**Brandishサイドストーリー・番外編?**

泥酔美人とむっつり・・・(3) バニー・ドーラ

***ある日ある時ある場所で・・・アレスとドーラのお話です***
  



   
         

 「ホントにどこにいるのよ、アレス?」
入り組んだ迷宮、どうやら大昔の地下共同墓地(カタコンベ)だったらしいそこは、どこまで行っても闇と人骨、そして、そこを住処と決めた魔物たちで埋め尽くされていた。
そして、当然のごとく方向感覚もない。似た造りの迷路は、果たして進んでいるのかそれとも堂々めぐりをしているのか全く分からない。闇に包まれた迷宮は幾たびか経験があるドーラといえど、少しうんざりもしてきていた。

「あら?あの光は何かしら?・・・・出口・・・とも違うみたいね?」
進行方向の先に、うっすらと黄色い光を見つけたドーラは、用心しながら足早に近づいていった。

「な、なんかとっても賑やかね?」
近づいたそこは、やはり外への出口ではなく、あちこちが朽ちかけた木のドア。そこにはめられたガラスの窓から見える室内の灯りだった。
そのドアに耳をあて、中の様子を探るドーラ。
中から聞こえてくるのは、数人の話し声と笑い声、そして、軽快な音楽。
「カジノ?」
バノウルドの地下迷宮で遭遇したダークゾーンのカジノをドーラは思い出す。
強力な魔物が巣くうそのテリトリーとは正反対に、全てを忘れてはまりこんでしまいそうな楽しい雰囲気に包まれたその一角。ドーラもついアレスのことを忘れ、迷宮にいることも忘れて、思わず熱中してしまったスロットマシーン。

−ガチャ−
そっと開けたつもりだったが、そこは古びたドア。思いっきり力を入れなければ開かず、結構大きな音とともにドーラは中へと入った。が、周囲の音の方が大きかったようであった。

「およ?新人かいな?」
「おお〜〜!こりゃべっぴんさんやーー!」
「あんたがお次のカジノ嬢さんかい?」
が、やはりドーラは目立つようである。一人の男がめざとく目に付けたと思った次の瞬間、ドーラの周囲は4,5人の男達で埋まっていた。
といってもそこに人間はいない。一人くらいはいたかもしれないが、人間には見えない輩が多かった。
かといえ、攻撃をしてくるわけでも、ドーラに対して敵意を持っているわけでもなかった。
全員、一様にドーラを大歓迎していた。
「新人ってどういう・・・?」
わけわからずドーラが聞こうとするのも構わず、男達はそのままドーラを奥へと連れていく。いつもなら火球を1発出して追い払うのだが、今回呆気にとられていてそうするすきも何もなかったのである。


「あら、あなたが今日配属されてくるっていってた子?」
「え?」
奥にはバニーガールの格好をしたドーラと同年齢くらいの女性がいた。
「ここへ来る前に制服が支給されてるはずなんだけど・・・その衣装はあなた用のアレンジなの?」
「え?」
「でも、やっぱり耳としっぽは必要よ。カジノ嬢のシンボルなんだから。」
「あ、あの・・・・」
にこやかに話すその女性に押され気味のドーラ。
「そうだわ!」
ぽん!と手を打って彼女は続けた。
「こういうときのために予備があったんだったわ!じゃ、それ貸してあげるわね。」
「か、貸してくれるって・・・?」
「だから、バニーガールの衣装一式。そうね、早いほうがいいから着ちゃいましょ。」
「き、着る?」
「そうよ。大丈夫、今のカッコと対して違わないから。耳としっぽがつくだけ。」
「み、耳と・・・しっぽ?」
「恥ずかしいのは最初だけよ。」
ウインクして彼女は未だにわけわからず呆気にとられているドーラをぐいぐい引っ張っていった。


「あ、あの・・・あ、あたし・・・・」
「う〜〜ん・・・いいわ〜・・・・ひょっとするとあたしより人気出るんじゃない?」
エリーヌと名乗ったその女性は手早く着替えさせていた。あっという間の出来事、ドーラが阻止できなかったほどの鮮やかさだった。

