***チェイサー・ドーラの呟き***
   

 参:今回のお話は、「おしゃべりアレス#22〜27」の時のドーラバージョンです

●裏追跡簿[11] 違うけど・・・違わない・・ことにしとくわ

 「な、なによ・・あんたたち?」
そこは絶海の孤島である監獄島、ベルサドス。塔の上で気付いたドーラは、アレスの辿った道を追いかけてきていた。

何しろそこは極悪人の巣?。い、いや、監獄なのだが、監獄となっている魔物が徘徊するそこは、無法地帯といっても良かった。中には無実の罪で送られた男もいるが、勿論本物の犯罪者もいる。そして、看守はそこで何があろうと見て見ぬふり、そこで生き残っているものは、腕力も体力もある極悪人クラスといっても間違いはなかった。そしてそこは、一度投獄されたら最後、二度と外へ出してはもらえない。

そんなところへドーラが足を踏み入れたのである。
ドーラの姿を一目見た瞬間、そのあまりにも意外性に驚きで目を見張った男たちは、当然、それと同時にぎらつく視線をドーラに送る、突き刺すように。
ただでさえ女には無縁だというのに、ドーラの格好は・・・まさにオオカミの群れの中に迷い込んだ子羊。しかも上玉中の上玉?スペシャルディナー(笑。 監獄の外にいてもお目にかかることができるかどうかわからないゴージャスな美女。

−ザッ−
「な、なに?」
あっという間にドーラの周囲には男たちの垣根ができ、さすがのドーラも思わず後ずさる。
−トン!−
そして自分が開けてそこへ入ってきたドアによってそれ以上の後退は阻まれる。
「ふ、ふん・・・このくらいであたしがびびるとでも思ってんの?」
多少顔がひきつってはいたが、ドーラは自分を落ち着かせると、勢いよくその手に火炎を立ち上らせた。
−ごあっ!−
「かかってくるつもりなら、焼死覚悟でくるのね!」
「おおっと・・・」
すぐにでも飛びかかっていきそうだった男たちも、その燃えさかる炎に、数歩後ずさる。が・・・そのくらいの脅しで屈する男たちでもない。今や男たちを制止できるものは何もない状態とも言えた。
「うお〜〜!!」
「ちょっと、あたしの言ったことが聞こえなかったの?」
襲いかかってくる男たちを避けながら、ドーラは叫ぶ。
「いいかげんにしてよね?」
−シュゴ〜〜〜!・・うわっちっちっち!!!−
魔物ではなく人間に向けるということには一応気が引けたが、我が身の危機。ドーラはきっと睨むと火炎をその手から放ち始めた。が、それでも、男たちは次々と現れ、ドーラに向かってくる。
「もう〜〜なんなのよ、これは?・・・なんであたしがこんなとこでこんな目にあわなきゃなんないのよっ?!・・・これもみ〜〜んなアレスのせいよっ!」
ピタッ!
「え?・・な、なに・・ど、どうしたの?」
不意に男たちが固まったのを見て、ドーラは不振に思う。ただし警戒は解いてはいない。

