在りし日のバトルネット
diablo-battlenet


そ の 1


 

 異空間を漂う方舟、『バトルネット』、ここへは 毎夜のように様々な戦士達が集う。
その方舟にある第一層、『出会いの部屋(チャット ルーム)』と呼ばれるその中の一室に『bastard』 と命名された部屋があった。

 −ファオン−
その日、最初に転移の門を開いて、その部屋に姿を 現したのは、冥界の予言者、アビゲイル。
「どうやら今日も私が一番乗りのようですね。」
小さく呟くと、アビゲイルは部屋の中央にある大テ ーブルに着く。
悠に20名は座れる大テーブルだが、未だかつて満 席になったことはない。
「ふむ・・・。」
アビゲイルは、何気なしに、空席を見渡した。特に 思考を巡らせているようでもない。
 −ファオン−
「よ!アビ!」
そこへ何の前触れもなく(当たり前だけど)ダーク シュナイダーが現れる。
「ああ、ダークシュナイダー。こんばんは。」
適当なイスに座るダークシュナイダーに、無表情の まま挨拶するアビゲイル。
「早ぇな、アビ。他の奴らは?まだ来ていねぇのか?」
「今のところ、まだのようですね。」
「ち!最近、みんなたるんでやしねーか?」
「みなさんお忙しいんでしょう、きっと。」
「どうせ、俺は暇人だよ。なんてっても、仕事中も デュエルの事を考えてっからよ。」
「そ、それは・・さすが、ダークシュナイダーです ね。」
「・・ま、まーな・・・って、お前、今思いっきり バカにしやしねーか?」
アビゲイルのその無表情の中に嘲りを感じたダーク シュナイダーは、得意顔だったその表情を変え、怒 り始める。
{注:本当にそんな事思ってないですから、D.S さん!誤解しないでね〜! from シェラ。}
「とんでもないですよ、ダークシュナイダー・・。」
「そ、そっか?・・ならいいんだけどな・・。」
そうは言われてもなんとなく腑に落ちないD.Sが 再びアビゲイルに何か言おうとしたとき、転移の門 の開く音がする。
「こんばんはー!」
そこから出てきたのは、魔戦将軍のしんがり、いて もいなくても一緒の、シェラ・イー・リー・・では なく、キキだった。
「宅急便で〜す!」
「よ!・・ん?宅急便って?」
「えっとー・・送り主は、シェラ・イー・リー。受 取人は、ダークシュナイダーさんです。」
「そう言ゃー、obs−wizリングくれるとか言 ってたな?」
「らしいですね。リング在中と書いてあります。」
「そっか・・じゃー、この部屋(第一層)は、品物 の受け渡しは禁止になってるからな、第二層に、移 ろうぜ。部屋は・・俺が作るわ。」
第二層の各部屋は、魔物の徘徊するダンジョンの仮 想世界。そこでは、真面目に己の腕を磨く者、単に 娯楽として魔物(あるいは戦士)の殺戮を楽しんで いる者、商売する者、と様々である。
「はい。お手数お掛けいたしますが、よろしく。」
「bastard1な。あ、アビ、なんならお前も来る?」
「勿論ご一緒させていただきますよ。ここにいても 仕方ないですし。(誰もいないから)それに、あな たを女性と2人きりで行かせるのも、なんだと思い ますので、D.S。」
「んだよ?それ?・・エロ**と違うんだぜ。時と 場所ってもんはわきまえてるって。」
(ホントかな?)
少しすねた顔を魅せた後、D.Sは、createの呪文 を唱えて第二層にその身を移動させ、そこに自分た ち専用のダンジョン、仮想空間(ゲームの世界)を 作り上げた。
そして、D.Sより少し遅れ、アビゲイルとキキは、joinの呪文で、その世界に入る。

無事リングの引き渡しが終わり、D.SはDUEL しに別の部屋へ、そして、アビゲイルは第一層の部 屋に戻った。
ちょうどそのすぐ後、バ・ソリーが、その部屋に入 ってくる。・・が、空間に異変でも生じたのか、す ぐ落ちてしまった。
「あれ?」
一人残っていたキキは、首を傾げ、しばらく考えて いたが、一層に戻った方がよさそうだ、と判断して そこを離れた。
・・後から思えば、その日の異変は、その時始まっ ていたのだが・・・。

 「ただいま〜・・」
第一層の部屋に戻ったキキが、元気良く言った。が、 そこにいるアビゲイルは返事をしない。
「あれ?」
不思議に思いながら、テーブルに着く。
「落っこちた。」
そこへバ・ソリーも顔を出す。
「あら、やっぱり落っこちたの?」
「うん。こんばんは、アビ。」
「・・・・・」
バ・ソリーが二人に挨拶しても、やはり返事は返っ て来ない。
「・・やっぱり聞こえてない?私が話しかけてもダ メなのよ。」
「おおーーーい!聞こえるかー?」
キキとバ・ソリーはお互い聞こえるのだが、アビゲ イルにはさっぱり聞こえていない。
「だめのようね・・・仕方ない、私帰るわね。仕事 は無事終わったから、依頼主に報告しなくちゃ。」
「うん、俺も出直してくるよ。」
「じゃ、ね。」
「ああ、またな。」
諦めたバ・ソリーとキキはそれぞれ転移の門を開き そこを離れた。

