在りし日のバトルネット
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そ の 2 <完>


 

  「お、いますね、バ・ソリーとシェラ。・・ただいまー。」
しばらくしてアビゲイルが戻ってくる。
「お帰りー。」
「お帰り。」
ようやく通常に戻ったか、と安心していろいろ話していると、ま たしてもアビゲイルが急に・・・
「今回は聞こえてますよ、バ・ソリー。」
「え?何?アビちゃん?」
「何って、『う・・・やっぱりだめみたい・・・。』 って、バ・ソリーが言ったから・・・。」
「え?今ナメちゃんそんな事言ってないですよ。」
悪夢再現。まただめだったか!とショックを受けるバ・ソリーと シェラ。
「・・と、言う事はですねぇ・・・」
しばしじっと考えるアビゲイル。
「今私が見ているバ・ソリーは、ゴースト、つまり、過去のバ・ ソリーという事になるのですね。」
「うん、多分。」
「な・・なんで俺ばっか・・・」
バ・ソリーはもう泣きたい気分。
「私とはきちんと話ができてるのに・・。」

それから、会話の合間を縫って、2度ほどバ・ソリーは出直した だろうか、が、何度やっても同じ事。
アビゲイルには、数十分前のバ・ソリーのセリフが聞こえるだけ。
「ったく・・・消え去れい!バ・ソリー!」
部屋中に強い口調で放ったアビゲイルの台詞が響いた。
「ア、アビちゃん・・ゴーストに言ってるのは分かるけど、本人 に聞こえてたら、ちょっとショック受けるんじゃない?・・分か ってたとしても・・今の言い方・・・」
「え?バ・ソリーには聞こえないのでしょ?」
「聞こえてるぞー。(TT」
「あ、ナメちゃん泣いてる・・・。」
「え?バ・ソリー、私の声は聞こえてたんですか?」
「そうよ。アビちゃんが聞こえないだけ。」
「う・・・そ、それは、申し訳ない、バ・ソリー。」
「いいえー、どうせ俺なんか・・・」
「ナメちゃんすねちゃだめだって。」
「はー・・・もう、ホントに今日はどういう日なのでしょうねー。」
「うん、ホントホント。」
「・・アビのば〜〜か!・・・。」
聞こえないのをいいことにしてか、それとも、アビゲイルが冗談 でその態度を取っているのかを確認する為なのか、バ・ソリーが、 ぽつんと吐いた。
「ち、ちょっと、ナメちゃん・・・聞こえたらやばい事になるわ よ。」
全く聞こえないわけではない。時間がずれてアビゲイルの耳には 入るのだ。
「げ・・し、しまった・・。」
つい口から出てしまった言葉に、バ・ソリーも焦る。
「ん?何を言ったのですか、バ・ソリー?」
さすがアビゲイル。その会話からどうやら自分の悪口であろうと 察しをつけた。
「ま、まーいいじゃないですか。」
「うん、うん。」
「だめですよー。」
「だめって言っても・・・。」
「んー、ごまかしはいけませんねー。」
「・・別にごまかすつもりは・・でも、今の言葉はいつアビち ゃんに聞こえるのかな?あ、そうだ、試しに時間言ってみて、 ナメちゃん。」
「時間?OK!・・只今、1時20分。」
「うん・・1時20分、OKよ。」
自分の時計と確認する。シェラとバ・ソリーの間には、時差は ない。勿論シェラとアビゲイルとも。
「私、・・眠くなってきた・・・」
暫くそのままの状態で話を続けていたシェラが、欠伸を堪えぽ つんと言う。
「俺も・・・。」
「私もそうですが・・・ですが、気になって寝れないです。」
「それは・・そうでしょうけど・・。」
「ですから、シェラ、付き合いなさい。さっきのバ・ソリーの 言葉が聞こえるまで。」
「ええーーーー?!」
が、そこは、仕方ないか、と思って、眠いのを我慢して付き合 うことにする。
「でも、喉乾いた。レモンティーでも作ってこよう。」
「俺もほしい!」
「私も、ほしいです!」
「残念でした。ここは、物の引き渡し、交換はできないことに なってるって忘れたの?」
「そ、そうでした・・では、私は・・仕方ないですから、水で も飲んでおきます・・・。」
「俺、確か午後ティーあったな。」
「だめだよ、ナメちゃん。今は午後ティー飲めないよ。」
「ん?」
「今は午前だもん。」
「おっとっと・・・。」
シェラのつまらない駄洒落にずっこけるバ・ソリー。
「そうだな・・・。」
でも、義理堅くそれに従う。
「じゃ、ちょっと行ってきます。」
そして、ティーブレイク(アビゲイルは、ウォーターブレイク、 バ・ソリーは、単なるブレイク)しながら話を続ける三人。
(でも、時差はどのくらいあるのかな?)
「今バ・ソリーが、また出直すと言ってます。」
「時差40分確定だな・・・。」
ぽつんとバ・ソリーが言う。
「うん、40分確定だね。」
「よ、40分?!」
アビゲイルが叫ぶ。
「・・・で、今、今まで話した量の半分位のところかな。」
「40分の時差で、まだ会話の半分・・・。」
「時差はもっと増えそうですね。」
「おおーーー・・・なんという事だ!一体いつ寝れるのです?」
もはや出直す気も起きず、アビゲイルもバ・ソリーもそのままの 状態。同じテーブルについていながらアビゲイルには、過去のバ ・ソリーの姿と声しか聞こえないという摩訶不思議な状態で、三 人は、話を続けていた。
勿論、現在のバ・ソリーの言葉は、シェラが通訳。
「こんばんは!」
そこへヨシュア・ベラヒアが入ってくる。
「こんばんは!」
ヨシュアとも普通に話せるアビゲイル。何故にバ・ソリーだけ? 「そ、そんな事が?」
事情を聞いて、さすがのヨシュアも驚いたようだ。
次に現れたのは、イングヴェイ。
彼も驚いたというのは、例外ではない。
そして、DUELに行っていたD.Sも帰ってくる。
「あなたの知らない不思議な世界。恐怖の体験。時を駆けるアビ ゲイル・・。」
シェラが何気なく頭に浮かんだ事をふと呟いた。
「何だ、それ?ここは、シェラの小説の世界か?」
ヨシュアが笑いながら言った。
「ははははは!」
笑い声がこだましたが、当の本人であるアビゲイルは笑い事では ない。アビゲイルが聞いたバ・ソリーのセリフと過去の記録を照 合すると、なんと、60分の時差確定となっていた。
「そろそろ逃げた方がいいかな?」
問題発言が近づいてきていた。バ・ソリーは早くも避難態勢。が、 寝るな!と言われているため、帰るわけにもいかず、心そこにあ らず、の状態であった。
「で、でもさ、先にアビだって問題発言したんだから、おあいこ だよな?」
同意を求めてシェラと視線を合わすバ・ソリー。
「うん。『消えろー!』だったっけ?」
「チ、チ、チ!『消え去れい!』です。」
間を逃さず、アビゲイルが突っ込む。
「う・・さ、さすが、アビちゃん。」
「うほん・・何といってもチェック魔アビちゃんですから。」
「は・・はぁ・・・・」

