**Brandishサイドストーリー・番外編?**

アレドラ現代版 2

***戸浦(どうら)課長、ホステスデビューに荒須は?***
   
  


         

 「ふふん・・・・何よ、接客業なんて簡単なものじゃないの。」
その日は、戸浦課長のホステスデビューの日。毎夜荒須の勤めるホストバーに通い続けていた戸浦に目をつけたバーのオーナーがようやく口説き落とした結果だった。

初日、開店と同時に戸浦への指名が飛び交っていた。その一つの席に座り、戸浦はやはりというか、荒須の事を考えていた。
「あたしだって、いつも怒ってばかりじゃないのよ?やるときはやるんだから・・・色気も素っ気もないやり手の営業課長?・・・見てくれてる人は、ちゃ〜〜んと見てくれてるんだから。」
『お嬢さんならすぐナンバーワンになれますよ。』
オーナーの言葉を思い出し、思わず笑みがこぼれる戸浦。
そして、その笑みを勘違いしてに思わずにやける客。
バリバリと仕事をこなす戸浦は、女性社員からは、姉御肌で面倒見がいいので頼りにはされていたが、どちらかというと男性社員に敬遠されがちだということも知っていた。
(出そうと思えば、色気の100や200?)
そう、色気で契約を取っていると言われるのがいやで、戸浦は仕事では極力抑えていたのである。衣装も化粧も控えめ、控えめを心がけていた。が、プロポーションもバツグンであり、美人であることは周知の事実でもあった。

「ささ、一杯・・おお〜〜!いける口だね?」
酒好きなこともあり、そして、ホステスとして十分(すぎるくらい?)通用することには満足していても、やはり男にこびを売るのは性格にあわない戸浦は、気が進まないという自分の感情を酒でごまかしていた。

と、そんなところに、不意につかつかっと歩み寄る影が一つ。

−グイッ!−
「え?・・・・な、何よ、荒須じゃない・・・ち、ちょっと何なのよ?」
「あ!おいっ!君っ!割り込みは失礼じゃないかね?」
「ち、ちょっと!」
その影は、誰有ろうその店から数メートル離れたところにあるホストバーで勤務中のはずの荒須。
周囲の止める声はもちろん、憤慨も無視し、戸浦の腕をぐっと掴んだまま、荒須は、彼女をそのまま店の外へと連れ出した。

「おい!君!」
戸浦を連れ出した人物が同系列の店の荒須だと分かり、連絡を受けたオーナーが慌てて飛び出してきた。
「何か?」
「何か、じゃないよ・・どういうつもりなんだね?」
「そうよ、荒須!?」
オーナーの方を振り向いたと同時に腕を掴んでいる力が少し抜けた荒須の手をふりほどいて戸浦も叫ぶ。
「すみません、オーナー。失礼は重々承知してますが、この人はホステス向きじゃないので。」
「向きじゃないって・・君!勝手に決めてもらっちゃ困るよ。」
「そうよ!」
「確かに見た目は・・・」
ここまで言って、荒須はちらっと横の戸浦に視線を流す。
そこには会社でのスーツ姿とも、そして、客として店に現れるアフターファイブの彼女の姿とも違っていた。
思いもかけず、どきっとした荒須は、それでも平静を装って言葉を続けた。
「すぐにでもナンバーワンになれそうですが・・しかし、彼女はどちらかというと酒に飲まれる方なので・・・ホステスには合わないかと・・・」
「いいじゃないか、それはそれで。」
「よくありません!」
きつい視線を飛ばした荒須に、さすがのオーナーも緊張する。
「ともかく、この話はなかったことにしてください。彼女は私が送っていきます。荷物などは、また後ほど取りに伺いますので。」
「し、しかし、荒須くん?」
「どうしてもとおっしゃるのでしたら、私は今日限りで店をやめ・・」
「あ!わ、わかった・・・わかったから、君のいいようにしろ。」
ナンバーワンホスト荒須、彼を引き抜こうとしている店は山ほどあった。オーナーはそのことを考え、渋々戸浦のことを承知して店へ戻っていった。

「ちょっと、荒須、何勝手なことしてくれたのよ?支度金だってもらっちゃってるんだから?」
「そのくらい僕が返しておきますよ、課長。」
「だから〜、会社外じゃ課長はよしてって言ってるでしょ?それに、あんたの世話になんかなりたくないわよ!」
「じゃ、あとで請求しますから。」
「あのねー・・荒須?!」
ほどよく酔いも回っている美人ホステス戸浦と荒須の路上での口論は、当然目を引く。
「・・家に帰るにしても、こんなカッコじゃ?」
その視線に気付いた戸浦はどうあっても帰らせようとするのなら、着替えに店に戻ると主張する。が、荒須は、戻ればまたなんだかんだと言われるだろうことを予想していた。
「じゃ、課長、これでも。」
自分の来ていた背広の上着をサッと脱いで戸浦に羽織らせる。

−キキーッ!−
そして、ちょうど通りを流していたタクシーを拾うと、押し込めるように戸浦を乗せ、そこから走り去った。


「何よ、自分は良くても、あたしはダメなの?あたしにはつとまらないっていうの?落ちこぼれ社員のあんたにできて、このあたしにはできないっていうの?!」
「そうじゃないです、課長。」
「じゃ、なんなのよぉ?」
「会社にばれたらどうするんです?僕と違って課長は目立つんですからね?」
「そ〜〜んなの大丈夫よぉ・・なんとかなるわよぉ〜。」
「なりませんっ!首になったらどうするんですか?」
そう、会社はアルバイト禁止なのである。しかも業種が業種、禁止でなくてもそうなるとも思えた。
「いいわよ、首になったら、ホステスを本職にするから。」
「課長!」
「あたしがどうなろうと、あんたには関係ないでしょ?いっつも美人のお客さんに指名されて、いちゃついて・・あれこれ買ってもらったりして・・・モテモテで、いいわよねー?」
「課長!」
「ふんだ・・・何よ、荒須にできてあたしにできないことなんかないんだから・・・何よ・・・あたしだってその気になれば・・・」

−ふわっ・・ー
(おっと・・・)
荒須に寄りかかりながら文句を言っていた戸浦。完全に酔いが回ったのか、荒須の鼻先を甘い香りでかすめつつ、倒れ込む。

「ふう・・・・・」
安らかな寝息を立てているひざの上の戸浦の寝顔を、荒須はため息と自嘲ともみえる笑いを浮かべながら見つめていた。


 

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