**Brandishサイドストーリー・番外編?**

泥酔美人とむっつり・・・(5) これこそ定番魔法使い?

***ある日ある時ある場所で・・・アレスとドーラのお話です***
  


   
         

 その国は旅人も滅多に立ち寄らないひなびた国だった。その権勢を誇り、近隣諸国を強力な軍隊で圧していたのも、もはや気の遠くなるほどの過去の事。
が、力を失ったそこへ攻め入る国もなかった。それは、立派な町並みだけが残る国都。国都とは言えないほど少人数に減り閑散としたその街の背後にそそり立つ巨大な岩城。自然の岩山を城として造作したというそこからにじみ出る異様な気配。呪われた城・・そして、呪われた国として恐れられたことから他国の支配を免れていた。
が、国は、そして街は寂れる一方だということは確か。
その一方、街は無法者と賞金稼ぎ、そしてトレジャーハンターのたまり場と化していることも、また確かだった。
一生使っても使い切れないほどの宝が不気味なその城にはある。
現国王はなんとか税収を得ようと、岩城の手前に小さな城を建て、そこを居城として、問題の城へは自由に出入りできるようにしたことが功を奏した。
そのようなことをしなくても、宝があるのならそれを処分すればいいじゃないか、と思うのが普通だが、その城は、もはや人間の住む城ではなくなっていた。
魔が巣くい、魔の輩が徘徊するそこは、王と言えども無事ではすまなかった。
そして、異様に入り組んだ内部は、さまざまなトラップが仕掛けてある。それは、その昔、偶然繋がってしまった魔の空間への入口、そこからの魔の侵攻を阻む目的で作られたものだが、今となってはその逆である。そして、内部の広さは・・・計り知れない。
冒険者が、トレジャーハンターが探索するのに、そして、賞金首が潜むのに、これ以上好都合な場所は他になかった。
・・・魔物と対峙するだけの腕さえあれば。



−わいわい、がやがや・・・・−
町にはそんな輩目当ての酒場があちこちにあった。その中の一つでアレスは、情報収集の為、カウンターの片隅に座ってワインを一人飲んでいた。
カウンターの中にいる店主は、おしゃべりで有名だった。誰かれ問わず、そして、相手の目的がなんであろうと、聞こうとしようがなんだろうが、片っ端から話すという話し好きの男なのである。
余計な質問をする必要もない。その店主と常連客らしい男達との話に、アレスは耳を傾けていた。