そんな事があって、数分後・・・。
「な・・・なんですとぉ・・・・。」
アビゲイルが静かに言う。無表情だったそのこめかみがヒクヒク 小刻みに震える。
(き、きた〜〜〜・・・・)
シェラとバ・ソリーは覚悟して身構える。
(でも、なんで私まで覚悟?)
「『アビのば〜〜か!』ですとぉー?」
静かな怒りに震えるアビゲイル。
バ・ソリーは硬直状態。
そして、一拍あって、アビゲイルの呪文を唱える低い声が部屋に 響いた。
「フォビドゥーーーーン!」
普通なら方舟ごと消え去るであろう、威力なのだが、そこは、な んと言っても元十賢者、周りには被害最小限、そして、バ・ソリ ーには最大限のダメージを与えるように、調整してあった。
「ギャーーー!」
その一瞬で、バ・ソリーは消滅し、代わってバソナメの姿がそこ にあった。
「ナメナメ〜・・・・(TT」
「ふ・・・姿が見えなくとも、こんなもんです。」

 その日のアビゲイルに課せられた時差は、67分。但し、バ・ ソリーに関してのみ。
そして、ナメナメになってからは、シェラ以外の人からも見えな くなったバ・ソリーは、眠気もあって早々退散した。
が、とにかく誰の目に映らないナメの事、ヨシュアがぽつりと呟 いた。
「ん?ナメナメいるのか?見えないが。ひょっとしてシェラの肩 にでも隠れてるのか?」
「な、なんと、ナメ、まだいるのですか・・。隠れているとは、 少し卑怯というものではありませんか?」
「俺が斬ってやろうか?」
イングヴェイが軽い口調で言う。
「ち、ちょっと、同じ魔戦将軍同士で、何てこと言うのよ?」 全くの冗談とも思えず、シェラが焦って、イングヴェイをたしな める。
「ふむ・・・・。」
アビゲイルがゆっくりと立ち上がる。その表情は、無表情。
「わ・・私も寝ま〜す!」
ナメナメの変わりにフォビドゥンされたら、たまらない・・・シ ェラは、慌てて部屋を後にした。




**終わり**


 *1998年7月26日の出来事を元にしました。(^-^)

【その1】


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