眠れぬ神の塔
〜[眠れ塔の眠り姫、ダーククレール] Brandish4サイドストーリー〜

 『神の塔』・・それは、荒涼とした広大なカルア砂漠のほぼ中央に建っていた。
誰がどのような目的で建てたのか・・その中に眠る神の力を求め、それを受けるべく、人々は、最上階にある祭壇へと向かった。

 そして、1人のエルフの少女が最上階へと辿り着く。
そこは、神の祭壇ではなかった。が、全てを破壊し尽くすほどの力が あったことだけは、事実だった。
そして、その力を行使しようとする復活した古の亡霊を倒し、絶対無比の力を手に入れた少女、クレール。
が、彼女は、その力を使って何かを成す、ということには全く気がなかった。
世界をも簡単に制覇できる力なのだが・・・。

 「これでいい・・・これで、やっと解放される。ここなら、誰にも気を使わずに済む。誰かを気遣う事もなく 誰かの気遣いに気をかける必要もない。・・1人静かに過ごせるわ・・・・。私の世界。私だけの・・・。」
その力を使って彼女がしたことは、たった1つ。それは、塔内の人間全員を外に転移させ、誰も近づけれないよう塔の周り を強風に守らせたことのみ。
彼女は聖堂の2階にくると、そこでゆっくりと眠りについた。
そして、彼女を主と認めた塔も、同調するかのようにゆっくりと眠りに・・・・

・・・・・つくはずだった・・・・

だが、・・絶対無比の力を持つ人物を誰が放っておこう。
クレールが眠りにつくと同時に魔界はざわめき始めた。
確かに彼女は、人間界からは絶対入れないよう、塔の周囲に強風と結界を張り巡らせた。
が・・・塔にいた魔物たちは、自分と同じように己の場所を欲していると感じたクレールは、 聖堂2階以外を魔物たちの楽園にと思ったのか、そのままにとどめておいた。
それは、魔界との接点が残っている事を意味する。つまり魔界からの進入は可能なのである。
魔界からの入り口、それは、地下迷宮のそのまた地下にある墓所にあった。


−シュッ!−
「ここか?神の力を手に入れた少女が眠っているという塔は?」
突然空間が裂け、そこから出てきたのは、1人の人間の男だった。
「・・・やはり、お前が欲しいと言うべきだろうか・・・」
しばしたたずみ考え込む。
穏やかな海を映した真っ青な瞳と優しく揺れる短めの銀の髪。
真っ白な服に青いマントと青いバンダナがよく似合う、が、およそこの塔には場違いな男・・・。
その手に持つ闇の剣で空間を切り裂き、異世界からやってきたのだった。
目的は、やはり今やクレールのものとなった神の力。
「神のでも悪魔のでもかまわん!その魔法力、私がもらってやろう。」
「ちょっと待ったっ!」
「誰だ?」
男は、振り返って声のした闇を見つめる。
「世界中の女はオレ様のもんと決まってるんだ!お前のようなひよっこが手を出すには百年早い!」
「・・・例の魔界の貴公子がまたしても後をつけて来たのかと思ったが、違ったか。」
「はん!何言ってやがる?とにかく、そこどきな!」
「そうは行かん!オレにはオレの目的がある。」
すっと闇の剣を構えると、ぐっと闇の中の男を睨む。
「げーらげらげら!そんなモンでオレ様を倒そうってのか?無理だって!げらげらげら!」
「何を?やってみなければ分からないだろう?」
「ふん!あほらしい・・」
全く鼻にかけない態度に銀髪の男は怒り心頭。
「そうまで言うなら、隠れてないで出てこい!それとも口先だけか?軟弱者め!」
「んにお〜?見て後悔すんじゃねーぜ。この超絶美形主人公様の姿を!」
が、銀髪の男は闇の中から現れた男の姿など無頓着に、ぽつりと言った。
「ここでの主人公は、眠り姫のはずだ。」
がくっと多少ずっこけたものの、倒れる事態はなんとか止まる自称超絶美形主人公なる男。
「うっせぇ!これからオレ様が主人公となって塔の冒険が始まるんだ!」
「何、あほなこと言ってんのよ、きみわーっ!」
自信たっぷり、得意満面で鼻息も荒く先のセリフを言い放ったその男は、自分の出てきた 闇から聞こえてきた女の声にぎくっとする。
「自分の世界が危ないっていうのに・・よその世界で遊ぶぅ?・・・マジで言ってんのか?きみわっ?!」
「あ・・あれ?あれ?・・ど、どどど・・どうしてここが?」
さっきまでの自信は何処へやら、男は、おたおたし始める。
「・・・いいから・・さっさと・・帰って、来ないかーーっ!!」
「わーーーっ!ごめんなさぁーい!」
いきなりその闇から飛び出てきた手に襟首を鷲掴みされ、その男はあっという間に引き込まれていった。
「な・・なんだったんだ・・今のは?」
「何って・・出てくる所を間違えたってことでしょ?」
後ろで女の声がして、はっと振り返る。
「誰だ?」
「誰だ、はないでしょ?Brandishの正当なヒロインである私にむかって!」
「目覚めたのか?いや、そんなはずはない!お前からは、大した魔法力は感じられん。」
「ちょっと、あんたねー、その目は節穴なの?私の魔法力が大したことないなんて!失礼よ!」
その女は自慢そうに黄金色の長髪を掻き上げ、つんと怒ってみせた。
「いや、間違いない。それに、塔の眠り姫は巫女と聞いた。お前の格好が巫女とは思えん。」
確かにそうだった。女の格好は、肌も露わ。隠すべき所を最低限の衣装で包み、後は手袋とマントのみ。
no4

