dia-top.gif (8184 バイト)

【 トリストラムの怪談 】
〜Diablo Story No11〜



 「耳が一つ・・耳が二つ・・・耳が・・・・」
「何だ、お前ら?またその話か?」
「だってよぉ・・最近以前にも増して頻繁に出るって言うじゃねーか?」
「ああ、そうらしいな。」
「怖くて夜、外に出れやしねーぜ。」
「何しにわざわざ夜中に出るんだ?魔物と出くわす事もあるからな、夜なんて出ねー方がいいんだぜ。」
「そうだ、そうだ。出る奴の方が馬鹿なんだ。」
「今じゃその耳なし翁との遭遇の方が迷宮へ潜る事より怖いって言うじゃねーか?」
「そうだってなー。」
宿、日の出屋の1Fにある酒場は、いつもの通り冒険者たちで賑わっていた。
そこのテーブルの一つを囲んで、何やらぼそぼそ気味の悪い話をしている輩がいた。
 「おらっちの聞いた話だとな・・・・」
その中の一人が話しはじめた。


 陽が沈み、それでなくとも瘴気に覆われたせいで、何やら気味の悪さで包まれているこの街は、より一層その色を濃くしていた。
「はーはーはー・・。」
迷宮と化した修道院の入口から一人の戦士が、息も絶えだえに転がり出て来た。百に一つの命を取り留めたその戦士の名はセイン。やはり名を上げる為、遥か遠くの国「ヘイ国」から来たのだった。
「や、宿へ早く行かないと・・・」
魔物が追ってくるかもしれない不安と恐怖。セインは全身を駆け抜ける痛みと戦いながら、必死でその身を引きずっていた。
ようやくの思いで人家の明かりが見えた時だった。セインは、一息付く為、桜の木にもたれ掛かって呼吸を整えていた。
と、その木の背後に誰かがいる気配を感じた。魔物の気ではないようだ。
人なら宿へ行くまで肩を貸してもらえる!と、思ったセインは、が、それでも念のため注意深くそっと木の背後を覗く。
フードを深くかぶっているので、はっきりとは見えないが、どうやら人間のようだった。
頭の倍もある壺をいかにも大切そうに抱えて、その翁は木の根元に座り込んでいる。
「あ、あのぉ・・・。すみません、ちょっとお願いが・・」
セインが話しかけても返事がない。
耳を澄ませていると、何やら独り言を言ってるのが分かった。
「耳が一つ・・耳が二つ・・耳が三つ・・・耳が・・・」
下を向いたその翁は、なんと壺から耳を取り出しながら数えている!
(ヒ・・ヒェェェェェ・・・・)
セインは声にならぬ叫び声を上げ、腰を抜かしながらも後ずさりした。傷の痛みなど何処へやら・・・。
そんなセインの気配を察したのか、翁はゆっくりと頭を上げた。と、おりしもその時吹いた風で、かぶっていたフードが下がり落ちる。
「ヒ、ヒィィィィィ・・・・」
ぼさぼさのその髪としわだらけの顔は灰色。白く濁った両目。その唇だけが異様に赤く、そして、両耳があるはずの所からは、真っ赤な血が滴り落ちていた。
「ああ、返す、返してやるとも・・じゃからわしの耳、わしの耳を返してくれ〜〜。」
真っ赤な血が滴り落ちる耳を壺から取り出すと、セインの耳につけようと近寄ってきた。
「ヒ・・・・」
恐怖で腰砕けの恰好のまま固まってしまったセインには、逃れる術もない。
その顔がセインの視界を覆い尽くし、もはや恐怖で声も上げれない。
「なんじゃ、耳がある?・・そうか、これがわしの耳なんじゃな。」
弓なりの短剣のように延びたその翁の爪が視野に入る。
「よしよし、わしがもらってから、つけてやるからな。」
「ぎゃあああああああ!・・・・・」
辺りにセインの叫び声が響き渡った。
セインの横、覆いかぶさるかのように覗き込む翁は、がっかりと肩を落とす。
「・・また違ってしもーた・・。これはわしの耳ではなかったわい・・。このお人の耳でもないようじゃ・・。」
切り取った耳が自分にくっつかず、再びセインの元へと試みたが、どうしても元に戻らない。
翁は悲しそうに、壺から一つずつ耳を取り出すと、順番に血の滴るセインの耳元に押しつけていった。
「・・だめじゃ・・どれも合わん・・・また耳が増えてしもーた・・。」
悲しそうに首を振ると、翁は一つずつ耳を数えながら壺に入れ始めた。
「耳が一つ、耳が二つ、耳が三つ、耳が・・・・」


