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【 ポーション工房 】
〜Diablo Story No10〜



「おおーーーい!新しい耳はまだ来ないのかぁ?もう在庫がないぞぉ?」
ここは、魔導師たちの隠れ里にあるポーション工房。魔道の追求や戦い、技の競い合い等に疲れ果てた魔導師たちの落ちる里。
そこで、のんびりと田畑を耕したり、この工房のように、その魔力を使って魔力を回復させるポーションを作っていたりしていた。
その工房の貯蔵庫で、ほぼ空になっている棚をみながら、元魔導師、幻之丞が怒鳴っていた。
「注文はどんどん来るんだからな!おい、PK連盟からは何も言って来ないのか?」
「・・・今輸送飛行艇が出発したと言ってましたが・・。」
貯蔵庫の外にいた魔導師チルチルが、幻之丞の勢いに声を小さくして答えた。
50歳後半くらいと見られる幻之丞は、東方の国出身の忍者とかいう魔導師だった。そのがっしりした身体といかつい顔、するどい視線で睨まれたらチルチルでなくとも小さくならざるを得なかった。
一方、チルチルは、北方の国出身。小柄でまだ若く、魔導師の村に生まれたものの、戦うことがいやで、修行半ばにして、ここへ落ち延びてきたのだった。
が、だれも過去の事については、聞かない。誰しも何かを背負ってこの村にたどり着いたのだから。
「今っていつの事だ?」
「あ、あの、つい2、3分前来た伝書鳩の書状で・・・。」
「ふん!2、3分前か?!・・ったく!最近怠けてやしねーか?PKの連中?」
バッターーーン!と貯蔵庫の扉を荒々しく閉め、関係ないのに廊下にいたチルチルをじろっと見つめる。
「そ、そんな事、私に言われてもですねぇ・・・・。」
「ま、そうだな・・・茶でもいれてくれんか?」
少し強く言い過ぎたかな?と反省しながら貯蔵庫の真向かいの部屋に入ると、小さくなってしまっているチルチルに言う。
「は、はい。」
ほっとしたようにチルチルは奥の給湯室へと向かう。
「ご機嫌斜めねー?」
にやけた顔をしながら隣でガラス工房をしているオニールが、軽い足取りで部屋に入ってきた。
「ん?なんだ、オニールか・・いつもお気楽に笑っていやがるな。そう言や、お前ぇ、瓶の在庫も少ないぞ。どうなってんだ?」
「あら!」
幻之丞とは打って変わり、スラリと背が高く、やさしい面持ちのオニール。が、幻之丞に気負いを感じることはない。真剣な時の表情は幻之丞に負けないくらいの厳しさがあった。ただ、普段はいかにも軽〜いあんちゃん(但しニューハーフ(?))をしていた。
「まーねー・・あんたんとこと一緒でさー、材料が入って来ないんだから、仕方ないでしょぉ?宝石はざっくざっくと採れるのにねー。どっか狂ってるわよ、この世界は!」
幻之丞の隣にちゃっかり座るオニール。
「はっはっは!狂ってるか。・・かもな?!」
「そうよーー、エメラルド、ダイヤ、ルビー、ラピス、サファイア、琥珀、翡翠、黒曜石・・・。ああ、あの輝きを生かせるのは、やっぱり装飾品にすべきなのよね?それを剣だの盾だの、武器や防具にだなんて・・ホントにもったいないわー。」
大きくため息をついているオニールを面白そうに眺める幻之丞。
「だけどな、装備をその宝石で統一するってのもなかなかいいんじゃねーか?」
「まーね、そりゃ、それはそれでおしゃれなんだけどぉ・・。」
チルチルが幻之丞用にとテーブルに置いたお茶をすっと取ると、ずずーっとすするオニール。
「お、おい・・・」
「あ、あら・・これ幻さんのだったの?ごめんなさいねー。」
「いいですよ。もう一杯煎れてきましたから。」
少し気分を害したような顔の幻之丞の前に、新しく煎れてきたお茶を置くチルチル。
「うふ。」
嬉しそうに手にしている湯飲みを眺め、また一口お茶を飲むオニール。
「なんだ?気持ちの悪い・・。」
そんなオニールを見ていて、幻之丞は何故だか背筋に寒けを覚える。
「だってぇ・・幻さんの飲み残しだと思うとぉ・・。」
その視線を幻之丞に移してにっこり微笑む。
「か・ん・せ・つ・キッス!」
「な!・・ば、ばか野郎!」
焦ってどなる幻之丞。
「だ、だいだいだ。俺にその気はないっての知ってんだろ?」
「あら〜ん・・だからこそ貴重なんじゃないの?この湯飲み。」
オニールに軽くウインクされ、一層青くなる幻之丞。
「あ、あのなー、第一俺はまだそれに口つけてないんだぞ。」
「あ、あら・・そうなの?」
「そうだ!」
からかうのが楽しくて仕方ないといった風なオニールと相対して、幻之丞はすこぶる機嫌が悪くなっていた。
「それ、ホント?」
二人のその様子を面白く見ていたチルチルは、急にその矛先が自分に代わろうとしているのにギクっとする。
「え、ええ、ホントです。」
慌ててオニールに答える。
「面白がっていやがるな?チルチル?」
「え?・・い、いえ・・そ、そんな・・・・」
「面白いものは面白いわよねー?チルチル?」
「そ、そんな・・オニールさんまで・・・」
あは、あは、あはとチルチルは照れ笑い。汗びっしょり・・・。
「あーーん残念ねー、こんなおいしい事滅多にないのにぃ・・。」
そんなチルチルから再び幻之丞へ視線を移すとオニールは微笑んだ。
「や、止めろって!!」
一睨みで他人を震え上がらせる幻之丞も、ことオニールにかかっては、その睨みも何も通用しなかった。

