傷心のメルメラーダ
〜[その怒り決して消えず?] Brandish4サイドストーリー〜

 遺跡から次のエリアへと向かったメルメラーダは、そこが水中での探索であったこともあり、一旦街へと戻ってきた。

「ぼそぼそ・・・ふふふっ・・・・」
「あ・・ほら、あの人じゃない?」
「そんな風にはみえないのにねー・・・」
「ぼそぼそ・・・・・・」

「ど、どうしたっていうの?・・・私の顔に何かついてる?」
街へ転移して来たと同時に、周囲の様子がおかしかった。それまで幾度となく街へは立ち寄っていたが、誰も彼女に特別気をとめるようなことはなかった。・・・一部の男ども以外は。
が、街で見かける人たちは今回は明らかに彼女を見ては何か噂話をしていた。

最初こそ無視していたメルメラーダだが、指さして笑っているような人物を見かけた途端、彼女の堪忍袋の緒が切れた。
そして、彼女の勢いにおどおどしながら答えたその男の言葉に、メルメラーダの中で怒りの炎が燃え立った。

−バッターーーン!−
「ズフォロア!」
彼女の質問に青ざめつつ答えた男を勢いよく離すと、メルメラーダは街の一角にある教会へ走り込む。そこには、一応配下であるズフォロアという名の男が、ここ神の塔内部調査の為、神官として入り込んでいた。勿論偽神父なのだが。
「これはこれは、メルメラーダ。どうやら首尾良く遺跡の・・」
探索も済んだようですね・・と、めがねの縁をくいっとあげていつものすました顔で言葉を続けようとしていたズフォロアに、彼女はズカズカっと近寄ると同時に、ぐいっとその襟元を掴みあげる。
「ど、どうしたというのです、メルメラーダ?」
襟元を掴みあげられ、首が締まったズフォロアは、息苦しそうに慌てて聞く。
「どうしたもこうしたもないわよっ!」
そのズフォロアをぎろっと睨むメルメラーダ。彼女のもう片方の手は、固く握られ、怒りで震えていた。
「あなた、ここで一体何してるの?」
「な、何と申されても・・・・わ、私はあなたに命じられた塔やそれに関わる人物の調査を・・・・」
そのただごとではなさそうなメルメラーダの怒りに、ズフォロアは顔色を失う。・・・もっとも喉元を締め付けられて息が苦しくなっていたことも確かだった。

