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【 名鍛冶職 ユックル&ニックル 】
〜Diablo Story No5〜



 「な・・なんぢゃー、こ、この剣はー!」
ここは、異次元空間、幽冥界にあるホビットの邑。
ここから繋がっている多くの世界で、幻といわれている武具を作る名鍛冶職人、キルトンの工房。
キルトンは出来上がった長剣を見て、驚いている。
それもそのはず、出来上がったばかりのその長剣は、彼が手にすると同時にホニャ〜・・と曲がってしまったから。
「ま、またあいつらの仕業ぢゃな?」
キルトンの顔が見るみる間に怒りで真っ赤になっていく。
バタン!と勢いよくドアを開けると、隣の部屋へと入っていく。
「今度は何を混ぜたんぢゃ?」
震える手で弓なりになってしまった剣を握りながら、そこにいたまだ子供らしい双子のホビットに怒鳴る。
「何って・・・バナナエッセンスでしゅよ。」
双子の弟、ニックルが答える。
「バ・・バナナエッセンスぢゃとぉー?!」
「うん・・バナナのようなおいしそうな匂いが出る剣ってどうかなーって思ったんでしゅ。」
悪びれずに言うニックルに、キルトンも拍子抜け。
「おいしいって・・料理ぢゃないんぢゃぞ!」
「でも、ボクその匂い好きなんでしゅよ。」
「す、好き嫌いで、鉱石に混ぜ物してもらっちゃ、困るぢゃないか!」
「だって、じいちゃ、いつも言ってるじゃないでしゅか?いろいろ研究して初めて自分の満足する物が完成するって。だから、ボク・・・。」
「ううう・・・ぢゃからと言って、わしの剣でするんぢゃなああああい!」
「ほらー、やっぱり、ブラックペッパーの方がよかったんでしゅよぉ!剣を振ると同時にその疾風にのって胡椒が相手に・・そうしゅると、くしゃみが出て攻撃してこない・・・。」
兄のユックルが納得したように弟のニックルに言う。
「すぉーいう問題ぢゃ、ないーーーーっ!」
はー、はーっと肩で息をしながら、怒り続けるキルトン。
足元まで伸びた真っ白い髭に真っ赤な顔がよく映える・・・。
「こ・・この悪戯っ子坊主どもめーっ!」
−バッターン!−
と、突然、キルトンはその場で倒れる。
「じ、じいちゃ!」
同時に叫んだ二人は、慌ててキルトンに駆け寄る。
どうやら血圧が上がりすぎて倒れてしまったらしい。
「だ・・大丈夫でしゅか?・・」
「ううーーーん・・・」

キルトンはそのまま寝込むことになり、彼が作るはずだった武具は、その孫であるユックルとニックルが作ることとなった。
勿論、鍛冶職のホビットは他にもいる。だけど、先祖代々受け継いできた技術、工法は、例え同種族でも教えないのが掟。

 「わーーーい!できたーっ!」
キルトンの指示に従い、幼いながらなんとか剣を完成したユックル。
完成したばかりの剣を手に満足そうに微笑む。
「できたんでしゅか?ユックルぅ?」
ドアが開き、隣の部屋からニックルが入ってくる。
「うん!今度こそ大丈夫だと思うでしゅよ、ニックル!」
「じゃー、配達に行こうでしゅ!ちょうどボクもリングがいくつかできたところなんでしゅよ。」
「ホント?じゃー、一緒に行こっか?」
「うん!支度して来るでしゅ。」
「うん!ボクも支度ぅ〜。」
ニックルが工房から出ていくと、ユックルもごそごそ支度を始めた。
剣、斧、メイス、フレイル各一本ずつを袋に詰め、さしずめサンタクロースのような格好。
身長1メートル足らずとは言え、がっしりとしたその身体つきから分かるように力は相当なものである。
「お待ち〜・・。」
バタン!と勢いよくドアを開け、ニックルが入ってくる。その胸には袋がかかっている。
「いいなー、ニックルのは小さいから。ボクのなんか大きいのばっかりだから、ホラ、見てよ、これ!」
と背中の大袋を見せる。
「そうでしゅねー。じゃー途中で変えっこしていくでしゅか?」
「そうでしゅね、それがいいでしゅね。」
二人はにっこりと微笑み合うと元気良く出掛ける。
家の外へでると、その身体の割に大きな足で力一杯跳ねる。
巻き毛で覆われたその足は、全く音をたてない。
「いくでしゅよー、ホップ、ステップ、ぢゃぁーんぷっ!」
最後に3メートルほど飛び跳ねると、二人の姿は灰色の空に飲み込まれたように消える。そこから、異次元空間にある、キルトンが任されている世界のとあるダンジョンへと向う。

