遙かなる旅路
〜[クレール in Brandish1] Brandishストーリー〜

(18)[CAVE 3F]

〜 その中身、知りたいわ 〜

 「何してんの、子猫ちゃん?」
「あ!ドーラさん♪」
ドーラは氷付けにされて動かなくなっているアイアンゴレムの前に立ってじっと見つめているクレールを発見して近づいてきた。
アイアンゴレムとは、その名の通り、鉄のゴーレム。全身赤い布付き鉄のヘルムと鉄の鎧、そして鉄のロングブーツ・・・もとい!キュラス。頭のてっぺんから足のつま先まで鉄の甲冑のゴーレムである。その堅さは、単にアイアンといっても鋼鉄であり、その硬度はかなりのものだった。クレールが知りうる剣士の中でもっとも腕の立つアレス、彼の剣でもものともしなかったのは、少し前に見たばかりである。

が・・・・鉄と言うものを知っていれば思いつく。アレスは己の剣が効かないと判断すると、剣士としてのプライドを傷つけられた・・などと思うこともなく、咄嗟に攻撃方法を変更。そして、サンダーの魔法であっさり倒した。電撃や火には弱い鉄の特性。その弱点をつく・・・常にベストな攻撃方法を選ぶアレスならではの行動だった。・・・・って、これは「おしゃべりアレス」の話じゃないぞ!!

ともかくその一部始終を偶然目撃したクレールは、相手の弱点が分かってほっとしていた。なぜなら、自分ならひたすらえいえい!と杖で殴っていただろうから。そう、クレールは極力魔法を使うのを避けていた。なざなら、ワープ魔法の使いすぎでへとへとだったからである。というより、魔法力回復させるためのマジックポーション・・それを飲みたくないだけである。味が・・なんともいえないものなのである。(謎)もうおかわりはいいわ、状態。

「普通の術ならいいわよね?」
ワープ魔法が特別なのである。それは一瞬にして全魔法力を使い尽くしてしまう。が、その他のものはそんなこともない。自然回復で十分間に合うとクレールは判断した。
加えてアイアンゴレムの動きがなんとものろいのである。それはきっとその巨体が重いからなのだろうと思われた。
かといえ、その巨体にさも当然というように持っている巨大な斧は・・・クレールの首どころか胴体でも簡単に寸断できるだろうと思え、思わずぞっとするクレール。
サンダーがファイヤーの魔法でなんとなかりそうなことは分かったが、ここは用心深くアレスの後をそっとついていくことにした。(笑)

そして・・・・
「きゃあっ!鎧のおじさまを倒すと金の延べ棒に変わるの?」
倒した後、アレスが金色に光るものを手にするのを数回見たクレールは、確信した。
ちょうど金塊は全て使ってしまったところである。
「こ、ここは・・・魔法力の残量を見ながら倒すべきよね?」

そして、クレールのサンダー攻撃が始まった。
そうするうちに、クレールにはふと気になったことがあった。
そう、勘のいい読者様にはお分かり(分かるわけない?)かもしれないが、彼女の心の中で純粋な疑問が沸いてきたのである。

「あの鎧の中って・・どうなってるのかしら?どんな人が入ってるのかしら?」
が、中身を見ようとしてもヘルムの隙間からぎらついている目が見えるだけ、中身がどうなってるのか全くわからない。
「ううーーん・・どうしよう?魔法で倒しちゃうと消滅しちゃうのよねー?」

そこで思いついたのがフリーズの魔法だった。
凍らせて動かないようにし、なんとか脱がしてみようとしていたところに、ドーラが現れたわけである。(・・・能書きが長かった・・・・・)

「ばっかじゃないの、子猫ちゃん?」
当然、説明を聞いたドーラは呆れ返る。が、クレールは不思議そうに付け加える。
「だって・・気になりません?どこかの星空を走る汽車の車掌さんも気になるのですけど。」
「何それ?」
「あ、いえ、それは人から聞いた話ですけど、その車掌さんも目しか見えないとかで。でもその人にはお会いできないので確かめられませんけど、鎧のおじさまなら・・・あ!でも、もしかしたらお兄さまかもしれませんね?」
「そうね、ハンサムかもしれなくてよ?」
「え?そ、そうなんですか?」
あまりにも真剣な表情で話すクレールに、ドーラはからかうように話に乗ってみた。
が、まさか、その言葉にクレールが乗るとは思わなかったドーラは、一段と呆れ返ってクレールを見つめる。
(修道院育ちってみんなこうなのかしら?純粋というか・・・天然というか・・・・)
「でも横でじっと見てるだけじゃ、疑問は解決しないわよ?」
「そ、それなんです、ドーラさん。」
「何か不都合でもあって?」
じっと見つめるクレールの瞳は明らかにドーラに助けを求めていた。
「だ、だって・・・いくらモンスターさんでも、鎧を脱がすなんて・・体格からして男の方ですよね?・・そ、そんなはしたないこと・・あ、あたし・・・・」
頬を染めていかにも恥ずかしそうにうつむくクレールをドーラはため息と共に見つめていた。
「そうね、もしも、鎧の下に何も着ていなかったら・・・」
「きゃっ・・」
ドーラのからかい半分の言葉に、まともに反応してクレールはますます赤くなった頬に両手を充てて叫ぶ。