−ダン!−
懇願の目で許しを請うかのようなズフォロアに、メルメラーダは小馬鹿にしたような笑みを一瞬浮かべ、勢いよく彼を壁に投げつける。
「調査だけしていればいいってものじゃないわよっ!」
「で、ですが・・・私が命じられた事は・・・。」
「ただしてればいいってものじゃないのよ?入手した情報に対して必要且つ可能な処理処遇があるのなら、臨機応変に対処すべきでしょ?」
「臨機応変に対処?」
ぐっごほっと、ようやく自由に空気が出入りできるようになった喉を押さえながら、ズフォロアは訳が分からずメルメラーダを見つめていた。
「この・・・・役立たずっ!・・・・知らないとは言わせないわよ?」
「な、何をでしょう?」
「な、何をじゃないわよっ!」
「は?」
怒りが頂点に来ていたメルメラーダを前に、ズフォロアは生きた心地がしていなかった。これ以上同じ問答を繰り返せば、彼女の怒りが爆発するのは目に見えていた。
「だから・・・・噂よ!」
「う、噂・・・ですか?」
「そうよ!街のみんなが私のことをなんて言ってるか・・・知らないわけじゃないでしょ?」
「あ・・・・・」
ようやくズフォロアが、何に対して彼女がこれほど怒りを燃やしているのかに気付いた。
「そ、それはですね・・・」
「『それはですね』じゃーないわよっ」
きっとズフォロアを今一度睨み、メルメラーダはわなわなと震える拳をあげる。
「わ、私が・・・・ガマ仙人だなんて・・・太っちょのいぼいぼだらけのガマ使いだなんて・・・・わ、私がよ?!・・・世界中で一番美麗且つ妖麗な、私が・・・・・・・燃えさかる炎のきらめきの化身とも言われるこの私が・・・。」
「ご、ごもっともです。」
「もっともだと思うのなら、なぜ、そんな噂を放っておいたのよっ?!」
「い、いえ、ですから、私としましても、もみ消そうとはしたのですが・・・」
それはそうである。放っておけば、いずれはメルメラーダの耳に入る。そうなれば怒りが自分に降りかかってくる事は必至なのである。
「ですが。・・・何?」
「そうしようとすればするほど・・そ、その・・・・噂が大きくなって・・・。やはり噂の元を絶たないと・・。」
「まったく・・・使えないわねっ!」
「も、申し訳ございません・・・・・。」
ズフォロアは床にひれ伏さんばかりに謝っていた。
「で?その噂の元っていうのは?」
「は、はー・・・・メルメラーダ様も気に留めていらっしゃるあのクレールとか言う巫女でして。」
その言葉で、メルメラーダはなぜガマ仙人などという不名誉な呼び名をつけられたか気付く。
「あ、あの子・・・・大ガエルをけしかけたのを根に持って・・・・・」
確かにガマと言えるかもしれない、と当の本人であるメルメラーダも思わず思ってしまっていた。
「それにしても、ガマ仙人はないでしょ?ガマ仙人は?」
「そ、そうですよね・・。」
「私のどこがガマ仙人だっていうの?」
「ごもっともです、はい。」
「で?そのクレールはどこにいるの?」
「そ、それが・・・・レストラン・ハーベストへつい先ほど入っていったように思いましたが・・・。」
「レストラン・ハーベスト?」
「は、はい。怪しげな魔物料理に定評のあるあそこでは、結構高値で売れるらしいのです。そ、その・・・食料となりうる魔物なら。しかも珍しいものとくればなおさら高値で引き取ってくれるらしく・・・。」
ズフォロアはこれ以上出ないと思われるほど全身びっしょり冷や汗をかきながら答えていた。
「いい度胸よね。人をガマ仙人にして、自分は魔物狩りして稼いでるなんて。」
「は、はい。」
「いいわ!直接本人に噂を消させるから!」
「あ、あの・・・・」
「何よ?」
くるっと向きを変え、教会を出ようとしていたメルメラーダを、ズフォロアは一瞬迷った後、声をかけた。
「その召喚したカエルは・・・もう手元に?」
「それがねー・・・・まだ帰って来ていないのよ。クレールがここにいるって事は・・・あのままあそこで彼女の進路を妨害してるんじゃないの?・・・まさかあの子猫ちゃんが倒すとも思えないし・・・・どうせ、街へ逃げ帰って来て誰かに助けを求めたか話したかで噂になったんでしょ?」
「そ、それが・・・・」
「な〜に?まだ何かあるの?」
黙っているべきかもしれない、とズフォロアは思った。が、いずれにしろレストランへ行けば、ばれてしまうことである。そうなれば、情報収集をさぼっていたとも言われかねない。その結果、・・・彼女の怒りが放った炎に焼き尽くされるとも考えられた。
「そ、その・・・・」
「ズフォロア?」
「は、はいっ!」
「あたしはね、あんたを100%信用してるわけじゃないわ。だけど、情報を集める腕に関しては、一目も二目も置いてるのよ。だから、今回だって、つるむのは好きじゃないけどそこは目を瞑って協力すると言ったあんたの話にのったんじゃない?・・それを・・・・その情報も満足に収集できないようなら、用無しね。あんたとはこれっきりよ。」
さげすむような視線を投げかけ、メルメラーダは教会の扉に手をかける。
「で、ですから、情報はどんな些細な事も逃してはいません!」
そのメルメラーダの背を追いかけるようにしてズフォロアの悲痛な声が飛ぶ。一大決心をした声だった。
「で・・・何なの、その情報は?」
くるっと向きを変え、メルメラーダは小さくなっているズフォロアを見つめる。
「あ、あの・・・・彼女は先ほどその巨大カエルを背負ってレストランへ・・・」
「なんですって?!」
メルメラーダが叫ぶ。
「わ、私の可愛い・・・私の可愛いあの大カエルちゃんを倒したっていうの?!」
ダッとズフォロアに駆け寄って、再び彼の襟元を掴みあげて叫ぶメルメラーダ。
「背負って来たってことは・・そういうことなんでしょう。」
苦しい息の中、ズフォロアはなんとか言葉を口にする。
「で、でも・・・・可愛いって・・・・」
そして、その苦しさの中、ついうっかり言ってはならなかった余計な言葉をこぼしてしまったズフォロアは、その途端、より一層きつくなったメルメラーダの視線に、真っ逆さまになって地獄へ堕ちていく自分が見えた。
「あんたもそう思ってるのね。」
「あ・・い、いえ・・私は・・・」
「あんたも私がガマ仙人って思ったのね?」
「いえ・・ですから・・・」
襟首を鷲掴みにして持ち上げていたズフォロアを、ドサッとその場に落とすと、メルメラーダは自分がついうっかり口にしてしまったその言葉を悔やんだ。
「いいこと!ズフォロア?」
「は、はい・・。」
尻餅をついたまま、ズフォロアは消えそうな声で答えた。
「私がどこかの漫画家のようにカエル好きっていう事は、誰にも話すんじゃないわよっ!」
「は、はい、も、勿論です。」
「これ以上そんな噂がたってごらん。あんたのその耳を添いだ上に、私の紅蓮の炎で焼き殺してあげるわよ!怒りの紅蓮でね。」
「は、はいっ!」
「ううん・・・殺すなんて楽な事しないわ。私の怒りの業火にその身を一生さらして生きるのよ。熱さと苦しさと痛みにもだえながら。」
「そ、そんな・・・メルメラーダ。私が如何にあなたに忠実かはご存じのはず。」
それもいいかもしれない、と、人知れずちょっと(?)マゾで、メルメラーダ・ラブなズフォロアは思ってしまった。が、当然口には出さない。
「どうかしら?」
「メルメラーダ!」
疑い深い視線を投げかけられ、ズフォロアは慌てて叫ぶ。
「・・・だから信用していないって言ったでしょ?いつ手のひらを返して裏切らないとも限らないわ。」
「そのような事は!」
「じゃー、この件に関する事後処理は、あ・な・たに任せても大丈夫よね?」
慇懃さを含んだメルメラーダの視線に、ズフォロアの焦りは増す。
「も、もちろんです!・・あ、でも、もしカエルがすでに調理済みだったら・・・」
「か、替わりを召喚するからいいわよっ!・・今度はカエルじゃないものを!」
今度はメルメラーダの方が、少し焦りをみせる。
「わ、わかりました・・・・。」
カエル好きという弱点を握ったのかも、ともズフォロアは思ったが、そんなことをネタに揺すれば、自分がカエルに変えられてしまうのは、日の目を見るより明らかだった。が、またしても例えカエルにされようともそれで彼女の傍にいられるのなら、それもいいかもしれないと思ってしまった彼だったが・・・・理性が、それをうち消した。
今の彼女の怒りの状態では、そのくらいで収まるかどうかもわからないと判断していた。


