* ダイナソア・ピンポイントストーリー *
--プレイ雑記風ショートショート・・・--

 ザムハンの宿の夜は更けて・・・ 
- ランディーからアッシュへ『魔法』 -
 「天才魔法使いがそばにいるおかげで、そろそろ石頭が柔らかくなったんじゃねえか?ここらで一発魔法を覚えてみねえか?多少バカでもお前みたいに図太けりゃ、使いものになるかもしれねえぜ。特別に俺様が教えてやるからよ!」

剣士しか入れないと聞いた試練の塔へ足を踏み入れる前夜、アッシュは塔内の探索の為、ランプを仕入れる為、町へと戻ってきていた。
が、ランプは売り切れ。翌日には入るということで、宿で一泊することにしたその夜、夕食を取り終わったあと、不意にランディーがアッシュに声をかけた。

が、まるで聞こえないかのように、アッシュは何も答えず立ち上がって食堂を出ようと背を向ける。

「おい、聞いてんのか?そうすりゃ、ランプなんてかさばるもんをいくつも持って歩く必要もなくなるぜ。最もすこ〜し修業しなくちゃなんねえがよ。」

「そんな時間ないだろ?」
アッシュの代わりにヒルダが答えた。
「だけどよ、いくついるか分かんねえぜ?なんてったって『試練の塔』ってんだ。中で何が待ち受けてることか。備えあれば憂いなしって言うじゃないか?だから、俺は旦那のために言ってやってんだぜ?大丈夫だって!そんなに時間なんてかからねーよ。オレ様に任せておきゃあ、すぐ使えるようになるさ。なんて言っても世界一の天才だからな。」
「ふん!なかなか使えるようにならなかったじゃないのさ?空間感知の魔法?」
「う・・うるせえな!あの時と今と違うんだ!心配いらねえって!」
「すおーかねぇ・・・?」
「だーいじょおぶだって!世界一の魔導士のこのランディ様に任せておけば、間違いないって!なっ、アッシュ?」
一応、足は止めて2人の会話を聞いていたものの、アッシュからの返事はない。
「・・・・・」
「なんだよ?オレ様の好意を無にするってのか?へっ、さすがにいい度胸してやがるぜ?」

ガタッとイスを蹴り上げるようにして立ち上がり、さっさと食堂から出ていこうとしたランディーの肩をアッシュが掴んだ。
「んだよ、旦那?やるつもりはないんだろ?」
そのアッシュを、ランディーが睨む。
「いかにも教えてやろうというその態度は気に入らないが、探索が楽になる事はたしかだ。それに、自分でできれば、いちいちお前に頼む必要もなくなるからな。」
ランディーの睨みを気にも留めていない表情でアッシュは淡々とした口調で言った。
ぐいっと乱暴に自分の肩からそのアッシュの手を離させると、ランディーは今一度睨み付ける。
「へん!態度が気に入らねーのはお互いさまだろ。」

しばらく睨みあうランディーとアッシュ。

そして、ふっとランディーが笑う。
「ま、いいさ。あんたの思惑は分かってる。敵の手の内を知るにはいい機会だからな。たとえ一時は面白くなくとも、二つを天秤にかけりゃ、答えは出るってもんだよな?」
意味ありげな言葉をランディーはアッシュに言った。面白そうに。


「敵の手の内って?」
ランディーの問いにはアッシュは答えず、そのまま黙ったまま2人が食堂から出ていくと、ヒースが不思議そうな顔でヒルダに聞いた。
「つまりこういうことですな。」
ランディーとアッシュとの成り行きをじっと黙って見ていたルオンが、ヒルダより先に口を開いた。
「異名通りだと言うことを魔法使いは確信したのでしょう。私からみれば、今更なのですが?」
「え?異名って?アッシュさんの?」
「吟遊詩人・・・聞いたことがありませんかな?灰を蒔く者・・・仲間殺しのアッシュという噂を?」
「あ・・・・・・」
年若いとはいえ、ヒースは旅の途中でその話は耳にしていた。そういった話を歌にすることもある吟遊詩人は、噂にも敏感なのである。
「で、でも、あれは単に噂だけで、アッシュさんはそんな人じゃ・・・」
自分の知っている限りのアッシュの事を思い出しながら、ヒースはそう答えていた。
確かに無愛想だが、そんな風には思えなかった。
「まー、あなたがどう思おうと勝手ですがね。心に留めておいて間違いないですよ。」
「そ、そんな!じゃー、なんですか?ルオンさんは、魔法を教わるということは単なる口実で、本当の目的はランディーさんを倒すつもりだって言いたいんですか?て、敵の手の内を知って・・・倒す為のデータに・・・」
「おやおや・・・そんなにムキになることでもないと思いますがね。いずれ分かることです。いずれ・・ね・・・・くっくっく!」
「ルオンさんっ!」
不気味な含み笑いを残し、ルオンは席を立っていった。

「そうだ!今はルオンさんじゃなくて・・・・」
「おやめ、ヒース。」
アッシュとランディーを探そうと立ち上がったヒースをヒルダが止めた。
「他人がどう言ったって無理さね。」
「で、でも・・・ヒルダさん。」
不安そうな表情のヒースに、ヒルダはにこっと笑う。
「大丈夫さ。ルオンのくそ坊主(いけないっ・・ランディーの癖が移っちまった)の言葉なんか気にするんじゃないよ。そんなのあいつの推量にしかすぎないだろ?」
「で、でも・・ヒルダさん・・」
「噂は噂。本当にあったかどうか分からないんだしさ?」
「・・・そ、そうですけど。」
「あたしたちはね、あたしたちの知ってるアッシュを信じればいいのさ。」
「ヒルダさん・・・」
諭すように言ったヒルダの言葉で、ヒースはようやく安堵を覚えた。
が・・・心の底にできたその不安は、ヒースが感じないだけでわだかまりとして、心の奥底の奥に根付いたことも確かだった。・・本人は気づかないが。

そして、その疑念は、ひょっとしたら自分の心の奥底にもあるのかもしれない、ヒルダはそう考えていた。考えたくもなかった事でもあるが。
ヒースに言った言葉は、自分自身への言葉でもあったのかもしれなかった。
 







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