ドーラ・ドロン
[寄贈:異次元箱さん (ありがとうございました)]

 

濃紺のセパレーツとマントにくるんだ豊満な身体。それはそれで特筆すべきかもしれない。が、この男にとって そんなことは、どうでもいいこと。男が欲しているのは魔導力、もとい!魔法力のみ!
−シュン!−
女が再び文句を言おうとした時、何やら男の影らしいものが女の視線の片隅を素早く横切った。
「あ!ちょっと!待ちなさい!今度はどこへ行くっていうの?!」
そして、今一度銀髪の男に向き直すと、早口に言い捨て、影の男の後を追って消えた。
「今度逢ったときに私の力を見せてあげるわ!今は1000万Gの賞金首の方が先よ!」
「お、おい?」
訳が分からず、呆気にとられた銀髪の男は、しばらくそのまま突っ立っていた。
と、突然笑い声が辺りに響く。
「ふぁっふぁっふぁっふぁっふぁ〜!」
そして、闇の中から真っ赤な忍者装束の男が現れた。
「ふっふっふっふ!・・ここは、やはりBrandishシリーズ、次のラスボス候補NO.1(大嘘 /^-^;)の わたしの出番であろう!」
「何者?」
その尋常でない闇の気に、銀髪の男は剣を構える。
「まーまー、そのように急くではない。見たところお主もわたしと同様、闇に住まう者と見た。 どうだ、ここは、同じ闇に住まう者として協力しては?」
「ふん!バカな!オレは誰ともつるまん!1人で十分だ!」
「ふはははは・・それでこそ、闇の戦士よのぉ。気に入ったぞ。」
「お前に気に入ってもらわんでも、かまわん!・・・ん?」
突然じっとその忍者を見つめる銀髪の男。
「な・・なんなんだ?」
「お前の身体から、ものすごい魔力を感じるが・・・」
忍者の男の懐には、神の力を秘めた貴石があった。
それを敏感に感じ取った銀髪の男は、ずいっと忍者に近づき、 じっとその眼を熱く見つめると言った。
「・・お前が・・欲しい・・・」
「な・・な・・・?」
正確には『お前の魔力が欲しい』と言うべきなのだが、口べたな性格が災いし、いつも この肝心なセリフの肝心なところに言うべきセリフがなかった。
故に、この男の世界でも変態扱いされてしまっているのだが・・・。
が、そのような事を知るはずもなく、そっちの気があるのかと完全に勘違いした 忍者は、真っ青になって慌てて闇に身を溶かして逃げた。
「あ!お、おい!待ってくれ!」
1人取り残された銀髪の男は、例のごとく自分を罵った。
「・・・やはり、別の言い方にするべきか・・・だが、他になんと言ったらいいんだ?」
しばし考えていたが、やがて進まなければいけなかった事に気づき、歩き始める。
そこから、1時間ほど墓地の中を歩いただろうか、ようやく扉を見つける。
が、どうあっても開く気配はない。
「上への道は開かぬ。少なくとも今のそなたの魔法力では。」
「なんだ?」
男は、声の主を捜して辺りを見回す。
「諦めて自分の世界に帰るといい。我らの仲間にならぬうちに。」
『おおおおおおおーーん・・』
そのうめき声は、そこにある全ての棺桶から聞こえた。
「力を手に入れる為には、努力は惜しまぬ。他人の指図は受けん!」
