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【 ナイトメア 】
〜Diablo Story No9〜



 −シュン!−
「ああ!待って、戦士様!」
私の叫びが聞こえたのか、聞こえなかったのか・・・
戦士は移動魔法を唱えて、私の視界から消え去ってしまった。
それもそのはず、多分、聞こえても、そうは取れないだろうから・・なぜって・・今の私の声は、悪魔の、魔王の咆哮なのだから。
これで一体何人の戦士と出会い、何度一人取り残された事だろう。
いつになったら、この悪夢から醒める事ができるのか、この恐怖から解放されるのは、いつなのか・・・。
ああ、また周囲が暗黒に覆われて来た・・・。
そうして、私は、再び無の世界に戻され、そして、また同じ事の繰り返し・・。
・・この悪夢のような事が始まったのは、いつだったのか・・。
つい昨日のようにも思え、又、はるか遠い昔だったようにも思える。

 そう、それは蒸し暑い夏の日・・・私は、いつもの如く、深夜だというのに、パソコンの前で、ゲームをしていた。


 「あ、あれ?・・もう2時過ぎてる?そろそろ寝なくちゃ。」
「あ!ホントだ!じゃー、DIA はどうする?」
「いいよ、倒さなくても。全部倒し終わったもん。」
「ああ、そうだな。じゃ、また明日!」
「うん!また明日ね!お休みなさーい!」
「お休み〜!」
−プチン!−
「ふあーあ!眠い〜・・・今日も門限破りになっちゃった。」
PCの電源を落とし、部屋の明かりを消して、ごそごそとベッドに入る。そして、ほどなく眠りについた。
「ん?」
何やら目の前が眩しく感じ、眠い目を擦りながら、私は起きあがった。
「スイッチ切り忘れたっけ・・?」
確か消したはずだと思いながら、PCの明るい画面に手を伸ばす。
・・と・・
『創造者であり、破壊者よ・・・』
画面一杯にズームアップしたディアブロが、低く、静かに言葉を発した。
「あ・・あれ?こんな場面あったっけ?」
私は、不思議に思いながら、その重々しく、そして、どこか悲しみを帯びた声を聞いていた。
「な・・何?」
次の瞬間PCの画面から広がった光が、一瞬にして私を包み込んだ。
何事か、と驚いた私が次の瞬間目にしたのは、何もない暗闇だった。
「え?ここ・・どこ?・・・」
周囲を見渡しても何もない。ただ、真っ暗な空間が広がっているだけ。
「・・・もしかして、夢でも見てる?」
ぼんやりとした頭でそんなことを考えていると、すっと周囲の景色が変わった。
「ここ・・・なんとなく、見覚えある・・。」
のんきにそう考えていた私の頭に、おぞましさを感じさせる低い声が響いた。
『ようこそ、DIA ルームへ。』
「え?な、何?・・DIA ルームって?」
私は、その声にぞくっとしながら、周囲を見渡す。
なるほど、見覚えがあるはずだった。そこは、毎晩訪れる所。時には、一晩で数度となく。
「でも、どうなってるの?・・ああ、そっか。DIA のやりすぎで、夢にまで見てるんだ。」
夢だと判断した私に、安堵感が広がる。
「あーあ・・DIA 中毒もここまでこれば、りっぱなもんね。それとも、これでようやく一人前かな?」
勝手な事を考えている私の頭に、またしてもさっきの声が響いた。
『夢だと思っておるのか・・まったく、人間というのは、なんと愚かな・・・。』
「え?」
『己の姿を確認するがよい。』
自分の姿?・・・そう呟きながら、初めて自分の姿を見る。
「な・・何よ、これ?」
私は自分の姿に少なからず、驚愕した。そう、その姿は、あろうことか恐怖の魔王、ディアブロのものだった。
「ええーーー?!よりによって、DIA を倒す戦士じゃなく、倒されるDIA になってる〜・・。」
夢だと露ほども疑っていなかった私は、不満一杯にそう叫んでいた。
「ぶーーーー!」
『わはははは!・・愚かな・・・。』
「な、何が愚か、よ?」
頭の中に響く声に文句を言う。
『夢と思いたくば、それもよかろう・・・夢ならいつか醒めもしよう・・が、これは、いつ醒めるのであろうな・・。』
「ち、ちょっと、どういう意味よ、それ?」
『己が置かれた状況も分からぬとは・・哀れな・・。
が、それもまた然り。己が常に何をしているのかも分からぬのだから・・。創造者にして、破壊者よ。』
「だから、何なの?あなたは、一体だれ?」
『分からぬのか・・ふむ・・・・』
「分かっていれば、聞かないわよ!」
もう!全く!どうせ見るなら、もっといい夢見たかったなぁ・・カッコよく魔物を倒していく戦士の方が。あーーあ・・。
『・・この世界の創造者にして、破壊者よ。我は、恐怖の魔王、我こそが、魔王ディアブロ。』
「え?なーーんだ、他にちゃんといるのね?」
じゃー、私の姿は何なの?
と再び全身のあちこちを見ている私の頭にディアブロの声が続く。
『創造と破壊を繰り返しプレイヤーよ。創造者にして、破壊者よ。我今こそ、積年の恨みはらさん。』
「な、何、それ?」
その声に何とも言い難い恐怖を伴った悪寒が全身を駆け抜ける。
『我が身となりて、我が悲哀を、憤怒を知るがいい。』
「ど、どういう事?」

