木漏れ日の中
〜[修道院時代のサフィーユとクレールのある一日] Brandish4サイドストーリー〜


  

 「待ってサフィーユ・・・もう少しゆっくり歩いてちょうだい・・」
「あんまりのんびり歩いていると一日が終わっちゃうわよ?せっかく2人一緒に出てこられたのに?」
「だって、サフィーユ・・・」
滅多に修道院から出たことのないクレールにとって、サフィーユとやってきたその森の光景はキレイだった。
別に外出を禁止されているわけでもない。修道院の近くの森くらいや2月に1回ある休みには外出が許可されていた。が、人見知りの激しいクレールは、その休日でさえ修道院で過ごしていた。
それが、一応キノコの採取という名目はついていても、一番の仲良し、いや、たった一人の理解者といっていいサフィーユとこうして出かけてくることができた。クレールは心から開放感を味わっていた。
ふかふかの絨毯のように一面に咲き誇っている草花や木漏れ日に輝いている木々。そのトンネルから差し込んでくる温かいお日様の光。クレールはすがすがしい空気と共に満喫していた。

「いい?クレール?どのくらい採ってこなくちゃいけないっていうノルマはないけど、でもね、一応渡されたかごは一杯にしたいわけよ?」
「え、ええ。」
景色に気を取られているクレールを振り返って、サフィーユは、人差し指をたてて軽くクレールを睨むようにして言った。
「だから、このかご一杯にしたら・・」
「したら?」
ウインクして言ったサフィーユは、純粋に聞き返したクレールに思わず苦笑いする。
「もう・・まったく、この子ったら・・・・いい?かご一杯にすれば、あとはゆっくりできるでしょ?」
「あ・・」
言われてようやくその事に気づいたかのようにはっとした表情のクレール。サフィーユは、くすくすと笑った。
「クレールらしいわね。ホントに真面目なんだから。一日ずっとキノコ狩りするつもりだったんでしょ?」
「え?で、でも、普通は・・・」
「そ。普通はね。でも、かごが一杯になっちゃたらどうやって持って帰るの?」
「あ・・・・・。」
「この間立ち寄ってくれた行商のおばさんにね、キノコが群生してるところを内緒で教えてもらったの。」
「群生してる?」
「そうよ。」
ふふっと笑ったサフィーユは、クレールに手を差し伸べる。
「行きましょ。時間がもったいないわ。」
「でも、サフィーユ・・・かご一杯になったら修道院へ帰らないと行けないんじゃないの?」
(ととっ・・・・・)
手を差し伸べた格好でサフィーユはずっこけた。
「んとーにもーーー!クレールったらっ!」
両手を腰に充て、サフィーユは苦笑いのような少し膨れたような顔をクレールに向ける。
「クレールはきまじめすぎていけないわっ!いいこと?上手に帳尻を合わせるのもコツよ?要領よくいかなきゃ!」
「要領よく?」
「そうよ。」
「それがサフィーユみたいな優等生って言われる人たちのやり方なの?」
「ク、クレール・・・・・」
はーっと大きくため息をついたサフィーユは、笑い始めていた。
「ほんとにあなたって子は。」
クレールのその言葉が嫌味などから来たことではないとサフィーユには分かっていた。純粋にそう思ったから口にしたこと。そして、自分にだからこそ思ったことを話してくれることも。
「そうよ、クレール。知識に秀でることも必要だけど、こういうことも必要よ?」
「でも、わたしにはできそうもないわ。・・・わたし・・・」
サフィーユ以外の人とは、まともに口も利けないクレールは、自分が落ちこぼれだという劣等感を持っていた。そして、落ちこぼれだから、と続けそうになったそのクレールの唇に、サフィーユはそっと人差し指をつける。
「わたしは知ってるわ。クレールのいいところ。」
「サフィーユ。」
「自然が大好きで、とっても真面目で・・そして・・・・」
「そして?」
ふふっと笑ってサフィーユは続けた。
「ど・じ・な・と・こ・ろ!」
「サフィーユったらっ!それのどこがいいところなの?」
「だって、わたしは気に入ってるんだもん。どじなクレールが。」
「もう!いじわるなんだからっ!」
「あら、今頃分かった?」
「サフィーーユっ!」
2人は明るく笑いあって森の中を走り始めていた。


そして、キノコが群生しているという場所で、2人は少しでも早くかごを一杯にしようと、一生懸命キノコ狩りをしていた。

「きゃあっ!」
「クレール?!」
そこは低木がしげっていて地面が見えていなかった。まだ続いていると思えた地面がなかったのである。
「クレール!大丈夫?」
「サ、サフィーユ・・・わ、わたし・・泳げないのっ。」
「だ、大丈夫よ、落ちやしないから・・・わたしが落とさせないからっ!」
慌てて駆け寄ったサフィーユが崖から落ちかかっているクレールの片方の手首を掴む。クレールのもう片方の手は、なんとか木の枝を掴んでいた。
崖から下に見えるのは、その奥に滝壺のある川らしき水面。
崖の高さは3m程だが、深さはかなりありそうである。