「そうらしいですよ?・・・・だけどね、死神がいるエリアだからねー、よほどの腕がなけりゃそこまでいけないということですよ。」
「バニースタイルの美人ギャルのいるカジノかー・・・・行けるもんなら行ってみてーな?」
「無理無理!おめーの腕じゃ入口辺りが精一杯だって!」
「それなんだよなー・・・そうだっ!数人で行くっていうのはどうだ?」
「はっはっは・・・・お宝はその日呑めるだけ見つかればいいって考えのあんたたちでも、美人と聞いちゃ欲が出るわけか?」
「あったりめーだろ?マスターが美人でも雇い入れてくれりゃ、そんなことも思わねーけどな?」
「無法者ばかりのこの町の酒場に来てくれるような物好きはいやしませんて。」
「ははは・・ちげーねー。」
「で、そのカジノへの道は分かるの?」
「は?」
不意に声をかけられ、店主もそして男達も声の主を見た。
声からして女、しかもまだ若いと思えたその人物は、足先までの長さのローブを身に纏い、頭からすっぽりとフードをかぶっていた。鼻先と口元が見えるのみである。そして、手には宝石の填った杖。
明らかに魔法を生業としている者だと判断できた。
「わ、分かることはわかりますがね?・・・一度行ったという男からそこまでの地図を買い受けてあるんで。」
頭の中で算盤をはじき、店主はにやっとする。
「なによ、売りつけるつもりなの?」
店主のにまっとした笑みを見て女は不機嫌そうに言う。
「あたしだって金を払ってその男から買った情報なんですよ?」
「どうせ元は知れてるんでしょ?それに地図なんていくらでも書き写すことができるじゃない?あまり欲をかくとそのうち良くないことにあうわよ?」
「だから1万ゴールドで売れるんですよ?」
「さー、どうだか?死人から奪い取ったということも考えられるでしょ?」
「ちょっとお客さん・・それは言い過ぎじゃないんですか?」
ぎくっとしたような店主に女はにやりと口元をあげる。
「図星だったでしょ?」
「い、いいかげんな事言わないでくださいよ、お客さん?!」
店主がカウンターの済みに目配せすると同時に、5,6人の人相の悪い男達が
近づいてきた。こういった時用の用心棒と思えた。
「魔法使いだかなんだか知らねーが、いいがかりもそのくらいにしとくんだな。」
先頭の男が睨みを効かせて吐く。
「痛い目にあってからじゃ遅いんだぜ?」
「どう痛い目にあうっていうの?」
「・・へへ・・声からして若いねーちゃんのようだが・・・・そんな啖呵きっていいのか?」
「それともしわくちゃのばーさんが、術で声だけ若くしてるってか?」
−わっはっはっはっ!−
用心棒の男達とそして、周囲の男達の笑い声が店内に響いた。
「あ、あたしのどこがしわくちゃなのよっ!」
−ばさっ!−
「ほ?」
「は?」
勢いよくローブをとった女の姿に、男達は驚き、そして次に生唾を飲み込む。
肌も露わなバニースタイルに身を包んでいるその身体は艶やかで張りがあり、そして文句の付け所のない抜群のプロポーション。しかも顔もかなりの美人ときている。そう、誰あろう、バニースタイルを余儀なくされたドーラ・ドロン、彼女である。
「ね、ねーちゃん、もしかして迷宮内のカジノの?」
「ち、ちがうわよっ!でもそこへ行かなくちゃいけないのよ!」
だから、さっさと地図をよこしなさい、とでもいうように自分を見つめるドーラに、店主はにやっとして手を差し出しながら答えた。
「ですからさっきから言ってるように、1万ゴールド。」
「なんで地図1枚の為に、そんなに出さなきゃなんないのよっ?!」
「1万ゴールドがどうしてもいやってんなら、どうだ?オレが立て替えとこうか?」
「え?」
用心棒頭と思われる男がにやけながらドーラに声をかけた。
「1万ゴールドくらいの宝、一回入りゃ手に入るからな。」
自慢げに筋肉粒々の腕を見せながら男はにやりとしながらドーラを見る。
「で?その代わりにつきあえって?」
ため息をつきつつ、ドーラは男に蔑視を向けた。
「話が分かるじゃねーか、ねーちゃん?」

−ごあっ!−
「うおっ・・・?!」
その男がドーラを捕まえようと手を差し出したのと同時だった。
ドーラの片手から天井まで燃えさかった炎が躍り出、彼女を取り囲んでいた男達は一斉に後ずさる。
「焼死覚悟ならいいわよ?」
「へっ・・・悪いな、ねーちゃん。こっちには炎の耐性のある防具をつけてるんでな?」
「え?」
啖呵を切ったドーラを、用心棒頭は余裕の笑みで背後から掴んでいた。
「ほ、ホントに燃やすわよ?」
「できるものならやってみたらどうだ?え?ねーちゃ・・」
−バキッ!−
「ア・・・アレス?!あ、あんたもいたの?」
そのままドーラを奥へ連れていく予定のその男の頭に、アレスの振り下ろしたイスが勢い良く炸裂していた。
「ア、アレス・・・」
そして、ドーラの叫びを聞き、男達は一斉に壁にかけてあるお尋ね者の張り紙に視線を飛ばす。
「ア、アレス・トラーノス・・・や、奴が・・・?」
間違いなく1000万ゴールドの賞金首・・・が、なぜそれほどの賞金額がかけられているのか、十分承知していた彼らは、そうと分かっても簡単に攻撃する気はない。
が・・・そこは、猛者連中が集まっている店内。1000万ゴールドといえば、店内の男全員と山分けしても十分である。それに、アレスを倒してから気に入らない奴は始末すれば取り分は増える。
咄嗟の判断で男たちはお互い目配せすると、一斉に武器を抜き、アレスに飛びかかる。