 「何でもその翁が人間だったころ、人間狩りをしていたんだと。」
「ああ、おらも知ってるぜ。狩った証拠に耳を集めてたんだろ?」
「そうだ。で、1000人斬りを達成したときの相手が悪かったんだな。」
「なんでだよ?悪いのは、その男だろ?」
「ったく、話は最後まで聞けって!確かに悪いのはその男だが、1000人目の相手はなんと魔女だったそうだ。」
「な、・・魔女まで殺しちまったのか?」
「ああ、で、魔女は死ぬ間際、男の右耳をナイフで削ぎ、左耳はなんと喰いちぎったんだと。で、その上、呪いをかけたんだ。」
「その呪いがこれなのか?」
「そうだ。」
「だとしたら、人騒がせな呪いじゃねーか?関係ない者にも被害が及ぶんだからよ。」
「ま、まーな。何と言っても魔女だし、呪いなんだしな。」
「呪いってのは解く方法があるだろ?」
「ああ、それが問題だったんだって!呪いを解くには、今まで切り取った耳全てを元の持ち主に返さなきゃーいけねー。で、そうすっとようやく男の耳は元に戻り、呪いは解かれるってわけらしいぜ。」
「確か、そうしないうちは、耳を引き裂かれた時の痛みに苛まれながら、耳の持ち主を探して、この世とあの世を彷徨わなくてはならないってことだよな。」
「ああ・・奴も悪人だが・・魔女ってやつぁ・・怖いもんだな。」
「そうだな・・・。」
しばし沈黙がテーブルを覆う。
「なんとかなんねーもんか?耳をくっつける呪文とかよ?」
「ううーーーん・・・」

 「おおーーーい!吉報、吉報!」
皆で頭を抱えて悩んでいると、仲間のうちで一番若い男が勢い良く外から入ってくる。
「おいらが苦労してエイドリアのおばん・・もとい!お姉様に聞いたところによると・・」
「よると?」
そこにいた全員が目を輝かせて、その男の話に耳を傾ける。
「苦労したんだぜ。人使い荒いからな、あのおばん・・じゃないお姉様。」
「ああ、分かった分かった。で?」
「あ、うん・・もし耳なし翁にあったら・・・」
「あったら?」
「まず自分の耳を帽子か何かで隠して・・」
「隠して?」
「で、差し出された耳をひったくって逃げちまうんだと。」
「なるほどねー。だけどできるのか?」
「うん。そうらしい。別に石化の魔法をかけている訳でもないんだってさ。
見た者の恐怖心がそうさせてるだけらしい。で、そうすれば、追っても来ないんだって。」
「ほ、ほーーーー。なーーーるほどーー。」
「ふーーん・・確かエイドリアも魔女だったよな。」
「ああ、そうだよ。」
「だから、同じ魔女のかけた呪いの解き方も分かるんだな。」
「じゃないって言ってたよ。」
「違うのか?」
「うん。同じ魔女でも他人のかけた呪いは絶対解けないってさ。本人に聞かない限り、解き方も対処方法も分からないんだって。」
「おい、ちょっと待て・・・それって・・・・・」
ごくん!と辺りにその音が聞こえるように唾を呑み込み、そこにいた一同お互いを見渡していた。喜び勇んで入ってきたその若い男も自分が言った事が何を意味していたのか、その時はっきりと悟った。
「そう言えば・・決して耳は見せないな・・・。」
一時、明るくなったそのテーブルは、再び水を打ったように静かになった。

 耳なし翁の次は、永遠の命を授かるという、禁断の魔術『肉体の再生』の話が街に広がった事は、言うまでも無い。その魔術は一体何を糧としている
のか?恐怖と憧れ・・エイドリア信仰までも生まれたとか生まれなかったとか・・・・?



<<THE END>>

 

【DIABLO】