Brandish4・外伝 
[ダーク・クレールのエンディング後のサフィーユ] 
〜UeSyuさん投稿のBrandish4サイドストーリー〜



<<< 第3部・黒髪の悪魔 >>>


「神の塔」における大異変以来、周辺諸国では不穏な空気が広がっていた。

スーラン帝国では、「神の塔」の調査が失敗に終わり、それにかけた予算のせいで国の財政が逼迫していた。そのため、国民から徴収する税金や、国を通る商人からとる通行料などを値上げして財政を立て直そうとした。
しかし、そのせいで国民の生活は苦しくなり、国内におけるギデア産の陶器の流通量が減っていった。また、さらに西の方から来る商人たちも、あまりに高い通行料のためにギデアにいくのを中止しそのまま帰っていく事が多くなった。そのため、陶器の輸出に頼っていたギデア皇国でも経済状況が悪くなっていった。

そんな状況を打開するべく、両国間において何度か会議が開催された。しかし、話し合いは全く折り合いがつかず、両国の関係は悪化の一途をたどっていった。そんな緊張状態が続く中、ビスクロードの拠点やカルア自治区の周辺など、両国の国境にはそれぞれの国の軍隊が配備されていった。まさに一触即発の状態であった。

一方、トゥルカイア小国では「暁の巫女」の後継者がまだ決まっていなかった。短い間であったが「暁の巫女」に就任していたサフィーユが後継者を指名せずに行方不明になったため、その座を巡って修道院の中で対立が起こっていたのだ。
隣国2国の間で戦争が始まりそうになっていることに加え、国の最高指導者である「暁の巫女」がいない・・・。そんな状況が、国民の間で不安を広めていった。

そんな中、それらの国の人々がさらに不安になるような事件が起こった。その始まりは、以下のような事件であった。

・・・ギデア皇国軍・第四大隊タスカ駐留部隊にて・・・

「ん?お〜い、そこに居る、女の子!そんなところでなにしてるんだ?」
「・・・」
「今この町は、スーラン帝国が攻めてくるかもしれないからということで軍隊が駐留しているんだ。もし戦争が始まったら、この辺は危ないよ。町のみんなにも避難してもらってるからね。アエスかエタインの方に行きなさい」
「軍隊・・・戦争・・・?じゃあ、ここの人たちは無駄に命を使おうとしているのね・・・」
「え?」
「・・・じゃあ、その命、私のために使わせてもらうわ!」

そういうと、その少女は押さえていた魔力を解放した。ただそれだけのことで、町の周囲にある城壁のおよそ5分の1が消し飛んだ。

「隊長!大変です!」
「何なんだ今の音は!スーラン帝国軍の攻撃か!?」
「い・・・いえ、たった一人の女の子です!」
「何だと、たった一人だと!?」
「はい、ただ、恐ろしいほどの魔力を持っていますので、もしかすると高等な魔物なのかもしれません!」

「弓矢対、撃て〜!」

無数の矢がその少女に向けて射られた。しかし、それらの矢は全てその少女の5〜10センチ手前で勢いをなくしてしまい、地面に落ちていった。その大量の矢の上を、少女は何事もなかったかのように歩いていた。

「ま、魔法隊、攻撃はじめ!」

今度は一斉に火の魔法が放たれた。だが、その少女はまるでシャボン玉を払いのけるかのように、素手でその火の玉を払っていた。

「・・・何これ?これが魔法のつもり?魔法っていうのはね・・・こういうものよ!」

少女が手を振りかざした瞬間、無数の魔法弾が発射され、兵士の方へと飛んでいった。あちこちで大爆発が起こり、多くの兵士が命を失った・・・。

次の日、この襲撃の報告を受け、別の部隊が調査に訪れた。その調査隊は、あまりの惨状に息をのんだ。町のほとんどがめちゃくちゃに壊されており、あちこちに兵士の死体が横たわっていた。そんな中、たった一人だけ、瀕死の重傷を負ってはいたが一命を取り留めた兵士が発見された。

「・・・恐ろしいやつが襲いかかってきたんだ!黒い髪をした、15〜6の女の子の姿をした悪魔が・・・!十数分でこの有様に・・・」

その兵士は、手当の甲斐もなく、こう言い残して息を引き取った・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