「ちわー!リサイクル友の会のものですがー・・。」
「おお、よく来てくれた。おい、チルチル、お茶!」
天の助けか、話を逸らすのに正にグッドタイミング!
幻之丞は扉を開けて入ってきた男に、にこやかに挨拶する。
「なによ?リサイクル友の会って?」
せっかくの楽しみを奪われたオニールは、じろっとその男を睨みつける。
「え?」
訳が分からず焦る男にため息をつくと、オニールは再び幻之丞に視線を移す。
「まさか、幻さん・・?」
オニールの頭を良くない事が遮った。
「いいだろ?どうせ不足してんだろ?活用できるもんは、活用してやんなくっちゃな?」
「そんな使用済みのものなんて、洗ったり、消毒したりが大変よ?」
「ま、そういった事もあるがな、使えるんだから、もったいないだろ?」
「それでまたチルチルちゃんをこき使おうってんでしょ?」
「はっはっは!その心配はいらん!新人にやらせるからな。」
「新人?ね、ねー、その人どこにいるの?もしかして、あたしのタイプ?」
急に目を輝かせて立ち上がり、幻之丞を覗き込むようにして聞くオニール。
「ったく、お前ぇって奴ぁ・・。ま、ご期待に添えなくて悪いが女なんだな、これが。」
「お、おんなぁ?」
目を丸くして驚く。
「なんだよ?」
「だって・・」
じっと疑いの眼で幻之丞を見詰めるオニール。
「ん?だって、なんだ?」
「まさか幻さん?」
「おいおい・・・誤解すんじゃねーよ。単なる仕事仲間さ。」
「ホント?」
「ホントだって。・・・見ろ、友の会の人が目を丸くしてるじゃ
ねーか?」
「あら・・・おほほほほ。あたしとした事が、やきもちなんか焼いちゃって・・・」
頬をぽっと赤く染め、オニールは立ち上がると、幻之丞に濃厚なウインクをしてから戸口へ向かう。
「じゃ、リサイクル屋さんに負けないように、瓶を作ることにするわねー。あ・い・情・込・め・て・・。幻さんへ、オニールより。」
「おい!!」
ガタンとイスを蹴り、怒り心頭の面持ちで立ち上がった幻之丞に投げキッスをし、幻之丞が真っ青になるほどの満面の笑みをそこに残してオニールは立ち去っていった。

「ったく、あれがなきゃいい奴なんだがな・・。」
ため息をつき、呆然としている友の会の男に視線を移す幻之丞。
「で、どうなんだ?リサイクルの方は?」
「あ、ああ・・・」
それまでの出来事に呆気に取られていた男は、幻之丞にそう言われてようやく我を取り戻す。
「それなんですがね、冒険者さんたちは、飲んだ後捨ててきてしまうのが常なんですよ。まー、空瓶を持ってくるっていう余裕もなかなかないでしょうけどね。とにかく、なかなかリサイクルできないと言った現状で。ですが、今回、私どもでダンジョン各階に『回収ボックス』を設置いたしまして、で、勾玉一個と交換できるようにしてあるんです。で、なくさないようにそれ専用の紐に括り付けておいて、ある程度集まったら景品と交換ということにしたんです。」
「ほうほう・・なかなか考えたもんだな。」
「ええ、そうなんでよ。・・あ、ありがとうございます。」
チルチルに出されたお茶を飲みながら話を続ける。
「こうでもしないとみなさん、なかなかリサイクル活動に協力してくださいませんのでね。」
「はっはっは!そっか・・あんたらも結構苦労してるんだな?」
「ま、まーそうです。」
はっはっは!と幻之丞よりは遥かに小声だが、男は一応笑ってみせる。
「で、お願いなんですが、リサイクル瓶のお代はポーションでお願いしたいのですが、どうでしょう?」
「お、景品にでもするのか?そりゃー願ったりだぜ。OKOK!
合点だ。」
「ありがとうございます。では、お値段の方は、どの程度回収できるのかを確認してからの方がよいかと思いますので、今日のところは、このへんで。」
「そうだな、ま、よろしく頼ぁ。」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。では、これで。」
「ああ。」