 と、その時、転移の音と共に3人の戦士が目の前に現れた。
そして、いつの間にか護衛するように集まってきていた私の周囲にいた闇騎士や魔導師と戦闘を始めた。
「きゃ!熱い!!」
戦士の放った火玉が私を直撃し、その熱さで思わず叫んでしまった。
「え?」
その叫び声を聞いた私は、ぎょっとした。その声は確かに、ディアブロの咆哮。
そして、今し方のディアブロの言葉を思い出し、ぞっとした。
・・・夢じゃないの?これ?・・そ、そんな馬鹿な!
第一私がディアブロになってること事態が、夢という証拠じゃないの!・・で、でも・・・
などといろいろ考えているうちに、周りにいた下僕達はすでに全員倒されているのに気付く。
「よーし、オッケ−だ!」
−シュン!−
再び移動魔法を唱えると、戦士たちは、次に一斉攻撃されるのでは、と脅えている私を全く無視し、そこから姿を消した。
・・あ・・・。

 そして、しばらく後、唖然としている私は、再び最初にいた空間、暗闇の中を漂っていた。
「あ・・あれ?」
キョロキョロしているうちに、再びDIA ルームにいる自分に気付く。
・・い、一体どうなってるの?・・・・
何が何だか把握しないまま、同じようにその展開が繰り返された。

 「・・変な夢!・・一人残されてまた同じ繰り返しだなんて・・どうせなら、死んでもいいから、戦いたいな。」
こんなおかしな夢は早く醒めてくれないか、と思いながら一人私は呟いていた。
『少しは、分かったであろう、創造者であり、破壊者よ。』
「・・その創造者であり、破壊者って・・もしかして私の事?」
『いかにも。ディアブロワールドのCREATORであり、DESTROYER・・つまり、お前たち
ディアブラーと呼ばれるプレイヤーだ。』
「そ、そう言われれば、確かに、毎日何回もゲームを作って、そして、止めてるわね。」
『そのとおり。ゲームを作るという事は、言わばその世界の創造者。そして、クリアするにしろ、途中放棄するにしろ、止めるという行為は、破壊。つまりお主たちは、破壊者でもあるということだ。』
「う・・まぁ・・そう言われれば・・・」
『我は、否応なしにこの繰り返しを味わい、そしてその中で、いつの間にか自我が芽生えたのだ。』
「で、でも・・ゲームなんだから・・・」
『猫でも数十年も生きると猫又となり人に化けると言うではないか。その繰り返しのうちに、単なるゲームのキャラでなく、我にこうした自我が芽生えたとしても不思議はあるまい。一人取り残される悲哀、焦燥、そして、憤怒。』
「で、でも、ゲームなんだから、仕方ない・・と。」
私は、夢と思っていた事も忘れ、必死になって頭の中に響くディアブロの声に反論していた。
『ラスボスとしてその世界に生を受けた定め、勇者に倒され無に帰すのは、当然の事。このような事は感じるはずもない。が、お主たちはどうだ?アイテム欲しさに周りの魔物のみ倒し、ラスボスである我を全く無視するか、あるいは、ほんのお遊び程度相手にし、一人取り残す。これほどの侮辱があってよいものか!・・故に、我に無という安息は訪れず、虚無の世界とゲームの世界との往来の繰り返し。おお、魔王として、ラスボスとして生を受け、これほどの屈辱があろうか!』
「だ、だって・・・それもゲームなんだから・・。
一応・・・」
ディアブロの反論は断固許さぬといったその厳しい口調に、私の声は、消え入りそうになっていた。
『それ故、我はいつかお主たちゲーマーに思い知らせてやろうと、力を蓄えてきた。・・そして、時は満ち、こうして、お主を、この世界に引き込む事ができたのだ。』
「そ、そんな事言っても・・・私だけじゃないんだし・・・。」
尋常ではないその雰囲気に、私はもう真っ青になっていた。反論したくても、頭に何も思い浮かばない。
もはや、夢などと感じる余裕もなかった。
『案ずるな。ゲーマーは創造者。殺してしまっては我等は再び生も受けられぬ。お主にあるは、ただ待つのみ。同じ繰り返しの中、魔王ディアブロを倒さんとする戦士との遭遇を期待して。我、無に帰す時、お主もまた元の世界に戻れよう。』


 あれから、ディアブロは一言も話しかけてきてくれない。孤独感で押しつぶされてしまいそう。悲哀、焦燥、憤怒・・彼の言った事が身に沁みる。
ああ・・これを読んで下さってるそこのあなた・・今度潜るときは、ディアブロを倒して下さいね。もしかしたら、私か、同じ境遇に引き込まれたディアブラーかもしれないから・・・。
お願い!面倒がらずに、殺してね!

 ・・DIA ルームに入ったら、嬉しそうに近づくディアブロ、それは、多分、私なのだから・・・。

 



<< THE END >>

 

【DIABLO】