クレールのお店番
〜[ショップG&Gにて] Brandish4サイドストーリー〜

 暁の巫女となるべく、修行の為、神の塔へ入ったクレール。
その半分を少し過ぎたところ、城塞というエリアにある土の妖精「もぐもぐ族」の ぐなとぐにがやっているお店に立ち寄り、2人のかわいらしさに、ついお店番を 引き受けてしまいました。
はたして、寺院育ちで何も知らないクレールに務まるのでしょうか?
クレールのびっくりどっきり、どたばた、はちゃめちゃ(?)一日店主ぶりをご覧になってみて下さい。


[クレールの日記] ○月×日 今日は一日お店番

今日はここのお店、G&Gのお店番をすることになりました。
とっても可愛いモグラの妖精(?)のぐにちゃんとぐなちゃんに頼まれちゃったの。
自信がなかったので断ろうかとも思ったんだけど・・2人のきらきら光るつぶらな瞳を見てたら、 いつのまにかOKしてしまってて・・・。
でも、本当に嬉しそうに出かけた2人を見て、引き受けてよかった!と思ったわ。
人の役にたつことをするのは、神にお仕えする者として当たり前のことなのだし。
・・いろんな事を体験するのも修行の1つ。しっかりお店番しなくちゃ!

 

 「それじゃ、しゅみましぇんが、行って来ましゅ。おみしぇ、頼みましゅね。」
「はい、いってらっしゃい。楽しんできてね。」
仲良く手を握り、店の入口からクレールを振り返ってもう片方の手を振るぐにとぐな。
クレールもそんな彼らに笑顔で応える。内心は、始めての経験なので、少しびくびく・・・。
(どんなお客さんがみえるんだろう・・・みなさん、冒険者のはずだから怖い人かもしれないわ。調査団の人ならいいけど。どうか、怖い人は来ませんように・・・。)

−バタン!−
ぐにたちが出かけてから1時間ほどたった時、ぼぉっと商品を眺めていたクレールは、勢い良く戸口を開けた音にびくっとして視線をそっちに向けた。
「あら・・・あなた、確か暁の巫女(とてもそんな風には見えないけど)のお嬢ちゃんじゃないの?!」
入ってきたのは、妖炎の(・・・妖艶と書いた方がぴったりかも?!)魔術師メルメラーダ。
「え、ええ・・そういうあなたは、メルメラーダさん。」
ほっとして微笑むクレール。
「確か・・えっと・・クリープとか・・クノールとか言ったわね。あ、クノールはスープだったわ。・・・何だったかしら?」
「あ・・あの、クレールです。」
メルメラーダのきつい視線に捕らわれ、おどおどして答えるクレール。
「そうだった?まー、いいわ、あなたの名前なんて。でも、何やってるの?仮にも暁の巫女として修行に来たんでしょ?こんなところでお店なんか開いちゃって?!」
「わ、私のお店じゃないんです。あ、あの・・ここのお店をしている妖精のぐにちゃんとぐなちゃんに今日だけって頼まれて・・それで・・」
「はいはい・・あなたらしいと言えばらしいけど・・・。」
呆れた顔をしてふん!と嘲るメルメラーダ。
「す、すみません・・。」
「別にあたしに謝る必要もないでしょ?・・・ったく、暁の巫女さんのやることは、分からないわねー。」
くるっと向きを変え、店から出ていこうとするメルメラーダに慌てて声をかけるクレール。
「あ、あの・・・何かご入用だったんじゃ・・・」
「手に入れた首飾りらしきものを鑑定してもらおうと思ったんだけど・・あなたじゃ無理でしょ?」
振り返りもせず応えるメルメラーダ。
「あ。それでしたら大丈夫です。ぐにちゃんと精神波を合わせれば鑑定できます。」
「精神波を合わせる?」
あたしができないのに、まだネンネで出来損ないで力不足の巫女見習いが出来る?と、多少・・じゃなくて、すっごく傷つきながらメルメラーダはクレールを振り返って見た。 (精神力−80%)
「は・・はい・・こ、このアイテムでできるんです。」
メルメラーダの口調と何やら気分を害したようなその態度にびくつきながら、クレールは、猫の髭がついた透明の付け鼻のようなものをカウンターの上に置いた。
「何よ、これ?」
それをひょいとつまみ上げクレールを今一度睨むメルメラーダ。
「あなた、あたしをからかうとただでは済まないわよ?」
「か・・からかってなんかいません。それは、ぐにちゃんが置いていってくれたんです。『鑑定するときはそれを顔にはめて品物をじっと見つめてくれれば、離れていても手にとるように分かるから、ぼくが鑑定できるよ。』って。 お髭とお髭で意志伝搬できるんだそうです。」
「ぷっ!あはははは!!」
そう説明しながら少し恥ずかしそうに猫髭付き鼻をつけたクレールに大爆笑のメルメラーダ。
「に・・似合ってるわよ、子猫ちゃん!あと猫耳つけたら完璧ね!」
真っ赤になりながらも、クレールはメルメラーダの差し出した首飾りを受け取り、精神集中する。
「くっくっくっくっく・・・・たまらないわよ・・もう、お腹が痛くって・・・」
その間も笑いをかみ殺そうとしているメルメラーダ。
と、クレールのエルフ特有の細長い耳がしおんと半分に曲がって垂れているのに目がいく。
「そうだったわね、猫耳、あったんだっけ・・。ちょっと長いみたいだけど・・・。」
きゃははははっ!と再び笑うメルメラーダにクレールはこれ以上真っ赤にならないというくらい真っ赤になる。
no2

