎっていくあの感覚・・・。同じような感覚であったが、入ってくる力の強さは桁違いに高かった。

「これは・・・『紫の女神の力』・・・!?」


・・・今から数年前、クレールは「紫の女神の力」を手に入れた。ギリアスが欲し、取り込むのに失敗して塔の周囲を砂漠に変えてしまった、あの「紫の女神の力」だ。
何もかも、彼女の思うがままになった。まず、彼女は塔を支配した。そして、その防衛機構を使って周囲の地脈や大気をコントロールし、雷や砂嵐、流砂などを作り出し、誰も「神の塔」に近づけないようにした。「紫の女神の力」を持つクレールにとって、それらは造作もないことであった。

かくしてクレールは自分一人だけの世界を手に入れた。誰かのために働くこともなく、誰の目も気にすることもなく、ただそこに一人でいるだけ・・・。クレールは「絶対的な安心感」「平穏な暮らし」をも手に入れた。孤独と引き替えに・・・。

もはや、「神の塔」に近づこうとする者は誰もいない・・・はずであった。しかし、サフィーユとあの悪魔が「神の塔」へと向かっていた。
サフィーユは、襲いくる砂嵐や雷を有り余る「闇」の力で蹴散らしながら砂漠を進んでいった。宙を浮いたまま移動できるほどの魔力を持つサフィーユにとって、流砂などはなっから問題ではない。その後ろを、少しあきれた様子で悪魔はついていった。

「・・・一体、どれほどの魔力を持っているのかしら、この子・・・」

しばらくして、二人は「神の塔」の麓へとたどり着いた。二人が初めて出会ったあの場所だ。

「・・・用意はいい?クレールって子に会えたら、あなたの魂をいただくわよ」
「わかってる・・・早くお願い」

悪魔はサフィーユの左手を持ってなにやら念じ始めた。すると、二人は白い光に包まれていった。

白い光の中で、サフィーユは浮遊間を味わった。丁度、我々の世界で言う、エレベータで上に行くときと同じような感じだ。その中で、悪魔はサフィーユに語りかけた。

「あのね、もし、少しでも長くクレールって子のそばに居たければ、なるべく心のそこからは満足しないでね。心の底から満足すると、自然と魂が抜け出ちゃうの」
「どうして?」
「さあ、そこまではわからないけど、魂ってそういうものなんだって」
「ふうん・・・」

しばらくすると、周囲の白い光が薄れていった。そこは、「神の塔」の最上階であった。クレールが座っているところから、10数メートル離れた位置に、サフィーユと悪魔は現れた。その様子をクレールは見つめていた。だが、これといって何かしようという様子はなく、ただじっと座ったまま、無感情な瞳で見つめているだけであった。

「・・・ああ・・・クレール・・・」
「ほら、早く行って来なさい」

いつの間にか、サフィーユから邪悪な力が消え去っていた。その瞳からも邪悪な輝きは消えていた。衣服は血まみれのままだが、そのおだやかな表情は幼い頃ののサフィーユのものと同じであった。

「クレールーっ!」

喜びの感情も顕わにそう叫んで2、3歩ほど歩いたところで、突然サフィーユは倒れてしまった。そして、そのまま動かなくなってしまった。

「あ!もう満足しちゃったの?あれほどすぐに満足しちゃいけないって言ったのに・・・」

悪魔はサフィーユの顔をのぞき込んだ。安らかな表情をしていた。ついこの間まで「黒髪の悪魔」と恐れられたサフィーユとはとても思えないほど、安らかでにこやかな表情であった。ちょっと時間が経つと、サフィーユの体から白い光の玉が浮かび上がってきた。その光の玉に手をやる悪魔。

「・・・すごくきれいな魂・・・こんなの初めて見た・・・」

うっとりとした表情で、サフィーユの魂を見つめる悪魔。

「邪悪さなんか、ちっとも感じられない。ほとんどが純粋な心の固まりみたい・・・それに、狂気がうまい具合に混じり合って、えもいわれぬ感じに・・・魂の持つ力もかなりのモノだわ・・・」

ぱっと見ではただ白い光を放っているだけにしか見えないのだが、悪魔にはその微妙な違いがわかるらしく、その微妙な混じり具合に見ほれていた。

「・・・ふうぅ・・・魔界に持って帰って売りさばこうと思ったけど、これは私の宝物にしよう・・・誰かに渡すなんて、もったいなくてできないわ・・・」

悪魔は心底うっとりとした様子で、そのままサフィーユの魂を持っていこうとした。すると、とたんに光が弱くなっていった。

「・・・あ・・・!まずい、魂が弱っていく!まさか・・・」

悪魔は、その魂をクレールの方へと向けた。そのとたん、サフィーユの魂は力を取り戻し、輝きを増していった。

「・・・そう、そんなにあの子のそばにいたいんだ・・・じゃあ、お行き・・・」

悪魔はまるで蝶を逃がしてやるみたいにサフィーユの魂を解き放った。サフィーユの魂は、うれしそうにゆらゆらと揺れながら、クレールの方へと飛んでいった。

「・・・せっかくの魂だけど、あきらめよう・・・無理に持っていってだめになったら、もったいないものね・・・」

そう言うと悪魔は寂しそうに「神の塔」から去っていった・・・。

その様子をじっと見つめていたクレールは、悪魔が去ると同時にまたうつろな目で虚空を眺め始めた。サフィーユの魂には全く興味がないようだ。そんなことにはお構いなく、サフィーユの魂は本当にうれしそうな様子でクレールの周囲を飛び回っていた。

そして、その傍らには、冷たくなって動かなくなったサフィーユが横たわっていた・・・。


・・・それから数百年後、スーラン帝国とギデア皇国は、これといったごたごたを起こすこともなく、平和に繁栄していった。
あの「黒髪の悪魔」の一件以来、両国は何かと協力しながら復興につとめてきた。凶作になれば作物を送り、お互いの技術を交換し合ったり、別の国ともめ事があったときも国史を送って解決の手助けをしたり・・・といった具合に、昔にあれだけいがみ合ってきたとは思えないほどの関係のよい国になっていった。
どちらの国教も、お互いの宗教の違いも完全に理解し合い、他の宗教に関しても、内政に干渉することがなければ寛大に認めていく方向になっていった。
そのおかげで、両国だけでなく、周辺諸国との関係もうまくいくようになり、あの辺りは非常に平和な地域となっていった。

そんな平和なある街角で、子供達がいたずらをしていた。それを、近くの大人が注意していた。

「こら〜!いたずらばっかりするんじゃないぞ!悪いことばかりしていると、黒い髪をした悪魔がどこかへと連れていってしまうぞ!」


・・・トゥルカイア小国、大聖堂、テラスにて・・・

エルフ族の二人の少女が、月や星を見ながら、話をしていた。

「ねえ、知ってる?私たちが小さい頃、隣の国が戦争をしていたの?」
「ええ、聞いたことあるわ。ずいぶんと死んだ人やけが人が出たそうよ。どうして、そんな悲しいことをするのかしらね・・・」
「・・・私ね、大きくなったら、みんなが平和に暮らして、戦争を起こさないようにするための仕事がしたいの。今はどうすればいいのか、さっぱりわからないけどね・・・」
「すてきな事ね。大丈夫よ、きっとできるわ、サフィーユなら・・・」



 〜 完 〜 

/// ありがとうございました、UeSyuさん。m(_ _)m ///
///
そして、読んでくださった方々、ありがとうございました。m(_ _)m///


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