◆第十九話・トラップ満載そして試練の間◆
  

 (またしても攻撃が効かない・・・か・・・・・。)
それは恐ろしいほどの大男でありがっしりした体躯を持つ兵士たちだった。
2階で出会った鎧兵士のように全身鎧では固めていないが、バリアなのか魔法でもかかっているのか、またしてもアレスの攻撃はまるっきり効かないのである。そう、物理攻撃もそして魔法も。
(つまり、壁のスイッチを押すことによって噴射される冷気で凍らせて彼らを飛び越えろ、ということだな?)
その細い通路へ入る手前の壁には、そんな注意書きがあった。
(この城は・・・人間の城じゃなかったのか?)
そこに来るまでも、様々なトラップがあった。次から次と床が消えていく通路やビトールの地下迷宮で経験済みではあるが、ゴロゴロ岩のトラップ、そしてスイッチを押す都度移動する壁。その壁によって区切られる箇所が異なり、続く道が異なってくるというそれはアレスが初めて経験した新手のトラップだった。もちろん、慎重にそれらをクリアしてきたということは言うまでもない。
時間差で床が消える通路で、まさかそんな事を予想してなかったアレスは一度は地下へと落ちてもいたが・・・・その地下で浮遊するアイテムと追いかけっこという気分転換?や、魔法を弾く体質の闇屋と会ったことにより、彼を魔法攻撃することによってアレスは魔法力と魔法耐性力をあげるという幸運なハプニングもあった。
もちろん、城の地下ということでもあり、一面宝箱の部屋もあった。
が、アレスが欲しかったワープの魔法の書は、四方を取り囲んでいる宝箱の為、どうしても手にすることができなかった。そして、奥にあった明らかにイリュージョンの壁だと判断できたそこへも・・・宝箱によって行くことが阻まれていた。崩れかかった壁の先にあったそれらの場所へは木槌が大活躍した。


が・・・この攻撃を全くものともしない兵士には、通用する道具は何もない。
(凍結させたとしても、その状態でいる時間も短いな・・・一旦凍結させて、冷気を止めその上を飛び越える時間があるかないか・・・・おそらくこの通路だけではなく、この一角そんな通路が続いているんだろう。)
通路の奥には扉があった。その扉の手前の壁にもスイッチがある。それはつまり、スイッチで冷気の噴射を操作して兵士の攻撃を避けて先を進むしか方法はないのだと判断できた。
一度凍らせて実験したアレスは目の前に続いている通路をクリアする方法を考えていた。
彼らもその通路内へ侵入しなければ攻撃してこようとはしない。通路を守っている番人。まさに彼らはそうであり、それは、彼らが人間ではないことも意味していた。
凍結している時間とその間に飛び越えて向こう側へ行き、再びスイッチを押して彼らの攻撃を防ぐ。ドアを開けたとき、その向こうに敵がいることを想定して、アレスは挟み撃ちにならないようにとシュミレーションしていた。ドアの前には冷気の噴射筒はない。そこまで行けば、あとはこの通路は冷気を出しっぱなしにしておいてもさわりはない。というか、兵士の動きを封じておくためには、それが必要だった。凍結したにもかかわらず彼らは、冷気の噴射が止まると、驚くほど早くその状態から脱出していた。人間であったら考えられないことである。
冷気を止めるタイミングと、兵士を飛び越えて再び冷気のスイッチを押すまでの時間、そのタイミング・・・それら一連の行動を頭の中で確認し、それをアレスは実行に移していった。
その前にふっとアレスの脳裏をかすめたことは、念には念を入れ、王の居住区でエメラルドではなく真っ赤なルビーの填った壁に怪しさを感じて、そこから入った小部屋、そこで手に入れた透物化秘薬を飲んで、姿を消す事だった。姿が見えず、彼らに気づかれなければ、その強靱な肉体から繰り出される強烈であろうその一撃を受けることもなくなる。ここは慎重にいくべきかもしれない。
が、やはり、今後の為秘薬はとっておくことにした。計算ではうまくいくはずだったからである。もっと難関に出会ったときの為に、使わずにすむならそうすべきだとアレスは思ったのである。