猫ひげクレールとメルメ

[寄贈:異次元箱さん (ありがとうございました)]

「す・・すみません、精神集中できないんですけど・・・。」
申し訳なさそうに言うクレールにメルメラーダは再び呆れ顔を向ける。
「こんな事くらいで集中力を乱されててどうするのよ?・・ったくネンネなんだから・・・。」
仕方ない、というように笑いを堪え、メルメラーダは部屋の隅にある丸イスに腰を下ろすと、できるのなら早くやれ、と言わんばかりにクレールをその鋭い視線で促す。
睨まれた瞬間は、びくっとしたものの、なんとか自分を落ち着かせたクレールは、目を閉じて意識を集中しぐにとコンタクトを取る。
「はい、鑑定できました。これは【金鋼の護符】で、身につけていると攻撃力が上がるそうです。」
頭に浮かんだその言葉を告げ、クレールは笑みを見せる。
「ふ〜ん・・攻撃力アップのアイテムね。で、間違いはないのね?」
「え・・ええ・・多分。」
鋭い視線が放つ勢いに押され、ついつい言い切れなかったクレールを見て、メルメラーダは大きくため息をつく。
「多分・・・ねー。・・じゃ、一応街に戻って見てもらうことにするわ。」
すっとその護符を受け取ると、メルメラーダはすたすたと戸口に向かい、クレールが何かを言おうとしている間に出ていってしまう。
「あ!・・あ、あの・・代金を・・・」
慌ててカウンターから出て戸口に走り寄るクレール。
が・・メルメラーダはすでに街へ転移してしまったのか、店から出てその周辺を探してみても姿は見えない。
「・・・し・・仕方ないわ。私のジンで払っておきましょう。」
クレールは、髭を外しながら、暫くカウンターのところで自分を叱咤していた。

 そして二度と同じ失敗はしないぞ!という意気込みも、暇という時の流れの中で忘れかけた頃、若い男が入ってきた。
「こんちは!」
「あ!は、はい。こんにちは!」
慌てて笑顔で迎える。
すたすたと大股に入ってきたのは、やはり塔の中で逢ったことのある青年だった。
(確か・・・ディーとか言ってたわ・・。)
と思ってるとディーの方が先に口を開いた。
「あれ?あんた・・確か、クレープとかいう尼さん?」
(う・・・ま・・またしても・・・)
がっくりしながらクレールは、今回も訂正する。
「クレールです、ディーさん。」
「あ・・そうだっけ?ごめんごめん。」
ぽりぽりと頭を掻くディー。しかしすまなそうにも思っていない顔つきに見えた。
「でー・・その尼さんがなんでこんなところで店なんかやってんだ?」
メルメラーダの時と同じ事を言おうとしたクレールより早くディーは続けた。
「あ・・そんなことどうでもいいや。あんた、このくらいのハーフエルフ見なかったか?紫の目と紫銀の髪してるんだけど?」
自分の胸に手を充ててそのハーフエルフの身長を示す。
「紫の目と紫銀の髪のハーフエルフ・・・見なかったです。」
「そうか・・・ったく・・モーブの奴・・どこ行っちまったんだか・・。」
「モーブさんとおっしゃるんですか、その方?」
「ああ、そうだ。オレの相棒なんだ。爆発ではぐれちまって。」
「それは大変ですね。もし逢えましたら、ディーさんが探してみえたと伝えておきます。」
「ああ頼む。じゃな。」
「え?あ、あの・・何かご入り用だったのでは?」
戸口から出ようとするディーに慌てて声をかける。
「悪ぃ・・今ポーションも余ってるし・・買うモン何もないんだ。また来るわ。」
「は、は・・い。」
ちょっと拍子抜けしたクレールだった。