この事件以来、スーラン・ギデアの区別なく、駐留していた軍隊が一人の少女によって壊滅させられる、という事件が頻発していた。この少女は人々に「黒髪の悪魔」と呼ばれて恐れられた。
その「黒髪の悪魔」の殺戮はとどまるところを知らず、数多くの部隊が次々と壊滅させられていった。そのあまりの被害の大きさに、両国の政府はその首に多額の賞金をかけ「黒髪の悪魔」の抹殺を呼びかけた。その賞金は、あの「妖炎のメルメラーダ」にかけられたものとほぼ同額の天文学的な金額となった。
その金額に魅せられ、数多くの賞金稼ぎ達が「黒髪の悪魔」の捜索を始めた。もちろん簡単に見つかるはずもなく、見つけたとしても返り討ちにされるのが関の山であった。

もちろん、トゥルカイア小国でもこの「黒髪の悪魔」の恐怖は伝わっていった。噂では軍隊とか盗賊しかおそわないと言われているものの、これかもずっと一般人を襲わないとは限らない。その事と、隣国2国の緊張状態、そして「暁の巫女」の不在・・・。その3つの事が国中に不安と恐怖を振りまいていた。
そんな中、トゥルカイア政府は、修道院の中でも選りすぐりの呪術使いを集め、「黒髪の悪魔」討伐部隊を編成し、討伐の旅へと旅立たせた。その中には、かつてクレールやサフィーユとともに修行を行っていた者も含まれていた。

・・・その「黒髪の悪魔」討伐部隊が出発してから、およそ一ヶ月後の事であった。

とある森の中、討伐隊は邪悪な気配が背後から近づいてくるのを感じた。あまりの邪悪さに、誰もがなかなか振り返ることができなかった。一人が意を決して振り返った。

「あ・・・あなたは・・・!」

そこにはサフィーユが居た。しかし、突然蒸発してしまったあのころのサフィーユとは、まるで別人のような姿をしていた。

・・・邪悪な笑みを浮かべる口元・・・ギラギラと殺気を放つ瞳・・・血まみれの服・・・そして飲みかけの酒のビン・・・

そのあまりの変貌ぶりにその場にいた誰もが驚いた。

「み・・・巫女様!いったいそのお姿は・・・!?」
「巫女様・・・誰の事かしら?」
「冗談はおやめください!あなたです!『暁の巫女』であるあなたのことです!」
「私は『暁の巫女』なんかじゃない・・・先代の巫女様はクレールのことを後継者に選んだんでしょ?」
「しかし、クレール殿は100日巡礼の途中で行方不明になってしまい・・・うわぁ!」

サフィーユは強力な魔法弾をその男の足元に撃ち込み、言葉を遮った。

「・・・どうしてクレールのこと、捜索しようとはしなかったのよ・・・」

そういうサフィーユの目には涙が光っていた。また、それと同時に、周囲に漂う邪悪な気配がいっそう強くなっていった。その邪悪な気配の発信源がサフィーユであることに気づいた討伐隊は、さらに驚きをおぼえた。

「いや、捜索は行われていました。しかし、あまりにも手がかりがなかったため・・・」
「・・・誰も・・・私に何も聞いてこなかったじゃない・・・クレールとともに100日巡礼をしていた私に・・・」

サフィーユの感情はどんどん高まっていった。瞳は多くの涙を流し悲しみを帯びると同時に、強烈な殺気をも放っていた。あたりの空気はさらに邪悪な気配を高めていった。その場にいる誰もが、おぞましい気配を持つ空気が体中にまとわりつくような感覚を味わっていた。

「クレールのことを言おうとしても、みんな『今はとにかく就任の準備の方をよろしくお願いします』って言って
誰も聞いてくれなかったじゃない・・・!」

サフィーユの魔力は、邪悪な力とともに高まっていった。誰もがサフィーユとの戦いを覚悟していたそんなとき、かつてクレールやサフィーユとともに修行をしていた友人が前にでてきた。

「サフィーユ・・・お願い、聞いてほしいの」

この友人は、サフィーユが「暁の巫女」と呼ばれ、敬語で話しかけられるのをいやがっているのを感じ取り、かつて一緒に修行していた頃と同じように話し始めた。

「あのとき、あなたやクレールが行方不明になり、国中大騒ぎをしていたの。もしクレールが帰ってこなければ、いったいこの国はどうなるのか?って具合で」
「・・・」
「そんな中、あなたは帰ってきた。後継者の資格を持つ者が帰ってきたおかげで、今度は国中が喜んだわ。これで、次の『暁の巫女』が決まるって」
「・・・」
「クレールが帰ってこない以上、誰かがその後を継いで『暁の巫女』を継がなければならなかった。その資格を持つあなたが帰ってきて、みんな浮かれていた。だから、クレールの捜索に全力を出すことは・・・」