「ふ〜〜・・・・・・」
「よっ、旦那! さすがだね〜・・あっしもここを通らせて貰いますぜ。代わりに、タダでいいことを教えてあげやしょう。」
幾重にも折り重なるかのように続いていたその狭い通路のエリアを抜けたアレスは、さすがに大きく深呼吸をしていた。
そしてすぐ近くにあったスイッチを押して通路と化した壁、そこにいたゴブリン種らしき若い男がにこにこ顔でもみ手をしてアレスを迎えていた。
つまり、そこを開けることによってできた近道を通ることにより、冷気の通路を通らずともよくなったわけである。
奥への道がこのトラップで封じれる前、興味本位で人間のいる城へと足を延ばした彼は、いつか誰かがこのトラップを破ってくれるとそこで待っていたというのが事実だった。
「この城壁の地下に宝物庫があるでゲすよ。そこに行くには幻の壁の向こう側にある壁を崩せば行けますぜ。その先も大変でゲすがね。」
にこにこ顔で、そして、得意げにアレス話したその情報は、すでにクリアしてきたことだった。が・・・別に反論するつもりは、アレスには全くない。
進むべき方向がそっちではないと判断すると、アレスはくるっと向きを変え先を急いだ。探索済みのエリアにはもう興味はない。


『試練の間』
山のような兵士が待ちかまえたエリアを抜けると、そう書かれた門標がアレスの目に入った。
ぐるっと囲んだ回廊に囲まれたそのエリアへの入口は4つ。中にいろいろな仕掛けがあると判断できた。
(寄り道のような気もするが・・・試練と言う限りは、これからの探索には、このくらいクリアする必要性があるということなのだろう。)
アレスは1つずつ調べたあと、簡単だと思われたところから挑戦していった。
が、敏捷性を高める目的らしかったその試練の間。消える床や移動する床、スイッチの操作で出現する床の位置など、試練という名はお飾りではなかった。数度となく地下へ落ちたアレスだが、1カ所クリアするたびに手に入る宝物に満足しつつ、アレスは確実にクリアしていった。
(フレームシールドか・・・・これは、かなりのすぐれものだな。)
一番難易度が高かった最後の扉から入った試練のトラップの最終地点にある宝箱の中身、アレスはそれを手にしつつ、満足して地下へと落ちた。
そう、落ちて魔法陣で上へ上がるだけ。地下には危険なトラップはない。もっともうまく着地できなければ、それ相応の骨折や打ち身などはあるだろうが、そこはアレス、1階分くらい落ちるのは慣れたものである。


そして、その先、再びゴロゴロ岩のトラップをクリアして先を進んだアレスは、ようやく城の外に出ることができたのである。

果てしなく続くかと思われた回廊、迷路のような城のそれはようやくとぎれ、ついにアレスの目の前に高くそびえ立つ塔が出現していた。
目の前に続いている塔への道。それは不気味な静けさと共にアレスの前に佇んでいた。

(まるでオレという獲物がかかるのを待っているようだな・・・。)
そう呟くとアレスはにやっと笑い、塔の入口へと歩み寄って行く。そのアレスの脳裏からは、ドーラのことなどすっかり消え失せていた。
いや、心の奥で、プラネット・バスターを無事取り返したそこに、ドーラがいるのが当然とアレスは感じていたのかもしれない。あのちゃっかり度もドーラがドーラたる所以でもある。まさか彼女が敵の手に落ちていようなどとは考えつくはずもなく、アレスはすっかり忘れきっていた。

アレスの注意は、本能は、プラネット・バスター奪回と共に目の辺りにした疑惑に向けられていた。
アレスが感じた疑惑・・・・・どす黒い闇の力がアレスを捕らえて離さなかった。


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