−バタン!−
「今頃ぐにちゃんとぐなちゃん・・どこで遊んでるのかしら?」
1人呟いているとまたしても勢いよく戸口が開いた。
「おや?これはこれは、暁の巫女のお嬢さんではありませんか?どうしたのです?こんなところで?」
狭い戸口をくぐるように入って来たのは考古学者のガラハッド。
「いやいや・・先日は助かりました。さすが暁の巫女・・あれくらいのモンスターなどモノともしないんですなー。がっはっは!」
ガラハッドはクレールの返事も待たず、大声で話を続けた。
「い、いえ・・私なんて、まだまだで・・。」
「ご謙遜を!いいですかな、あまりご自分を過小評価されるのも考え物ですぞ。それでは巫女に選ばれなかった他の方たちの立場はどうなるのです? あなたが指名されたのは、それなりの理由があるはずです。適任者でなければ指名などされるはずがないじゃありませんか。きっとお嬢さんご自身で は気づいていない何かがあるんでしょうな。」
「そうでしょうか?」
「そうですとも!もっと自信をお持ちなさい!私など・・自分を過大評価しすぎてるかもしれませんがな。この塔の真の目的を発見できるのは、 他ならぬ私しかいないと豪語しておりますからなー。はっはっはっ!」
「は・・はぁ・・・で、何かご入り用なのでしょうか?」
「あ・・そうそう・・そうでしたな。」
頭をがりがりと掻くと、ガラハッドは少し照れながらそれまでと違い小さな声で言った。
「しばらくここで休憩させてほしいと思って来たのですが・・・」
「は?」
意外な事を耳にして思わず聞き直すクレール。
「い・・いや・・・実は記憶石をモンスターにすられてしまって・・休みたくとも街へ帰れないんですよ。片隅でいいです。しばらく休憩 させてはいただけませんでしょうかな?」
「そ、それは・・私は別にかまいませんけど・・・。」
「やあ、ありがたい!先日といい、今日といい、いやー、お世話になりっぱなしですなー、クレールさん。」
照れ笑いをしながら片隅にある木の長椅子に向かうガラハッド。
そして、ガラハッドの体格では狭すぎて横になれないだろうと思われるその長椅子の上で、腕を組んで横になったガラハッドは、 数分後には、店の外まで響くようないびきをかいていた。
−ぐぉぉぉぉぉ!ごごごごぉぉぉぉ!ぐぉぉぉぉ!がごぉぉぉ!−
(す、すごい・・・)
人一倍聴力が発達しているエルフであるクレールには、その騒音は何とも言えないくらい堪らない・・が起こすのも悪いと思い、ひたすら我慢していた。
−バッターーン!−
と、突然とてつもない勢いで戸口が開く。
「ど、どこだ?モンスターは?」
見ると数人の若者が武器を振りかざして立っている。
「あ・・あの・・・?」
きょとんとしたクレールを見つけ、先頭の若者が叫ぶ。
「あ!大丈夫!もうご心配はいりません、お嬢さん!私たちが来たからには魔物の1匹や2匹・・」
「ま、魔物?」
「そうです!任せて下さい!で、どこにいるのです?破壊音を発する魔物は?発信源はこの店だと 思ったのですが?」
まさか、ガラハッドのいびきが破壊音?と思いつつ、ちらっと彼を見るクレール。
そして、それを見逃す若者ではなかった。
「そこか!か弱き女性の店を襲うとは、なんたる卑怯な!」
「あ・・あの・・」
クレールが制しようとする間もなく、若者達はガラハッドの寝ているところに直進した。
と、そのとき・・・
−ズシーーーン!−
大きな音と共にいびきが止んだ。
「くそっ!気づいたか、魔物め!」
クレールは気を利かせて明かりを消しておいたのが災いとなった。
後は・・・・必死で誤解を解こうとするクレールの声などそこにいる誰1人の耳にも入らなかった。
若者3人はガラハッドを魔物と思い、危ういところで交わしたが、いきなり斬りつけてきた若者達をガラハッドは魔物と 思いこみ・・店内は、もう大騒ぎとなった。
長椅子から落ちたと同時にそんな展開になった為、クレールのいる店で休んでいたことも忘れてしまった ガラハッドは、手当たり次第の物を投げつけながら、這々の体で店の外へと走り出た。
勿論、それで騒ぎが収まるわけではない。大きな荷を背負い、ぼさぼさになった髪の毛を跳ねさせながら逃げ去る ガラハッドの後ろ姿に、若者達は露ほどの疑いも持たず、見失うまいと追いかけて行った。
「だ・・大丈夫かしら・・ガラハッドさん・・・?」
嵐が去った静けさの中、そう呟いたクレールは、店内を見直してぎょっとした。
商品が・・床一面にまき散らされ、その多くは、売り物にならない状態になっていた。
「ど・・どうしましょう?」
しらばく呆然と突っ立っていたクレール・・が、そうしていても何も始まらない。誰も片づけてはくれない。
大きくため息をつくとクレールは、掃除に取りかかった。
「ああ・・これも、これも・・これも・・・!もう、売り物にならないわ!」
そして、思案の結果、クレールは、ぐにとぐなに逢わないことを祈りながら、急ぎ記憶石で街に戻り全財産をはたいて その分を仕入れた。
「・・・こ、これも修行の1つなんでしょうか、おばあさん・・・?」
どうにか整った店内を見て、大きくため息をつきながら、クレールは、自分を指名した暁の巫女に問いかけていた。

 
[クレールの日記] ○月×日 私って・・・

本当に今日は散々な日だったわ。こんなことになるんならお店番なんて引き受けなければよかった。
後悔先に立たずってホントね。
でも・・・帰ってきたぐにちゃんとぐなちゃんに、またお願いしますって頼まれて・・・いやと言えなかった の。私ってやっぱりいい子ちゃんすぎ?
・・・でも、このドロップおいしいわ。


喉元過ぎればなんとやら・・・
そう!頑張れ、お気楽クレール!!
くじけている暇はない!!
最上階で何かがあなたを待っている!!



♪Thank you for reading!(^-^)♪

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