「指図は受けぬ、か。それもよかろう。では、提案ならどうだ?実は、 ある世界に魔法力を奪うアイテムがあるのだが。」
「何?魔法力を奪うアイテム?」
「そうだ。相手がどんな者であれ、一瞬にしてその力を吸収できる物だ。 それを手に入れる方が先ではないのか?」
「ど、何処にあるのだ、それは?」
「異空間を繋ぐ闇の回廊にあるBNと書かれた扉を探して入れ。ヴァンパイアの名前のついたアイテムを探すがいい。」
「BNとヴァンパイアの名前のついたアイテムだな。よし!」
嘘をついている感じはない。男は、闇の剣を構えると何やら呪文を唱え、その剣の発する闇の中にその 姿を溶かした。
「これでよし。クレール様の眠りを妨げさせはせぬ。」
「だが、次はどんな奴が来るのでしょうか?」
「今回の侵入者は単純だったから、簡単でよかったですな。」
ぼぉっとそこに円陣を作って姿を見せたのは、元僧侶のなれの果て、アンデッド、サクリファーが数人(?)。
彼らは、ここへの侵入者の深層心理を読んで、その弱点をつく戦法で追い払っている。
幻影、幻聴、必要ならば情報提供と、臨機応変に対応して。
「そうですね。」
「しかし・・先に侵入してきた男2人は、越境行為も甚だしいと言った所ですな。」
「まー、そういえばそうですね。世界が違いますからね。我々は、深層心理を読めるのでいいのですが、 一体これを読んで下さってる人の中で何人に通じたのか?」
「我々も異世界の情報で追っ払ったりして、考えてみれば、ちょっと入り乱れてますな。」
「ふむ・・それは言えます。・・分かる人、当ててみて下さい。」
その中の1人が、仲間と向き合っていたのを急に向きを変え、空間に向かって言った。
「おいおい、誰に向かって言ってるんだ?」
「あはははは!」
「しかし、今回、筆者は遊びすぎ的な感がありますね。いくらタイトルから思いついた最初の筋を忘れた からと言って・・・。これじゃ完全にコメディーですよ。最初はもっとシリアスタッチだったはず・・・。」
「脱線ということでしょうな?・・次回に期待したいものじゃ。」
「ふぉっふぉっふぉっ!」
「おや?お次の侵入者の気配を感じますぞ・・では、皆々様・・」
「そうですな・・次の作戦をたてましょうかな?」
すうっとサクリファー達は、その姿を消した。
後は、静まり返った真っ暗な墓場に、新たなる侵入者の足音が響くのみ。


 塔は、そして、塔内の魔物たちは全員クレールを守る為に活動を始めていた。
彼らにとって神ともいうべき存在となったクレール。
その彼女を狙い、魔界から、そして異世界から、侵入者たちは絶えない。
時の止まった聖堂でクレールがようやく得た心の平穏。
それを乱そうとする者は、何であれ、彼らは阻止するつもりだった。
眠れる神の塔、それは、人間界からの呼び名。実際は、再び冒険者たちの目標 となり、大きく、そして、嬉々としてその胎動を刻んでいた。

 聖堂を不可侵エリアとして守護する。長年待ち望んでいた主をようやく得、 覚醒した塔の意志は、眠りにつくことを自ら拒否し、その主を守り抜くこと に歓喜を覚えていた。


♪Thank you for reading!(^-^)♪

【ブランディッシュ4 INDEX】