***チェイサー・ドーラの呟き***
     

●裏追跡簿[1] 衝撃の事実?

 「なんですって?もう一度言ってごらん?」
とある国のとある酒場(爆)・・・
恵まれた顔立ちと肉体美を誇る華麗なる魔法使い(謎)、ドーラ・ドロンは、一人の酔客の襟首を掴んで怒鳴った。
「だ、だから・・・う、噂だって言ってるだろ?」
ドーラの鋭い視線で睨まれ、酔いも一気に冷めたその男は、完全に青ざめていた。
「ア、アレスが・・・アレスが、捕まったなんて・・・・そ、そんなバカなこと・・・・」
「だ、だから、噂だって・・・」
「いいこと?」
青ざめただけでなく、小刻みに震えはじめた男に、ドーラは情け容赦なく罵声を浴びせる。
「アレスを捕まえるのはこの私でなくっちゃいけないのよ!・・このドーラ・ドロン様でなくっちゃね!」
「は・・はい、ご、ごもっともで・・・・・」
もはや男は生きた心地がしなかった。もう片方の手に持つ火炎の杖で今にも焼き殺されるのかもしれない・・・・。この至近距離では間違いなくおだぶつ・・・。
「そうじゃない・・・・そうじゃないわ・・・」
襟首を持ったまま、考えていたドーラは首を振って否定する。
「そうじゃない・・・違うわよっ!」
「ど、どう違うんだ?」
うわずった声でドーラを見上げる男は、店にいる他の客に目で助けを求めていた。
「・・・違うに決まってるでしょ?アレスを捕まえられるのは、この私しかいないはずなのよ!」
「そ、そうですよね・・・・」
失禁しそうになりながら男は小声でドーラの言葉に頷いていた。
「そんなのガセネタに決まってるでしょ?」
「は、はい・・・そうです・・・ガセネタに決まってます・・よね〜〜〜ェェェ・・・?」
徐々に答える声も情けないものになってくる。
「で、どこで誰がどうやって捕まえたっていうの?賞金は支払われたの?」
信じてないのに聞くのか?と男は、できることならすぐにでも逃げ出したかった。が、かよわい魔法使いに見えてもそこはドーラ・ドロン。肉体の鍛錬も怠ってはいない。握力も相当なものであり、男が振りきって逃げる事は無理だと思われた。

男は、その魅惑的な容姿に誘われてつい声をかけてしまったことを心底後悔していた。マントの下は大切な部分をほぼ隠しているだけというような蠱惑的な服装に、声をかければ今夜は最高に楽しめるだろう、と判断した自分の過ちを呪っていた。

そして、ドーラはドーラで気が動転していた。自分以外の奴の手にアレスが落ちる。そんなバカな事はあり得ない。いや、あってはならないと思っていた。そして、信じてはいないが・・いや、信じたくもないが、もし、もしもそれが本当なら賞金が支払われたはず。それで真偽は確かめられる。そう思い、嘘であって欲しいと願いつつ男に聞いた。

「そ、そこまでは知らないって・・・だから、噂だって・・言っただろ?」
−ドスン!−
「役立たずっ!」
ドーラは今一度その男を激しく睨むと、勢いよく壁に向けて男を離す。
「誰でもいいわ。知らない?アレスのこと?」
そして、酒場を見渡し、大声で叫ぶ。
「賞金はどうだか知らないが、捕まえた奴なら知ってるぞ?」
「ホント?」
もっとも事実かどうかは知らないが・・と続けるつもりの男より先に、ドーラは叫んでいた。
「あ・・だから、ホントかどうかは・・・」
「この際細かいことはどうでもいいわ。私がこの目で確かめる。」
「あ、ああ・・・・」
カウンターに座っていた男は、自分の一言で飛ぶようにして近くに来たドーラに目を奪われる。
(上玉だ・・・)
が、さっきの男のことがある。そんな事は口には出さない。
「で、誰が捕まえたの?どこで?」
「・・・確か名前はカールとか言ったな。その国の傭兵参謀だったかなんかだ・・」
「カール?」
「そうだ。」
「・・・カールねー・・・おやつじゃあるまいし・・・・。そんなに強そうな名前でもないわね?」
「は?」
「あ、なんでもない。で、場所は?」
「場所か・・・確か砂漠に囲まれた国だったと思ったが・・・国名までは忘れたな。それで脱出不可能とかいう噂の絶海の孤島にある監獄に入れられたとかだったぞ?」
「え?まだ生きてるの?」
「らしいな。」
「よく生け捕りできたわね・・・・」
(あのアレスを・・・・)
ドーラは信じられなかった。
「そういう話を耳にしたというだけで、確証はないけどな。」
「なるほど。・・・ありがと。じゃーね。」
砂漠に囲まれた国。そして絶海の孤島の監獄。おそらく入れられたら生きては出られないと言われてるあの監獄だ、とドーラは思い当たる場所があった。善は急げ、早速そこへ向かおうと、軽く礼を言って酒場を出ようとしたドーラのその手を男はぐっと掴む。
「それだけか?オレが知らなかったらその情報は手に入らなかったんだぜ?」
礼はもっと丁寧にするもんだ、と男の目は言っていた。
「そう・・・よね。あんたの言うことももっともよね?」
ドーラだとて鈍くはない。それにその手の誘いはそれまでにもうんざりするほど経験している。男が何を言いたいのか十分分かっていた。
彼女は、自分の言った言葉ににやっとした男に、にっこりと微笑む。
「ただし・・・それがガセネタじゃなかったらということだけど?」
−ボン!−
一瞬にしてドーラの持つ杖の先に直径2mもあろうかと思われるほどの火球が燃え上がった。
「このくらいのお礼でいいかしら?」
−ガタタッ・・−
近くにいた客たちが慌てて場所を空け、すごみのある口調と鋭い視線のドーラの微笑みに、にやけていた男の顔が一瞬にして恐怖に染まる。
「い、いや・・・オ、オレも・・そ、その、自信がないし・・・・」
「あら、そう。」
意気地なし!火球を消してからドーラは心の中でそう呟くと、蔑視した男から戸口へと視線を移す。
−サササッ・・・−
興味津々で事の運びを眺めていた他の男たちは、慌ててドーラから視線を背け、何事もないような顔をして酒を呑みはじめる。
「世の中も終わりね。・・・こうも骨のない男ばかりじゃ・・・。」

男たちへの失望と、アレスへの不安を感じつつ、ドーラは酒場を後にした。


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