−キン!ガキンッ!−
−ぼん!バボン!−
あ・うんの呼吸というのだろうか、アレスとドーラは絶妙なる連係プレイでその場から姿を消した。



「どうしてくれるのよ?せっかく後少しで地図が入るところだったのに?」
それから数十分後、問題の城へ続く道を歩くドーラはアレスにくってかかっていた。
もちろんアレスが答えるわけはなく、にやっと口の両端を上げるのみ。
「なんとか言いなさいよっ!・・・この・・むっつりすけべっ!」
「そうしているといかにも魔法使いらしいが・・」
「え?」
「・・やはりお前はあの格好じゃないとな?」
「え?」
逃がさないようにとアレスにくっつくようにして歩いていたドーラは、まさか、またしても酔っている?と焦りを覚えて思わず数歩間を開ける。
もちろんドーラは再びローブを纏い、頭からすっぽりフードをかぶっている。
バニースタイルではあまりにも目立つので、不本意だったが、そうして旅をしていたのである。いや、それまでの格好も十分目立つが・・・バニースタイルはまた少しニュアンスが違うのである。それにその恰好を強制的に余儀なくされていることがドーラにとっては面白くなかったからでもあった。
「な?なによ?」
が、ふっと軽く笑ったアレスをドーラは睨む。
「あ、あの時はからかっただけだって言いたいの?」
それには答えず、アレスは1枚の紙切れをドーラに差し出す。
が、当然ドーラはその通りだという答えをアレスから感じ、文句を言おうとして彼女の注意はアレスの手の地図に移った。
「迷宮内の地図じゃないの、これ?」
にやっとしたアレスにドーラは続ける。
「いつ手に入れたのよ?」
「あんたと話していたとき、奴が視線を流した棚の角の引き出しの中にあった。」
もちろん奴とはひと騒動おこした酒場の店主である。
「い、意外とちゃっかりしてるのね?」
そして、どっちがちゃっかりしているのだろうか、と思えるような素早さで、ドーラはアレスの手から地図をさっと取る。
「じゃーね・・あんたの目標はカジノなんかじゃないでしょ?これ、カジノへの道しか描いてないみたいだから、いらないわよね?」
反論しないアレスにドーラはにやっとする。
「じゃ、そういうことで一足先に行かせてもらうわ。」
−ばさっ!−
「・・・・・・」
「絶対闇屋はここにいるわ。あたしの感は当たるのよ!だから、それはもう必要ないからあげるわ。人間の町なら男よけになるけど、迷宮じゃ必要ないのよ。」
ローブをアレスに投げつけ、ドーラは自信たっぷりに叫ぶ。
空気を肌で直に感じ魔法を発動させるドーラ。すっぽり包んだ格好だと魔力が落ちるのだと今回の旅は彼女に気づかせていた。そして、どうやら感も鈍るらしかった。
「それから、いいこと?あれくらいあたし一人で十分だったんですからね!助けたなんて思わないでよ?!」
「・・・・」
「じゃね、アレス・・・この格好から元に戻ったら今度こそその首もらってあげるから、覚悟しておくのね!なんならこの迷宮はやめて他へ行く?・・それでも、絶対見つけてあげるけど?」
勝ち誇ったような余裕の笑みを残して、ドーラは城への入口へと走り去っていった。


(ん?)
やれやれとでも言うように、頭に投げかけられたそのローブを取ったアレスは、ローブの内ポケットに何か固い物に気づいて調べてみる。
(カギ・・か・・・・・この古さと王家の紋章があるということは、城内のカギ・・か?)
城内のいくつかの部屋は、決まったカギでないと開かないと聞いたことをアレスは思い出していた。
(わざわざ追いかけていって返してやることもないだろう。あいつはカジノへ行ければいいんだしな。)
大きめでずっしりとし、豪華な彫金がほどこされたその古びたカギは、明らかに
何か重要なものがおさめてある部屋のカギ、あるいは、そこに繋がる通路のカギと思われた。

(そういえば、ドーラは貸し借りは嫌いらしかったな。)
それならそれで、ちょうど地図の見返りになる。負けん気の強いドーラがわざとローブごと投げつけたのかもしれないと思いつつ、アレスは歩き始めた。
目の前にそびえ立つ巨大な岩城から発せられる挑戦してくるような魔の瘴気を全身で感じながら。
そして、ドーラとの再会の時がなぜかまた彼女のピンチの場面ような気を受けながら・・・・。    

※「むっつり・・・」の「・・・」には、剣士という言葉が入るんだぞ? /^^;


  

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