**Brandishサイドストーリー・番外編?**

アレドラ現代版・どたばたコメディー

***戸浦(どうら)課長と平社員荒須(あれす)***
   
  

お絵描き掲示板に描いたドーラ・・のつもりの絵です。/^^;


         

 「ほら、荒須!何のそのそしてるのよっ?!もっとチャッチャと歩けないの?」
住宅街の夜道、戸浦魔子(どうらまこ)は、少し後ろを歩いている荒須虎之助(あれすとらのすけ)に怒鳴っていた。

「あっ!課長!大丈夫ですか?」
足下がふらついた戸浦に駆け寄る荒須。
そう、同じ会社に務め、戸浦は、荒須の上司。とはいえ、同期入社でもあった。
が、戸浦が持ち前の負けず嫌いな気性を発揮して功績を残していったのと反対に、荒須は仕事にまるっきり無関心というか・・・いつものんびりと日々を過ごしていたことの結果、その差ははっきりと出ていた。
が、戸浦は入社時からなぜだか荒須のことが気に掛かっていた。恋とはどこか違っているような気がしたが、ともかく、主任、係長、そして課長補佐、課長と上がってきてもいつも荒須のことが気がかりで、なんとか功績をたてさせようとあれこれそのチャンスを作ってきてもいた。
が、ともかく荒須はいつまでたってものんびりしている。そして、異常なほど無口なのである。営業マンとは言えないほど。



そして、その日も荒須の為におぜんだてした会社へ向かわせたというのに、決まるはずだった商談は破談となっていた。
その事に腹をたて、そして、なぜ荒須にこうまでしてやるのか、という自暴自虐の念もあって、パブをハシゴしていたドーラは、気づかずにホストバーに入ってしまったのである。

そこで目にしたのが、あの荒須だった。
会社では全く目立たず、いるのかいないのかわからないほどの荒須。が、そこでの荒須は決まっていた。ビシッとスーツに身を包んだ彼は、別人かと思えるほどきりりとし、女性客にモテモテにもてていた。
その荒須を横目に、それまでも結構呑んだというのに、またしても深酒してしまったのである。

そして、一方、荒須も入ってきた新顔の客が戸浦と知り、一端はぎくっとしたが、そこはナンバーワンホスト。同席していた女性客が帰ってから、そっと戸浦のテーブルへとつき、酔った勢いでさんざん悪態をつく戸浦につきあったあと、こうして送ってきたのである。



「大丈夫だってばぁ〜〜・・・・あんたと違うんだからぁ〜・・・」
身体を支えようとしてくれた荒須を戸浦は突き飛ばすように押しのける。
「あんたなんて、私のことなんかちっともわかってないでしょ?どれだけ私があんたのことを思ってあれこれと・・・・」
「そんな事は・・・課長・・・」
「だから〜・・・さっきから課長はよしなさいって言ってるでしょ?会社じゃないんだから。」
「・・・・・」
そう言われて押し黙る荒須に、戸浦はまたしても怒りを感じる。
「だいたい、何よあれ?・・仕事よりあの方がいいんなら、さっさと会社やめちゃえば?アルバイト禁止っていう社則、知らないとは言わせないわよ?」
そう言いたくなるほど、ホスト姿の荒須は決まっていた。無口はそのままだったが、その仕草一つとってもどこか女心をくすぐるのである。そして、なによりも、会社の時のようにおどおどなどしていない。いるかいないかの昼行灯のぐずではなく、颯爽とし、存在感があった。

「課長!」
ふらふらと歩き始めた戸浦に手を差し伸べる荒須。
「うるさいっ!どうせ私なんかかわいげのない女だと思ってるんでしょ?・・いいわよ・・・・勝手に思ってれば?・・・それで・・それで、どこへでも行っちゃえばいいのよ、あんたなんか・・・・」
「あっ!課長?!」

荒須に倒れかかってきた戸浦は、すっかり眠りの中へ入ってしまっていた。
(・・・・世話の焼ける・・・・」
戸浦のマンションは目と鼻の先。荒須は、ふっと軽く笑い、戸浦を抱き上げた。

「お休みなさい、戸浦課長。」
部屋まで連れていき、ベッドに横たわらせると荒須はそこを後にした。

(まいったな。まさか課長に見つかるとは。)
苦笑いを残し、荒須は足早に家路につく。そして、それからが、戸浦の知らない荒須のバージョン2、いや、真の荒須の姿なのである。

昼間はぼんくら会社員。アフターファイブは、ナンバーワンホスト。而してその実態は、腕利きの怪盗ブランディッシュであった。
深夜、荒須は夜風に乗って街を駆け抜ける。昼間ののんびりぼんくらモードからは決して想像できないほど素早くそして、華麗に。
主にブラックマーケットを介して金持ちの間に出回っている世界的宝物をその目的として、荒須は毎晩飛び回っていた。
ホストはその情報入手の為の手段の1つなのである。
そう、彼の真の職業は盗賊なのである。



「ちょっと荒須っ!分かってるわね?ここのお勘定はあんたが払うのよ?ずぇ〜〜んぶあんたが!」
「課長、それはいくらなんでも・・・」
「会社には黙っていてあげてるんだから〜、それくらい・・当たり前でしょ〜ぉ?・・それに・・・ナンバーワンのあんたなら、あたしが呑むくらい軽いもんじゃないのぉ?一応、他のお客さんがついてるときは邪魔しないようにしてあげているんだからぁ〜・・。」
見つかって以来、ほぼ毎日のように呑みに来る戸浦に翻弄されながらも、荒須は、それを楽しんでいるかのように付き合っていた。


 昼間、今日も、オフィスに戸浦課長の荒須を叱咤する声が響き、そして、夜、今日も華麗なる怪盗ブランディッシュの姿が夜の闇を舞う。



-おまけ-

「荒須ぅ〜〜・・・まさか、あたしを送ってきてくれた後、お店のお客さんとどこかで待ち合わせしてんじゃないでしょうね〜?」
「あ、いえ、そんなことは・・・」
「にしては・・いつもさっさと帰っちゃうじゃないのぉ?」
「あ、いえ、だから・・・課長におかしな噂がたってもいけませんし。」
「噂なら・・もう・・立ってるわよぉ〜〜・・毎日酔って男に送ってもらってくるってぇ〜・・」
「か、課長・・・」
「だからぁ〜・・今日という今日は帰さないからね、荒須・・・覚悟しなさい・・・よ・・・・覚悟・・しな・・・・さ・・・・」
「覚悟って・・・課長?・・・・」
その日は呑む量がいつもより一段と多く、またしても送っていく途中で寝てしまった戸浦。荒須にしつこくせまっていた客にいらつき、戸浦はつい呑みすぎてしまったのである。
「荒須・・・・あんたって・・ほ・ん・と〜〜に・・・・」
(・・・今日は盗賊業は・・休業するしかないかもな?・・・)
起きているのか寝ているのか・・・いつものごとくそっと寝かせて出ていこうとした荒須にからみついて離れようとしない戸浦に、彼は苦笑いしつつ大きくため息をついていた。


 

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