−ズズ・・・−
周囲には助けを求められる人影もいない。渾身の力で引き上げようとしていたが、力が足らない。そして、クレールが握りしめている小枝にも亀裂が走り始めていた。
「サ、サフィーユ・・・このままだとあなたまで落ちちゃうわ。」
「何言ってるのよ・・大丈夫よ、諦めちゃだめ!頑張るのよ、クレール!」
「で、でも・・・・」
「だめよ、クレール!すぐ弱気になるところがあなたの悪い所よ!わたしは・・わたしは、何があってもあなたの手は離さないわよっ!」
「サフィーユ・・・」
必至の表情で叫んだサフィーユの言葉に押され、諦めかけていたクレールも気を取り直し、小枝が折れない事を祈りながら、握りしめている腕に力を入れ、少しでも身体を上げようとした。


−ボキッ!−
「あっ!」
「クレール!」
「サフィーユ!」
が、2人のそんな必至の思いも叶わず、小枝が折れたと同時に、クレールのバランスが崩れ、そして、その衝撃で2人の手も離れてしまった。
−ザパーーーン!−
「クレールっ!?」
崖から身を乗り出して下を見ても生い茂る草木でクレールが見えない。
慌ててサフィーユは、獣道を下りていった。


「あ・・・サフィーユ・・・・」
「ク、クレール?」
そして、川縁まで下りていったサフィーユは、そこで修道着の裾をしぼっているクレールを見つけて唖然として立ち止まった。
「手前は浅かったみたい。」
そんなサフィーユを見て、クレールがぺろっと舌を出して笑った。
「え?」
「お尻は・・・かなり痛いけどね?」
「ぶっ!・・・ぷぷぷぷぷっ!」
  
 

MEGUMIさんがお絵描き掲示板に描いてくださった笑顔の可愛いクレール(修道院時代)です。
ありがとうございました。


浅いと分かっていればあんなに死ぬ思いで必至になる必要もなかった、と2人は同時に笑い始めていた。


「どうせ塗れちゃったんなら、水浴びしましょうよ?」
「え?」
「誰もいないし、キノコのかごは上に放ってきちゃったけど、ほぼ一杯なんだし。ね?!」
「サフィーユったら・・それも優等生の要領良くっていうものなの?」
「そうよ、クレール。ほら、修道着はぎゅっとしぼったらそこの木にかけちゃってよ。」
「あ・・え、ええ・・。」
クレールがサフィーユの勢いに飲まれるのはいつものこと。反論の余地もそして、必要もないことでもあり、クレールはサフィーユの言葉に従った。

「きゃあっ!何するのよ、サフィーユ?」
「早くしないとずぶぬれになっちゃうわよ?」
「もうっ!お返しよっ!」
−ピチュピチュピチュ−
修道着を絞るのもそこそこに、楽しそうに水遊びを始めた2人を暖かい日の光と森の小鳥たちが優しく見守っていた。


「今度はわたしがサフィーユを助けてあげるから。」
「ふふっ、ありがと、クレール。でも・・・」
「でも?」
「おっちょこちょいでドジのクレールに助けて貰うなんてことあるのかしら?」
「もう!サフィーユの意地悪っ!だから、いつか、そんな時があったらって事!」
「はいはい。その時はよろしくお願いします。」
「もう!サフィーユったら!あるわけないと思ってるんでしょ!?」
森からの帰り道、わざとらしく頭を下げたサフィーユをクレールは軽く睨んだ。
「だって、お返しを期待して助けたんじゃないわ。わたしとクレール、親友でしょ?」
「でも・・・もしもあの時一緒に落ちてしまってたら・・・川が浅くなかったら・・・」
つん!とサフィーユはクレールの鼻を軽く弾く。
「あなたはわたしにとって大切な友人よ。何があっても、どんなときでも。」
「サフィーユ・・・」
「だから、この手は絶対離さない。これからもずっと。」
サフィーユはクレールの手をぎゅっと握りしめた。
「さー、もういいから急ぎましょ。夕暮れ前に帰らないと叱られちゃわ。」
「そうね。」
サフィーユの温かい手を握り返しクレールが明るく笑った。
「じゃ、修道院の門まで競争よ!いい?」
「あっ!いい?って・・ずる〜〜い、サフィーユ!先に走り始めるなんてっ!」
「ぼさ〜っとしてるクレールがいけないのよ〜。」
「待って、サフィーユ!!」

先を走るサフィーユ、後を追うクレール。2人の手は離れても、お互いの手の温かさを感じていた。
交わし合う笑顔、2人の心の中でお互いの手はしっかりと握りあっていた。    


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