「それにしても耳はまだか?」
立ち去る男の後ろ姿を見ながら、幻之丞は呟く。
「注文どおり作らねぇとまたエイドリアのばばぁがうるさいじゃねーか・・・。ったくあのばばぁ、自分で作るのが間に合わないってんで、こっちに矢の催促だ・・。」
「最近は、自分では作ってないようですよ。」
チルチルが茶器を下げながらぽつんと言う。
「何?あのばばぁ!」
「ばばぁとはなんじゃ!自分はじじぃのくせに!」
いきなり幻之丞の目の前にエイドリアが姿を現す。が、それは、実態でなく幻影。その姿を通して後ろの壁がうっすらと見える。
「な・・聞こえたのか?」
「ふん!このエイドリアを馬鹿におしでないよ!」
「ったく・・地獄耳なんだからな!」
(それに、俺はまだじじーっていう歳じゃねーぜ。)
だいたい何百才だか分からねーエイドリアなんかに言われたくない、と苦虫を噛み潰した表情の幻之丞。
「早いとこ頼んだよ。こっちは冒険者が増えてきたって事もあって応対に忙しいのさ。作ってる間なんてあるもんかい?!」
「で、コピーってか?」
「・・・な、なぜそれを知っておるのじゃ?」
「は!地獄耳はお前さんだけじゃないぜ。俺の情報網を馬鹿にしちゃいけねーぜ。聞いてるんだぜ、買ってきたばかりのポーションをテーブルに置いたら消えちまったって話をちらほら。」
「う・・・あ、あたしの魔力も落ち気味かね?昔は、そんな事なかったんじゃが・・・。」
「おいおい!じゃー、前からやってたのか?ばれなかっただけっって事か?」
「ふ、ふん!女が一人で生きてくんだ。それくらい甘く見てくれてもいいじゃないか?それに効力は変わらないんだよ!」
「はっはっは!まー、複製品嫌いの冒険者に殺されんようにな!」
「・・・・まだまだそんな柔じゃないよ!それに、あたしを殺しちまったら、誰から回復剤を買うんだい?」
「まーな・・お前さんにゃ、その強みがあったな。」
がーっはっはっは!と大笑いする幻之丞。
「じゃー、とにかく頼んだよ。」
「ほいほい。PKたちの尻をたたいて耳を集めさせるとしようか?」
「その方が冒険者たちの反感を買うんじゃないのかい?」
ほほほ、と笑いながら幻之丈を見つめるエイドリア。
「かもしれんが・・ここは結界が張ってあって、普通の奴らにゃ分からねーようになってるしな。ま、知らぬが仏さ。やっこさんたち、回復剤の原料が自分たちの耳と知ったらどんな顔するかな?」
「そうだねぇ・・結構自分で耳を削いで持ってくる奴もいたりして・・・。」
「そうなのか?」
「ほっほっほ・・・」
少し呆れ顔の幻之丞と顔を見合わせ、意味ありげな笑みを残してエイドリアの姿は、そこから消えた。

−バラバラバラバラ−
「お!ようやく耳の御到着だ。」
飛行船のプロペラの音に満足げに微笑むと幻之丞は仕事仲間に大声で叫んだ。
「おおーーーい!荷が来たぞー!」
裏庭へと急ぐ魔導師たち。飛行船には耳が満載されている。
「間違えるんじゃねーぞ。分類別にきちんと入れるんだぞ。」
「分かってるよ。」
「あ、それから、同じ名前のは、一つに縛っておいてくれ。」
「はいはい。」
耳はそれぞれきちんと分類されて収納される。職業やレベル別に。
そうしないとそれぞれ引き出せるパワーが違う為、追加するべき原料や完成に必要となる注ぐべき魔力が違ってくるからだ。

「うーーーん・・どうも最近のPKは、手抜きしてやがるな。同じ名前のが結構ある・・・・。」
荷をほどき、中の耳を取り出しながら顔をしかめる。
同じ名前の耳同士は一緒に調合する事は避けたい。いくつ合わせても一つ分の効力しかない為、気づかすにそうしてしまった場合、効力の落ちた失敗作ができてしまう。
(そういった物のほとんどは、製造最終段階のチェックで見つかる。その場合、その液体は小瓶に入れられる。小瓶の薬を飲んで得られる回復値が一定でないのは、その為である。)
「・・なんだ、これ?5つも同じじゃねーか?・・ったく・・。」
ため息をつきながら、同じ名前の物を一つに括ってから収納する。
運ばれてきた荷物の半分以上がそうなんだろうと、荷袋を眺めながら、幻之丞は値切る算段をしていた。

 



<<THE END>>

 

【DIABLO】