 −ファオン−
「こんばんはー!」
元気良く、こんどこそシェラ・イー・リーが入って きた。
「こんばんは。先程キキが来ていましたよ。」
「うん。今報告受けました。無事D.Sさんにリン グを渡したって。」
「あ、ナメちゃん、こんばんは!」
「こんばんは、シェラ。」
シェラに続くようにバ・ソリーも入ってきた。
「ん?バ・ソリーが来ているのですか?」
周囲を見渡してから、不思議そうな顔をしてアビゲ イルがシェラに問う。
「え?・・・・ひょっとして・・・アビちゃん、ナ メちゃんが見えない?」
「声も聞こえませんが・・。」
ぎょっとしてバ・ソリーを見るシェラ。確かにそこ にいるのを再確認する。
「ナメちゃんは、アビちゃんの声聞こえる?」
「うん、聞こえるよ。」
「今の声聞こえない?アビちゃん?」
「・・聞こえません。シェラ、あなたの声しか。」
「・・また方舟内で、パラレルしてる・・最近多い なーこういうの・・。」
「そうだなー。おおーい、アビー、聞こえるかー?」
大声でアビゲイルに呼びかけるバ・ソリー。が、返 事はない。
「ふう・・・」
仕方なくバ・ソリーもテーブルに着く。
「おや?お帰りなさい、キキ。」
バ・ソリーとシェラには何も見えない方向を見て、 アビゲイルが静かに微笑む。
「・・・え?・・キキ?」
シェラが驚く。それもそのはず、キキはもう帰った はずだから。(注:ご存じない方に・・キキはシェ ラの別キャラで、一緒にいるはずはない。)
「ち、ちょっとアビちゃん、そんなバカな・・・?」
「しかし、現にキキはここにいますよ。きちんと挨 拶まで・・『ただいま〜・・』と。」
「ええーーー?」
「こんばんは、バ・ソリー。」
「あ、あれ?ナメちゃん見えるの?」
「はい、見えますよ。」
「よかったね、ナメちゃん。」
「うん。こんばんは、アビ。」
が、なんだかアビゲイルの答えはとんちんかん。
シェラとは会話が合うのだが、バ・ソリーとは、全 く合ってない。
「あ・・・キキが帰って行きました。バ・ソリーも 出直すとか・・。」
アビゲイルのその言葉に、再びバ・ソリーを見るシ ェラ。確かにそこにいる。
バ・ソリーは、肩をすくめて、オー、ノー!状態。 「で、でも・・ナメちゃん、きちんとここにいます よ。」
「な、何と?!」
さすがのアビゲイルも驚きの表情を隠せない。 「うーーーん・・そういえば、バ・ソリーとは、何 か話が全く合ってなかったような・・。でも、キキ には、きちんと耳打ちもできましたよ。」
「でも、返事はなかったでしょ?」
「そう言われれば、そうですね。・・話も少しおか しかったような・・。」
自分に見えていたのは、数分前のキキとバ・ソリー と悟ったアビゲイルは、シェラと顔を見合せ、苦笑 する。
「俺、もう一度出直して来る。」
バ・ソリーは悲しそうに部屋から出ていった。

 「お!バ・ソリー。」
しばらくシェラと話していたアビゲイルの目に、再 びバ・ソリーの姿が入った。
「お帰り〜。」
「あ、お帰り、ナメちゃん。」
「ただいま。」
「今度は大丈夫みたいね?」
「うん、そうだね。」
「こんばんは、バ・ソリー。」
ようやくアビゲイルがバ・ソリーに挨拶をする。
「こんばんは。」
そして、しばらく雑談。
「聞こえてますよーーー。」
といきなりアビゲイルが大声で返事をする。
「え?」
「ん?」
シェラとバ・ソリーが不思議そうにアビゲイルを見 る。
「おやぁ?バ・ソリーまた行ってしまいましたよ。」
ここへ来てシェラとバ・ソリーは、はっきりと分か った。今アビゲイルが見ていたのは、その前のバ・ ソリー、つまりバ・ソリーの影であったという事に。
「あ、あのね、アビちゃん、ナメちゃんここにいる のよ。」
「な・・何ですって?」
再び驚くアビゲイル。
「俺どこへも行ってないぞ。」
「今ナメちゃん話したんだけど、聞こえた?」
「いいえ、姿も見えませんし、声も聞こえませんよ。」
「おう・・・・」
バ・ソリーはショック状態。
「もう一回出直すわ。」
半分やけくそ状態で、再びバ・ソリーは部屋を後に する。
「・・最近特にひどいですよねー、方舟の内部内裂。」
「そうですねー。まさかこれも破壊神の仕業だとは、 思えませんが・・・。」
「まーねー。破壊神なら、こんな面倒くさい事しな いで、すぐ落とすでしょうからね。」
「そうですね・・・。」
などと、二人でいろいろ話していると、再び、バ・ ソリーが入ってきた。
「あ、お帰りなさい、ナメちゃん。」
「ただいまー。」
バ・ソリーのその声には、諦めと期待と両方の気持 ちが込められているようだった。
「今度はどう?アビちゃん?」
「バ・ソリー来たのですか?」
「う・・・やっぱりだめみたい・・・。」
バ・ソリーの声は意気消沈していた。
「今度は、私が出直して来ますよ。」
ため息をついた後、アビゲイルが部屋を出ていった。



**その2につづく**


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