「嘘よ、子猫ちゃん。」
「え?」
クレールにからかいは全く通じないと判断したドーラは、地の底まで落ちていくようなため息を付きながら額に手をあてた。あきれ果てたなんてものじゃなかった。
「入ってるわけないでしょ?」
「え?そうなんですか?」
「そうよ。」
「で、でも・・・これも聞いた話なんですけど、マントの下には肩車した小人さんたちがわやわやと・・・こ、これも・・違うんですね?」
ドーラはもはやため息も出なかった。
「だから、これは車掌さんの制服でもマントでもないのよ。鎧なんだから・・・いい?純粋に鎧のモンスターなの。中身はないのよ。こういうものなのよ、アイアンゴレムって。」
「そ、そうなんですか・・・・・」
がっかりと肩を落として凍り付いたままのアイアンゴレムを見つめるクレール。
「でも、そうね、中身が空洞なのか、それとも全部鉄なのか、それくらいは確かめてもいいわね?」
そのあまりにも気落ちしているクレールの姿に、ドーラは思わずそんなことを口走っていた。
「でも・・・どうしたらいいかしら?」
クレールのその姿は明らかにドーラの同情を買っていた。このままではかわいそうに思えてきていた。

そのドーラをクレールはじっと見つめていた。それはひたすら親鳥を信じ切っている雛鳥の瞳のようで、ドーラは突き放すことができなくなっていた。
「そうだわ!クレールちゃん、大金槌持ってない?」
「え?大金槌ですか?」
「そう。私今持ってないのよ。」
クレールは慌てて四次元箱の中を見る。
「あ!ありました!」
にっこりと笑って取り出すクレール。
「じゃ、思いっきり叩いてみなさいな。」
「叩く?」
「そう。叩いた時の音で、中身が空かそうでないか分かるでしょ?」
「あ!そ、そうですよね?」
はっとして目を輝かせクレールは嬉しそうに叫ぶ。

−グワーーーーン!−
そして、洞窟中にアイアンゴレムの金の音が聞こえた。
「あ、あら・・・・子猫ちゃんって意外と力あるのね?」
「え?そ、そんな・・・・そうじゃなくって・・凍っていたからもろくなってたのよ、きっと。」
思いっきり叩かれたそれは、音がした次の瞬間に粉々になってしまった。
「そう・・・よね?」
クレールの細い腕を見ながらドーラは笑った。
「でも・・・空なんて・・・がっかりだわ。」
確かに空洞の音だった。そして、粉々になったそれは明らかに真ん中はない。
「分からないわよ、たまたま今回のは空だったとかもありなんじゃない?」
「え?そうなんですか?」


力を落としているクレールに、再び思わず言ってしまったその言葉を、ドーラは後悔することになる。といっても、ドーラに被害があるわけではないが。

−グワーーーン!クラーーン!−カァァァァァん!・・・・−
洞窟に、次々とアイアンゴレムの音が響き渡っていた。

「こ、鼓膜が破れないうちに、さっさとこのエリアから抜けた方が良さそうね?」
ドーラはいつにもまして先を急ぐ。・・・・害はあったらしい。

「ああ〜ん・・・今度も空っぽ?小人さんは?」
殴ったショックで中から何か飛び出さないか、いつのまにか目的が違ってきていたクレールは、アイアンゴレムを見つけると嬉々として彼に駆け寄っていた。

クレールに凍らせられて叩かれるがいいか、はたまた、アレスからサンダーを浴びせられて瞬時にして消滅するか・・・2人に挟まれ逃げ道を失ったアイアンゴレムは、一瞬迷ったあと、アレスを選んだそうである。

気を付けよう、床の穴と大金槌の乙女。

このダンジョンで、その標語は後々まで語り継がれていくこととなった。

** to be continued **


注意:ゲーム上ではここでドーラとは会いません



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