一応ズフォロアに任せたものの、心配になったメルメラーダはレストランを覗いてみる。
「いらっしゃ〜〜い♪今日のお薦めは珍品中の珍品!これを食べて探検に出れば、2,3日は攻撃されても傷がすぐ塞がってしまうっていう、ハーベスト特製たれつきガマの丸焼き『ガマガマン』。どうかしら、お客さん?食べてみて損はないわよ?」
「あ、ええ、じゃー、それを。」
レストランの店主の娘であり、看板娘のヴィオラの笑顔に、すでに調理済みになっていたことにショックを受けながらも、メルメラーダは頷いてしまっていた。

そして、メルメラーダの前に、変わり果てた姿となった大カエルの股肉が供された。「ごめんなさい、カエルちゃん。あなた一匹に任せて先に進んでしまった私が悪かったのね。」
にっくきは、いかにもひ弱そうで清楚な巫女にみえるクレール。頼りなげな笑顔に隠されたその実力に、メルメラーダの怒りは燃えあがる。
「この仇は、いずれ何らかの形でつけてやるわ。」
怒りに燃えながら、メルメラーダは、大カエルの料理を口にした。
「あら・・・意外にいけるじゃない?・・これで本当にどんな傷でもすぐ塞がるっていうのなら、別のカエルを召喚して非常食にしてもいいわね?」

果たして彼女は本当にカエル好きだったのだろうか?
ともかく、必死になったズフォロアの裏工作?で、なんとかその噂もそのうち露と消えていった。
『・・・あれはメルメラーダではなく、正体不明の人物ザノンだった・・・』
どこからかそんな噂も聞こえたとか聞こえなかったとか?


♪Thank you for reading!(^-^)♪

【ブランディッシュ4 INDEX】