Brandish4・外伝 
[ダーク・クレールのエンディング後のサフィーユ] 
〜UeSyuさん投稿のBrandish4サイドストーリー〜



<<< 第1部・悪夢との出会い >>>


「クレール!クレール!お願い、扉を開けてぇ!」
・・・クレールが「神の塔」にこもってから1年、サフィーユは再び「神の塔」に来ていた。
小さい頃からのあこがれであった「暁の巫女」の座も捨て、安定した平穏な僧院での暮らしも捨て、何もかもを捨てて、サフィーユは再び「神の塔」に来ていた。
激しく扉を叩く音が「神の塔」に響く・・・。サフィーユの悲痛な叫び声がこだまする・・・。
しかし、塔は静かにただそこにあるだけであった。扉はピクリとも動かなかった。
サフィーユはただひたすら叫びつづけた。何度も何度も、ただただ叫びつづけていた。


・・・100日巡礼から帰ったあの日・・・
「神の塔」の異変の噂は、塔から遠く離れたトゥルカイア小国にも伝わっていた。
「暁の巫女」を中心とするトゥルカイア小国政府は、「暁の巫女」の後継者候補筆頭のクレール、次席のサフィーユの消息がつかめず、この2人のうちのどちらかを後継者にすることを断念、次の候補探しに躍起になっていた。
そんな中、サフィーユは帰ってきた。政府も修道院も国民も、絶望視されていた後継者候補の帰還を大いに喜んだ。
しかし、サフィーユの心にはある一つの思いが浮かんでくる。
・・・みんな、私が帰ってきた事を喜んでくれているようだけど・・・みんな心の中では私の事を「友人を見捨てて逃げ帰ってきた冷たい女」とか「混乱に乗じて地位を得ようとしている」というふうに思っているのではないだろうか?
そういう思いに取り付かれたサフィーユは、以前よりも周囲の目が非常に気になるようになっていった。
・・・みんな、私の事を非難するような目で見ている・・・
自分を見るすべての目が、そういう風に感じられた。サフィーユは必要な時以外はほとんど外に出ず、部屋に閉じこもる事が多くなった。いつか、クレールに「他人の目が気になって仕方がない」と相談されたとき、「気にしすぎよ」と言っていたサフィーユだが、今度は自分がそうなってしまったのだ。
・・・いつもクレールの苦しみを取り除いてあげようと思っていた自分が、逆にクレールを追い詰めてしまった!
そんな「罪」の意識がサフィーユを苦しめる。
「みんな・・・私のこの『罪』を非難している・・・!」


・・・そしていつしか、サフィーユは心の平穏を失っていった。
「私が安らげるのは・・・クレールと一緒にいる時だけ・・・」
ある日、サフィーユは再び「神の塔」へと旅立った。


・・・サフィーユがクレールの名を叫びつづけてどれぐらい時が経っただろうか・・・
サフィーユは自分の背後に気配を感じ、振り返った。そこには自分と同じぐらいの年齢の少女が立っていた。
「ク・・・クレール・・・!?」
しかし、そこに立っていたのはクレールではなかった。そこにいたのは、目付きが鋭く、少し意地悪そうな感じのする少女だった。

「クスクス・・・あなた、なにやってるの?」
突然、向こうから話し掛けてきた。サフィーユは、その少女から何か恐ろしいものを感じたが、その話し方には敵意を感じる事はなかった。
「ここに・・・わたしの大事な友達が閉じこもっているの・・・。わたしのせいで・・・その子は心を閉ざしてしまったの・・・。だから・・・一目会って謝りたい・・・」
「ふ〜ん、そうなんだ・・・」
サフィーユはこの少女が何者なのか分からなかった。しかし、ずっと孤独感を味わってきたサフィーユには、自分の事を心配そうに見つめている(とサフィーユは思っている)この少女に、怪しいと思うよりも先に、親しみを感じ始めていた。
「ねえ、その願いを叶えるためだったら、どんな事でもできる?」
「・・・うん・・・」
「どんなにつらい事でも?」
「・・・たとえ・・・どんな事になってもいい・・・もう一度・・・クレールに会いたい・・・」
サフィーユは自分の心をさらけ出した。今のサフィーユの心には、もうその思いしか残っていなかった。
「じゃあさ、その願い、あたしが叶えてあげようか?」
「え・・・」
その申し出はサフィーユにとって、まさに神の声だった。
「だけど、タタじゃあ、ダメよ。私のお願いを3つ、聞いてくれたら・・・ね?」
「・・・本当に・・・叶えてくれるの・・・?」
「ええ、でも・・・」
「お願い!何でもする・・・!どんな事でもいい!だから・・・だからクレールに会わせて!」