その瞬間、サフィーユはものすごいスピードでその友人の懐へと滑り込み、ものすごい力で首を締め上げ、片手で軽々と持ち上げてしまった。その表情には、怒りがあふれていた。

「・・・何ですって・・・先代の巫女様が後継者として指名した、クレールの捜索に全力が出せなかったですって・・・!」
「うぐぐ・・・」
「・・・あなた・・・クレールがどんな思いで『神の塔』を登っていったと思っているの・・・どんなつらい思いをしていたか、あなたにわかるって言うの・・・!」

だが、そういったサフィーユも、クレールがどんなに必死に塔を登っていったかは、具体的にはわかってなかった。しかし・・・

ザノンに操られクレールと戦い破れてしまったあのとき・・・意識を失うまでの、正気を取り戻した短い時間の間に見た、クレールのあの表情・・・。あまりにも悲しく、全てに疲れ切ったようなその表情・・・。
サフィーユはその表情から、クレールがずっと孤独に耐えていたことを知った。「暁の巫女」という重責を全うするため、誰よりもがんばっていたことを知った。そして、クレールが自分のことを心の底から信頼していたということを知った・・・。
そのときのクレールの瞳を見たサフィーユにとって、クレールの必死の思いを踏みにじるような先ほどの友人の発言は絶対に許せなかった。

「・・・どうして・・・どうしてみんな、クレールに冷たいの・・・!?どうして・・・!」
「ウグ・・サフィーユ・・・」
「・・・許さない・・・絶対に許さない!」

その瞬間、鈍い音とともに、魔力を込められたサフィーユの拳がその友人の胸を貫いた。その友人の背中から血まみれのサフィーユの手がのぞいていた。

「うわあ!巫女様、いったい何ということを・・・!」
「・・・殺してやる・・・クレールをいじめる者は・・・みんな・・・みんな殺してやる!」

そういうとサフィーユは魔力を少しずつ高め始めた。それに反応し、討伐隊の者は皆一斉に戦闘態勢をとった。

「・・・巫女様が・・・ご乱心なされた・・・」
「・・・まさか・・・『黒髪の悪魔』というのは・・・!?」

隊の一人がサフィーユの髪の毛を見てそう叫んだ。

「・・・フフ・・・私のことを、そういう風にいう人もいるわね・・・」
「そんな・・・巫女様が『黒髪の悪魔』・・・!なら、我々は使命を果たさなければならない!」
「そうよ!我々の本来の使命は『黒髪の悪魔』の退治なんですもの!」
「巫女様・・・あなたを倒さねばならないことをお許しください!」

隊員達も、魔力を一斉に高めた。さすがに選りすぐりの呪術使いだけ会って、その魔力の強さはスーランやギデアの軍の魔法部隊1個師団に相当するほどであった。しかし、サフィーユはそれだけの魔力を前にしても、いっこうにひるむ気配がなかった。

「・・・私を・・・倒す・・・?アハハハ・・・・!あなた達ごときに、私を倒せるとでも思っているの!?」

そういうとサフィーユは一気に魔力を全開に解放した。その瞬間、その一帯は「死の恐怖」によって覆われた・・・。

サフィーユの強さは圧倒的であった。選りすぐりの呪術使いである彼らに対し、まるでおもちゃの人形でも相手にしているかのようにしか見えないぐらいの力量の差を見せつけた。
次々と仲間が倒れていく中、死の恐怖におびえ、次第に戦意を失っていく隊員達。しかし、サフィーユはそんな隊員達にも躊躇なく、平等に死を与えていった・・・。

「うわああぁぁぁ!助けてください巫女様!」
「だめよ・・・みんな・・・みんな死ぬのよ!アハハハハ・・・!」

サフィーユは、まるで有り余る自分の力を思う存分使うことを楽しんでいるようでもあった。

「アハハハハ・・・!キャハハハハ・・・・!」

その殺戮の様子を、あの悪魔は少し離れた位置から見守っていた。

「あの子・・・あんなに変わってしまった・・・あれだけいやがっていたのに、今では人を殺すのが楽しくてしょうがないみたいね」

悪魔はサフィーユの変貌ぶりに驚きつつも、満足げにこう言った。

「・・・クレールって子に会いたい・・・その思いが狂気となって、あの子をあそこまで変えてしまったのね。いったい、あの子の魂ってどんなものなんだろう?願いを叶えてあげた後がすごく楽しみだわ・・・フフッ」

そして、悪魔は闇の中へ消えていった。

そのころ、部隊を壊滅させたサフィーユは、飲みかけの酒のビンを持ち、それを飲みながら、やはり闇の中へと消えていった・・・。



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