 「うーーん・・ここがじいちゃの任されてるダンジョンでしゅか・・。」
二人は薄暗い地下道を警戒しながら歩いていた。
「うーーんと、地図によると・・この辺りに宝箱が・・」
そうして、二人は持ってきたものを、適当な宝箱に入れると、そこを後にした。

 「どうでしゅかねー・・ボクたちの作ったもの、ホントに使えるんでしゅかねー?」
家へ帰り、テーブルを囲んで温かいミルクを飲みながらニックルが心配そうに言う。
「さあ・・・自信ないでゅよ。じいちゃの言うとおりに作ったつもりなんでしゅけど・・・。」
「あ・・」
「なんでしゅか?ニックル?」
「ボ、ボク・・実験しちゃった・・原料に・・・」
「・・・・・。」
二人はしばらくの間じっと見つめ合っていた。
「ど・・どうしゅるでしゅか・・?」
「うーーん・・・」
「そうだ!見に行くでしゅよ!!」
「うん!そうだ!それがいいでしゅ!!」
そして、二人はまたダンジョンへと・・・。

 ホビットの天性であるその素早さと気配まで絶つ完璧な隠れ身の術を駆使し、二人は、宝箱に入れておいたアイテムの追跡を開始した。人間には絶対に見つからない自信がある。

 「あ!見てみて、あそこ!」
「どこ?・・あ!宝箱を開けようとしてるでしゅよ!」
「うん!」
二人は、影の中でその戦士を、ドキドキわくわくしながらじっと見入る。
−ギギー・・−
「お!剣だ!」
宝箱から剣を取り出す戦士。
「う・・うお?!」
持った途端に短く叫ぶ。
二人は、何があったのか、ぎょっとしながら見続けている。
「どうした?」
仲間の戦士がその男に近づく。
「・・ああ・・こ、このバスタードソードを持った途端・・」
男は、息を荒くして答える。
「途端?」
「・・身体から力がすぅと抜けていくような気が・・目、目も少しおかしい。
なんだか辺りがさっきより暗く感じるんだ・・。」
「おい、大丈夫か?」
「ああ・・大丈夫みたいだけどな。それに・・」
「それに・・?」
「う・・うおーーー!!な、何故だか無性にぶっ殺してぇーー!」
そう叫ぶと、男は通路の先へと突っ走り、そこで出会った魔物を、バッサバッサと斬り倒していく・・まるで、何かに取りつかれたかのように。
「おお・・面白ぇように切れるぜ、これ!」
唖然とするもう一人の戦士を尻目に、男は瞬く間にそこにいた魔物を一掃した。
「・・・ユックル・・・」
「うん・・ニックル・・能力値を見てみるでしゅ。」
「う、うん・・。」
彼らには、その魔力を込め武器を作るという以外に、それを使う者の能力値を探知できるという特殊能力があった。
ニックルはユックルにそうするよう目配せした。自分で診るのが怖い。
「うーーんとぉ・・・」
目を閉じ精神を集中する。
「全ての能力−5、生命力−25、視界−20%・・」
「う・・うっそーー!」
ニックルは真っ青!
「だけど、命中率は+25%でしゅよ。それに、追加ダメージは、なんと、+250%!!」
閉じていた目を開け、少し呆れたようにユックルは言う。
「に・・250%!」
ニックルもびっくり仰天!
「ど、どうりで斬り刻みたくなるわけでしゅね。」
「一体何を混ぜたんでしゅか、ニックル?」
「う・・うーんとねぇ・・確かぁ・・」
いつものように面白半分に入れたから、それもキルトンの目がないことをいい事にして、ついついいろいろ入れてしまったニックルには、はっきりとした記憶がなかった。
「マンティコアの爪、ちぎれて落ちてたナーガの尻尾、メスの奪い合いで負けて死んでいたコカトリスの目ん玉と片足・・・それと、アバドンの鱗・・くらいだったでしゅ、確か・・。」
「ア、アバドンの?・・アバドンって言えば、え、疫病のイナゴの王・・死の闇天使・・見るとショック死するかもしれないっていう、あの・・アバドンでしゅか?」
「うん・・何かの用事で幽冥界に来たんでしゅかね?山一つ向こうの野原の上空を飛んでたんでしゅよ。・・下に落ちてたから、つい、拾って来てしまってでしゅねー・・。」
「・・で、それを入れたという事でしゅか・・。」
「うん、そうでしゅ。」
「はうーーーーー。」
「だって、威力が増すかなーと思ったんでしゅよ。」
「一応、増してはいるでしゅね。」
「うん・・でも、戦士の命も削ってるでしゅ。」
うるるーー、と涙をこぼす二人。
−チン!−
とその時、反対方向からリングかアミュレットの落ちる音がする。
二人は涙を拭くのも忘れ、そっちへと急ぐ。
「お!リングだ!」
そこでは、一人の男がさっそくそのリングをはめているところだった。
「・・う・・ぐはっ!」
その途端、顔色が悪くなり、勢い良く血を吐きだす。慌ててリングを外した男の息はまだ苦しそう。
「な・・何だこれは!」
どうやらリングがそうさせたらしい。外すと同時に男の血色は元に戻る。
「・・・リング・オブ・イルネスと命名するでしゅ・・。」
その様子を見ながら、ユックルがぽつんと言った。
「病災の・・・でしゅか・・。」
ニックルも納得するかのように呟く。
「はうーーーー・・・。」
「同じ原料でも、効果はそれぞれなんでしゅねー。」
「うん・・そうみたいでしゅね。多分、それを作る時込めるボクたちの念(魔力)によっても違ってくるみたいでしゅね。」
「・・じいちゃが怒った意味が分かる気がするでしゅ・・。」
ニックルがぽつんと言った。
「でも・・」
「でも?」
二人は、いたずらっぽく視線を合わせ、にこっとする。
「面白いでしゅねーーーー!」
二人は手を繋ぎ、くるくると踊って喜んだ。