サフィーユはその少女に飛びかかった。一瞬その勢いに驚いた少女だが、すぐに冷静になって、少し口元を歪めて話し始めた。

「そう・・・わかったわ。じゃあ、まずは私のお願いから聞いてね。」
「うん・・・」
「まず、一つ目は何人か人を殺して欲しいの。」
「!!」

少し笑みを浮かべながらその少女はサフィーユに語り掛ける・・・。

「2つ目は・・・」
「待って!!」
「2つ目は、その殺した人たちの血を、少しこの指輪に垂らして欲しいの」
「そんな・・・」
「3つ目は、その願いがかなったら、あなたの魂を私にちょうだい」

サフィーユはこの時初めて、この少女が悪魔だという事に気がついた。悪魔が自分の魂をねらっている・・・。私の心の弱い部分をついて、私をそそのかそうとしている・・・。

「いくらなんでも、そんな事できない!!」
「あら、さっきは『何でもする。どんな事でもいい』って言ってたじゃない」
「でも・・・」
「じゃあ、そこでずっとそのクレールとかいう子を呼びつづけなさい」

・・・・

「クレール・・・クレール・・・!」

サフィーユは叫びつづけていた。しかし、その叫びは周囲の砂漠にむなしく吸い込まれていくだけだった・・・。その様子を、少女の姿をした悪魔はじっと見つめていた。

「ウフフ・・・がんばってるね。どう?少しはクレールって子に伝わった?」
「う・・・うるさいわね・・・あなたには関係ない事よ・・・」
「ウフフ・・・そんなにがんばらなくたって、あたしに任せればもっと簡単なのに」
「あ・・・悪魔の誘いになんか・・・絶対に乗らない・・・」
「そう。じゃあ、がんばってね。もし、その気になったらいつでも言ってね。あたし、ここで待ってるから。」


・・・それからどれぐらい時が経っただろうか・・・

「はあ・・・はあ・・・クレール・・・う・・・」

かなりの時間叫びつづけたサフィーユは、体力の限界が来たのか、その場に座り込んでしまった。もう声を張り上げる元気すらなかった。

「あら、ずいぶんがんばったのね」
「・・・」
「ねえ・・・もうあなた一人の力ではどうにもならないんじゃない?」
「・・・」
「だからさ、あたしが力を貸してあげるわよ」
「う・・・うるさい!もう・・・私に話し掛けないで!」
「クレールって子に会いたいんでしょ?だったらいいじゃない。あたしの願いを聞いてくれても」
「くう・・・!」
「あなたの力なら、人を殺すのなんか、簡単でしょ?どう、悪い話じゃないと思うけど」
「や・・・やめてぇ!」

サフィーユは半狂乱になっていた。悪魔のささやきが頭に響く・・・。クレールに会いたければ誰かを殺せと・・・。それを拒みつづけているサフィーユだが、心の中では「悪魔の誘いに乗ろう、そしてクレールに会うんだ・・・」という気持ちも起こりつつあった。

「このままここで叫びつづけたって、いつクレールって子が出てきてくれるかわからないでしょ?だったら私の言うとおりにした方が、手っ取り早いし確実よ」
「うう!うう・・・!私・・・私・・・!」

サフィーユの心が揺れ動く。誘いに乗るか断るか・・・。人としての道徳心と、クレールに会いたいという願望が、サフィーユの頭の中で激しくぶつかり合っていた。

「ああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!」

絶叫とともにサフィーユは残っていた気力と体力を振り絞り、全力を込めて魔法弾を扉に放った。しかし、扉にはキズ一つついていなかった。その様子を見て、サフィーユは愕然とした。自分は修道院の中でもトップクラスの呪術使いだった・・・その自分の力を持ってしても、この扉を破壊できない・・・。サフィーユは、今まで持っていた呪術に関する自信さえも失ってしまった。

「ね?もうあなたの力じゃ無理なのよ。ねえ、あたしのお願い聞いてよ」
「わ・・・私に人殺しなんかできない・・・!
「あら、そんな事ないでしょ?以前、そのクレールって子、あなた殺そうとしたじゃない。大事な親友さえ殺そうという事を考える事ができるあなたが、全く見ず知らずの人を殺せないはず無いじゃない。」
「いやあああぁぁぁ・・・・・・・!」

サフィーユは頭を抱えて激しく叫んだ。そう、確かに自分はクレールを殺そうとした。ザノンに術をかけられていたとはいえ、クレールを殺して「暁の巫女」の後継者の地位を奪おうとした事は事実なのだ。それを悪魔に指摘されたサフィーユの心の中で、何かが崩れ去っていった。

「・・・・」
「どう、この話、受けてみる気になった?」
「うん・・・」
「そう、よかった!」

あの時に心の中にあふれていた「闇」が再び現れてきたのをサフィーユは感じ取っていた。そして、その「闇」に屈していくことを拒む精神力は、もうサフィーユには残っていなかった・・・。


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