「アレスっていうと・・・あの賞金首の?」
男たちをかき分け、一目で牢名主と分かるようないかつい男が、ドーラに近づいてきていた。
「そうよ。他にいる?」
「あんた・・アレスのコレか?」
「え?」
男は小指をあげてドーラにドスの利いた声で聞く。
「な、なによ、それ?」
はははっと軽くだが、下世話な笑いをみせ、男はドーラを睨んで言い直す。
「アレスの女か?って聞いてんだ。」
「アレスを知ってるの?」
「ああ、以前、奴がここへ投獄された時と、それから、ほんのちょいと前にまた会った。」
「ホント?それっていつ?で、アレスはどっちへ行ったの?」
ドーラは男が極悪人の牢名主(らしい)ということも忘れて聞いていた。
「ふははっ、さすがアレスの女だな。オレの睨みにゃ、大の男でもひるむんだが。」
「ち、違うわよ!あたしはあんな奴の・・・」
「ん?」
「・・・・・」
思いっきり否定しようとしたドーラは、周囲にいる猛者たちのことを思い出し、思わずその言葉を飲み込む。たとえ全員かかって来ようとも倒す自信はあったが、結果としてはここで手間取ることになる。その間にアレスとの距離がどれほど離れるか。
ドーラは素早くそれらのことを考えてから、男をきつくにらみ返しながら答える。
「・・・・・だったらどうだっていうの?」
「いや・・・」
くるっとその男は、群がっている男たちの方へ向きを変えた。
すると、そこにいた男たちは、いかにも気落ちしたという表情をし、のろのろと散っていく。
「な、なんなのよ?ねー、ちょっと、これっていったい?・・あなた、ここの牢名主なんでしょ?」
「ああ。」
ゆっくりとドーラを振り向いた男は、にやっと笑った。
「いくら女に飢えてたとしても・・・アレスの女に手はだせねーってことさ。」
「え?」
「後が恐いからな。こんなとこにいても、命あっての物種。いつかは外へ出てやろうとは思ってるからな。」
「あ・・・そ、そういうことね・・・・。」
面白くない・・・つくづく面白くなかったが、いや、それくらいではすまされない。侮辱もいいところだったが、余分な時間をとらないためにも、ドーラは、アレスの女だという汚名(笑)をぐっと我慢して認めた。
「で・・アレスは?」
「ああ、3階にな、でっけー金属製の扉があるんだ。そこへ行く途中の道で出会ったから、多分そこへ行ったんだろう。」
「3階ね、ありがと。」
アレスの女に手を出す奴はいないと言いながらも、男のにやけた顔に寒気がしたドーラは、欲しかった情報を得ると、さっさとそこを後にした。

「・・・にしても・・・こんなところでアレスの威を借りることになるとは思いもしなかったわ。というより・・・・考えれば考えるほど怒れてくる・・・なんであたしがアレスの女なのよっ?!これもあれも、み〜〜んな逃げ足の早いアレスが悪いのよ!」
がお〜〜!!道を進みながら、ドーラの怒りは爆発していた。
そして、その勢いで、ドーラは進む。目の前に強敵がいようと壁があろうと、怒りに任せた強烈な炎で焼き尽くしながら、ずんずんどんどん進んでいった。


そして・・・・・

「あん?剣士?・・・そうだな、あんたの探してる奴かどうかは知らねーけどよ、かわい子ちゃんと一緒だった前髪の長いあんちゃんなら、ここの地下から行った先で会ったぜ?」
「え?」
そこはダークゾーン。前方に男の影を見つけて、ようやく捕まえたと足早に近づいた男から情報を聞き出していた。
最初は情報料をともったいぶっていたその男、フレッドも、ドーラの怒りとその手に燃えさかる炎には逆らえなかった。もっともアレスだと思ったのが外れだった事は、この男が悪いのというわけではないのだが。
「ちぇっ・・・かわい子ちゃんだけでなく、この女も奴のだってのか?・・・世の中不公平だぜ。」
「え?なんか言った?」
「あ、いや、別に。」
「そう、で?その一緒にいた女の子って?」
「ああ、そうだなー・・・巫女さんのようなカッコをしてたな。いかにも純情そうで、清楚で・・・なんでこんなとこにいるんだって感じの・・あ、おい!どうしたんだ?」
フレッドの呼ぶ声などドーラの耳には入っていなかった。まだ話し足らなさそうなフレッドなど無視し、ドーラは足早に歩き始めていた。
「クレールね・・・・あの子、こんなところまで来たっていうの?・・・巫女修行の続き・・それとも、まさか、あの子もアレスを追って?」
クレールに違いない、ドーラは決めつけていた。そして、ドーラは知っていた。クレールがアレスを賞金首として追ってくるようなことはない事を。
そう、どちらかというと、クレールはアレスを高く評価していた。腕のいい剣士であり、親切で紳士だと。
「どう見たらそうなるのよ?確かに腕はいいけど・・・賞金首なのよ?極悪非道の悪党なのよ!それをあの子ったら・・・・ホントに世間知らずっていうか、疎いっていうか・・・・。」
そんなことを口走りながら、それまでのアレスへの怒りの変わりに、焦りのようなものがドーラの中からわき上がってきていた。本人は意識してないが。

「アレス!・・・今度こそ捕まえてあげるから、覚悟なさい!」
ドーラは進む。通路のトラップが発動し、前後左右から矢が飛んで来ようとも、プチデビルなどが襲いかかって来ようとも、今のドーラにはなんでもなかった。
行く手を阻む者を業火で一瞬にして焼失させながら、ドーラは勢いよく迷宮を進んでいた。


--参:おしゃべりアレス#27--

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