「おお〜〜!!似合うにあう!」
「ぴゅ〜ぴゅ〜〜!!」
「あ、あの・・・・」
店へとエリーヌに背中を押されて出たドーラを待っていたのは、男達の歓迎。
「大丈夫よ。そこらの人間と違ってみんな紳士だから。まー、時には人間も迷い込んでくることがあるけど。」
「ということは、ここに来るお客さんってみんな?」
すでにドーラの前には、にこにこ顔でグラスを差し出す男達で一杯になっていた。
「あら、元締めに聞いてこなかったの?」
エリーヌはドーラの表情で判断したようだった。
「仕方ないわね、元締めったら。じゃ、ここがどういうカジノかも知らない?」
「え、ええ。」
−ふ〜・・・・−
エリーヌはため息を付いて説明をし始めた。
勿論、手は動かしている。そこは商売、きちんとオーダーされたカクテルを調合中。
「ひょっとして人手不足でろくに説明もされないうちに派遣されたの?いい?『バー&カジノ・ブランディッシュ』は、人間の街にもあるけど、こういった魔族も出入りする迷宮内にもチェーン展開をしてるのよ。」
「チェーン展開・・」
「そう、総元締めは、人間と魔物とのハーフの元闇屋よ。」
「ハーフ・・・・」
「一見どこにでもいるような人間のおじさんに見えるけどね、魔力は結構強力よ。店の周りのバリアは元締めの力なんだから。」
「バリアが?」
「そうよ。だから、ここは安全地帯。迷宮に迷い込んだ人間にとっては天の助けとも言える避難所。そして、迷宮内の闇屋や店屋にとっては情報交換の場なのよ。勿論、癒しの場でもあるし娯楽の場でもあるわよ。」
「あ・・でも、あたしは・・・」
店員じゃないと言おうとするのだが、そのすきがまったくない。エリーヌのおしゃべりは続く。
「でも、それは店内だけよ。1歩外に出たら関係ないわ。助けるのは御法度よ。強い者が生き残る。それが迷宮なのよ!」
「それは分かったけど、でもあたしは・・・・」
「だ〜いじょうぶ!あなたにだってきっといい人が見つかるわよ。」
「そうじゃなくって・・」
「いいの!分かってるんだから。迷宮店を希望する人はみんなそう。腕っぷしの強い男との出会いを求めて来るのよ・・って、私も例外じゃないんだけどね。」
ふふっとエリーヌは意味ありげな笑みをみせ、ドーラの耳元に囁く。
「ここの退職の条件はね、バニースタイルが似合わない年齢に達するか、あるいは、誰かが迎えに来てくれるかなのよ。」
「迎えに?」
「そう。迷宮を無事脱出した勇者様のお迎え♪」
「それって・・もしかして?」
エリーヌのバニースタイルはばっちり決まっていたことからドーラは後者の方だと判断する。
「そ♪代わりのあなたも来たし、あとは彼の迎えだけね♪」
「だから、あたしは・・・・」

「金髪のねーちゃん、アレドラスペシャル1杯くんな。」
「え?」
「オレはサヒクレ・暁の恋!」
「え?」
「え、えっと・・・あたしはですね・・・ダブルでブランディッシュ・ハイ!」
「え?」
「ち、ちょっと、ちょっと・・・もしかしてカクテル作れない?」
「え・・だから・・あたしは・・・・」
店員じゃないと言おうとするドーラだが、またしてもエリーヌはその機会を与えない。
「仕方ないわねー、見習い期間に何やってたのよ?いいわ、確かどこかにレシピを書いた本があったはずよ。」
「あ・・・エリーヌさん?」
ドーラの呼び声が聞こえたのか聞こえないのか、エリーヌはさっさと奥へと本を探しに行った。

「じゃね、最初はこれを見てもいいからしっかり覚えるのよ。大丈夫、ここのみんなは心が広いから、見ながらでも文句は言わないわ。ね?みなさん、慣れないうちはご迷惑をおかけしますけど、よろしくね♪」
「いいってことよ、エリーヌちゃん。」
「まかせときな、エリーヌちゃん、金髪のねえちゃんはオレたちが立派にプロにしてやっから。」
「立派にはいいけど、手は出すんじゃないわよ?ホントの新人が来ちゃったみたいなんだから。」
「大丈夫、そこらの人間と出来がちゃいまっさ。」
「そうそう、オレたちみんなの憩いの場のカジノ嬢に手をだすような不届きな野郎は、袋叩きの上、血の池地獄めぐりさせてやりますがな。」
「頼むわよ。」
「へいへい。」


それでも、迎えが来るまでできる限り指導していくと言ったエリーヌの元、ドーラのバーテンダー修行は始まった。何度も店員ではないと言おうとするドーラなのだが、エリーヌも、そして客もその機会を与えない。
次々と入るオーダーにドーラは振り回されていた。    


エリーヌ?

※「むっつり・・・」の「・・・」には、剣士という言葉が入る?



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