 その後、他の武器やアイテムなども見て回る。二人の思った通り、どれも一癖も二癖もありそうな物ばかりだった。
でも、ユックルとニックルはこの上なくご機嫌!
それを手にした時の人間の反応がすっごく面白かったから。

 「ねーねー、今度は鉱石に何を混ぜるでしゅか?」
「うーーん、そうでしゅねー・・天使の羽根とか涙とかはどうでしゅか?」
「そうでしゅね!いいかもしれましぇんね−!デビルにはとっても効き目のある武器ができそうでしゅよ!」
「うんうん・・ユックルもそう思いましゅか?」
「ストーンデーモンの角を削って入れるなんてどうでしゅか?」
「そうでしゅね!サンダーの剣とか弓ができそうでしゅね!」
「うん。上手くいけばでしゅけどね。」
「いろんなもの入れて作るでしゅよ!」
「うん!使ったとき、どんな効果がでるか、すっごく楽しみでしゅ!」
「うん!」
二人は、いそいそと材料探しに出発する。
「でも、時々、正当派のも作りましゅでしゅよ。」
「うん・・王様の剣とか、聖なる鎧とか、能力が上昇するリングとか・・負荷のないものをね。」
「でも、できるでしゅかねー?」
「うーーん、それが問題でしゅねー。」
「そうでしゅよ。じいちゃのレシピ通りに作っても、なかなか上手くいかないでしゅ・・。」
「レシピってお料理じゃないんでしゅよ!」
「分かってるでしゅよぉ!」
あはははは!と明るく笑う。

 名工、キルトンが復職するまでの間、それまで、彼の担当区域であるディアブロのダンジョンには、悪戯好きのこの二人のホビットのアイテムで埋まる。
まぁ、時には、奇蹟的に正当派の武具を見つけることもあるかもしれないが、期待はあまりできそうもない。
 確かにキルトンの才能は、受け継がれてはいるようだが、研究熱心な所が仇?
いや、単に悪ふざけがすぎていると言ったほうがいい。ただ、真面目に作っても、そこはまだ子供なのか、力(魔力)不足で、思うように作れない、といった失敗も数多くあるらしい・・。

 とにかく、二人は跳び回る。空になった宝箱から宝箱へと。自分たちの作ったアイテムを入れながら・・・今日もにっこり、にんまり、ほくそ笑み。
 「ふふふふ・・今度はどんな変化がでましゅかねー・・わくわく!」



<<THE END>>

 

【DIABLO】